【インタビュー】「初音ミク＆歌い手コンピ」のジャケットを描き下ろしたハロルド作石、ロックだけじゃない自由な音楽観を語る

■“ロック原理主義者”もいれば、“ボーカロイド原理主義者”もいる
■「相手がジルバを踊ったらジルバを踊る」わけで、色んな音楽を聴くことは得るものがある

──ご自身で、ネットで音楽を探すこともあるんでしょうか？

ハロルド：いや、ネットに疎いアナログ人間なので、自分ではそういうことはやらないけど。人から教えてもらったりとか、タワーレコードに定期的に行ったりして出会います。

──音楽に対してルールを作っていないというか、ご自分が出会ったものに対して純粋に付き合ってますよね。坂本冬美とtofubeatsとキュウソネコカミを同じ次元で楽しんでいらっしゃる。すごく自由な音楽の聴き方をしてますよね。

ハロルド：人が熱を持ってるものって、やっぱりそこに何かあると思うんですよ。例えば「プレミアリーグのサウサンプトン（※イングランドのサッカーチーム）すごいですよ！」って言う人がいたら、その人はサウサンプトンに対する熱量を持ってるわけじゃないですか。自分が信頼している人が熱を持つということは、そこに何かあるんだな、という興味はすごく抱きますね。

──何事に対してもそういったフラットな姿勢をお持ちの先生に、敢えてひとつ意見をお聞きしたいんですが。ロックというものにもご自身ではこだわってないとおっしゃいましたけど、バンドって、それぞれのヒストリーを背負っているからどうしてもバックグランドも含めた生身の人間が鳴らしている音楽として聴かれるわけです。それに対して、初音ミクはある意味無機質なものですよね。

ハロルド：うんうん。

──ただその分、“音楽”としてはすごく純粋なものだという見方もできると思うんです。でもロックしか聴かないファン側から、初音ミクなどのボーカロイドというシーンに対して、割とアンチテーゼみたいなものも生まれていて。この相反する2つの音楽について、先生はどのようにお考えですか？

ハロルド：なるほど、今聞いていてそういう文脈の考え方もあるんだなと思いましたね……。ロック的な、みんなでバンドで作った音楽というものに比重を置いて考えると、もしかしたら初音ミクみたいなツールを使うことに関しては「あれはどうかな？」って（否定的に）思うかもしれないですけど、プロレスに例えるとAWAチャンピオンのニック・ボックウィンクル（※AWAという団体のダーティー・チャンプとして君臨した名レスラー。日本でも80年代に度々来日して活躍した）が言った「相手がジルバを踊ったらジルバを踊る」という名言があるんですけど。

──「ワルツを踊ったらワルツで」というやつですね。

ハロルド：そうそう（笑）。要は人によって求めるものが違うと思うんです。“ロック原理主義者”もいれば“ボーカロイド原理主義者”の人もいるかもしれないじゃないですか？　ボーカロイド原理主義者の人からすると「こっちの聴き方はおかしいぜ」ってことになる。求めるものの違いがありますよね。僕が若い頃には「クラブの音楽なんてチャラチャラして」って思ってたかもしれないけど、やっぱりクラブ・ミュージックがすごく好きな人からすると、「私は自分を解放する音楽が好きなんです」って言いますよね。そういうチャンネルで聴くと、クラブ・ミュージックってとても良いと思うんですよ。

──自分のなかに色々なチャンネルを持つことで、楽しめる音楽の幅は広がるという。

ハロルド：そうだと思います。ジャズを聴くにはジャズのチャンネルがあると思うし。色んな音楽を聴くことはすごく得るものがあるし、素晴らしいものがあるんじゃないかと僕なりには思います。だから今回のアルバムも、初音ミクや歌い手を聴くというチャンネルに合わせて聴いてみてほしいですね。

取材◎岡本貴之　文◎岡本貴之／堺 涼子

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