【対談】SUGIZO x ATOLS、「宇宙の創生まで観せられたような感覚」

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■むしろ日本人にしか出せないグルーヴを
■大切にしたほうがいい──SUGIZO

──音質の話題に移ったので伺いますが、今回のようにリミックス・アルバムとしてCDないしデジタル配信で楽曲を発表される際、それを手にするリスナー達の視聴環境や再生機器は百人百様ですよね。ライヴ会場で聴く環境とは明らかに異なる中で、どの辺りのレベルを基準にマスタリングやミックスをされているんでしょうか?

ATOLS:凄くいい質問だと思うのですが、アーティストによって取り組み方は全然違うと思うんです。特に、SUGIZOさんがどのように取り組んでいるのかをぜひ訊いてみたかった。

SUGIZO:ミックスに関わるアレンジにも影響することなんですが、僕の場合、主に大きく2種類のチェックをします。まず、いつも使用しているスタジオのラージスピーカーで超爆音で聴く。そうしたプロユース・スタジオのモニター環境で爆音で聴いて、低音の気持ちの良い部分がきちんと出ているか? 音の輪郭が出ているか? 音数が多すぎると飽和状態になってしまうので、まずそうした部分のチェックをします。それって普通の人はなかなか聴ける環境ではないし、音量をそこまで上げて聴く事もないんですけれど、そうやって聴いてMAXの体感をチェックするんです。

──もうひとつは?

SUGIZO:僕が最も気に入っていて、信頼しているヘッドホンを通しての確認。その際も爆音でチェックします。ヘッドホンで聴いた時の音のディテール、位置関係、音と音との隙間、そして先ほども言ったように、音が生命を宿しているかのような動きやうねりを感じられるのか? 音の粒子一粒一粒を全てヘッドホンで確認します。なので、それ以外の環境で聴く想定を無視したミックスになってしまっていますね。僕が良いと判断して世に出した音を安易な環境……たとえばBluetoothスピーカーなんかで聴いたのならば、低音なんかはモハモハな音になってしまっているんでしょうね。僕の場合は極端なのかもしれませんが、民生機器での再生に合わせるような配慮は完全に無視してしまっているのが現状です。

ATOLS:近年のダンスミュージック等は、iPhoneなんかで聴くと低音が聴こえていなかったり、同じ曲を大きなスピーカーで聴くと「なんでこんなに低音が効いてしまっているんだろう?」という音になっていたりしますね。


──ATOLSさん的にはSUGIZOさんの制作姿勢はどのように感じますか?

ATOLS:全くSUGIZOさんに同意見です。そういう事って時代と共に変化するものだし、何を基準に考えるかを配慮してもあまり意味がないことだと思っているんです。自身が気持ち良いと感じられる最高のミックスとマスタリングをするという事で良い。最近ではYouTubeやSpotifyなどは“ラウドネス規格”というのを設け始めていて、音のデシベル値をカットしたりする規制が始まっています。故に昨今は、インダストリアルな作品やドンシャリ系の音楽が廃れてきてしまっている感はありますね。そうした影響は、近年のPOPミュージックでもみてとれて、音数がだいぶ少なくなった印象も受けます。MIDを下げてヴォーカルを前に出すというような考え方なのでしょうけれど、ネット配信/ストリーミング配信というようなマーケットが主流になってきた現在の環境の中で、新たに音圧などの規定や基準のルールが出来てしまった。

──それらに配慮しながら、これまでやってきた音楽制作スキルをどのように当てはめていこうと?

ATOLS:まさに今、そうした事に向き合っている最中だったりします。そうした考え方も、去年と今年で微妙に変わってきているように、テクノロジーの進化/端末の進化と同時に、制作技術も逐一変わっているので、脳内もアップデートするように心がけていますね。それが果たして正解なのか?という疑問もあります。ただ、時代と共に変わるという事は、この先も逃れようのない事実として存在すると思います。

──これは活躍しているフィールドが何処なのか?という事によっても変わってくるのだと思いますが、今の話を伺った限りではSUGIZOさんは生の音をそのまま感じる事が出来るライヴ基準での音の作り方なのでしょう。ATOLSさんの場合は動画配信での活躍が主になっているような印象があるので、そうした場所での配信規定に則って制作せざるを得ない状態だという。

SUGIZO:そうですね。スマホのスピーカーやパソコンのスピーカーからの出音で僕の音の良し悪しを判断されても困っちゃいますね(苦笑)。

ATOLS:ニコ動はそうしたデシベル規定などはなく、自由に出来る環境なんですけれど、近年、世界的に音圧調和がスタンダードになってきている。なので、アメリカのヒットチャートを見ても、どれも同じような展開のものばかりが蔓延しているように感じます。そこで他と差をつけようと、ラウドネスをあげたりすると、YouTubeで再生された時に下の音が不自然にヘコんで聴こえるようなリミッターがかかってしまう。

──今ってそんな状況なんですね、知りませんでした。

ATOLS:そうした規制にアンチな姿勢を持っているアーティストさん達も少なくない。特にノイズやインダストリアル系の人達は、規制の無いバンドキャンプなどで自分たちの楽曲を配信したりしていますね。僕もそうした規制の無い環境での音楽活動が理想だと思っている反面、ヴォーカル曲などは規制が設けられているマーケットで、それを受け入れて活動しなければならない部分もあり、ジレンマを感じていたりもするんですよね。

SUGIZO:どちらが良い悪いではなく、発表する作品によってうまく使い分ければいいと思うんですよね。特にATOLSさんにはそれが出来ると思いますし、より多くの人に聴いてもらえるパソコン上での配信はどんどんやったほうがいい。先ほど「自分が良いと思った方法論と自分の再生環境だけを基準に他を切り捨てて制作している」という趣旨の発言をしましたが、それはあくまでもSUGIZOソロ作品の場合であって、LUNA SEAの楽曲に関しては一般的な層がどこで聴いても聴きやすいバランスは心がけていますからね。そうしたマス向けの作品は聴く層の需要に合わせていい。一方で、それに満足できないという人達、一定のこだわりをもって聴く人達も必ずいるわけで。近年のアナログレコードやカセットテープの再評価というのは、デジタル機器での利便性優先で配信される楽曲に、物足りなさを感じ取れる層による需要も往々にしてあるでしょうね。

ATOLS:最近は、「YouTubeで再生した場合、このような音になります」「iTuneで聴いた場合、こういう音質になります」というような、想定をシュミレーションしてくれるプラグインのソフトウェアも出始めていますからね。ラジオで放送された時にヴォーカルが聴き取れないようなミックスになっていたらマズイわけですし。


──音質を犠牲にしなければならないというようなデメリットが存在する一方で、より多くの人々に聴いてもらえるというメリットが、視聴環境や再生機器の変化と共にあるわけですよね。

SUGIZO:世界中の人々に聴いてもらえるチャンスが増えたわけです。そういう時代だからこそ、日本発信のアイデンティティは常に意識して活動するように心がけています。たとえば僕は、表に出てライヴ演奏する時はMade in JapanのギターESPを使用しますし、衣装も日本人デザイナーのものをできるだけ着用するよう心がけています。電子音楽の世界で言えば、日本製の機材を使っていないアーティストは皆無ではないか?と言えるほどハード面で日本は世界をリードしていますよね。

ATOLS:そうですね。YAMAHA、ROLAND、KORGといった機材は全て日本製ですからね。

SUGIZO:テクノや電子音楽を作る上ではドイツやイギリスを意識して憧れてしまいがちですが、そういうコンプレックスは不要なんですよ。勿論そうした海外のアーティストに影響を受けたり、彼らから学ぶ事は良い事ですが、真似する必要はない。むしろ日本人にしか出せないグルーヴを大切にしたほうがいいと感じています。僕自身も、そう思うようになったのは、JUNO REACTORのギタリストとして参加するようになってからなんですよ。サウスアフリカのメンバーから言われた一言で、それまで自分の中にあった洋楽に対するコンプレックスは無駄なものだということを悟ることが出来たんです。彼らは彼らで自分たちには出せない日本人ならではのグルーヴや感性をリスペクトしてくれていたことを知って。それぞれが自分にしか出せないパートを突き詰めればいい。それぞれの持ち味を生かしたグルーヴの化学反応によって、新しい音楽が生まれてくるんだと思います。

──これからのアーティストは技術面の向上だけでなく、そうした部分の意識の向上も重要になってきますね。

ATOLS:あとは、新しいものを追いかけるだけでなく、過去のものから学ぶというのも重要ですよね。こういうことを言うと怒られるかもしれませんが、個人的にはJ-POPのようなものではなく、伝統的な音楽のほうに興味があるんです。日本古来の和楽器だったり、日本独特の音階の使い方だったりを意識して楽曲に取り入れていたりしています。

──リミックス・アルバムに関する対談が、現代の楽曲配信や規制の話、日本人アーティストが楽曲制作をするにあたって大切にすべき感性の話など、予想を上回る貴重なトピック満載の対談になりました。

SUGIZO:凄くいい話が出来て、僕も楽しかったです。

取材・文◎KOTARO MANABE

■SUGIZOリミックスアルバム『SWITCHED–ON OTO』


2018年5月29日(火)発売
【通常盤:1CD(SHM-CD)】SPTC-1002 3,240円(tax in)
01. THE LAST IRA Remix by ATOLS
02. Neo Raummusik Remix by CLARK
03. VOICE of VOID Remix by Logic System
04. Replicant Decaying Remix by 藤井 麻輝(minus(-)/睡蓮)
05. Proxima Centauri b Remix by MaZDA a.k.a SiNE6
06. Lux Aeterna Rises Remix by RICHARD DEVINE
07. Lux Aeterna Dead Remix by K.U.R.O.
08. Room of Clocks Trance Remix by Ubartmar
09. PSY MISOGI Remix by SYSTEM 7
10. The Eternity Voyage Remix by HATAKEN
※リミキサー:SYSREM 7, Logic System, CLARK, RICHARD DEVINE, 藤井 麻輝(minus(-)/睡蓮), HATAKEN, Ubartmar, K.U.R.O., MaZDA a.k.a SiNE6 and ATOLS

■<SUGIZO TOUR 2018 Do Phoenixes Dream of Electronic Music?>


9月05日(水) 柏PALOOZA
Open 18:00 / Start 18:30
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888
9月07日(金) 名古屋ElectricLadyLand
Open 18:00 / Start 18:30
(問)サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
9月8日(土) OSAKA MUSE
Open 16:30 / Start 17:00
(問)キョードーインフォメーション 0570-200-888
9月11日(火) Zepp DiverCity
Open 17:30 / Start 18:30
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888
9月13日(木) 岡山IMAGE
Open 18:00 / Start 18:30
(問)夢番地岡山 086-231-3531
9月17日(月・祝) 石巻BLUE RESISTANCE
Open 16:30 / Start 17:00
(問)キョードー東北 022-217-7788
▼チケット
前売り7,500円(税込) ドリンク代別
※柏・名古屋・大阪・岡山・石巻:スタンディング
※東京:スタンディング/指定席
一般発売日:2018年8月4日(土)
【ファンクラブ先行受付】
受付期限:2018年6月11日(月)12:00〜7月2日(月)23:59
SUGIZOオフィシャルファンクラブ SOUL'S MATE
https://www.sugizo.com/login/info/index.html

■『SugizoTube Vol.3「LUNATIC FEST. 2018 SPECIAL」〜葉月、悠介(lynch.)生出演〜』

6月15日(金) 20:00〜21:30放送
出演:SUGIZO、葉月(lynch.)、悠介(lynch.)
MC:奥浜レイラ
Niconico http://live.nicovideo.jp/watch/lv313752393
YouTube https://youtube.com/SUGIZOofficial
※一部はNiconico「SugizoTube」会員限定放送となります。



■史上最狂のロックフェス第二弾<LUNATIC FEST. 2018>


2018年6月23日(土) 千葉・幕張メッセ
2018年6月24日(日) 千葉・幕張メッセ
OPEN 9:30 / START 11:00 / END 20:00 (予定) ※両日共通
▼23日(土)出演 ※LUNA SEAを除き50音順
LUNA SEA、ACE OF SPADES、GLIM SPANKY、GLAY、coldrain、シド、女王蜂、DIR EN GREY、back number、The BONEZ、LUNACY(Opening Act)
▼24日(日)出演 ※LUNA SEAを除き50音順
LUNA SEA 、AA=、大黒摩季、OLDCODEX、THE ORAL CIGARETTES、BRAHMAN、MUCC、LOUDNESS、lynch.、LUNACY(Opening Act) and more...
▼チケット
一般チケット料金:1日券 ¥15,500 (入場チケット¥15,000+ドリンク代¥500/税込)
各プレイガイド一般発売:6/2(土) AM10:00~
※特設サイトにてチケットオフィシャル最終先行受付中


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