【インタビュー】フルカワユタカ、『And I’m a Rock Star』に「ドーパンがライバルじゃなくなった3年間」

ツイート

■“アルバムには入れない”って
■自分をだましてつくったのがこの曲

──では、アルバム制作がスタートしたのは?

フルカワ:ベボベとバンアパとの対バンを決めたちょっと後、ベボベの野音ライブの前くらいですかね。後輩バンドを援助したことで、“ああ、まだギターやってるんだ”とか、改めて僕の存在に気づいた人も大勢いたと思うんですよ。そこでマネージャーも僕自身も「なにかやらなきゃね」という話をして。2015年のライブで<無限大ダンスタイム>も解禁したし、今度はフルカワユタカとして、音源を出してショウをみせなきゃっていうことがはっきりしたのが、そのときですね。

──それって2016年の春のことですよね? 結構最近の話じゃないですか。

フルカワ:そう。で、早速夏ぐらいにレコーディングしましょうってことになって、そこに向かって書いた曲もあるんです。ただ、このアルバムは3年間の中でつくったアイデアを、曲として組み立てていったというイメージのほうが近い。

──そういった中で、一番最初に着手した曲は?

フルカワ:たとえば「真夜中のアイソレーション」はSMAに戻ってすぐにつくったメロディですし、チープな打ち込みに仮歌をのせたものがあったんです。けど、リフはその後でつくったりしてるから、取りかかったという意味では、もう時期はバラバラ。アルバムに収録された楽曲の状態として一番最初にできたのは「プラスティックレィディ」とか「can you feel」とか楽曲提供したものだけど、それを除くと「サバク」かな。これは、ちょうどアルバムをつくるっていう話が進んだときに、SMAの宣伝部から「アニメのタイアップがあるけど、やりますか?」という話が来て。それに向けてつくった曲でもあるんですよ。でね、僕、自分の曲をつくるとなると、自身にすごく手かせ足かせをかけるんです。これまでの曲と食い合わないようにとか、人がやったことのないものをとか。それはBARKSの連載コラムも一緒ですけど(笑)。

──精度を高めて、とことん作り込むわけですね(笑)。

フルカワ:それが自分を動きにくくしちゃうんです(笑)。だから、アルバムに入れることは狙ってたんですけど、“アルバムには入れない”って自分をだまして、角度の低いアニメのタイアップっていうモチベーションでつくったのがこの曲。

──面倒くさい(笑)。

フルカワ:そう、面倒くさいんです(笑)。話が、わけ分かんないでしょ。

──ということは、リード曲としてミュージックビデオも制作されてますけど、「サバク」がアルバムの核となった楽曲ではないと?

フルカワ:違うんです。ずいぶんキャッチーな楽曲に仕上げられたのは、そういう理由なんです。あるスイッチをOFFって、あるスイッチをONにしてつくった結果、インディー時代のパンクっぽい曲が書けたという。今の自分の哲学とモチベーションを全開でつくると、どうしても“今のフルカワユタカであるべき”というものしかつくれなくなっちゃう。こだわっちゃうから。

──インディー時代とは違って、今は技も引き出しもたくさんありますからね。

フルカワ:そう。そういうものから突き抜けたかった。ドーパンが田上(修太郎:FRONTIER BACKYARD)さんにプロデュースしてもらう前、インディーで2〜3枚リリースしているんですけど、なんだったら、その時代のフルカワユタカだなって個人的には思うんですよ。そういう曲が書けてよかったと思うのは、“今のフルカワユタカじゃなきゃ”って思わなかったからで、一方で、それが今のフルカワユタカだったりもするんですよ。

──だから面倒くさいんですって(笑)。

フルカワ:ははは(笑)。当初は「サバク」でミュージックビデオを制作するっていう話はなかったんです。だけど、マネージャーが結構気に入ってくれて、そこは客観的な意見を尊重して撮ったんです。そうしたら今は、カワイイ曲の上位になっちゃいましたね(笑)。作品ってそういうもんなんですよ。

──とはいえ歌詞は、先ほどおっしゃった“絶望から前を向いていくフルカワさん自身の過程”みたいなものが感じられますが。

フルカワ:歌詞はですね、アニメのタイアップ用だったので簡単なあらすじを頭に入れつつ、それっぽく書いたんですよ。ところが、自分の中にある気持ちしか書けないので、必要以上に赤裸々になっているということに、アルバムに収録するとき初めて気づくんです(笑)。だから歌詞も作曲と同じで、アルバム用に書かなきゃと思っていたら、ここまで分かりやすい言葉でここまで自分の気持ちを書いたかな?って。

──ノンフィクションですよね?

フルカワ:そうですね。思えば、こういうストレートな歌詞は書いてこなかったんですよ。ある種、僕にしては子供っぽいというか、伝わりやすいストーリーと文体にはなっているんですけど、案外恥ずかしさはないんです。時間をかけて真剣に書いた歌詞でもあるので。たとえば、「too young to die」(※『emotion』収録曲)は“倒れたけど、また立ち上がる”内容の歌詞で、ギターリフから始まるパンクチューンという意味では、一見「サバク」と似ているんですね。だけど全然違っていて、そこにリアルに作品をつくる面白さを感じたというか。「too young to die」が思いっきり自分のことを歌っているのに対して、「サバク」は“君”という客観的な目線で歌ってる。「too young to die」は表現に照れがあるから、サビが英語だったり回りくどい書き方をしているけど、「サバク」は全編日本語の直接的な表現で、客観的だからより具体的。「too young to die」は怒りとか苛立ちとか、フルカワユタカが得意としていたネガティヴエンジンがあるけど、「サバク」はネガティヴエンジンが薄くてこっちのほうがナチュラルに前を向いているんですよ。

──絶望も孤独も知った人間だからこその強さというか。

フルカワ:そう、自分の弱さ………ちょっと! 僕、かつてこんなに歌詞を解説したことはないですよ(笑)!

──ははははは! 確かに(笑)。

フルカワ:これもコラムを書いてるせいです!

──この3年間の変化が、自然とインタビューにも表れてるということで。

フルカワ:ははは。そう、僕はこの1年、特に言葉と向き合ってきちゃったんですよ(笑)。でね、「サバク」は本当にそういうことで、自分の弱さが悪かったんだって、自分に反省ができている。苛立ちではないんです。だから、「too young to die」も「サバク」もパンクだし、テーマは“立ち上がる系”のものなんですけど、両者は決定的に違う。不思議ですよね。

──サウンド的な肌触りも違いますよ。

フルカワ:「too young to die」がダウンピッキングでコードを弾き狂っているのに対して、「サバク」はちょっと跳ねを強調したリズムだったり、テンションコードを使ってるから、似てるようで違いますね。この2曲をライブでどう使っていこうかなっていうのは、今から楽しみで。両方ともオープニングっぽい曲ですから。

──資料によると「next to you」もインデーズ時代のドーパンを彷彿とさせるキャッチーなパンクということですが。

フルカワ:それを意識して書きました。楽曲としてはコード進行に工夫を凝らして。たとえばBメロは、7thコードの響きを活かしているけどパンクでしょ。それこそ田上さんとやってた頃のパンクチューンは7thコードを入れてたりしてるんですね。昔の渋谷系……っていうとダサくなっちゃいますけど、7thを歪ませるっていうのがあの時代のひとつのセオリーみたいなところがあって。でも、the band apartとかDOPING PANDAみたいに採り入れることが出来てるバンドはそうそういなかった。しかも僕らとバンアパは、ちょっと違う使い方をしていてね。その“売り”みたいなものを思い出しながら、狙いながら書いた曲だったので、インディー時代のドーパンっていう形容をしています。

──さらに言うと、これ、パンクというにはあまりにもギターソロの速弾きがエグイんですが。

フルカワ:もうね、これは弾きましたよ。こういう硬いピッキングであのテンポで弾ける人って、実はあんまりいないでしょ。コンプレッサーを掛けて、薄くディレイを掛けて、レクチファイヤーとかよく歪むアンプでっていうカタチだったら、それこそ髪の長い人がYouTubeとかにいっぱい動画を上げてますけど。ブラウンサウンド(※エディ・ヴァン・ヘイレンのギターサウンド)っていうと言い過ぎかもしれないですけど、アンプ直でオルタネイトピッキングの音まで聞こえるような速弾きは、ヌーノ・ベッテンコートとかポール・ギルバートみたいに、ちゃんとリストで弾かないとこうはならないですから。どこぞの音楽学校の先生みたいに、サラサラっと撫でるように弾いても絶対こういう音は出ない。弾けるんだから弾いちゃえと、ちょっと強引な展開でしたけどね(笑)。

──ほんの数小節にギタリスト・フルカワユタカの真価を垣間見せるあたりが心憎くもあります。

フルカワ:ははは。僕はギタリストですからね(笑)。

◆インタビュー(3)へ
◆インタビュー(1)へ戻る
この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス