【インタビュー】重実徹「ちょっとブルージーでラテン的で、しかも甘美で洒落ているアルバムです」

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ソウル、ジャズ、ブルース、ポップスなど多岐にわたる演奏フィールドと、数多くの優れたヴォーカリストに愛されてきた個性的なプレー。86年からは山下達郎のツアー・メンバーとして、2001年からはMISIAのツアーのアレンジャー/キーボーディストとして、CDでは福山雅治「It’s only love」、チャゲ&飛鳥「SAY YES」などの印象的なキーボードの音色を、Kiroro「Best Friend」ではアレンジを手掛けるなど、重実徹の作り出す音は、それと気づかぬうちに誰もが耳にしているはずだ。最新ソロ・アルバム『Sensual Piano』は、その名の通り官能的で抒情的な重実徹のピアノ・プレイの神髄を、最新の技術と音響を使って作り上げた、良質で親しみやすいメロディが溢れだす作品集。聴き手を選ばない、純粋な音楽の楽しみが堪能できる見事な仕上がりだ。

◆重実徹~画像~

■「クロード・モネ」という曲は途中でジャズ的なピアノ・ソロがあるんですが
■あとで音を見てみると、完全に50年代のジャズのスタイルなんです


――とても素敵なアルバムです。

重実徹(以下、重実):ありがとうございます。コンパクトな、リビングルーム・ピアノ・ミュージックみたいな感じになりました。なんでこういうことをやろうと思ったかというと、たとえば最近MISIAのツアーでピアノを弾いたり、ほかにもうちょっとインスト主体の音楽をライブハウスで演奏したりしていたんですが、その時に自分の弾いてるピアノの感じが、いわゆるジャズ・ピアニストとは違うし、かといってJ-POPと言われるフィールドで演奏している人のピアノの感じともまた違うと思いまして。自分の演奏してる感じをメインに、インストの曲を作ってアルバムにしたら面白いんじゃないか?と。


――きっかけはそこから。

重実:そうです。たとえばライブハウスでインストの曲をやっている時に、弾きながら“この演奏、いいんじゃないかな”と思ってお客さんの反応を見ると、すごくいい感じになってる時があるんですね。しかも自分が一番得意なのは、たとえばジャズであっても、本当にソフスティケイテッドされた極みの、かなり上の方から見ているようなかっこいい演奏であるよりも、もうちょっとブルージーであったりラテン的であったり、しかも甘美でちょっと洒落ているみたいな、そんなスタイルが得意なので。自分の得意なことをライヴでうまくやれた時が、お客さんの反応が一番いいような気がしていたんです。


――そうだと思います。

重実:反応というのは具体的な拍手とか、そういうものもあるんですが、顔つきや雰囲気でなんとなくわかるんです。なので、自分が一番得意なスタイル、具体的に言うと、僕にはロックやソウル・ミュージックのバックボーンがあるんですが、ジャズでいうとマイルス・デイヴィスがモード・ジャズをやる前、「枯葉」とかを吹いていた頃のような、いわゆるビーバップのスタイルなんです。具体的な演奏内容として、モード・ジャズであるよりもビーバップなピアノ演奏が自分は好きで得意なので。ジャズを取り入れてピアノを弾くとしたらそういう形かな?と。


――はい。なるほど。

重実:たとえばピアニストでいうと、マイルス・デイヴィスのバンドなら、ハービー・ハンコックよりもその前のウィントン・ケリーが好きなんですよ。同じ曲をハービー・ハンコックが弾くのとウィントン・ケリーが弾くのと、まったくカラーが変わってくる。自分は50年代後半のマイルス・デイヴィスのバンドの、ウィントン・ケリーのスタイルがいいんです。このアルバムの1曲目に入っている「クロード・モネ」という曲は、途中でジャズ的なピアノ・ソロがあるんですが、弾いてる時に分析はしていないで、気に入ったからこのテイクを入れてるんですけど、あとで音をプリントアウトして見てみると、完全に50年代のジャズのスタイルなんです。

――自然に出てしまった。

重実:やっぱりそれが好きなんですね。もうちょっとあと、ハービー・ハンコックが築いたスタイルをお手本としているジャズ・ピアニストはすごく多いんですが。僕が大学生だった頃、ジャズ研には入らなかったんですが、ジャズ研で良いとされているスタイルはまさにハービー・ハンコックのスタイルだった。慶應のジャズ研のピアノには“HERBIE HANCOCK”って書いてありましたからね。ここには絶対に入らないと思いました(笑)。

――(笑)70年代はフュージョンの時代だったからですかね。グルーヴィーな感じというか。

重実:というよりも、フレージングの面で言うと、マイルス・デイヴィスが作った音楽から生まれたモード・ジャズのスタイルを、ビートがファンキーになったフュージョンの中で展開したスタイルが多かったと思うんですね。その時に、それ以前のピアノのスタイルはダサイとされていたんです。ちなみに、その頃自分はジャズだけが好きだったわけではなく、ロックやブルースも好きだったので、最初にお客さんの前で演奏したバンドはブルース・バンドでした。大学生の時に知り合いのつてで、シンガーソングライターでブルースっぽい歌を歌っている人がいて、その人のツアーに誘われて。そこではギターとピアノと両方をやっていました。それが初めてギャラをもらった仕事です。シンガーの方はかなり年上だったんですが、“おまえはピアノを頑張った方が絶対うまくなる”と言われて、“わかりました”と。

――見抜かれたんですね。

重実:ギターも得意なつもりだったんですが、今考えると、雰囲気と歌心系ギターだった(笑)。技量が伴っていなかったんですね。ピアノは子供の頃に習っていたので、ちゃんとやればもっとうまくなると思ったんじゃないですかね。

◆インタビュー(2)へ
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