【インタビュー】大橋ちっぽけ、メジャーデビュー「日本のポピュラー音楽の中心に届けたい」
■ 「ありそうでなかった」音楽を作れた感覚がある
── 「歌ってみた」の動画投稿から始まり、オリジナル曲を弾き語るというスタイルに変わっていく。そのなかで、ご自身が音楽をやる動機に変化はあったと思いますか?
大橋:どうだろう……。すごく自然な流れだったので、「これから、俺はアーティストとしてやっていくんだ!」みたいな衝動を得た特別なきっかけはなかったです。でも、2016年に<未確認フェスティバル>に出たことは大きかったですね。高校3年生のときに、「なにかが変わるかもしれないな」っていう漠然とした気持ちで、なんとなく応募してみたんですけど、結果的にセミファイナルまで行くことができて。地元の小さなライブバーでは見たことのないような数のお客さんの前でライブをして、歌を届けるっていうことを経験したことで、「自分はアーティストになってきているんだな」っていうことを実感しましたね。
── 「なにかが変わるかもしれない」というのは、当時の大橋さんはなにを変えたかったのでしょうか?
大橋:当時の自分は、「自分はきっと、アーティストとしてやっていけるんだ!」と思っていたんだと思います。「俺、こんなに曲書けるじゃん」と思っていたし、「いつか絶対にアーティストとしてデビューするんだろうな」って、心のどこかで思っていて。根拠のない自信だったんですけど。でも、<未確認フェスティバル>に出ることで、それが現実になるかもしれないって思ったんだと思います。部屋で、ひとりで「行けるぞ!」と思っているだけだったのが、本当に、音楽の世界に足を踏み入れていけるかもしれないっていう気持ちが、そのときに芽生えたというか。
── 部屋でひとり「行けるぞ!」と思っていた、その自信の根源って、一体なんだったのでしょうね? ネットの動画投稿が上手くいったからなのでしょうか。
大橋:いや、正直、僕は動画投稿の「歌い手」としてはまったく成功していなくて。フォロワーやコミュニティの人数も多くはなかったんです。それでも、「いまはまだ誰も気づいてないだけだ」って思っていたので、あくまで、自分に対する自信がすごく強かったんだと思いますね。音楽を作り始めた頃から、メロディを作るのが特に好きだったんです。「みんなの頭のなかに残るメロディって、どんなものなんだろう?」って、ギターを始める前から考えたりしていて。そういうなかで、自分の思い描いたメロディと、曲が組み合わさったときに、「いけるやん、これ!」みたいな感じがあったんですよね(笑)。いま思うと、おこがましいんですけど。でも、その頃は自分に対して才能を感じていたし、その変な自信のおかげで、ここまでやってくることができた気はするので、若かったけど間違ってはいなかったのかなって思います。あの頃よりも、今回のアルバムの方が不安なくらいです(笑)。
── 今作は、なにが不安なんですか?
大橋:前作のリード曲(「君と春」)は、アコースティックで、歌を聴かせるような曲だったんですけど、今回はもっと、自分の好きな洋楽から影響を受けた曲も多くて。実際、「テイクイットイージー」のMVに対する反響でも、前作から聴いてくれている人から「前と全然違う」みたいな声もあったんですよね。「こういうのは、大橋ちっぽけには求めていない」と言われてしまったらイヤだなっていう不安がありました。いまは、挑戦できてよかったなって思っていますけど。
── 実際、このアルバムは現行の海外ポップスからの影響が色濃く反映されているアルバムだなと、僕も感じました。具体的に、今作に反映されている大橋さんの好きな洋楽の志向性って、どの辺ですか?
大橋:僕、Galileo Galileiというバンドがすごく好きで、彼らがきっかけで洋楽を聴き始めたんです。なので、海外のインディーズロックの影響が強いんですけど、最近だとThe 1975がすごく好きなので、歌い方やアレンジという部分で参考にしたり、影響を受けている部分は大きいと思います。
── 『ポピュラーの在り処』というタイトルは、とても批評的かつ、威風堂々としたタイトルでもあるなと思いました。このタイトルをどうして付けたのでしょうか?
▲AL『ポピュラーの在り処』
大橋:いわゆる「J-POP」と呼ばれるような、日本で、ポピュラー音楽として広く受け入れられている音楽があると思うんですけど、その中心に届くアルバムになってほしいなっていう気持ちを込めて、このタイトルは付けました。「今の日本の音楽シーンは云々」みたいなことを言いたいわけではないんですけど、一方でこのアルバムでは、歌ものとしての王道的な部分と、自分が大切にしてきた洋楽由来のノリやキャッチーさを、自分の感性でミックスすることで、「ありそうでなかった」音楽を作れた感覚があるんです。「こういう音楽が受け入れられる世界であってほしいな」っていう想いも込めたタイトルでもありますね。
── 「日本のポピュラー音楽のど真ん中に届いてほしい」という意識は、前作以降、培われたものなのでしょうか?
大橋:そうですね。昔は、尖っていたわけではないんですけど、「日本よりも海外の方がいいんじゃないか?」と思っていたし、オルタナティブなことをやっている人のほうに興味があったんです。でも、多くの人が聴きたいと思い、多くの人が望んでいる音を届けているからこそ成功しているのがJ-POPのアーティストたちなんだっていうことを、前作から今作の間で身に沁みて感じるようになって。自分の音楽が、多くの人に「気持ちいい」と思ってもらえるものでありたいっていう目標が、僕にもあっていいのかなと思ったんですよね。
── なるほど。
大橋:去年の3月に<J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE~YOUNGBLOOD~>というイベントでオープニングアクトを務めさせていただいたんですけど、共演者が、ハナレグミさんとか、森山直太朗さんとか、あいみょんさんとか、J-POPの第一線で活躍されているすごい人たちばかりで。あの現場で、直接挨拶をさせてもらったりもして、彼らの人としての素晴らしさも感じたし、実際に聴くと、すごくいい音楽ですし。両国国技館でのライブだったんですけど、あの会場には老若男女いろんな人がいたんです。文字通り「大衆」というか。そんな大衆に望まれて音楽をやっている人たちを見て、「自分もこうありたい」っていう感覚が芽生えたのかもしれないです。なので、このアルバムは特にいろんな人に届いてほしいし、届くと信じて作りました。
── 大きな質問になってしまいますけど、現時点で大橋さんは、どんな音楽が大衆に届く音楽になりえると思いますか?
大橋:そうですね……。僕の好きな曲って、歌詞の意味とか、そういう部分ではないところで記憶に残る曲が多くて。聴いていた時期や季節と結びついて大切な曲になったり、あるいは、意識はしていなくても生活のなかで自然と流れていて、いつの間にか大切な曲になっていたり……そういう音楽がいいなと思うんですよね。生活、社会、暮らし……そういうものに寄り添って、馴染んで、浸透していくような音楽。それが、広く受け入れられる音楽の姿なのかなって思います。もちろん曲の聴き方は人それぞれだと思うから、歌詞を噛み砕いて大切に聴くのもいいと思います。でも、そことは違う部分でいろんな人の生活に結びついて、大切に思われるような広がり方をするものが、僕にとっての「ポピュラーな音楽」という感じがします。
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