【音踊人 51】<xsprout. #1>レポート:8月15日、下北沢にて。(クドウアカネ)

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8月15日、午後6時。天気は雨。真夏だと言うのに肌寒い。しかし、下北の外れにあるライブハウスは始まる前から静かな熱気に包まれていた。「ぜひライブで見てみたい、多くの人に知って欲しいバンド」が集められた新人発掘イベント<xsprout.>。その記念すべき第一回目が、下北沢BASEMENT BARで開催された。

▲かたこと

イベントのトップバッターを飾ったのは湘南発の3ピースバンド「かたこと」。あどけなさの残る表情とは裏腹に、ボーカルの伸びやかで大人びた歌声が印象的だ。緊張の色が見えたのはほんの数秒で、次の瞬間には小さく息を吸い一曲目「さよなら十二星座」からライブはスタート。続けざまにアップテンポな「欠陥品」で会場の温度をどんどん上げ、「どんな日でも乗り越えていけるような旅の歌を」という言葉で始めた「Wonder Trip」ではメンバー全員が楽しそうな笑顔を観客に投げかける。まだ高校生(!)という若さと勢いで、トップバッターに相応しい熱いステージを見せつけた。

▲The Lump of Sugar

2番手は京都のThe Lump of Sugar。飄々と登場したかと思えば「ロールプレイングライフ」「アオリズム」を続けざまにプレイし会場の熱気を誘った。「自由に楽しみましょう!」というボーカル太田の声に合わせベース石津が跳び跳ね、ドラム上野が力強くリズムを刻むと、観客も負けじとクラップで盛り上げていく。「今の僕らをこの曲にぶつけます」と言って始めたとびきりポップなナンバー「Nowplaying」 ではコール&レスポンスで観客を楽しませた。

▲SUNNY CAR WASH

続いて登場したのはSUNNY CAR WASH。「それだけ」「ハッピーエンド」とショートチューンを続けざまにプレイすると、見た目からは想像できないパワフルで時に攻撃的なほどのステージで会場を一瞬にして「サニカー色」に染めた。爆発的なライブを繰り広げたかと思えば、MCではロックバンドらしからぬ控えめな「いけるか下北沢〜」に会場からはカワイイ!の声が。(あざとい、とはこのことを言うのだと実感した。確かにカワイイ)。「夢で逢えたら」「ティーンエイジブルース」をエモーショナルに歌い上げると、ラストソング「キルミー」では歌詞をなぞり「殺してくれ!」とシャウトし会場のボルテージを引き上げた。

▲ユアネス

雨音と切ないナレーションから始まったのはユアネス。それまでの3組とは打って変わり、内側に響くような静かな熱で会場を包み込んでいく。3曲目の「あの子が横に座る」では、ボーカル黒川の切なく響く歌声に叙情的なメロディーラインが重なり、まるで映画のワンシーンを切り取ったよう。MCではチャーミングな博多弁で会場を和ませつつ、ひとたび演奏が始まるとさっきまでのゆるやかな空気が嘘のように張りつめていく。最後に新アルバム「Ctrl+Z」から「Bathroom」を披露。観客に語りかけるように情感たっぷりに歌い上げ、濃密な40分は幕を閉じた。

▲Saucy Dog

そして大トリを飾ったのはSaucy Dog。待ってましたとばかりに会場から歓声が上がり、飛ぶ鳥を落とす勢いの彼らの人気の高さが伺える。ボーカル石原のエモーショナルな弾き語りから始まる「煙」、ライブでの人気曲「wake」を続けざまにプレイすると、会場中から次々と拳が上がり始めた。ドラムせとの柔らかなコーラスとは対照的に、感情をぶつけるように歌いギターを掻き鳴らす石原、そしてベース秋澤の力強くも繊細なサウンドはもはや貫禄すら感じさせ、トリたる所以を見せつけた。

MCでは「良い音楽に出会える場に、少しでも貢献したい」と笑うせとの言葉に石原と秋澤が目を合わせて微笑んでいる姿が印象的だった。「僕は弱くて惨めな人間です」「でも、それでいいと思う。弱さを克服するのではなく、外側からちゃんと見て、守ってあげられるように」と、自らの弱さを赤裸々に語る石原。「今日一のバラードを」という言葉から始まったラストソング「いつか」では、観客ひとりひとりと目を合わせ微笑みながら歌う姿にフロントマンとしての覚悟が見えるようだった。

この日、下北の外れにあるライブハウスに集ったバンドは全て、持ちうる感情すべてをこちら側にぶん投げてくるバンドばかりだった。それも、かなりの豪速球で。音源では伝わりきらない思いや熱情を、数十分の持ち時間で爆発させている。かっこいい、と一言で言ってしまうのはなんだか言葉が足りない気がしてならないけれど、それでも本当に、本当にかっこよかった。出ていたバンド、出ていたメンバー全員が想いをぶつけに来ているのだ、ということがひしひしと伝わってきた。

そして何より、フロアにいた観客全員がそれを全力で受け止めようとしていた。
一瞬も見逃すまいとステージを見つめ続け、笑ったり泣いたりするのだ。「良い音楽」は、きっとそこら中に転がっているのだと思う。私たちが知らない・気付かないだけで、本当は至るところにある。偶然だろうが必然だろうが見つけてしまえばこっちのものなのに、見つからずに誇りをかぶったままの「良い音楽」がきっとこの世には数えきれないくらいあるのだ。<xsprout.>は、その「良い音楽」を引っ張り出して、まだ彼らのことを知らない人たちのもとへと届けてくれる場所なのだと思う。

誰かの何かになりうる、もしかしたらその人の人生まるごと変えてしまうかもしれない出会いを作ってくれる場所なのだと、私はこの4時間の間に何度も思った。8月15日、午後22時。月明かりもない、どんよりとした下北沢が、なぜか少しだけ明るく見えた。

写真◎Viola Kam (V'z Twinkle)

<xsprout. #2>

日時:10月4日(水) OPEN 18:00 / START 18:30
会場:下北沢 ERA
出演:Calmine / STEPHENSMITH / yeti let you notice ...and more
チケット:前売り 2,000円(+1drink) / 当日 2,300円(+1drink)

◆HIP LAND MUSIC 新人発掘プロジェクト「xsprout.」オフィシャルサイト

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