【インタビュー】doriko、9年間の集大成的ベスト盤完成「初音ミクはボーカルです」

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■人間だったらあり得ない高いキーを使ったり
■その中で機械感を消すように歌わせる

──dorikoさんの楽曲に欠かせない初音ミクと最初に出会った時、どういう部分に魅力を感じましたか?doriko:一般の音楽ファンに曲を届けようと思ったら、やっぱり歌が入っていないと、なかなか聴いてもらえないじゃないですか。だけど、僕はボーカルではないので、そういう意味で、「パソコンが歌う」ということが、まず衝撃でした。そもそも、バンドでボーカルを探すのって、一番大変だと思うんですよ。それが、打ち込みでイケるっていうことに、まず興味を持って、しかも使ってみたら「これはイイ」と思ったんですね。もちろん、まだ当時は(機能的に)、「仮歌レベルでしか使えない」とか言う声も多かったですけど、僕はそれ以上に、技術の進歩にビックリしたんです。

──dorikoさんの楽曲を聴くと、その初音ミクを「人間離れした歌い方」ではなく、きちんとボーカリスト然とした歌わせ方をしているように感じました。その部分は、意識しているのですか?

doriko:僕はずっと、「初音ミクはボーカルだ」と思っています。ただそのうえで、ボカロ用に作る曲と、生身のボーカリストさん用に作る曲とは、別々に考えて作っています。もちろん、例外もありますけど、「初音ミク」というボーカリストが歌うという前提で、最初から曲を作っているという意識は、間違いなくありますね。

▲『doriko BEST 2008-2016』通常盤

──具体的には、初音ミクに曲を作る時と、ボーカリストに曲を作る時で、何が一番違ってきますか?

doriko:僕は2つあると考えていて、まずは、キーです。初音ミクって、めちゃくちゃキーが高いんですよ。それに、これまでの初音ミクは、ソフトウェア的に、抑揚の面で若干弱い部分があったんです。たとえば、人間のようにささやくようなニュアンスから、強く声を張るようなダイナミクスをつける表現は、なかなか難しかった。それじゃあ、サビでどう盛り上げればいいかと考えると、僕はキーの高い音を持ってくるようにしているんです。つまり、歌の盛り上がりを、声の力強さではなく、キーの高さで作っていくわけです。しかも、標準的なボーカリストさんが歌うくらいのキーで初音ミクを歌わせると、どうしても、ちょっと落ち着いて聴こえちゃうんですね。あまり盛り上がらない。だから、人間のボーカリストだったらあり得ないくらいの高いキーを使ったりします。

──どのくらいのキーの高さになるのですか?

doriko:具体的に言ってしまうと、真ん中のGから、2オクターブ上のEくらいかな? 1オクターブ半ちょい超えくらい。その中で、なるべく機械感を消すように歌わせることを基本にしています。中には、Disc2の「Electric Sheep」みたいに、ものすごく高い音を使っている曲もありますけど。そうしたキーに関する部分と、あともうひとつ、僕が絶対に避けるようにしているのは、ロングトーンです。人間であれば、ゆったりと音を伸ばして歌えるような曲でも、初音ミクにロングトーンを歌わせると、ニュアンス面が乏しくなりがちなので、音数を増やしたり、譜割りを考えて作るようにしています。ただ、今回のベスト・アルバムと同じ日にリリースされる最新の“初音ミク V4X(VOCALOID4エンジンを使用)”では、そういった部分での表現力が大きく向上していて、弱めの音の表情だとか、バラードにも非常に合うようになってきました。今年に入って作った楽曲は、その“初音ミク V4X ベータ版”を使わせていただいて制作しています。

▲『doriko BEST 2008-2016』制作環境

──制作環境も教えてください。メインのDAWソフト(音楽制作ソフト)は、何をお使いですか?

doriko:ずっとスタインバーグCubaseを使っています。もっと昔の話をすると、打ち込みを始めた頃は、ヤマハのXGworksというMIDIシーケンスソフトを使っていて、その次に、XGworksを発展させたヤマハSOLというWindows用DAWソフトで初期の楽曲を作っていました。SOLのサポートが終了してからは、いろんなソフトを試して、その中でCubaseが一番使いやすかったんです。しかも、数年前にVOCALOID Editor for Cubaseが出て、Cubase内で、直接ボカロをエディットできるようになってからは、ものすごく使い勝手がよくなりました。これを僕は、今年に入ってから使い始めたんですが、なぜもっと早く使わなかったのかと、とても後悔しました(笑)。

──ははは。これまでは、初音ミクの歌わせ方や、メロディについてお話を聞きましたが、初音ミクに歌わせる歌詞については、どのような点を意識していますか?doriko:一般的に、初音ミクの歌って、2通りの歌詞があると思っています。ひとつは、「私、初音ミク。電子の声で歌います」みたいな、そういうタイプの歌詞。初音ミクが登場したての頃の歌って、“初音ミク”というキャラクターの歌だったんですよ。そこから始まって、もうひとつあるのはストーリーものです。物語を初音ミクちゃんが語っているような歌詞ですね。たとえば、「ロミオとシンデレラ」は、恋する少女の話を歌ってもらっています。

──そこにdorikoさん自身のメッセージは?

doriko:もちろん、自分の言いたいことを初音ミクを通して歌ってもらうといった曲もありますが、もともと初音ミクって、エンタテインメントというか、みんなを楽しませるためのものといった側面があると思っているので、あまり「オレの言いたいことを聴け!」といった曲を歌わせると、リスナーはお腹いっぱいに感じてしまうと思っていて。僕はそういう要素を、ある程度までに抑えた方がいいのかなって考えています。ここは、ロックバンドのボーカリストさんが「オレのメッセージを」と歌うのとは大きく違う部分で、そこのバランスを上手くとれるように心がけています。やっぱり初音ミクから、そんなに暗くて重い歌は、みなさん聴きたくないでしょうから。

──作詞と作曲をしつつ、初音ミクというボーカリストのプロデュースをしているような感覚もあるんですね。

doriko:そうした目線を持っているつもりです。やっぱり初音ミクって、ひとつの確固たるキャラクターですから。

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