2017年6月17日、電子楽器とコンピューターを活用した音楽制作の普及や教育に取り組むJSPA (日本シンセサイザー・プロフェッショナル・アーツ)が主催する第二回<シンセの大学>が開催された。

◆<シンセの大学 vol.2> 画像

JSPA理事である音楽プロデューサー藤井丈司氏がオーガナイズする<シンセの大学>は、昨今のシンセサイザーと、シンセサイザーで作られる音楽を深く知ろうという学びの場。こうしたコンセプトに、革新的な音楽とアートの創造をサポートする『Red Bull Studios Tokyo』が賛同し、<シンセの大学>が実現した。

2007年以降、かつて主流だったアナログ・シンセのモデリングから、ソフトウェアならではの機能と音色を持つソフト・シンセが続々と登場し、ダンス・ミュージックが画期的な進化を遂げていることに注目し、前回の第一回と今回の第二回は、EDMにスポットを当てたレクチャーが行われた。そして今回のゲストは、SOUL’d OUT時代からROCKとR&Bをリミックスしたグルーヴ溢れるトラックを作り続ける音楽プロデューサーShinnosuke氏。『EDMの現在・過去・未来II』として、EDMの大定番と言える“BIG ROOM”を中心に、音楽的な構成と音色面の深層が語られた。

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レクチャーの冒頭、Shinnosuke氏は、元々バンドや宅録をやりつつも、美術/デザイン方面を学んでおり、大学進学のタイミングで、本格的に音楽に取り組み始めたという意外な経歴が語られ、その後に、メイン・テーマであるEDMに関するトークが始まった。今回は、そのEDMの中でも中心的存在である、4つ打ちを基軸とした“BIG ROOM”が取り上げられた。

BIG ROOMとは、巨大EDMフェスなど、いわゆる“大バコ”でかけられるダンス・ミュージックのことで、まずShinnosuke氏が紹介したのは、その代表的存在であるDannic & Dyroだ。

「<EDC>という、ラスベガスで開催されるEDMフェスでの彼らのパフォーマンスを見ても、照明とかがとにかくカッコいい。エンタテインメントですよね。音楽自体は、ずっと同じリフが繰り返されていて、とにかく騒げる曲。たくさん人がいればいるほど楽しいというものです。これを家でひとり聴いても、カッコいいなとは思うかもしれないけど、多分、騒ぐことはない。やっぱり、場の雰囲気がすごく大事で、多くの人がイメージするEDMが、まさにこれと言えるでしょう」──Shinnosuke氏

こうして、実際に楽曲を聴きながら、「まず、静かなパートから始まって、だんだん盛り上がっていく部分を“ビルドアップ”と呼びますが、そこから、J-POPでいうところの“サビ”にいきます。でもEDMでは、それを“ドロップ”と呼んで、ドロップで攻撃的にいくパターンと、逆に盛り上げてからスコンと落とすパターンの2種類があるんです」(Shinnosuke氏)と、BIG ROOMの構成を解説。

次いで、14歳でDJになり、世界のトップDJに支持されるHardwellやMartin Garrix、Nicky Romeroの楽曲も聴きながら、藤井氏と以下のようなトークを展開した。


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Shinnosuke:Nicky Romero「Toulouse」のドロップで鳴っているシンセは、おそらくNative Instruments「Massive」。こういった、音色の強烈さだけで成立させられる力が強いですよね。これが日本人だと、コードを展開させたり、メロディっぽいものを乗せないといったことを、どうしても考えてしまう。
藤井:確かに、こういうワンコードというか、リフだけでやるインスト曲って、作ろうと思ってもなかなか作れませんよね。きっと日本人は、そこに快楽が持続しないんでしょうね。そうしたことを基にして、EDMの“歌モノ”ができていったんじゃないでしょうか。
Shinnosuke:ヒップホップって、元々は“ネタ”で構築していたじゃないですか。だから、ビートだけで、音はスカスカだった。それが、サンプリングのクリアランス問題が影響して、面倒だから“ネタ”ではなく、シンセを使うようになった。さらに、オケがトランシーになって、それとラップを重ねるのはOKなんだっていう時期がありました。そうすると、トランスのオケに対して、アメリカのグラミー賞アーティスト、Usherが歌ったり、David Guettaとかがフィーチャリングされる流れになっていったんだと。
藤井:なるほど。最初はインストだったものが、その上にラップを乗せるようになって、「だったら歌ってもいいじゃん」と、そうやって“歌モノ”に進化していったわけですね。

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そこで、ZeddやDavid Guettaの“歌モノ”EDMを視聴。するとShinnosuke氏は、「EDMは8ビートロックと似ている」と語り始めた。それは奇しくも、第一回<シンセの大学>での結論に通じる内容であった。

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Shinnosuke:僕の勝手な解釈ですけど、David Guetta「Titanium(feat. Sia)」も、ギターで作れる曲だと思っていて。Zeddの曲も、シンセを使っているからプラック・シンセ(注:弦をはじくようなアタック感の強い音色)で始まるけど、シンセを使わなかったらギターでも成り立つし、ドロップに入ったら、ディストーションを踏んでリフを弾けば、カッコいいロックになるんじゃないかと思っているんです。
藤井:ハーフ・ステップになるところは、8ビートロックでも、ドラムがハーフテンポで叩いたりしますよね。だから、音楽的な“出し入れ”の手法、基本フォーマットは似ていますね。
Shinnosuke:そうなんです。使っているのがシンセであって、曲の構築の仕方は、とても8ビートロックに近いんじゃないかと。
藤井:そう言えば、このレクチャーが始まる前に、「シンセで作っていないEDMがあるんですよ」って言ってましたよね?
Shinnosuke:Bruno Marsをフィーチャリングした、Mark Ronson「UpTown Funk!」です。これ、完全にファンクで、僕がやっているディスコ・バンドでカバーしても、ホーン・セクションがいるから、とても楽しいんです。ちゃんとビルドアップがあって、ライザー(注:徐々に上昇していき、盛り上げる効果を演出する音色)も入る。そして、ドロップで歌がない。そのドロップは、シンセでなく、ホーンでやってるんです。
藤井:そう考えると、EDMのフォーマットって、昔からあるファンクの作り方だということでもありますよね。全然、生楽器でもできる。ロックバンドでも、ファンクでも、EDMはできるんだ。
Shinnosuke:“E(エレクトリック)”ではなくなりますけどね(笑)。
藤井:この曲では、ボイスチョップも人力で人間がやっているし。第一回の<シンセの大学>で、ゲストの浅田祐介氏(音楽プロデューサー/作曲家)と、「これからEDMは、人間の力(生演奏)でやる方向と、人力からは完全に逸脱していく方向の2つに分かれていく」という結論になったんです。この曲は、完全に人力方向にいったEDMの例と言えますね。

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