【インタビュー】中島卓偉、「我が子に捧げる PUNK SONG」はミュージシャン人生の転換点

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BARKSで連載を続けている「中島卓偉の勝手に城マニア」も気付けば50回を超え、濃密すぎる高熱量なアーカイブがすっかり出来上がっている。最新のコラムでは自らを「城のコラム屋のおっさん」と自嘲気味に語りながらも、軽快なノリで城にまつわる思いを折り重ねている中島卓偉だが、「中島卓偉の勝手に城マニア」を面白いと思って読み続けている人であれば、あのコラムにこそ、彼が持つ本能的なロックンロールの息吹が渦巻いていることにお気付きなのではないか。

◆中島卓偉 画像

彼の書く文章のテンポが心地よいのは、文の流れと句読点が実に音楽的だからだ。呼吸をするように文字が流れ、非常にメロディアスな緩急が、読み手の呼吸とシンクロさせてしまう。ちょこちょこ笑いを挟むのは単に彼のキャラだけれど、それさえも違った景色を映し新鮮な空気を流し込む、まさにブリッジの作用を果たしている。いかにも優秀なミュージシャンが紡ぐ文章だなあ、と感服する思いと、他人からの評価や意見には一切惑わされず、溢れる思いをぶちまけていくというそのスタイル自体、見事に彼の音楽人生とシンクロする。

非常に才能あふれる豊かな音楽脳を携えた、天賦の才:中島卓偉による最新作品は、我が息子に歌ったニューシングル「我が子に捧げる PUNK SONG」だ。そのリリースをきっかけに、中島卓偉にコンタクト、久しぶりにじっくり話を訊いた。彼の発言の端々から、人生をかけた音楽家の生き方と、優れたミュージシャンシップの一端が確認できることだろう。

   ◆   ◆   ◆

■こういう曲は何回も出せないから、書いてるときから最初で最後みたいな気持ちがありました。



──「中島卓偉の勝手に城マニア」コラム、いつも楽しんでいます。素晴らしいですね。

中島卓偉:ほんとですか?(笑)

──誰にも頼まれていないのに、勝手に掘り下げている感じが。

中島卓偉:あはは(笑)、ありがとうございます。ああいう場を作っていただけることはなかなかないので本当に感謝しています。スタートするとき、「ギャグと音楽論と歴史と城をうまく摺り合わせて、めちゃくちゃな感じでいい」って言われて「ほんと、むちゃくちゃやるよ?」って言いながら、もう50回を超えました。

──頼まれたものではなく、自ら追求する行為から生まれるパワーって、ものすごく大きいですよね。

中島卓偉:そうですね。僕は中学校を卒業して高校を受験せずに東京に出てきたんですけど、そのときと似てるかもしれないですね。誰も期待してないし見送りにも来ない…誰もミュージシャンになれると思ってないところから始まって、親父の勘当も受けてね、「見返してやろう」っていう気持ち…そのときのパワーっていうのがあるんです。当時のその感じと似ているかもしれないですよね。だからロックな気持ちで書いてますよ。

──文章が持つリズムの良さは、まさしく呼吸でしょう?ミュージシャンが書くコラムって、こうあってほしいと思います。

中島卓偉:嬉しいです。読書も好きなんですけど、読みやすい人ってやっぱりいるんですよね。そのとおりには書けなくても、城や歴史の濃いところに、音楽ネタを無理矢理混ぜるところに自分らしさを見いだせればいいな、って思ってたんで良かったです。

▲「我が子に捧げる PUNK SONG」

──そんな中島卓偉の最新作が「我が子に捧げる PUNK SONG」なわけですが。

中島卓偉:今、30代最後のアルバムを作っていまして、これはアルバムの中のアッパーな曲の1つだったんですけど、スタッフが「この曲がいい」ということで、シングル候補になったんです。でも自分なりにギャップを感じて「これ、シングルになるの?」って。

──ヒットを狙った作りじゃないですよね。

中島卓偉:ほんとそう。もっとポップな曲もありますし「こっちの方がシングルにはいいんじゃねえの?」とか(笑)。

──かなりハードな作品ですから。

中島卓偉:そもそも自分のせがれに対して歌っている曲だったんですけど、これまで結婚とか子どもがいるとかは公表せずに生きてきたので、歌詞も直球ではなかったんです。「誰が誰に歌っている歌なのかわからないって、イマイチ説得力に欠けるな」とは思っていたんですけど、もう少し詞を明確にしたほうがいいということもあって、何回も何回も書き直す中で「我が子に捧げたい」というストレートなフレーズを入れることになった。

──そもそもスタッフがこの曲に惹かれた理由は、何だと思いますか?

中島卓偉:これだけアップテンポなのに魂の感じとか、シャウトしてる感じとか…客観視するのはなかなか難しいんですけどね。CDが売れなくなって、今ふと思うのは、1960年代から1990年代までは“売れる曲を書くフォーマット”が10年単位であったような気がするんです。今は、そのフォーマットがいい意味でなくなってきている。特に、海外で売れている音楽なんてよっぽどルールがなくなっている気がします。「こういうポップなメロディー」とか「ここで転調したら…」というフォーマットがなくなった代わりに、「よく説明できないけどパワー感がある」とか「新しい感じがする」とか、「よくわかんないけど引っかかるんだよね」とか、そういう曲しか残っていかないような気がします。

──なるほど。

中島卓偉:まわりのスタッフは、僕ほど音楽理論を分かっている人たちではないですけど、そういうミュージシャン理論とかじゃないところで「何か、これがいい」と思ってもらえるものがあったのかな。自己分析するのは難しいですけど、そういう風に感じてます。

──ジャケットは筆文字ですね。

中島卓偉:はい。これはこういうイメージでした。曲だけでいえば、デジタルチックな1970年代のディスコチックなデザインもありなんですけど、詞の世界は縦書きのイメージだったので、ジャケットも字で訴えかけるパワー感があったほうがいいかなって。

──自ら書いた文字ですよね?

中島卓偉:はい。習字なんて小学校以来ですよね(笑)。いかんせん漢字書けないんで、何回か書き直させていただいたりして(笑)。でも綺麗に書こうとしちゃダメですね。ガッといった、何も考えずにいった書き方のほうが良かった。音楽とかも全てそうかもしれないですね。フォーマットとか理論で考えすぎると突拍子もないことは起きないというか。

──習字って、書き直し不可の一発勝負でしょう?音楽でいうとライブですよね。

中島卓偉:そうですね、やり直しがきかない、まさしくライブ感が一緒ですね。ひとつ書き終えるまではその紙でやらなきゃいけないっていうのはライブと似てます。

──こういう曲が生まれた背景に、自分のどんな変化があると思いますか?

中島卓偉:これまでも自分らしさは出してきたとは思うんですけど、自分の人生観や過去の思い出を描くようになったのは、30代になってからです。歌うものに対して「自分が感動していないと、人になんか伝わらない」という持論があるんですけど、歳を重ねるとティーンエイジャーの頃に比べたら、感動できなくなるんですよね。今まで見たことのない景色に子供が感動するように、花一輪見ても僕らもそう思ったはずなんですけど、色んなものを見て経験し目も肥えてくると、感動できるものを探すことが難しくなってくる。でも、感動を歌にしなきゃステージに立つ人間として説得力がない。その中でも感動を探していくと、結果こういうところに行き着いたんだろうな、って感じです。

──親の立場になって見聞きすると、今まで気付かなかったものが見えてきたりしますか?

中島卓偉:10代の時にわからなかった歌詞が、30代、40歳手前になって急に響いてきたりすることもあります。洋楽の訳されている歌詞を読んでも思いますし、それが年齢を重ねるっていうことだと思うし、自分が変わってきたってことかな。

──この曲の歌詞は「息子へのメッセージ」ですが、本当は自分が父親から言われたかった言葉だったのかもしれない、って言っていましたよね。

中島卓偉:親が子に対して「お前が決めたことなんだから、好きなようにやっていきなさい」って100人中100人言えるのか、ちょっと怪しいですよね。自分もそう言える大人になっていないといけないなと思いますし、「愛されて育った」っていう自覚が持てるように育ててあげないと社会がよくならないと思うんです。どこか愛が足りない、愛された感覚がないから悪いことをしてしまうっていうか、法に触れることをしてしまうときに親の顔が見えないっていうか。

──振り向いて欲しくて悪いことをやってしまうのは、ヘルプ信号だったりもします。

中島卓偉:気づいて欲しくてやるみたいな。子どもに未来を与えるために、今の社会と親がしなきゃいけない責任感を感じて書いた詞ではあります。簡単なことは言えないから何回も書き直したし、自分も考え抜かなきゃいけないって思っていました。変な責任感で。

──「子どもを育てる」と言いますが、親が子供に育てられる側面もたくさんありますからね。

中島卓偉:教えられること、多々ありますよね。その通りだと思います。

──これから生まれる作品にも影響を与えそうですね。

中島卓偉:ただ、こういう曲は何回も出せないから、書いてるときから最初で最後みたいな気持ちがありました。こんなアップテンポな曲がシングルになるのも最後だと思いますし(笑)。これから書く詞の世界観には、父親になったから書ける詞や、今だから書けるっていうのもあると思うし、独身時代とか20代で書いていた気持ちとは全然違うなって思います。元々ラブソングも書いてこなかったんですけど、この曲はラブソングだと思っているので、後にも先にもターニングポイントですね。

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