【対談】SUGIZO x ATOLS、「宇宙の創生まで観せられたような感覚」

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■“赤”のイメージがありました
■溶岩が噴き出すような──ATOLS

──SUGIZOさんの楽曲制作の現場では常に映像が流れているのですが、ATOLSさんは楽曲制作のインスパイアとして、映像的なものは存在していますか?

ATOLS:僕の場合、比較的、実験映画だったりチェコのクレイ・アニメーションのようなものがイメージの元になっていたりする事が多いです。

SUGIZO:ATOLSさんの音楽を聴くと確かにそういう印象がありますね。僕の作品もそうだと思いますが、ATOLSさんの作品もヴィジュアルが見える音楽ですよね。視覚と聴覚が常に一体化している状況って、凄く重要なんですよね。曲を作っている時にその音の色が感覚的に見えている。そうなってくるとライヴ時の映像や照明のイメージまで、楽曲を作っている時に見えてくるんです。

──音と映像のイメージの整合性という事でいうと、SUGIZOさんがオリジナルを制作した際にイメージした映像と、ATOLSさんの映像イメージが果たして一致していたのか?という事に興味がありますが。

ATOLS:「IRA」のリミックスという宿題を頂いた際、“怒れる電子音楽”というコンセプトは事前に伺っていたせいもあるのと、ミニマルだけれども脱・構築的なビートが前面に出ている作品だったので、“赤”のイメージがありました。曲の後半部分でのSUGIZOさんのギター・パート部分は、溶岩が噴き出すような映像イメージを感じていたのを覚えています。溜まりに溜まった怒りが一気に溢れて地面を突き破って噴出するような。

SUGIZO:それは僕が「IRA」を制作していた時に感じていたイメージに物凄く近いですね。僕が“Misty”と呼んでいるギターの音色で、マグマがブワーっと噴き出すのをイメージしながら弾きました。「IRA」もそうですが、そもそもアルバム『音』は聴いた人が鼻歌で口ずさめるような具体的なモチーフとなるメロディーやリズムを提示したくなかったんです。そうしたキャッチーな要素を極力削りたかったので、メロディーと言える軸がわからない作りになっています。そうした曖昧で混沌とした事をやりたかった。


──なるほど。

SUGIZO:「IRA」はまさにその典型な楽曲。結果的に、曲を聴いた人はメロディー的なものを感じてくれるとは思いますが、そうした形になるようでならない。なっていないようでいて、ギリギリのところで音楽として成立している。そんな領域に持って行きたかった。では何故そうしたかったのか?……人は憤怒が湧き出してどうしようもない状況下に置かれた時、頭の中を整理して物事を判断する事など出来ないだろうし、それを無理やり整理してはいけないんですね。その混沌をああいう形で表現したかった。『音』の中で「禊」は他の曲に比べると唯一解り易いサイケデリック・トランスな作りになっていますけれどね。

ATOLS:あの曲は太鼓のような和物のテイストも感じましたが。

SUGIZO:サイケデリック・トランスって和楽器との相性が非常に良いジャンルだと思うんですよね。

──和楽器に限らず、民族音楽との相性は飛び抜けていいし、そうした作品が過去にも非常に多く残っています。

SUGIZO:ジャンベやディジュリドゥといった土着的な民族楽器の音やグルーヴとの相性は抜群ですね。「IRA」に関しても音の構造的にはサイケデリック・トランスではないんですけれど、結果的に存在感というか、聴いた人が別次元を体感するという意味においてはトランスという要素が含まれていると思っています。混沌としたサイケデリックがそこには存在している。そしてノイズと電子音の中にアラビアの笛“ナイ”を使用していたり、残念ながら先日亡くなってしまったORIGAのロシア民謡的歌声を使用しています。アラビアとロシアの大陸的な音楽要素とノイズと怒りという要素が渦巻いて出来上がっている作品なんです。そこに更にATOLSさんの技術が大いに盛り込まれて化学反応を起こしている。そうした意味でも「IRA」はリミックスまで辿り着く過程において、オリジナル楽曲を制作し始めた時点で、既に物凄く興味深いプロセスを踏んで出来上がっている作品なんですね。

ATOLS:ナイやORIGAさんの声も印象的だったのですが、SUGIZOさんが作られたハイハット等の細かい音のパーツも物凄くインスピレーションが湧く源になり、刺激を受けました。

SUGIZO:そうした僕が作った音の素材を「腐食させてください」という注文をしたんですよ。僕が作り上げた音をドロドロの状態に変容させてもらい、朽ち果て、現実と幻覚の狭間を行き来するような音楽を作りたかった。

ATOLS:「生き物っぽさも出してほしい」という注文も頂きましたね。

SUGIZO:「グルーヴは生き物でありたい」といつも思うので。楽器の存在も生き物でありたいと思っていますね。ビートは生き物で常に意思を持って変容していく、そういう様を感じたいんです。それが過程として腐っていく際の「音が痛がっている」感じを表現したかった。ナイとORIGAのヴォーカルと僕のノイズギターが三つ巴で空中戦を繰り広げているイメージでしょうか。

ATOLS:僕はその三つ巴に、煙がモクモクと立ち込めて雷が鳴っている中で、龍のような生き物がうごめいている、そういうイメージがあったんです。


──そうしたイメージが共有できている様子を見ると、SUGIZOさんから抽象的に出された「腐食させてください」「音が痛がっている」「生き物っぽさ」というようなお題は、悩まずにクリア出来た感じですか?

ATOLS:そうですね、SUGIZOさんが普段好んで触れている作品や観られている映画等の作品陣を僕自身も普段から観ていることが多いので、イメージのリンクやシンクロは起こりやすかったと思います。思考の共有は最初の段階から出来ていたように感じます。

──元々そうした思考感覚が近かったから、こうして繋がったんでしょう。出会うべくして出会ったアーティスト同士ですね。

SUGIZO:今回のリミックスでは、僕の楽曲がATOLSさんの手に渡った瞬間に、一気に宇宙の創生までを観せられたような感覚になりましたね。

ATOLS:そういうことで言うと、子供の頃から宇宙とか幾何学というものに常に興味があったんですよ。

SUGIZO:ATOLSさんはそうした領域でも全く僕と同じ感性なんですよね。宇宙、幾何学……それを理解した上での音楽。幼少期からそういった興味の元に音楽活動を志していたので。

──宇宙と幾何学という事でいうと、今回のリミックスアルバムにも参加しているUbartmar氏も、それらに則った音楽制作をされているアーティストですね。実は僕もSUGIZOさんも、ATOLSさんと初対面の時の印象が「Ubartmarの弟」というくらい同じ匂いを感じたんですよ(笑)。

SUGIZO:Ubartmarさんとの作業は遡るともう15年程前になるんですけれど、その頃から音楽を宇宙的、幾何学的な部分から組み上げていく制作過程に物凄く惹かれていたんですよね。僕のソロで作業を一緒にするアーティストの共通項はそこに在ることが殆どですね。

──電子音楽のクリエイターは音楽家としての資質以外に、科学者というかエンジニア的な資質も求められるように思います。

ATOLS:RICHARD DEVINEなんかもそういう気質で楽曲制作をしているような感じですよね。Warp系のアーティストはそうした職人気質の人が多い気がします。

SUGIZO:Autechre(オウテカ)なんかは正にそういうタイプですよね。技術者という印象です。

ATOLS:そうですよね。実は僕、Autechreが初来日したクラブチッタのイベントにも行った事があるんですよ。

SUGIZO:え~! それ僕も行ってましたよ。漆黒のチッタ。オールナイトで。音が素晴らしかったですよね。その時代その時代で物凄く尊敬するアーティストがいるんですけれど、共通して言えるのは生で聴いた時の音の密度、音の説得力、威圧力がハンパないんですよ。Autechreはまさにそういうアーティストの一人。そして、常にそうしたレベルが凄いなと尊敬しているのがSYSTEM 7。彼らの出してくるサウンドは常に素晴らしい。もう一人、僕が1990年代に最も素晴らしいと思ったのはDJ KRUSH。今、名前を挙げたアーティストの皆さんは例外なく、全員が他のアーティスト達とは全く音の質が違うんです。


ATOLS:そうした音の質って、他とどういう差があるんでしょう?

SUGIZO:それを昔、DJ KURUSHさんに訊いたのですが、「全然みんなとやっていることは変わらない」と言うんですよね。

ATOLS:大きな会場で演奏する事を前提にしたミックスをしているというのもあるのかもしれませんね。音数が何個も重なっている曲だと、小さな環境で聴く分には解らないのだけれど、大きな会場で聴くと音が重なってしまい倍音に聴こえてしまう事がある。飽和してしまうんですね。それらを計算してきちんとモニタリングしてミックスを完璧なものに仕上げているんじゃないでしょうか。

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