【インタビュー】中野テルヲ、孤高の電子音楽家の20周年ベストに「責任が持てる音楽」

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■人のいない方へ、いない方へと進んできました
■その結果、今、ここにいるんだと思っています

──中野さんのライブと言えば、超音波センサーを手刀で切ることで、電球を光らせたり発音させる“UTS(Under Techno System)”がトレードマークとなっていますが、これはどのような経緯で使い始めたのですか?

中野:超音波センサーを含め、高橋芳一くん(ex.P-MODEL)が作った機材群は、ソロでの最初のライブから使っていました。そもそもは、ライブでこういう物を使いたいと高橋くんに相談をして、「じゃあ、こういうアイデアがあるんだけど」といったような形で、彼がいろいろと自作してくれたものです。

──初めてライブでUTSを観た時は、まさに“あれが鳴っている”という、他の楽器では味わったことのない強い感動を受けました。完全にエレクトリックなシステムですが、ある意味で、とてもアコースティック楽器の演奏から受ける感動に近い、とても不思議な感覚になったことを覚えています。

中野:ああ、そういう風に観ていただけて、本当に嬉しいですね。やっぱり大切なのは、演奏と音のシンクロだと思うんです。センサーを手刀で切ったら、それに合わせて光るものは光るし、スクリーンにはグラフィックが投影されたり、もちろん音が鳴ったりと、そういった演奏者とのシンクロは大切に考えて、こういったシステムを使っているんです。コンピューターは使っていますが、スイッチを押して終わりというのは、自分は嫌なんですよ。だからステージには、生で演奏するスイッチ類をたくさん用意して“演奏”しているんです。そのために、微妙にタイミングがズレてしまうこともありますが、それも“善し”と考えて、ライブをやっていますし、ステージには無駄に置いている機材はひとつもありません。

──そうした身体性とテクノロジーを融合させたライブパフォーマンスは、まさに“孤高の電子音楽家”と言うべき、独自の世界観ですよね。

中野:ただ、そのテクノロジーへの興味も、実はある程度のところで止まっていて。今使っているコンピューターのソフトウェアも、もうかなり古いものなんですよ。ある時を境にバージョンアップをやめてしまって、たとえばコンピューター本体に関しては、1998年製の物を今でもステージで使っていますし、映像用には、1996年製の大きなタワーマシンを使っているんです。スタッフの皆さんが、いつも「重い、重い」と言いながら運んでくれるんですけど(笑)、でも中身のアプリケーション自体は、非常に軽くて、サクサク動くんです。今って、コンピューターの性能がすごく上がっていますけど、その分、最新のアプリケーションも重くなっていたりするじゃないですか。

──確かに、マシンパワーがアップしても、アプリケーションも重くなっているので、動作の体感速度はあまり変わっていませんよね。

中野:DAWソフトも、いろんなプラグインやソフトシンセを使わない方が、快適に動くじゃないですか。なので、なるべく軽い環境でやりたくて。それが自分にとって、一番ストレスがない方法なんです。まあ、実際の機材としては、物理的には重くてデカいんですけど(笑)、こうした制作環境が、自分には適していますし、何よりも、扱いやすいですから。ワンマンライブの時には映像も使っていますが、これもすごく軽い映像素材ばかりを使っているんです。フルカラー映像とかではなく、8ビットの簡単なグラフィックを使うことで、細かい精度でサクサクと映像を動かせるわけです。

──使い勝手のよさはもちろんあると思いますが、そういったある種のテクノロジーの制限が、よりクリエイティブな発想を生む原動力にもなっていますか?

中野:それはあると思いますし、自分にとって、そういった制限はあった方がいいように感じています。今って、選択肢がすごく多そうに見えるんですよ。いろんなことができ過ぎてしまうから、誰もやっていないことを探そうとしても、なかなか見つけることが難しい時代ですよね。何というか、すべてがお膳立てされ過ぎているような気がして、“このツールは、こういう使い方をするんだよ”ということが、使う前から見えてしまっている、そういう側面があるように感じます。それでも他の人とは違った発想で新しいモノを生み出している人は、きっといると思いますよ。自分はすごく天邪鬼なタイプなので、昔から、人と同じ使い方は嫌だと思って、なるべく他の人がやらない使い方を探して、人のいない方へ、いない方へと進んできました。その結果、今、ここにいるんだと思っています。

──そうして生み出した中野さんの音楽と、独自のライブパフォーマンスに関心を寄せる若い世代が増えてきているように感じています。ライブ会場でも、コアファンに交じって、若いお客さんの姿もよく見受けられますが、そういった若い世代のリアクションについては、どう感じていますか?

中野:ライブに若いお客さんが増えているということは実感していますし、何にしろ、嬉しく思っています。そういった若い方に、自分の音作りがどういう風に伝わっているのか、そこを想像してみたりもするんですが、もし、“他の音楽とは違うぞ”というオリジナリティーの部分で引っかかってくれているとしたら、それはとても嬉しいことだと感じています。

──そうした若いファンや、今回のベスト盤で中野さんの作品に初めて触れるという音楽ファンに、メッセージをお願いします。

中野:曲数が30曲と、ものすごいボリュームがあって、初めてという方は、聴き進むにつれて分からなくなる部分もちょっとはあるかもしれませんが(笑)、でも全部を聴いてもらうと、“中野テルヲ”というものが、少しは分かってもらえる、そんな入口となる作品だと思っています。そこでもし、気になった曲があれば、ぜひライブにも来ていただきたいですし、その曲が入ったオリジナルアルバムを紐解いていただけたら嬉しいですね。

──6月と7月に東名阪で開催される20周年記念ワンマンツアー<中野テルヲ 20th Anniversary>も、楽しみにしています。

中野:ファイナルの東京公演では、これまで東京のワンマンライブで行ってきたように、スクリーンを使ったライブができると思います。名古屋と大阪では、会場設備などの兼ね合いで映像の使用が難しそうですが、もしグラフィックが使えなかったとしても、それがマイナス要素にならないように、他の部分に力を注ぎますので、ぜひ3公演とも、楽しみにしていてください。

──では最後に、中野さんが音楽を作るうえで、一番大切にしていること、こだわっていることを教えてください。

中野:責任が持てる音楽を作ろうと考えています。このベスト盤もそうですし、曲作りにおいても、ひとつひとつの音に対して、自分でその意味が説明できるものだけで構成していますし、その音に意味があるのかどうか、それを常に自問自答しながら制作を行っています。ひとつひとつの要素すべてに責任が持てるように音楽を作ってきましたし、これからも、そうやって音楽を作っていきたいと思っています。

取材・文◎布施雄一郎 撮影◎ワタナベユキ



■ベストアルバム『TERUO NAKANO 1996-2016』

2016年3月16日発売
BSUK-1003~04 ¥3,600+税
【DISC1】
01.Let's Go Skysensor
02.Uhlandstr On-Line
03.Trance-Pause Room [2015 Recording]
04.Computer Love(2005 Recovery)
05.Computer Dub
06.Run Radio II
07.Mission Goes West
08.Run Radio IV(Memory Bank B)
09.コンダクター・プラス
10.RAM Running(Plans For Disc)
11.Run Radio I
12.ウーランストラッセ節
13.Winter Mute(Part II)
14.Call Up Here
15.Run Radio III [Extended]
【DISC2】
01.今夜はブギー・バック
02.IDは異邦人
03.ディープ・アーキテクチャ
04.宇宙船
05.ファインダー [2016 Recording]
06.Ticktack
07.グライダー
08.サンパリーツ
09.遠くのカーニバル

10.Raindrops Keep Fallin' On My Desktop [Extended]
11.Dreaming
12.Long Distance, Long Time
13.Game [Type B]
14.Eardrum [Extended]
15.虹をみた

■中野テルヲ 20th Anniversary ライブ情報

[Live160609]
2016年6月9日(木)愛知県 池下CLUB UPSET
前売3500円/当日4000円(ドリンク代別)
一般発売:2016年4月9日(土)
イープラス プレオーダー:2016年3月26日(土)~3月30日(水)

[Live160610]
2016年6月10日(金)大阪府 北堀江club vijon
前売3500円/当日4000円(ドリンク代別)
一般発売:2016年3月20日(日)

[Live160702]
2016年7月2日(土)東京都 KOENJI HIGH
1F・2F椅子席 前売5800円/当日6300円(ドリンク代別)
1Fスタンディング 前売3800円/当日4300円(ドリンク代別)
一般発売:2016年4月2日(土)

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