【舞台レポート】ドイツのディーヴァ、故ヒルデガルト・クネフを描く舞台『悪魔とディーヴァ』

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日本人にとっての美空ひばりや、アメリカ人にとってのマリリン・モンローのように、どの国にも、その国でしか生まれ得ない、そしてその国民の心に大きな存在感を残したディーヴァがいる。女優であり歌手であった、故ヒルデガルト・クネフ(Hildegard Knef)は、ドイツ人にとってそのような存在のようだ。

◆『悪魔とディーヴァ』画像

そしてどの国でも、ディーヴァは数々のスキャンダルを引き起こす。ヒルデガルト・クネフは、マレーネ・ディートリッヒに続いてドイツからアメリカ・ハリウッドに進出した女優だったし、第二次世界大戦において反ナチスの姿勢を取った女性であったし、1951年の映画『罪ある女』でドイツ映画で初めてヌードになった女優であったし、また数々の男性遍歴などから常に話題にこと欠かない、時代の先を行く自立した女性であった。

2013年6月1日(土)から8月16日(金)にかけて、老舗デパート、高級ブティック、専門店レストランなどが立ち並ぶ、大ショッピングストリート、クーダムの劇場、テアター・ウント・コメディー・アム・クルフェルシュテンダム(Theater und Komödie am Kurfürstendamm)にて、ヒルデガルト・クネフの人生を題材にした舞台、『悪魔とディーヴァ』(Hilde Knef - der Teufel und die Diva)がロングラン上演中。戦後の彼女の映画をリアルタイムで観た世代を中心に、大勢の観客がこの舞台を観に訪れている。

舞台監督はウォルフガング・シュトックマン(Wolfgang Stockmann)で、2002年に死去したヒルデガルト・クネフから見た死後の世界という設定。ベテラン女優、ジュディ・ヴィンター(Judy Winter)が、死後のヒルデガルト・クネフを演ずる。

ドイツで数々の吹き替えを行っている名優、シュテファン・ベンソン(Stephan Benson)が悪魔メフィスト役として登場して、ゲーテの『ファウスト』のように、彼女に様々な方法で“生き返るための契約話”を持ちかけ、その対話のなかでヒルデガルト・クネフのスキャンダラスな人生のなかでの、様々なエポックが過去の伝説ではなく、生々しい人間ドラマとしてよみがえる。

登場人物は上記の二人のみ。ヒルデ・クネフ(HILDE KNEF)のアルファベットを変形した巨大なオブジェが並ぶというシンプルな舞台。背景に数々のクネフの出演映画や当時のTVニュース映像が上映されて、舞台に彩りを与える。舞台奥にはピアノ、ウッドベース、ドラムからなるジャズ・トリオが常駐して、歌手としてのヒルデガルト・クネフの数々のヒット曲を生演奏する。

観客のひとり、サンドラは「煙草とお酒で喉をやられているヒルダのハスキー・ヴォイスは、本当に説得力がある。それに彼女は詩人として、共感できる素晴らしい歌詞も書いているの」とヒルデガルト・クネフの音楽の魅力を説明してくれた。

ミュージシャンとしての彼女は、“シャンソン歌手”と紹介されるケースが多いが、1970年にデッカからリリースされたアルバム『KNEF』は、「Im Achtzigsten Stockwerk」という曲に象徴されるように、“ソウル・ジャズ”呼べる大変ファンキーな内容のもので、後代のベルリンのアーティスト、例えば、コントリーヴァやミーナに参加しているハンス・レーマン(Hanns Lehmann)たちから多大なリスペクトを受けている。

この夏、ベルリンに旅行する方々や、ベルリン在住の日本人に、是非見てほしいシックで素敵な舞台である。

写真:Nozomi Matsumoto, Berlin
文:Masataka Koduka, Berlin

◆Theater und Komödie am Kurfürstendammオフィシャルサイト
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