「出演者ラインナップの理想と現実」フジロックのブッキング論

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■金曜日のチケットが売り切れるようになったら日本は安泰(笑)

▲THE PALACE OF WONDER

ジェームス:毎年、新人が初来日としてフジロックに出るので、それも楽しみ。

石飛:フジロックのお客さんって、ちゃんと予習してくる人もいるし、逆に未知との遭遇を楽しみに来る人もいますから。

ジェームス:そういう楽しみ方もいいですよね。何も調べないで会場に行って「これいいね」ってしばらく過ごす。

──贅沢な楽しみ方ですよね。一流のコックによる各国料理バイキングを、好きな時に好きなだけ食べるようなもので。一方で、ブラックミュージックを筆頭に、日本と海外では人気の格差が大きいアーティストっていますよね。海外フェスでは、フランク・オーシャンやケンドリック・ラマーがヘッドライナーだったりするわけで、そこに温度差は感じますか?

ジェームス:確かに一言で言えば、「世界ではロックの時代は終わった」と言えると思います。アメリカに行くと、ラジオからロックは流れず完全にブラックミュージックで、自然にそういうアーティストがフェスのヘッドライナーになってくる。確かに世界とのズレがあるなとは感じますよね。2013年のフジロックにケンドリック・ラマーが出ましたけど、それ以降、実は毎年話をしているんです。でも、世界で大きな存在になった分フジロックの出演が厳しくなっていった。アーティストとしては、日本でももっと大ブレイクしたいと思っていても、アメリカの音楽マーケットがとてつもなく大きいので、優先順位が下がりますよね。海外ではアリーナツアー規模なのに日本ではスタジオコースト単発…なんてなると、どうやってギャップを埋めていいかわからない(笑)。向こうは2〜3万人、こっちは3千人。

──しかもギャラは同じで。

ジェームス:大変ですよね。でもそういうギャップが生じるときに、紹介する場のひとつにフジロックがあると思います。特に現代は、いきなり大ブレイクできる時代で、1000人規模のクラブから2万人規模のアリーナまで半年で上り詰めることができる時代ですから、早い段階で来日して日本のファンの前に登場して、世界ブレイクとシンクロして日本での人気も進むことが理想ですよね。そうやってこちらのマーケットも同時に発展していくといい。

──ケンドリック・ラマーも、また来てくれるといいですね。

ジェームス:僕もそう思います(笑)。今年はラグンボーン・マンが出ます。「ヒューマン」でいきなり大ヒットして、その結果としてデビュー・アルバムも向こうではあり得ない数字でした(過去10年間における男性ソロアーティストのデビュー・アルバムUK初週最高セールスを記録し、全英チャート初登場1位を獲得)。発売から最初の一週間はエド・シーランの数字を上まった。そういうタイミングでフジロックに来てくれることは嬉しいですよ。すぐに海外の状況と同じレベルに、とまではいかなくても、早い段階でフジロックで彼を上手く見せてリレーションシップの基本を作りたいです。

▲RAG'N'BONE MAN

──ちなみに、今年の出演者で大きな話題になっているオザケンは、日高さんがオファーされたんですか?

石飛:いや、ブッキングチームからですね。でも、日高と向き合って話して「出ます」となりました。今回の出演は、どちらかが強く言い出したというものではないんです。余談ですけど、この雑多な部屋(SMASHのB1打ち合わせスペース)が気に入ったということでした(笑)。

──ミュージック・ステーションでいきなり本人の口から出演を発表していましたね。びっくりしました。

石飛:そうですね。まぁ、それも含めてオザケンという(笑)。

▲小沢健二

──その後、コーネリアスの出演が発表された際はファンをドキッとさせましたね。つい先日には、去年開催直前でキャンセルになったアヴァランチーズのリベンジ出演、リアル・エステートやレキシの初出演も発表されました。今後の追加アーティスト発表も楽しみです。

石飛:ここ数年、ROOKIE A GO-GO出身で頑張っているアーティストが増えていて、去年はSuchmos、今年はThe fin.とYogee New Wavesが、代表格としてはサンボマスターとくるりが出てくれます。加えて前年のROOKIE出演者から投票で選ばれた1組がメインステージに出演できるという企画もあるんですよ。

──ルーカス・グラハムも出るんですね。

ジェームス:2016年8月に単独公演を予定していたんですけどキャンセルになってしまったので、その代わりにフジロックに来てもらう形です。

▲LUKAS GRAHAM

──レモン・ツイッグスも楽しみです。

ジェームス:個人的にはマギー・ロジャースの初来日も楽しみ。かわいくて言葉では説明できないような歌声の持ち主で、性格もかわいいので日本人はすごく気になると思いますよ。今年は、これまでより女性のパフォーマーが多いですね。……今は何がメインストリームの音楽で、何がカウンターカルチャーなのかも、変わりましたよね。振り返れば、多分フジロックが生まれた頃に、カウンター音楽って終わったと思います。ロックは、メインストリームに対する反応としてのカウンターカルチャーでしたけど、今はもうそういう状況ではない。それは文化的な変化ですし、“ポップス”というものもダサくなくなった。例えばロードは簡単に言えばポップス・アーティストだけど、勿論決してダサくなんてなくて素晴らしいアーティスト。自分で曲を作り歌声も素晴らしい。何と言うか、最先端のポップスもあるんですね。

▲MAGGIE ROGERS

──フジロックの未来は、どのようになっていくと描いていますか?

ジェームス:やっぱり、進化しながらですよね。

石飛:その進化の礎となるのは、自由です。プレミアムフライデーも始まったことなので、ぜひ自由に休みをとって3日間来ていただきたいです。そこが20年やってきた中での一番の壁で、なかなか破れない(笑)。もちろんたくさんのお客さんが来てくれていますけど、金曜日のチケットが売り切れるようになったら日本は安泰だと思います(笑)。

──プレミアムフライデーの導入は、日本も社会的に進歩していることの証でしょうか。

石飛:現実は盛り上がってないけどね(笑)。月末の金曜日だからこそ忙しいんだよ…ってね。でも、そういう日本になれば…、フジロックがそのきっかけになればいいなぁと思っています。

取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也

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<FUJI ROCK FESTIVAL'17>

2017年7月28日(金)29日(土)30日(日) 新潟県 湯沢町 苗場スキー場
9:00 開場/11:00 開演/23:00 終演予定
※中学生以下は保護者同伴に限り入場無料
■総合問い合わせ/オフィシャルサイト:http://www.fujirockfestival.com

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