大貫妙子「好きな映画音楽10曲」/【連載】トベタ・バジュンのミュージック・コンシェルジュ

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音楽家/プロデューサーのトベタ・バジュンが毎回素敵なコンシェルジュをお迎えし、オススメの10曲のプレイリストを紹介していく当コーナー、13回目のコンシェルジュとして登場したのは、3月15日にライブDVD『TAEKO ONUKI symphonic concert 2016』を発表したばかりの大貫妙子だ。

大貫妙子は2016年にデビュー40周年プロジェクトとして記念ボックス『パラレルワールド』を発表、それに続く第2弾企画として2016年12月に東京芸術劇場にて千住明の編曲、指揮で東京ニューシティ管弦楽団、フェビアン・レザ・パネ(Pf)、林立夫(Dr)、小倉博和(G)、鈴木正人(B)を演奏に加えたスペシャルな編成で初となるシンフォニックコンサートを開催した。『TAEKO ONUKI symphonic concert 2016』は、東京1会場のみで開催されたこのコンサートの模様を収録したDVDに、当日の演目から抜粋したライブCDを特典ディスクとして同梱している作品となる。今回はそんな大貫妙子に「好きな映画音楽10曲」をセレクトしてもらった。

●大貫妙子「好きな映画音楽10曲」

(1)ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ
(2)おもいでの夏
(3)バグダッド・カフェ
(4)ボディーガード
(5)男と女
(6)シェルブールの雨傘
(7)赤と青のブルース
(8)リトル・ブッダ
(9)黄昏
(10)マディソン郡の橋


――去年リリースされた『パラレルワールド』の意味を考えていました。大貫さんは常に、世の中の流れの水面下にしか興味がないというようなことを、よくおっしゃっていたので。

大貫妙子:目に見える色々なことが、けっこうな速さで流れているのは物騒で、騒々しいと感じるので。

――サイレント・マジョリティー的な意味もあるのかなと思ったんですけど。

大貫妙子:個人の選択が集団となってひとつの流れを作ってしまうというのが、怖いので。別の選択をするならば、パラレルワールドという別の扉もある。それならやっぱり「もうひとつの扉を開けてみるべきじゃないの?」っていう気持ちがあるので。引き返せなくなる前に。

――『パラレルワールド』を聴いて、今の世の中も音楽シーンも思わぬ方向にいっていることに感づかされたような気がしたんです。大貫さんのサウンドに音楽の本質/向かうべき方向が示唆されていたにも関わらず、そこが見失われているんじゃないかという印象がありまして。

大貫妙子:最近の音楽シーンをあまり知らないので。WOWOWとかで、若いバンドの方々が何万人もの前でやっているのを観ると「こんなことになっていたんだ」というほど、知らないことが多いです。「これは音楽なんだろうか…?」と思うことはありますけど。というか、スポーツ観戦みたいだなと(笑)。

――それに対峙しているわけでも、追っているわけでもないと思いますが。

大貫妙子:昔から「もっともっと売り上げてアリーナみたいなところで聴かせたい」という気持ちは全くなかったわけで。山下(達郎)くんも、何万人も来るはずなのに未だに絶対ホールでしかやらないでしょう?そういうことなんだと思います。

――去年の大貫さんのオーケストラのコンサート、今年もやってほしいです。

大貫妙子:できるといいですね。まだやりたい曲はありますし。

――やりたい曲ってどういう作品ですか?

大貫妙子:海外録音も含め、弦の入った作品はまだまだありますし。坂本さんにもたくさんアレンジしていただきましたから。そういう楽曲がコンサートで再現できるとは思っていませんでしたから。このチャンスをいただけたことにとても感謝しています。

――今まで積み重ねてきたものを、さらに積み重ねていくということですね。

大貫妙子:できる限り丁寧に一歩一歩、という気持ちです。もう1枚くらいCDを出すために今年は曲を書こうかなって思っていますけど。

――バンド形式で新アルバムを?


大貫妙子:今のメンバーがとてもいいんです。彼らもそれをよく分かってるので。一緒にほぼ15年やってきてるんですけど、この前のBillboard Live Tourもとても良くて。それはメンバーの共通の思いです。

――私もライブ観に行きました。日本のトップ・オブ・トップのミュージシャンですからね。

大貫妙子:だからと言って全体がいい感じになることってなかなかないんですよね。信頼と尊敬と喜びと修正と成長と、って…(笑)。そういった関係性をお互いが大事に大事に育てようと思うと時間は掛かりますよね。

――教授とのオーケストラも聴いてみたいです。

大貫妙子:今回「どなたとやりますか?」って聞かれたとき、初めに坂本さんのことを思いましたけれど。ご自身のアルバムを制作中でしたし、指揮は大変な体力消耗ですし。それに恐れ多くて頼めないです(笑)。だから、というわけではなく。千住(明)さんは31年越しの知り合いで、折々で彼のコンサートでも歌わせていただいていましたから。

――最後の「Shall we Dance?」も含めて、すごい華やかできれいでした。

大貫妙子:ありがとうございます。

――でも去年のセットリストには、教授の「Tango」が入ってましたね。


大貫妙子:「Tango」はもはや、自分の曲のようにいつも歌っているので(笑)

――大貫さんは映画を観なくてもサントラを聴くくらい、サントラ音楽が好きだとか。

大貫妙子:そうですね。最近は、あまり買いたいサントラがないですけど。

――映画音楽自体が好きだったんですか?

大貫妙子:はい、大好きです。

――10選の中で、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」…これは(エンニオ・)モリコーネのやつですよね?

大貫妙子:モリコーネの『ミッション』も好きですが、西部劇もある。モリコーネのサントラは全部聴いていますが、今の気分はこれですかね。

――『バグダッド・カフェ』で好きな曲は、「Calling you」ですか?

大貫妙子:ジェベッタ・スティールの「Calling you」。運転してるときにたまたまラジオで初めて聴いて、それで映画を観たんです。「一体これがどういう映像で流れているんだろう」と。『バグダッド・カフェ』って変わったタイトルだなと思ったら、赤茶けた砂漠の地味なコーヒー店の話だった。いい映画でしたよね。

――ロードムービーの感じですごくいいですよね。

大貫妙子:この曲をカバーしている人はいろいろいますが、やっぱり彼女なんですよね。何とも言えない切なさが。私ね、ベット・ミドラー、好きなんですよね。「The Rose」大好き。絶対、来日しない方ですよね。高すぎて呼べないとか、そんな極東には興味ないとか、色々言われていますけれど(笑)。映画『シャイン』も良かった。そのあとラフマニノフ(「ピアノ協奏曲第3番」)にはまってしまいましたから。

――『ボディガード』は、どの曲ですか?

大貫妙子:「Run To You」。彼女(ホイットニー・ヒューストン)、歌が上手!彼女が歌ってるときの映像を見たときがあって、額から玉のような汗がぶわっと噴き出してくるのを見たときの、その集中力の凄さ。体調が悪かったのかもしれないけど…歌に対する向かい方がすごい。

――『シェルブールの雨傘』もオープニングがすごいおしゃれですよね。傘を上から撮って。

大貫妙子:そうですね~。でも、私はラストの、雪の降りしきるガソリンスタンドでの再会のシーンがいちばん印象深いです。それとは別に「男と女」のLPはカバー違いで3~4枚持ってます。この中にニコール・クロワジールとピエール・バルーが歌った「あらがえないもの」っていう曲があるんですけど、以前コンサートでピエール・バルーとデュエットしたんですよ。先日、小さなライブをしたんですが、その時、ピエールが私の曲に書いてくれた歌詞を、久しぶりにフランス語で歌いました。天国の彼へ届くようにと。

――豪華ですね。


大貫妙子:(高橋)幸宏さんや加藤和彦さんや慶一さんとか、彼のことを好きな日本のミュージシャンたちが、「ピエール・バルーをこのままにしちゃいけない」って、彼のためのコンサートをひらいたことがあって、その時のことを時々思い出します。ピエール・バルーが亡くなったのは、去年の12月28日ですが、その数年前に渋谷の小さなライヴハウスで、ピエールと「あらがえないもの」を一緒に歌ったのが最後でした。『男と女』は低予算で作られて、浜辺で抱き合ってぐるぐる回るシーンがあるでしょう。手持ちのカメラだったんですよね。

――色褪せないですよね。

大貫妙子:お金掛けすぎるのどうなの?デジタルは目が疲れます。映画も写真も音楽も、デジタルになってから、なんでもできる分、色っぽくなくなりましたよね。と、私は個人的に思います。全ては皮膚感覚だと思うんです。デジタルに囲まれていると乾燥肌になる感じです。

――最近のハリウッド映画とか観ないんですか?

大貫妙子:最近の映画は、めっきり観なくなりました。東京に住んでいないので近くに映画館がないし。空いている時間に、あっ映画行こう!っていうチャンスがなくなったのがなくて。もっと観たいんですけどね。

――坂本さんの『レヴェナント』とか観てないですか?

大貫妙子:WOWOWで2度観ました。ちょうど忙しい時期で映画館に行けなかった。坂本さんが「『レヴェナント』の音楽をやるって聞いたので、坂本さんに「レオさま!」ってハートマークを送ったら、「えっ!ディカプリオ好きなの?」って返事がきて(笑)、だから「なんで?」って送っときました(笑)。強烈な映画でしたよね。何かのインタビューで坂本さんが、映画音楽は主張しすぎてはいけない(正確ではないですが)というようなことをおしゃっていて、まさにそういう音でしたが、でもその音がなかったら息が詰まって観られない映画でした。制作過程の話はまだ聞いていませんが、音楽が凍てつく極限の物語を救っていたと思うし、監督はそれをよくわかっている方だと思いましたね。機会があれば是非、聞いてみたいです。あの映画だからこそ。雪の白と森の黒とモノクロのような映像の中に鮮烈に血の赤が目に焼きつく。もし他の音楽(音)がついていたら、ただの殺人ですよね。それが生への意味と繋がって見えるのは、音楽の力だと思います。

――好きなんですね。

大貫妙子:レオさまですか?(笑)好きって…彼が出る映画の役としてしか見ていないですけど、主演に魅力がなければ途中で見るのやめちゃうでしょう。そういう意味です。あとジョニー・デップ。『パイレーツ・オブ・カリビアン』ではどこがいいか全然分かんなかったんです。けど、なんでそんなに人気があるんだろうと思って、過去の4~5作品を観たら「なにこの人!」って(笑)。キャラクターが全部違う、のにさすがだなと。役者としてすごいですね。

――そうですね、素顔が見えない感じですよね。

大貫妙子:マリー・ラフォレとジャック・イジュランの「赤と青のブルース」も好きですね。避暑地南仏のサントロペ。1960年代の青春バカンス映画ですが。レコード棚のLPコレクションの中には、イタリアとかフランスの女優さんのものがたくさんあります。歌も表現もうまい。

――そして、このデイヴ・グルーシンの「黄昏」。

大貫妙子:この映画大好きです。ヘンリー・フォンダとキャサリン・ヘプバーン。人生の黄昏を迎えた老夫婦とその娘。実際のヘンリーフォンダとジェーンフォンダが出ているんですが、実際に親子の確執があった中での共演であったという。別荘の湖畔の風景も素晴らしい。つがいの鴨が印象的な映像。デイヴ・グルーシンは映画音楽をたくさん手がけていらっしゃいますが、その中でも「ON GOLDEN POND」がいちばん好きな曲です。


――10選の中で、日本人は教授だけですね。

大貫妙子:すみません(笑)。

――日本映画はあまり観ませんか?

大貫妙子:あまり…。小津安二郎さん、溝口健二さんは観ています。

――宮崎駿アニメとか久石譲さんとかも?

大貫妙子:アニメはちょっと。さすがに宮崎駿作品は観なければと思って、観た中では、原発の…。

――『風の谷のナウシカ』?

大貫妙子:そう、それが一番好きだった。でも、宮崎駿さんの存在はとても心の支えになっていて。最近も、養老孟司さんと宮崎駿さんの対談本「虫眼とアニメ」を読んでいました。宮崎さんが出る制作過程のドキュメンタリーやインタビューは必ず見てますね。このままでいいのか、と思う気持ちを発信し続けてくれていますし。私にとっては数少ない正しいと思う大人の存在です。

――10選に戻りまして『マディソン郡の橋』…イーストウッドのやつですよね。

大貫妙子:クリント・イーストウッド。彼自身、曲も書きますよね。いいですよね。

――僕もそう思います。

大貫妙子:これは本で読んでも涙してしまいましたが。田舎で暮らす女性と自由を身につけた男性カメラマンの4日間のラヴストーリー。胸を打たれた場面は、「人生でやっと巡り会えた人と、もう二度と会うことが叶わない」と思う、彼女の中にある張り裂けそうな気持ち。それでも旦那を捨てていくことができないという思い。諦めるシーン。旦那が運転している横にメリル・ストリープがいて、その先に街を出て行く彼の車のピコンピコンってウィンカーがね、もう泣いて泣いて前が見えないってくらいだった(笑)。張り裂けるような気持ちで「なんて人生ってつらいんだろう」って。それだけでもこの映画は素晴らしい。実に大人の映画です。壁ドンっとか笑っちゃう、コンニャロメですよねホント。

インタビュー:トベタ・バジュン


大貫妙子『TAEKO ONUKI symphonic concert 2016』

2017年3月15日リリース
DVD+特典CD PCBP-53161 6,000円(本体)+税
DVD
・Overture
・黒のクレール
・夏に恋する女たち
・突然の贈りもの
・RAIN
・哀しみの足音
・Voyage 光のカーニバル
・アフリカ動物パズル~メイン・テーマ
・ピーターラビットとわたし
・金色の翼
・Tema Purissima 幻惑
・TANGO
・グランプリ
・RENDEZ-VOUS
・Shall We Dance?
・全17曲 約106分収録予定
特典CD
・Overture
・黒のクレール
・夏に恋する女たち
・突然の贈りもの
・RAIN
・哀しみの足音
・ピーターラビットとわたし
・Tema Purissima
・幻惑
・TANGO
・グランプリ
・RENDEZ-VOUS
・Shall We Dance?
全13曲収録


大貫妙子『TAEKO ONUKI meets AKIRA SENJU~Symphonic Concert 2016』

2016年12月21日リリース
CD PCCA.04442 2,593円(本体)+税
1,Overture(instrumental)
作曲:大貫妙子/ 編曲:千住 明
2,光のカーニバル
作詞・作曲: 大貫妙子/編曲:千住 明
3,アフリカ動物パズル~メイン・テーマ(instrumental)
作曲:大貫妙子/ 編曲:千住 明
4,突然の贈りもの
作詞・作曲 :大貫妙子 /編曲: フェビアン・レザ・パネ
5,足音の翼
作詞:大貫妙子/作曲・編曲 :千住 明
6,Voyage
作詞:大貫妙子/作曲・編曲:千住 明

大貫妙子ソロデビュー40周年BOX『パラレルワールド』
2016年7月6日リリース
LP+CD2+DVD+絵本 PCBP.62212 \12,000(本体)+税
DISC1『Best of my songs』
40年間の楽曲の中から大貫妙子自身が選曲したオールタイムベスト(初市販)
1.船出(One Fine Day '05)
2.LULU(LUCY '97)
3.Happy-go-Lucky(LUCY '97)
4.snow(note '02)
5.Volcano(LUCY '97)
6.空へ(LUCY '97)
7.東京日和(ピアノヴァージョン)(ひまわり '97)
8.虹(note '02)
9.Jacques-Henri Lartigue(コパン '85)
10.色彩都市(Cliche '82)
11.宇宙みつけた(カイエ '84)
12.ぼくの叔父さん(A Slice o f Life '87)
13.カイエⅠ(カイエ '84)
14.L'ecume des jours~うたかたの日々(ensemble '00)
15.RENDEZ-VOUS(ensemble '00)
16.Time To Go(One Fine Day '05)
17.Kiss The Dream(ATTRACTION '99)
18.3びきのくま(UTAU '10)
DISC2『大貫妙子 with 山弦& Re-recording Songs』
山弦とのコラボレーションに新録を加えたアコースティック・アルバム 新録曲3曲収録
1.あなたを思うと
2.Hello, Goodbye
3.シアワセを探して
4.Forever Friends
5.東京オアシス
6.自由時間
DVD
みんなのうたより全4曲、未発売NHKスタジオライヴ全10曲、最新インタビュー収録
・NHKみんなのうたより、「みずうみ」('83)「メトロポリタン美術館」('84)「コロは屋根のうえ」('86)「金のまきば」('03)収録
・1988年8月26日放送 「サマーナイトミュージック」1988年NHK総合テレビ放送 未発売スタジオライヴ
1.Tema Purissima
2.雨の夜明け
3.Rain Dance
4.夏の朝に開くパレット(バイオリンソロ)
5.横顔
6.Voce e Bossanova
7.Cavaliere Servente
8.恋人とは・・・(ピアノソロ)
9.黒のクレール
10.突然の贈りもの 映像提供:NHK/NHKエンタープライズ
・大貫妙子インタビュー 2016.6.7
絵本
『金のまきば』 文:大貫妙子 絵:坂井治

◆大貫妙子オフィシャルサイト
◆【連載】トベタ・バジュンのミュージック・コンシェルジュまとめ
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