【インタビュー】大橋ちっぽけ、メジャーデビュー「日本のポピュラー音楽の中心に届けたい」

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シンガーソングライターの“大橋ちっぽけ”が、メジャーデビュー作となる1stフルアルバム『ポピュラーの在り処』をリリースした。暗さや青さといった、10代の内省を繊細さと生々しさの宿ったサウンドに乗せて綴った前作ミニアルバム『僕と青』に比べて、「ルビー」や「テイクイットイージー」といった、より大きな“ポップス”としてのスケール感を宿した楽曲が目立つ本作は、10代で世に出た大橋ちっぽけというソングライターが、早くも“若さ”の鎧を脱ぎ捨て、“変化”の季節へと足を踏み入れたことを告げるような作品に仕上がっている。

しかし、彼の作家としての本質は変わらない。この『ポピュラーの在り処』に刻まれているのもまた、『僕と青』同様、どこまでもリアルな大橋ちっぽけ自身だ。「大人になろう」ともがき、「大人になれない」と嘆き、たまに背伸びをしながら、たまに過去を振り返りながら、“今”という瞬間を懸命に生きる二十歳の青年のリアルな心象。取り繕ったような純粋さも、欺瞞としての“大人”の姿も、ここにはない。ここにあるのは、変わらないでいるためには、変わり続けるしかない──そんな事実に真っ向から向き合う青年の、正直な生き様だ。実に誠実なシンガーソングライター・アルバムといえるだろう。本作のリリースを祝して、大橋ちっぽけにじっくりと話を聞いた。

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■ こんな言葉を待っている人はいるんじゃないか、って

── 去年、ミニアルバム『君と青』(2018年6月発売)がリリースされた際、「10代の“青い”感性を閉じ込めた最初で最後のミニアルバム」と、ご自身のコメントで評されていましたよね。だとすると、新作『ポピュラーの在り処』に閉じ込められているのは、どんな大橋さんだといえますか?

大橋ちっぽけ:そうですね……前作は、10代の頃の自分にあった「憂い」、「青さ」や「幼さ」といったものがテーマだったんですけど、今作には、それを覆すぐらいポップな曲が収録されていると思うんです。いまだに、自分のことを明るい人間だとは思えないんですけど(苦笑)、でも、前作を出したことで「自分は人に音楽を届けているんだ」っていう自覚が芽生えてきたし、上京して、ひとり暮らしも始めて、いろんな人たちと接していくなかで、「前向きな自分」とも向き合うようになって。より、いろんな自分を出していきたいと思えるようになったんですよね。ポップで可愛くてキャッチーな曲も作るし、自分には、そういう側面があることも知ってほしい。それで、「テイクイットイージー」のミュージックビデオでは、踊ってみたりもしたんです(笑)。

── 「テイクイットイージー」のMVは韓国で撮影されたんですよね。軽快に踊る大橋さんの姿が新鮮でした。


大橋:この曲も、根底にあるのは暗くて内向的な自分ではあるんです。でも、そんな自分がどんな言葉をもらったら嬉しいかな? 気持ちがラクになるかな? っていうことを考えて、歌詞は書いていて。僕自身、まだ二十歳だし、人間としての経験も、ミュージシャンとしての経験も浅いし、これから実力をもっとつけていかなければいけない……言ってしまえば、不十分な人間ではあるんです。今までは、その不十分さが不安だったし、その不安をそのまま曲に書いていたんですけど、「テイクイットイージー」では、根底にあるものは一緒でも視点が変わったなって思います。この歌詞で歌っている<君のセンスだけで それだけでいい>みたいな言葉を実際にもらったことがあったんです。そのとき、自分は嬉しかったし、だとしたら、こんな言葉を待っている人はいるんじゃないかな? と思って。

── それは、大橋さんにとっての音楽が、ご自身のリアルな心象を投影するものというよりは、「理想の自分」や「1歩先にいる自分」を描くものに変わった、ということでもあるんですかね?

大橋:あぁ……どうだろう。僕、本名は「大橋凜太郎」っていうんですけど、「大橋ちっぽけ」は、「大橋凜太郎」が「こういうことを言えたらいいな」って思うようなことを歌うアーティストになってきているっていうことなのかもしれないですね。

── 「凜太郎」さんは、どうして「ちっぽけ」さんになったんですか? いろんな場所で質問されているとは思うんですけど(笑)。

大橋:いえ(笑)。最初に音楽を始めたのが、ニコニコ動画に「歌ってみた」の動画を投稿し始めたのがきっかけだったんですけど、そのときに「Chippoke」っていう名前を使っていて。ちょっと謙遜というか、「歌い手」と呼ばれる人たちがたくさんいるなかで、目立ちたいけど、でもカッコつけていない名前がいいなと思って、この名前を付けたんです。それから名字を付けたら面白いなと思って、「大橋ちっぽけ」になって。それ以降、名前を変えるタイミングもないまま、ここまできました。



── そもそも、動画投稿を始めたのは何故だったのでしょう?

大橋:元々、音楽は親の車で流れているのを聴くくらいだったんですけど、小学6年生の頃、クラスの気になっていた女子が隣の席になったときに「歌ってみた」の存在を教えてくれて。自分でも興味が沸いたので調べてみたんです。そこでは、一般の人たちが歌を投稿することでネット上でカリスマ的な存在になっている様子を見て、憧れを持つようになって。中学校1年生の頃に、初めて動画を投稿しました。最初はボーカロイド曲を歌っていたんですけど、徐々にニコニコ生放送にも興味を持つようになって、ギター弾き語りでの生配信を始めて。そして、高校1年生の頃に初めて自分で曲を書きました。そのくらいから、「大橋ちっぽけ」という名前が「歌い手」としての名前から、アーティストネームに変わっていったような気がします。

── 大橋さんの歌は、一貫して「自分自身に向き合う」という姿勢が音や言葉になっていると思うんですけど、こうしたスタイルはいつごろから確立されたんですか?

大橋:最初に書いた曲が、16歳の頃に書いた「sixteen」という曲で。この曲はいまでも本名でYouTubeに上がっているんですけど、その頃から自分に向き合った歌詞でした。当時から「自分ありき」というか、自分の感覚が中心にありました。今回の作品では、そこにいろんな角度の視点が入ってきていると思うんですけど、初期は、ひたすらに自分のパーソナルな部分と向き合って書いていたような気がします。

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