【音踊人 08】スキマスイッチの音楽のなかで踊りだす一人の人格“POPMAN”~新コンセプトツアー<POPMAN’S CARNIVAL>から見るこれからのスキマスイッチ~(蒼山静花)

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「スキマスイッチが春に<POPMAN’S CARNIVAL>というツアーをやる」。
2015年最後のスキマスイッチのステージを<COUNTDOWN JAPAN 15/16>で見届け、友人たちと2015年の飲み納めをしながらカウントダウンをした直後に飛び込んできたニュース。冬~春にかけてライブツアーを行うことが多かったスキマスイッチにとっては極めて異例なことで、一ファンながら少し衝撃を受けた。2013年に10周年を迎えた際に、「次の10年を同じルーチンで行いたくはない」と語っていた彼らのことだから、きっと何か新しいことに挑戦してくれるのだろう。そんな近い未来への期待を抱きながら2016年の扉を開けた気分の良い年明けの瞬間だった。

ほどなくして、アナザーベストアルバム『POPMAN’S ANOTHER WORLD』がリリースされることが発表された。“アナザーベストアルバム”という耳馴染みのない言葉。タイトルから、10周年の折にリリースしたベストアルバム『POPMAN’S WORLD』のアナザー盤であることは容易に想像できた。収録曲のラインナップを見ると、どうやらカップリング中心に集めたベストアルバムのようだ。そして、リリース日は<POPMAN’S CARNIVAL>のツアー初日直前。今回のツアーと何かしらの関連性があるのだろうか?と、来たる初日への期待がさらに増した。

ツアー初日を迎える前に、ファンクラブ会員向けにプレビューライブが開催されることがアナウンスされた。いわばツアー初日の前哨戦ともなるこのライブ。ツアー初日が近づくにつれ、あらゆるメディアなどでスキマスイッチ本人たちが「アレンジ多めのツアーになりそう」といった趣旨のことを言うものだから、実際に自分の目と耳で受け止めて本編への心構えをしておきたい。そう思い、私は足を運んだ。

ファンクラブ限定公演のため詳細は割愛するが、振り返ってみると<POPMAN’S CARNIVAL>本編の予告編を見せてくれたような、そんなセットリスト、アレンジであった。一言で表すならば、「度肝を抜かれた」に尽きる。彼らは、自分たちで緻密な計算をして作り上げた楽曲を、自分たちで壊しに、そして再構築しにかかっていた。10周年を終えた後に制作したアルバム『スキマスイッチ』のリードトラック「ゲノム」のなかの1フレーズ、「壊せ 壊せ 臆病が作った概念を」という言葉が私の頭を駆け巡った。

そして迎えたツアー初日。蓋を開けてみたら、直前にリリースしたアナザーベストアルバム『POPMAN’S ANOTHER WORLD』の楽曲は全体のスパイスとして加えられている程度で、今までのスキマスイッチの13年間の歴史を余すところなく振り返ることができるようなセットリストとなっていた。さらには、プレビューライブのときに聴かせてくれた以外の楽曲にも、新たなアレンジが加わり展開されていく。「何の曲かわからないで聴いていた人もいるんじゃないか」なんて、ボーカル大橋卓弥が笑いながら言っていたが、10年以上スキマスイッチのファンとして彼らの楽曲を聴いてきた筆者ですら、歌い出しまで何の曲かわからずドキドキワクワクする、そんな瞬間が多々あった。演奏が始まるたびに長年彼らのライブを見ている人も、そして今回のツアーで初めてスキマスイッチのライブを見るという人も、みんながフラットに初めて聴く楽曲としての反応を浮かべる。彼らは、そんな客席の様子すら楽しんでいるような気がした。

23本あった今回のツアー。何本か参戦したが、回を重ねるごとにアレンジされた楽曲にさらなる彩りが加えられていくのが、痛快であった。初めて聴いたときになんだか聞き覚えのあるフレーズだなと思っていたイントロが、実は往年の名曲、Policeの『Every Breath You Take』や、Donny Hathawayの『What’s going on』とのマッシュアップであったと気がついたりもした。

彼らは、自身の楽曲に自らメスを入れ、新たな形でのアプローチを仕掛けてくる。実は、新しい楽曲を作るのと同じぐらい難易度の高いハードなことをやっているのではないかと、聴けば聴くほど感じるのだが、ステージにいるスキマスイッチ二人、そして二人を支えるバンドメンバーはそんな大変さを微塵も感じさせない。むしろ、そんな状況すら楽しんでいるように見えてしまう。スキマスイッチ本人、そして日本を代表するミュージシャンたちが集まったバンドメンバーの技量あってこそ成立するステージといっても過言ではないだろう。とても音楽的なツアーであった。

「僕たちが今やりたい曲を、やりたいようにやるツアーです」
<POPMAN’S CARNIVAL>の冒頭MCで、大橋卓弥は笑いながらこんなことを言っていた。この言葉は、ともすると「スキマスイッチ本位の自己満足なツアー」と乱暴に捉えられてしまう可能性もあるかもしれない。確かに今回のツアーは、彼ら自身が「今やりたい曲」を「今やりたいように」好きに調理して演奏しているツアーであったことに間違いはない。しかし、そうすることで「スキマスイッチこんなこともできるんだ!」と、見ている側に新たな発見を見せてくれるツアーであったように筆者は感じた。

「スキマスイッチといえば『全力少年』や『奏(かなで)』だよね」。
ファンでない人からよく言われる言葉。世間一般からしたら、スキマスイッチの音楽は“優等生的ポップス”なのかもしれない。そんな優等生な“表の顔”を見せているのがベストアルバム『POPMAN’S WORLD』であるとするならば、アナザーベストアルバム『POPMAN’S ANOTHER WORLD』や今回のツアー<POPMAN’S CARNIVAL>は、そんな優等生の“裏の顔”、内なる部分に秘めている好奇心やアツい情熱を見せてくれたように思えた。そして、10周年を迎え、スキマスイッチが考えている次なるステップは、そんな“裏の顔”を見せていくことなのではないだろうか。

スキマスイッチという一心同体の“POPMAN”が繰り広げる世界。その世界の中を、”POPMAN”が縦横無尽に駆け回ったのが<POPMAN’S CARNIVAL>だったのではないかと、筆者は感じた。今回開催されたCARNIVALにより、”POPMAN”は新たな世界を作り上げるための確固たる自信を手にしたはずだ。今回のツアーで一番最後に演奏された『サウンドオブ』の歌詞の一節。「迷いのない 自分のスタイルで 奏でよう」。筆者はこれからのスキマスイッチが何をしでかしてくれるのか、とても楽しみである。

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