【インタビュー】VALSHE、3rdアルバム完成「忘れるって何だっけ? 忘却曲線をなだらかに」

ポスト

■今までと違うのはリミッターを外したところ
■いろいろなものを許したという感じです

──ミュージックビデオはまるで映画のような作りでゴシックホラーのような世界観だなと思いました。楽曲と映像のアイディアは同時進行だったんですか?

VALSHE:ミュージックビデオは自分が考えた起承転結の物語の真ん中、“承”と“転”だけをくりぬいているんです。“起”と“結”に関しては今後わかっていくと思います。後からもう一度見ていただくと、映像の中に出てくる子供たちが何をしているのかわかった状態で楽しんでもらえると思います。VALSHEが持っている天秤の動きであったりも。


──ミュージックビデオShort ver.だと子供たちが禁じられた場所の中に入ってしまい、VALSHEさんが天秤に石を乗せている場面が映し出される。

VALSHE:いつも「あなたの解釈にお任せします」と言っていたのですが、今回は種明かしをライブツアーや今後出てくる作品で見せたいと思ってるんです。ミュージックビデオもヒントのひとつです。

──なるほど。いつの時代なんだろうというのも気になります。

VALSHE:時代設定的には未来です。1曲目の「エビングハウスの忘却曲」に出てくる語りにもヒントになるワードがたくさん散りばめられているんです。“3116年”という言葉が出てくるのですが、後になって「あの数字はこういうことだったのか」とか「あの言葉はこういう意味なんだ」ってわかると思います。でも、さっきお話したように物語のことを考えなくても、単純にカッコいいインストゥルメンタルとしても楽しんでいただけるんじゃないかと。

──確かに。やっぱりVALSHEさんの作品は凝っていますね。

VALSHE:ふふふ(微笑)。

──コンセプトを考えなくても聴けるものにしたかったということですが、個人的にはこのアルバムって聴き進めると曲がどんどん明るくなっていって、自分で決めて自分の生きたいように生きればいいんじゃない?というメッセージが浮かび上がってくる気がしたんです。

VALSHE:おっしゃる通り。物語を抜きにした自分の気持ち、発したいメッセージは1曲1曲に込めています。今までと違うのは自分のリミッターを外したところなんですね。例えば「ガランド」のようなピアノ1本で歌い上げる曲は今までやってこなかったし、「ツリーダイアグラム」は過去最も高いキーを使って歌っているんです。これまではその2音下がセーフラインだと自分で決めて曲を作っていたんですけど、枠組みをとっぱらったことが制作過程の中にたくさんあったんです。もともと友人だったdorikoさんに歌詞を2曲書いてもらったのもそのひとつ。彼の詞はもともと好きだったんですが、今までなら全曲自分で書いていたと思うんです。今回は誰かに託してどうなるかわからないことを楽しむというか。

──これまでの方法論を壊したアルバムでもあるんですね。

VALSHE:そうですね。この表現が合っているかわからないですけど、いろいろなものを許したという感じです。壊したり、新しいものを受け入れることが良い結果を生むかもしれないと思える=余裕が生まれたんだと思います。

──ジャンル的にもヴァリエーションに富んでいて、ビッグバンド風の「Chain Smoke」もあるし、ヒップホップテイストの「Show Me What You Got」にも驚きました。

VALSHE:「Show Me What You Got」は過去にリリースしたダンスナンバーとは一線を画す振り切った曲です。主にライブで得たことが反映されているんですけど、フルアルバムだから力を抜いて聴ける曲も作りたかったんですね。VALSHEのことだから、この曲にも重要で難解なメッセージが隠されていると思う人もいるかもしれないけど、これに限っては特にないんです(笑)。音と言葉を楽しんでほしい曲で“終電かも? まあいっか”っていう歌詞も実際にこの曲のプリプロをしている時に終電を逃したり……。

──“財布を失くす”っていうのは?

VALSHE:失くしたり、“スマホを壊す”っていうのも全部自分のことなんです(笑)。良いことも悪いことも全部さらけ出して、全員で騒ごうぜって感じの曲ですね。全部が全部難解すぎたら疲れるし、“これ、ノリがよくて好きなんだよね”っていう曲もあっていいんじゃないかと。

──VALSHEさんは構築型ですからね。

VALSHE:そうですね。あとは「ツリーダイアグラム」が最高キーなら「a light」という曲のAメロでは過去最も低い音で歌っています。ハモりやコーラスにすごくこだわった曲で、歌う心持ちや見える景色が違った曲ですね。これも重要な曲になったと思います。

──「a light」は歌詞も含めてとても癒される曲です。

VALSHE:本当は何の根拠もなく明るい曲も書いてみたいんですよ。何の棘もない“みんな幸せ”みたいなことも歌ってみたいけど、“みんな幸せ? んなわけない”って考えちゃって書けないんです。だけど、ファンだったり身近な人が弱っていたら“絶対、大丈夫”って根拠のないことを言ってあげたいって気持ちも本当で。ストレートに背中を押してあげられることが歌えないんだったら、何ができるんだろう?と思った時にせめて同じ場所で隣にいたい。そういう気持ちを託した曲なのでライブで想いが伝えられたらいいですね。

──そこから軽快な「コドモハザード」、「GREAT JOURNEY」に移行する流れも好きなんです。最後は民族音楽のテイストもある温かい曲で終わる。子供の時に描いていた夢、こうなっていきたいと思った記憶を忘れたくないという想いが感じられる。

VALSHE:そうですね。「コドモハザード」は“みんな子供に戻ろうぜ”っていう歌だったりするんですけど、“自分は昔、どういう大人になりたかったんだろう?”って、大人になった今、思い出せなかったり。でも、その頃の記憶をさかのぼってみるとまた違う景色が見えたり、気づけることがあって。外側を探したりしなくても自分の中にちゃんとあるはずなので、そういうことを伝えられたらいいなと思って書きました。

◆インタビュー(3)へ
◆インタビュー(1)へ戻る
この記事をポスト

この記事の関連情報