【音踊人12】吉屋真が紡いだ癒しの夜「眠れない僕等の為に。」(坂井彩花)

ポスト





眠れない夜が誰しもあるだろう。遠足前日に興奮してワクワクしたり、試験日を控えて不安でドキドキしたり。眠らなければと思うほど体は言うことを聞いてくれず、夜がどんどん遠くなる。かくゆう私も、「誰かが背中を撫でて、子守唄でも歌ってくれたら。」そう思う日が少なくない。7月12日(火)、横浜BAY JUNGLEで開催された<眠れない僕等の為に。>は、そんな人に是非とも来てほしいイベントであった。かつて“アオイズム”として活動していた“吉屋真”の帰りを待っていた面々が顔を揃え、優しさと暖かさで創り上げられた癒しの夜。この日、吉屋真は新たな人生を踏み出したのだ。“彼女は夢を見る”として。

熱い歌声と全力のパフォーマンスの「calder」、エモーショナルなJロックを操る「アマリリス」、甘美と狂気の「午前3時と退屈」と、戦友たちが最高のパフォーマンスを繰り広げ、時計の針は進んでいく。いよいよ「彼女は夢を見る」こと吉屋真がステージに舞い戻る瞬間だ。

幕が上がるとパジャマに身を包んだサポートメンバーが、舞台にたっていた。足音、笑い声、水音と規則性のないSEが鳴り響く。1ミリも動かない彼らの姿に、会場の時は止まってしまったようだ。目覚ましの音がなり、ようやく彼女は夢を見るは姿を現した。彼の世界観を色濃く映し出された「眠れない僕等の為に」が読み上げられ、会場がグッと前のめりになる。ピアノの弾き語りで始まる「mizuyari」は、バンドというよりも壮大なオーケストラ。その長い指から紡ぎだされるピアノの音色は、全部の悲しみや喜びを背負っているかのような重さがあり、破滅と救いが混在していた。続く「銀の鎖と髪飾り」は美しい物語を歌詞に落とし込んだ曲で、リズムを口ずさむ彼の顔には笑みがこぼれる。「海よ」は美しいピアノのイントロで始まった。弾き語りをする姿は、淡々と歌っているように見えるのだが、声には凄く熱が通っていて思わず聞き入ってしまう。ラストの曲となったのは、大切な友人を思い作られた「夜に帰る」。体のラインも細く、どこか頼りない印象すらある吉屋。しかし、マイクを通して響き渡る歌声は強さしか感じなかった。その歌声に重なるコーラスは讃美歌のようで、教会に響くゴスペルのごとく体の隅々まで音楽が満ちていく。魂を叫ぶように歌う彼の姿に観客の瞳は潤み、いくつもの星が輝いていた。

MCで彼は「かつては、ネガティブな感情から曲を作っていた。でも今は、綺麗なもの、美しいものから曲を作りたいんです。それが気持ちいい。」と、話していた。誰かに批判・評価されることを恐れていた吉屋真。そんな彼が辿りついたのは、誰かの独断や偏見に振り回されることではなく、ただただ美しいセカイの輝きに心ふるわせ、音楽を通して誰かと心を通わせることなのではないだろうか。

“誰かが誰かを思いやる”そんな優しい気持ちに包まれた夜はあっという間のうちに過ぎていった。彼女は夢を見るの言葉を借りるならば、「何もかもを奪ってしまいそうな夜でした。」に尽きるだろう。「人生、幸せなことばかり」などと上手くはいかないものだが、こんな夜があるから、もうちょっと生きいてもいいかな、と思えるのだ。

そんな彼女は夢を見るの1stシングル『mizuyari』のリリースイベントが9月8日(木)、下北沢MOSAICにて開催される。吉屋真が創りだす癒しの世界に染まってみてはいかがだろうか。


<彼女は夢を見るPre. 『MATSURI-KA』1stシングル『mizuyari』リリースイベント>

日時: 9月8日(木) OPEN 17:00 / START 17:30
会場:下北沢MOZAIC
出演:彼女は夢を見る / Made In Me. / QoN / サヨナラの最終回 / Liz is Mine / 栁澤はるか
料金:前売り2,000円 / 当日 2,500円

   ◆   ◆   ◆

■音踊人(Odoru-Beat)とは?

音踊人は、みなさんの「音楽体験」を募集しています。

ライブレポートやディスクレビュー、お気に入りアーティストの紹介や、お勧めライヴハウスの紹介など、音楽にまつわるモノならなんでも構いません。

あなたの「音楽体験」で新たな音踊人が増えるかもしれません。BARKSと一緒に音楽を盛り上げましょう。

   ◆   ◆   ◆




この記事をポスト

この記事の関連情報