【レポート】<シンセの大学 vol.2>、「EDMは8ビートロックと似ている」

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レクチャー前半は、EDMの曲構成解析に多くの時間が費やされたが、休憩を挟んでの後半は、いよいよEDMで用いられるシンセについて、深く掘り下げた内容へ。その中で今回の目玉は、Shinnosuke氏が自身のBIG ROOM系曲のDAWデータを公開しながら、EDMの音楽構造や音色の重ね方を解説する“独自レシピ”のレクチャーだ。

最初に取り上げられたのが、SINGOMAKERS社製のサウンド素材集「EDM 2017」。いわゆる“コンストラクション・キット”とよばれるもので、DAWに取り込むだけで設定したBPMと同期する、EDMに最適なドロップ・シンセやドラム・フィル、ボーカル・ループが収録された“ネタ集”だ。

その解説中、Shinnosuke氏が「EDMは、だいたいBPM=128くらいが多い」と紹介すると、藤井氏は、すかさず「YMOの1stアルバムも、全曲BPMは128なんです。当時、STARS ON 45(注:人気アーティストのメドレーを試みる音楽プロジェクト)のように、同じBPMでディスコ・アレンジするのが流行っていて。約40年前のYMOと今のEDMが、実は同じBPMなんですね」と、人間が踊りやすいテンポは、今も昔もそれほど大きくは変わっていないという、とても興味深いトークに発展していった。


そして、ここからがいよいよ本題。コンストラクション・キットの素材をアップルLogic Pro Xに取り込み、Shinnosuke氏がこの日のために作った2曲をプレイバックしながら、次のようなトラックメイキングのノウハウを伝授。

・EDM定番の、ピッチが上がっていくライザーを使うことで高揚感が増し、まるで楽曲全体でフィルターを開いていくように感じられる
・MIDIデータのピッチベンドのように、オーディオ素材に対しても、ピッチシフト系のプラグインを使えば、オートメーションで、ピッチの上昇/下降を演出できる
・同様の手法で、スネア連打のピッチを上げていくと、ビルドアップが作れる
・オランダのDJ、Nicky Romeroが共同開発したCableguys社のプラグイン「KICKSTART」などでサイドチェインをかけてベースをうねらせると、グルーヴが強調され、曲全体が今風のEDMっぽっくなる

さらに、クラップひとつとっても、少し硬めの音をオクターブで重ねるなど、音色をわずかに変えた音を重ねることでリズムを強調できると語り、「このジャンルは、ユニゾンが多くて、ひとつのMIDIデータ(フレーズ)を使い、ソフト・シンセをいくつも立ち上げて、違う音色でパワー感を出すということが、EDMの特長」(Shinnosuke氏)と、トラックメイキングのポイントを語った。



   ◆   ◆   ◆

Shinnosuke:BIG ROOM系は、“頭打ち”のリズムが特長なんです。キックの4つ打ちだけでなく、クラップや、あとライド・シンバルの4つ打ちも多い。これが、ハウスなどの場合だと、ハイハットなどが16分音符で入っていて、それがちょっとハネたりしてグルーヴを作るんですけど、このジャンルに関しては、「すべて頭打ちにしてください」といっても過言ではありません。そこにあまり細かいリズムを入れると、「何か違う」ということになる。つまり、リフを活かすシンプルな4つ打ちのパワー感を、ユニゾンさせることで、より強力にしているんでしょうね。
藤井:昔はキックの4つ打ちだったものが、BIG ROOM系は、すべてが4つ打ちになっているという点は、大きなポイントですね。
Shinnosuke:日本人は盆踊りの文化だから、“頭打ち”は分かりやすい、受け入れられやすいんですよ。でも、黒人音楽の文化は、裏の細かいリズムが好きだから、逆にBIG ROOM系のグルーヴは新鮮だったんじゃないでしょうか。EDMって、そもそもヨーロッパのダンス・ミュージックが、商業的にアメリカで広まったものだから、グルーヴの“裏と表”は、すごく大きなポイントなんです。
藤井:確かに、黒人の人たちって、細かいリズムじゃなきゃイヤだっていう面がありますよね。元々、西アフリカの民族音楽って、16分音符と8分3連符が混ざったりした、すごく細かなポリリズム。そういった中で、コール&レスポンスしながら音楽を作っていくことが彼らの“普通”だから、2/4拍が強調されるロックのリズムは、全然違う文化なわけですね。
Shinnosuke:BIG ROOMには、2/4拍でスネアも入りませんし。
藤井:だから、前半に「EDMは8ビートロックに近い」という話をしたけれど、スネアに関しては、まったく違うわけですね。ロックは2/4拍が必ず強調される音楽ですから。
Shinnosuke:その代わりに、4小節とか8、16小節といった気持のいい区切りに、たまにヒュージ(注:深いリバーブのかかった効果音的なスネア)が入るんです。自然と、そこに入れたくなる。これを僕は、ロックで言うところの“ドラムのフィル”だと考えているんですよ。藤井:フィルの代わりに、必ずこういう効果音が入ってくる、と。そう言えば、ゴウホトダさんから、「8小節に1回、必ず何かをやるということを覚えて、リミックス・エンジニアとしてグレードを上げられた」という話を聞いたことがあって。それは、DJやリミックス・エンジニアとして、とても重要なことなんですね。


   ◆   ◆   ◆

続いて、Shinnosuke氏が組んでいるユニット“boyz mart”が6月7日に配信リリースした楽曲「Dive Into Your Mind」のセッション・ファイルを公開。個々の音色/フレーズについて解説した後、そのボーカル・トラックを使って、EDM必須のボイスチョップの作成手順が、この場で披露された。

まず、Logic Pro Xに搭載されているピッチ補正プラグイン「Flex Pitch」を使い、ボーカル・トラックのロングトーン部分を使って、ピッチを解析。その結果、切り刻まれた波形の長さや音程をピアノロール画面でエディットしていくという基本的な手順に加え、さらに、Logic Pro X上でリージョンを選択した後、フェードイン/アウトを設定。そこで、「速度アップ/ダウン」の各パラメータを調整することで、ターンテーブルを回し始めたり、逆にゆっくりと止めた時のような、再生スピードを変えることでピッチが変わるといった効果を付加して、ボイスチョップをより印象的に聴かせるテクニックもレクチャーされた。

   ◆   ◆   ◆

藤井:EDMだと、曲作りとは別に、こういう作業にも時間がかかるんですね。
Shinnosuke:かかります。本来、こういう作業はエンジニアリングじゃないですか。今のトラックメイクは、かつての、曲を書いて、アレンジをしてもらって、譜面にして、演奏してもらうという作業とは違うので、難しいですよ。機材も扱えないといけないし。
藤井:だんだん、そういう時代になりましたね。
Shinnosuke:ただ、世界的に有名なHardwellは、14歳とか、すごく若い頃からそれをやっていて。若い子が、スマホに慣れているのと同じですよね。先にツールがある時代に生まれているから、(DAWが)当たり前の存在というか。
藤井:日本のボカロPの人たちも、14歳くらいから始めたという人が多いんですよ。親の古いパソコンをもらって、FL STUDIOを買って、それで自分は歌えないからボカロを使ったら、いつの間にか、CDが1,000枚売れちゃった、みたいな。日本だと、そういう人たちがEDMにはいかないで、ボカロPにいったんですね。
Shinnosuke:それこそ、日本でもオランダみたいに、もし街中でEDMがかかっていたら、ボカロPではなく、EDMにいったかもしれないですよね。
藤井:日本だと、宅録で作って、ニコニコ動画にアップして遊ぶのが主流だから。それが日本独特な傾向で、僕はいいなと思っています。

   ◆   ◆   ◆

そして、この日の最終トピックスは、Shinnosuke氏が作曲・編曲を手がけた最新作、7月12日発売の声優・畠中祐デビュー・シングルのカップリング曲「Starter」を本邦初公開。楽曲をかけながら、当初はハウス的なアレンジだったが、夏フェスをイメージして、方向性をEDMに変えたという秘話を明かし、ライドを頭打ちにしたりとディテールを語ってくれた。そのうえで、スペーシーなサウンドで始まり、プラック系音色が加わり、ビートを抜いたバラード風のAメロや、2サビ後の間奏でハープテンポにし、そこから大サビ、さらにビルドアップしていくというEDMに準じた構成の解説が行われ、この日のレクチャーは終了。最後に、Shinnosuke氏がプロデュースするunder prayerのミニ・ライブが行われ、第二回<シンセの大学>が終了した。




次回、<シンセの大学>第三回は、8月4日(金)に開催。これまでの“EDM研究”から視点を180度変えて“アーティスト研究”をスタート。その第一弾として、11年ぶりに新作がリリースされたCornelius『Mellow Waves』を徹底解析。ゲスト講師は、フリッパーズ・ギター『ヘッド博士と世界塔』以来、26年間におよび小山田圭吾氏とコラボレーションを続ける、プログラマー/エンジニア/プロデューサー美島豊明氏。“小山田圭吾の頭脳”と言っても過言はない美島氏により、当日は『Mellow Waves』から「あなたがいるなら」など数曲のDAWセッション・ファイルが公開され、世界に誇るワン・アンド・オンリーなサウンドの秘密を解明していく予定だ。

撮影・文◎布施雄一郎


■<シンセの大学>第三回

8月4日(金)Red Bull Studios Tokyoホール(5F)
18時開場/19時スタート
ゲスト:美島豊明
定員:50名
▼参加費
一般 2,000円
JSPA会員及び学生 無料(受付で会員証/学生証/ご案内メールを提示)
<シンセの大学>申込みページ http://www.jspa.gr.jp/usj/20170804/0003.html


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