【インタビュー】「あなたにとって、史上最もナイスな曲は?」ちわきまゆみ編

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「古今東西の名曲/名演奏を、いい音&爆音で聴こう」というイベント<いい音爆音アワー>がまもなく開催100回を迎えるにあたり、オフィシャルサイトでは「史上最もナイスな曲」がアンケート募集されている。

「あなたにとって、史上最もナイスな曲は?」と問われても、音楽好きであればこそ答えは簡単に絞れない。考えれば考えるほどに選択肢は広がり困惑は加速する。「シンプルなアンケートだけど、こんな難しいお題もないぞ」ということで、<いい音爆音アワー>主催者の福岡智彦氏へ話を問いたのが、先日公開したインタビュー記事「あなたにとって「史上最もナイスな曲」とは?」であり、今回ここで紹介するのが、アーティストへ「史上最もナイスな曲」を直撃質問したものだ。

そんなお題を投げつけられたのは、ミュージシャンでありDJでありラジオパーソナリティのちわきまゆみだ。福岡智彦氏とは親交の深いちわきまゆみだが、音楽のことをふたりできっちりと話す機会は意外にも少なかったという。1980年代より作品を多く輩出してきたアーティストが「史上最もナイスな曲」を選ぶと、どのようなラインナップになるのか?以下は、ちわきまゆみと福岡智彦によるほのぼの音楽トークである。

福岡智彦:ちゃんと話すのって、初めてですよね。

ちわきまゆみ:うーん、話したことはありますけど…

福岡智彦:深い話はしたことないですよね。

ちわきまゆみ:深くない話はすごくしましたね(笑)。

──今回「史上最もナイスな曲」というお題で10曲選んでいただきましたが、「子どもでもわかるギターがカッコいい10曲」というナイスなテーマが飛び出しましたね。

ちわきまゆみ:イベント<いい音爆音アワー>って、毎回テーマが細かいじゃないですか。

──「ナイスシンコペーション」とか「ナイスなアルペジオ」とか、ですね。

ちわきまゆみ:だから私も「ブレイクがカッコいい曲」とか思ったんですけど、それを10曲集める集中力がない(笑)。3曲くらいは浮かぶんだけど、ひとつの細かいテーマで10曲はもう無理。だから「子どもでもカッコいいと思うギターサウンド」っていう、投網的な大きなテーマになってしまってすいません、みたいな。

   ◆   ◆   ◆

「子どもでもわかるギターがカッコいい10曲」by ちわきまゆみ
1.A Hard Days Night / The Beatles
2.Telegram Sam / T.Rex
3.Hang On To Yourself / David Bowie
4.Action / SWEET
5.C'mon and Love Me(Alive!) / KISS
6.ELO Kiddies / Cheap Trick
7.Jet Boy / New York Dolls
8.ジョーン・ジェットの犬/Sherbets
9.スモーキン・ビリー/Thee Michelle Gun Elephant
10.バッチグー/吾妻光良&The Swinging Boppers

   ◆   ◆   ◆


福岡智彦:全部好きなバンドでしょ?

ちわきまゆみ:他にも好きなものは多岐に渡るんですけど、「すごくちわきまゆみっぽいね」って思ってもらえる、その基礎を。

福岡智彦:若い頃から好きだったもの?

ちわきまゆみ:そう。子どもの頃から好きだったルーツみたいな。「カッコいいもの」って女子や子どもに一番響くものなんじゃないかなって思うのね。QUEENも当時は女子がキャーキャーだったじゃないですか。男子は「こんなチャラチャラしたのは認めない」だったけど。

福岡智彦:ですよね。僕もQUEENとか全然認めてなかったもん。QUEEN、KISS、エアロスミスは、好きだっていうのが恥ずかしかった。

ちわきまゆみ:そうそう。ああいうのは女子や子どもの音楽で、男の子たちはレッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド…そういうムードだった。ツェッペリンはまだ好きだけど、男子と話合わないって思っていたんですよ(笑)。私は自分が女だし「女子や子どもの感性というものが、ヒットの鉱脈を見分ける凄い感性なんじゃないかな」って、今でも思っている部分があるの。

福岡智彦:昔は食わず嫌いだったけど、今はQUEEN大好き。QUEENはすごいですよね。音楽性とかテクニックとかいろんな面で見ても素晴らしい…言っちゃ悪いけど、KISSとか…ね。

ちわきまゆみ:いやいや、何をおっしゃいますか。

福岡智彦:個人的なあれですから。

──とか言いながら、今回のナイスな10曲にQUEENはいないですね。

ちわきまゆみ:そうですね(笑)。今回はギター・サウンドにしちゃったから、っていうのもあって。

──ちわきまゆみセレクションをみて、いかがですか?

福岡智彦:僕は楽器の中でエレキギターが一番好きだし、ギターがカッコいい曲ってたくさんありますけど、ひとつもかぶらない(笑)。かぶるとしたらT-REXくらいかな。

ちわきまゆみ:デヴィッド・ボウイは?ミック・ロンソンとか。

福岡智彦:デヴィッド・ボウイはこの曲じゃないなぁ。

ちわきまゆみ:なるほど。ミックじゃなくてカルロス・アロマー先生とか?

福岡智彦:実はあんまりデヴィッド・ボウイでギタリストを気にしたことがない。

ちわきまゆみ:そうなんですね。デヴィッド・ボウイは時代によって彼の嗅覚にあったギタリストをチョイスしてきたじゃないですか。ミック・ロンソン、その後のカルロス・アロマーとかピーター・フランプトンも面白いなって見てましたけど。

福岡智彦:スパッとギタリストを替えるからね、あの人。

ちわきまゆみ:そう。それがすごいなって思う。ギタリストだけじゃなくて、ヴィジュアルアートに関してもその波が去るとスパーンと興味がなくなっちゃうみたい。全部捨てて次の人へドッと興味が移り全霊で仕事をする人みたいですよね。

──今回デヴィッド・ボウイで「Hang On To Yourself」を選んだ理由は?

ちわきまゆみ:私が最初に聴いてカッコいいと思ったのがこれだったの。イントロのミック・ロンソンのカッティングが印象的で力強い。めっちゃザクザクしたギターでなよなよしてなくて、すごくカッコいいなって思ってます。


──今回の10曲はザ・ビートルズから始まっていますが…。

ちわきまゆみ:曲順は、私が影響を受けた順になっています。5歳の時に聴いたザ・ビートルズ「ハード・デイズ・ナイト」の♪ジャーンっていう、あのイントロが。

福岡智彦:イントロのギターがカッコいいってこと?

ちわきまゆみ:いや、全部カッコいいです。

福岡智彦:ザ・ビートルズで、なぜ「ハード・デイズ・ナイト」なんだろって思ったけど。

ちわきまゆみ:これは完全に思い出ですよね。


──福岡さんにとって、ザ・ビートルズでギターが一番かっこいい曲は何ですか?

福岡智彦:「I FEEL FINE」だな。

ちわきまゆみ:でもあれ、頭は♪ビョーンとかじゃん(笑)。

福岡智彦:その後のティンタンタタ…表現しにくいな(笑)。それよりね、ちょっと意外だったのは10曲目に入っている吾妻光良。

ちわきまゆみ:だって吾妻さんは日本の宝ですもん。

福岡智彦:そうだけど、Thee michelle gun elephantの次に吾妻光良って…。

ちわきまゆみ:でも大好き。曲も歌も。「バッチグー」のギターソロとか痺れますね。

──10曲中邦楽が3曲選ばれていますが、ここにはどんな思いが?

ちわきまゆみ:他にもいっぱいあるんですけど、日本のロックがようやく形作られて、芸能界ともJ-POPとも違うものとして定着している中で、ブランキー・ジェット・シティとthee michelle gun elephantは日本のバンドっていうものを純粋に作ったんじゃないかなと。浅井健一さんとアベフトシさん…このふたりのギタリストは欠かせないのではと思って。

──リスペクトの思いも入っているんですね。

福岡智彦:でもブランキーじゃなくてシャーベッツなんだね。

ちわきまゆみ:そこは現在進行形のもので。もちろんブランキーもカッコいいんですけど、こないだシャーベッツの20周年ライブを観てきたばかりだから。

福岡智彦:もう20周年?早いなあ。

ちわきまゆみ:そうなんですよ。時代は早いですよ。うかうかしてると死んじゃうよって感じ(笑)。

福岡智彦:ブランキーってどのくらい活動していたんだろ。

ちわきまゆみ:結構短いよね。ミッシェルにしてもブランキーにしてもバンドをやっていた時期って意外と短いのよ。

福岡智彦:昔のバンドも有名なわりに活動歴が短いんだよね。ザ・ビートルズだって8年だもん。サイモンとガーファンクルも6年。


──昔の洋楽にも詳しい福岡さんが「子どもでもわかるギターがカッコいい10曲」を選んだらどうなりますか?

福岡智彦:レッド・ツェッペリンが一番に出てくるかな…「Whole Lotta Love」とかね。

ちわきまゆみ:うんうん、カッコいいですね。

福岡智彦:「ギターがカッコいい」だから、ザ・ビートルズじゃなくてザ・ローリング・ストーンズ「Brown Sugar」とか「Jumping Jack Flash」とか、このあたりは絶対上位に出てくるかな。


──SWEETやKISS、チープ・トリックのようなキャッチーでポップな楽曲はいかがですか?

福岡智彦:僕だったらボストンかなぁ。あとイーグルス。

──「ギターがカッコいい」邦楽は?

福岡智彦:それが難しいよね。あんまり思い浮かばないよね。

ちわきまゆみ:えー、いるじゃん!charさんとか。

福岡智彦:charは好きですよ。でも、女子や子どもはわかんないでしょ?

ちわきまゆみ:「気絶するほど悩ましい」とか。

福岡智彦:でもギターって言うよりも歌の感じかなあ。

──ギターであれば、高中正義とかどうです?

福岡智彦:ならば山下達郎「Sparkle」とか、鈴木茂さんの『バンドワゴン』とか。「砂の女」(『バンドワゴン』収録)のギターとかめちゃくちゃカッコいい。

ちわきまゆみ:BOOWYもありますよ。布袋さんを忘れている。

福岡智彦:そうですね、BOOWYだ。「ONLY YOU」とか。


──では、ちわきさんがさらに10曲選ぶとしたら、今度はどんなテーマを掲げますか?

ちわきまゆみ:次はなんだろうな。ケイト・ブッシュとかマーク・アーモンドとかも好きで、新しいところだとゴールドフラップとか幻想的な方面も好きなので、ちょっとシアトリカルな「ギター鳴ってませんけどなにか?」みたいなのもいいですね。

福岡智彦:初めて触れる音楽の場合、どういうところに惹かれるんですか?

ちわきまゆみ:なんでしょう…音色なのかな。ギターでもドラムでも打ち込みだろうが生楽器だろうが、全体のアンサンブル感とか、わりとメロディよりも全体のグルーヴだったりサウンドとしての塊感かな。全体としてのインパクトっていうか。

──まだまだ出逢ったことのない音楽との初めての出会いって、今でもありますか?

ちわきまゆみ:ありますねえ。SpotifyとかApple Musicとか、昔よりもそういうものに触れる機会も多いじゃないですか。

──YouTubeもありますし。

ちわきまゆみ:要するにこっちからレコード屋さんとかに行って「わっ何これ、買う!」みたいなことをしなくても、いろんなものと出逢うチャンスがいっぱいありますよね。

福岡智彦:そうなんですよね。でもそのわりに音楽が売れない。

ちわきまゆみ:どういうことなんでしょう。

福岡智彦:簡単に手に入るから買おうと思わないよ。

ちわきまゆみ:音楽は売る物ではなくなってくるんですかね?

福岡智彦:そこが一番寂しいですよね。<いい音爆音アワー>を主催しているのは、録音芸術の再評価と復活を目指すためためなんです。ライブは売上が落ちてないし、グッズの売上は大きくなってるかもしれないけど、ライブよりも僕は録音物が好き。「いいものだから売れて、売れるからいいものが作れる」という良循環がなくなっちゃって、今はいいものが作れない悪循環に陥っちゃっている。

ちわきまゆみ:今回私が選んだ作品は、そんなにお金もかかっていないと思うんだけどカッコいいよね。レコーディングってすごい面白いし、エンジニアのアイディアの素晴らしさとか、あの芸術的な部分はなくなってほしくないですよね。こういう一発録りっぽいバンドでも、面白いことを考えてマイクを立て、アンプを選びどこに置くか、当時の英知を集結させて音を作っていったわけです。素晴らしいですよね。

福岡智彦:そうなんですよ。それを買わないっていうのは寂しいなと思う。それは「ちゃんと聴かないからじゃないの?」って思ったので、<いい音爆音アワー>みたいな場を作った。メロディと歌詞がわかればいいという環境ではなく、素晴らしい録音芸術をしっかりと堪能するという。

ちわきまゆみ:今は、便利で安価な時代だからね。

福岡智彦:薄く、便利。それも悪いことではないけれど、簡単に手に入るものはあんまり欲しいと思わない。そもそも、手かせ足かせがあっていいものが生まれるってあるじゃないですか。今はマルチトラックでいくらでも音を増やせるけど、昔は24chですませなきゃいけなかったから、「これ消すか…どうしよう」みたいなね。そういう苦労もないでしょう?無限になっちゃうと面白くない。

ちわきまゆみ:あれが楽しかったんですけどね。リミットがあることはクリエイティブを昇華させるから。これからはどうなるんでしょうね。

福岡智彦:コンサートみたいに、録音物もそれぞれ適切な値段がつけばいいかもしれないですけどね。アルバム一律3000円じゃなくて、これは1万円ですとかね。

ちわきまゆみ:今回はコストがかかったので…とか、今回は安くあがったとかね(笑)。


福岡智彦:それにしても、逆にコンサートって高すぎないですか?

ちわきまゆみ:そうですか?

福岡智彦:ポール・マッカートニーの国技館なんて3万8千円でしたよ。経費がかかるっていうのはわかるんだけど、でも商売としてどうなの?って思うわけ。映画なんて、どんなにお金がかかっても1,800円、僕はシニアだから1,100円で観られるんだから。

ちわきまゆみ:そうだね…どうして映画はそうなっているんだろう。

福岡智彦:でしょ?だからコンサートは、僕は基本的に取り過ぎだと思うわけ。だからチケットは3千円均一とかにして、そこから逆算してできることを考えないと「お金かかったから○万円です」とか、どうかって思うのよ。

ちわきまゆみ:3千円とかだったら全然いい。これはどういう想定ですか?

福岡智彦:CDが3千円というのも高いと思ってるんだけど、とりあえず録音物とコンサートは同じくらいにしたほうがいいんじゃないかって。落語とか2千円で観れるんですよ。

ちわきまゆみ:それで半日遊べますよね。昼の部、夜の部とか。

福岡智彦:自由劇場とかいろんな劇団とかも割とそのくらいの価格で観られる。お芝居は、それだけじゃ食っていけないからみんなアルバイトしてるじゃないですか。アルバイトして稽古を必死にしている。だから入場料は安い。音楽もそうするべきですよ。

ちわきまゆみ:そうか。じゃあテレビに出たらいっぱいギャラもらうとか。

福岡智彦:そうそう。

福岡智彦:お芝居って一言一句間違えられないじゃないですか。アドリブでやっちゃう人もいるかもしれないけど。でも音楽って、イントロ出だし失敗して「もっかいやります」とかあるでしょ?

ちわきまゆみ:ある。

福岡智彦:甘いわ。

ちわきまゆみ:ポール・マッカートニーがこないだそうだった。「あれ?」みたいになっちゃって「今のはなかったことに」って。ポールでもやり直しするんだって嬉しくなっちゃった。お客さんも喜んでましたよ。

福岡智彦:珍しいですね。

ちわきまゆみ:でもコンサートも、外タレのチケットが売れなくて日本に来ないことが多いんですよ。上海とか台湾とか韓国は行くのに、日本は結構スキップされているんですよ。それも悲しいなと思って。

福岡智彦:なるほど。

ちわきまゆみ:日本をすっ飛ばして、オーストラリア~韓国~中国を回って帰るみたいなことをされるので、私はそこに危機感を持っているの。チケットも高いけど、生で見せて欲しいなあってファンとして思っているので、洋楽マーケットが縮んでくると、そのうち全然来なくなっちゃう。

──…そろそろお酒が欲しくなってきましたね。

福岡智彦:そうですね。今日のところはこれくらいにしましょうか。

──話は尽きないですね。楽しい話をありがとうございました。

ちわきまゆみ:ありがとうございました。

取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也

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