【連載】フルカワユタカはこう語った 第11回『小さな告白』

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先日、バンド/ソロを通してお世話になっている下北沢の老舗ライブハウス「シェルター」の25周年企画に出演した。

◆フルカワユタカ 画像

かねてよりドーパンに(僕に?)似ていると噂の「夜の本気ダンス」との2マンライブ。彼らは、ギタリストが脱退して新体制での初ライブだったという事。上半期僕が携わった件とはもちろん関係があるはずも無く、全くの偶然だが、なんだか今年はそういうことが重なるね。一緒にライブをやるのは初めてだったけど、見るのは3月に渋谷O-EASTにお誘い頂いて以来二回目。進行形でブレイクしているバンドって言うのは、成長期の少年のようにほんのちょっと目を離した隙に見違えてゆく。以前どこかで書いた記憶があるが「この仕事の一番のやりがいは、ただのこ汚い田舎の兄ちゃんが勘違いに引っ張られながら本当にスターになってしまう姿を側で見られる事だ」と某マネージャーが言っていた。それが自分が見つけてきたアーティストであるなら尚更だと。スケールの大小はありながらも、ミュージシャンには「売れる前の顔」があるという。「あ、こいつら売れる前の顔になったな」的な。自分がどうだったのかは自分では当然分からないし、そもそも僕ら程度で「売れた」という表現が一般的かどうかは置いておいて、確かに何かに巻き込まれていく快感みたいなものはあった。それに、他人から「変わったね」と言われた記憶も少なくない。




彼らはその最中にいるのかもしれない。打ち上げも一緒にさせてもらい色々話もしたけど、ドーパンのファンだったということで、なんだかずっと恐縮してくれていて中々本性を窺い知る事は出来なかったが。そんな程度であまり適当なアドバイスを書くべきではないかもしれないが、これから精一杯担がれて、精一杯その気になって、精一杯調子に乗れば良いと思う。精一杯の結果、僕の場合は周りからは色んな人がいなくなったのだけど(笑)、そこまでいききらなければ僕はしっかりと音楽に向き合えるようにならなかった気がするし、全く後悔していない。逆に、自分に酔うというか格好をつけられなかった人は、そりゃ人当たりの良い評判は聞こえて来てはいたが、結局みんないなくなっちゃった気がする。誤解しないで欲しい、何もあえて嫌われろと言っているわけではない。人の目など気にせず、自信をもって貫きなさい、我がままにやんなさい、ということです。発表されているZepp Tokyoも機会が合えば是非見に行かせてちょうだい。例えばマイケル君あたりが『英二ふたたび』(※ドラマ『とんぼ』続編)の常吉(※哀川翔)ばりにキャラ変してても、それはそれですから。「どうも、フルカワさん、しばらくです」。

ちなみに、一種の”はやり”なのかね。なんかここ数年バンド名が奇抜すぎないかしら?「DOPING PANDA」も変なバンド名だと随分言われたが、このご時世においては英語であるという時点で随分と凡庸な感じもする。「夜の本気ダンス」「ゲスの極み乙女」「赤い公園」「キュウソネコカミ」。僕らの頃だったら色物バンドの名前といった印象だけれども、きっと彼らなりの狙いがあり、当然クールだと考えているからつけているわけで。何よりリスナーに支持されているということは、残念ながらただ単に僕の感覚にガタがきているというだけのことなんだろう。あれかね、世代的に”ゆとり”やら”キラキラネーム”的なことと何かしら関わりがあるのかね、思考的/発想的な部分で。ちなみに今月、LOW IQで対バンするバンドの名前もかなりきてる。「ヤバいTシャツ屋さん」だってさ。え? Tシャツ屋なの? しかもヤバいの? 大変楽しみにしております。


このコラムでもチラホラと書いているけど、2ndアルバムを絶賛制作中。先月までの自宅における準備期間を経て、今はスタジオにて録音作業をしているところ。もう耳にタコが出来るくらい言っているが、昨今のレコーディングは制作費が限られているのでスタジオに入る前の準備が大切。以前なら、各楽器の音色やらアレンジの細かいところやらはスタジオに入ってから決めていたが、今の限られた時間の中でそんなことを悠長にやっている暇などない。だからといって、それを補うピッチの補正や演奏の修正などは、僕は絶対にしない。妥協して多少のパンチイン(途中から演奏し直すこと)をすることはあるが、本来なら1、2テイクで1本が理想だ。それを実現するにはとにかく準備をすること。科学者のごとき綿密さと執念深さでつくりあげたフレーズを、国際コンクール前のバイオリニストのごとき練習量で完全武装して臨む。おかげで抜群なオケトラック(歌以外を録り終えたもの)が完成。後は楽曲の命とも言える歌録りを残すのみ。こちらも昔ほどの時間をかけられないが、魂を揺さぶるようなボーカルを入れてみせるので、みんなも東京のオラに向って「元気」を分けてくれ。って、結局この超ストイックなレコーディングを楽しんでいる自分に気がつく。このマゾヒストめ。

僕らの頃からそうだが、なぜだかパンク・ハードコア系のバンドは英詞のバンドが多い。ドーパンを始めた頃はいわゆるメロコア・パンクブームのまっただ中で、見渡す限り英詞のバンドばっかりだった。旗頭のハイスタは海外のレーベルからリリースして、海外ツアーをしてと、英詞にする理由/哲学がきちんと存在していたが、僕らのようなブームの末端にいるバンド達はなぜ英詞にしてるのかと問われれば「洋楽が好きだから」とか「日本語で書くとダサイから」ということに一理をおきつつも、「みんながそうだから」というのが大本命な答えだったのだろう。要は英詞というのは”はやり”だった。

ライブハウスでブッキングライブをし始めた頃、まだまわりのパンクブームに影響を受けていない僕は日本語で曲を書いていた。英語はあまり得意ではなかったし、そういったバンドのようにエセ英語で歌うことに論理的な正解を見つけられなかったからだ。が、どうやら日本詞だとライブハウスのブッキングイベントに呼ばれにくかったり、友達バンドが出来にくいようだと気づくと(嘘みたいな話だが、当時は本当にそうだった)、僕は臆面も無く英詞に変えた。正確には英詞風だが。僕らと同じ事が色んなバンドに起こっていたので、東京中~日本中に英詞風パンク・ハードコアバンドが溢れ返っていたのだが、不思議なもので慣れてしまえばむしろそっちの方がクールに感じたりすることもあった。「NICOTINEは英語過ぎるからあまり好きじゃない」的な。まるで冗談みたいな話だが(笑)。

時が経ち、ドーパンがメジャーデビューして1stアルバムを出した直後、「Can't Stop Me」(2007年)というシングルから僕はティム・ジェンセンという英語のプロデューサーをつけた。2000年代中盤、メロコアブームが去り、アジカンやACIDMANといったロッキンオンバンドの台頭と共に日本詞は完全に復権を果たしていた。エセ英語による英詞は時代遅れの感を出し、当然ながらリスナーにも疑問符がつくようになっていた。実際、当時のマネージャーからは日本詞の曲も書いてみてはという提案もされていたのだが、僕はドーパンを日本詞中心のバンドにはしたくなかった(ユニコーントリビュートも原曲通り日本詞でやることを勧められたがティムと英詞に翻訳して録音している)。なぜ英詞にこだわったのか、それどころかなぜその段に至ってエセ英詞バンドからの脱却とリアルな英詞バンドへの変化を望んだのか。それはバンドを始めた当初にはなかった、ブレイクの最中で精一杯担がれて、精一杯その気になって、精一杯調子に乗っていた僕に芽生えたある野望からだった。「そもそも僕を駆り立てた海の向こうで音楽をやりたい」という野望。

そこから『decadance』(2009年)まで、僕はティムと共作する形で歌詞を書いていく。曲の世界観を伝えながら彼とスタジオに入り表現やリズムなどを調整しつつ詞を作る。レコーディングではティムも同席して英語のテクニカルな部分を厳しくチェックする。その為、発音を気にし過ぎて歌えなくなったり、逆にバッチリ歌えていてもティムが納得しないからオッケーにならなかったりと、1日かけて1曲仕上がらないなんてこともままあったりして、当時の僕は歌録りが本当に憂鬱だった。今でも仲良しだが、あの頃はティムと本当によく喧嘩をした。巷でたまに聴く「ドーパンの英詩は中学生レベルのエセ英語」という話。ティムと僕の名誉のために言わせてもらうがそれはあくまでもインディーズ時代の話。「Can't Stop Me」以降の僕の英語は(もちろん全然ネイティブではないが)きちっと英語圏の人にも理解出来る文章と発音になっている。作詞以外でも僕は英語の勉強をしていたし、『decadance』の頃にはティムとのディスカッションを英語ですることもあった。当然、作詞作業もボーカルRECも格段にスムーズになり、どさ回りではあったが念願のヨーロッパツアーに行き、英語で取材を受けMCもした。

打って変わって、ソロ一枚目の『emotion』(2013年/実はジャケットの写真はティムによるもの)は全曲日本詞になる。海外にという夢はバンドの解散とともに一旦自分の中で収まり、「作詞はあくまでも作曲の一部」というそれまでのスタンスとは一線を画すことでドーパンとの”違い”を出す目的があった。表現の弱さにまだ多少の照れが見えるものの、概ね気に入った歌詞が並んでいる。未聴な人は是非2ndが出る前に聴いて(読んで)みて欲しい。

さて、小さな告白がある。このコラムの連載を始めて来月で(なんと!)丸1年になるのだが、僕はここ最近「物を書く」ということに面白みやプライドを持つようになっている(反比例的に産みの苦しみが増しているが)。あまりハードルを上げ過ぎないようにと「本職の物書きは凄い」だとか「所詮、僕は音楽家なので」とか予防線を張りまくってきたが、よくよく考えれば作詞という形で己の言葉を世の中に発表している時点で、僕も物書きの端くれと言えなくもない。本当に恐縮だが、音楽家としてだけではなく、僕の言葉や文章に興味を持って欲しいというか、褒めて欲しいというか、重ね重ね恐縮なのだが、言葉や文章というものに対して正直どろっとした欲が出てきてしまっている。

去年末に出した「I don”t wanna dance」で僕自身も英詞に戻るかと思っていた。が、このコラムの影響も強くあって目下制作中のアルバムは完全に日本詞メインだ。僕の声は英詞に合う気がするしく、そういうものを期待していたファンにとっては少し残念な告白かもしれないが、レコーディングとは文字通り今の僕を正直に切り取る記録であるべきで、残念な気持ちは今はちょっと胸の奥にしまって頂いて、是非リリースを楽しみにしていて欲しい。有機的でとても良い歌詞が並んでいるので。

■LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS 3本立て

※LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS(サポートギター)でのライブが決定

10月9日(日)梅田クラブクアトロ
※<RUN&MOSH TOUR 2016>
OPEN:17:30/START:18:00
出演:LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS,10-FEET,ヤバイTシャツ屋さん
http://www.mobby-mob.com/

10月10日(月)宇都宮 TOKYO KAIDO
出演:LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS 他
http://tokyokaido.com

10月12日(水)渋谷クラブクアトロ
※<RUN&MOSH TOUR 2016>
OPEN:18:00/START:18:30
出演:LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS,SHANK,ヤバイTシャツ屋さん
http://www.mobby-mob.com/

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