【インタビュー #2】吉本大樹、doa15周年とレーサーの両輪「絶対に自分は速い。でも追い抜くことは難しいんです」

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■絶対に追い越せない先輩ふたり
■僕が優れているところなんてない

──それまでほとんど音楽の経験はなかったわけですから、シンガーとしても生まれつき高いスキルを持たれていたんですね。とはいえ、レーシングドライバーとミュージシャンを両立させている人は稀だと思います。2つの大きな人生を歩んでいることは、どんなふうに捉えていますか?

吉本:たしかにそういう人は、なかなかいないでしょうね。メチャクチャありがたいことだと思いますけど、たとえば、飲食店とカーショップといった2つの仕事をしている人はいっぱいいるじゃないですか。レーサーもミュージシャンも僕ら世代の憧れの職業だというのはありますけど、やってみると特別なことではないというか。たまたま2つの職業が両方ともエンターテイメントの分野だったという感覚で。

──なるほど。バランスはとれていますか?

吉本:レースに関してはさっき話したように、始める前から自信に溢れていたんですよ、絶対に自分は速いって。実際、最初からそこそこ速かったし、レース場でも頭角を現すことができた。でも、音楽はそこまでの自信がないんです。

──今でもですか?

吉本:はい。絶対に追い越せない先輩ふたりと一緒にバンドをやっているというのもあるし、あの人達よりも僕が優れているところなんて、ひとつもないですから。2人に近づくことはできるかもしれないけど、追い抜くことは難しい。それくらい徳永さんと大田さんはすごいんですよ。逆に、そういう気持ちでやっているから両方できるのかなというのもあるんです。僕がミュージシャンとしても絶対的な自信があって、ふたつとも自信満々だったら成り立っていないんじゃないかなという気がする。

──たしかにそうかもしれませんね。それにしても、レーサーとミュージシャンの両方に真剣に取り組んでいることはリスペクトしますし、そんな吉本さんから活力をもらっている人は大勢いると思います。

吉本:そうだといいんですけどね。doaを始めた頃は「レースをやっている」ということをミュージシャンの活動の中で言わなかったし、レースをやっているうえでも「doaをやっている」ということは言わずにいたから、10年くらい経った時でも、レース業界では僕がdoaのメンバーだということを知らない人がすごく多かった。それはふたつの現場を線引きしたいという気持ちがあったからなんですね。ただ、最近は若手レーサーの甲子園的な『FIA-F4選手権』のテーマ曲をdoaが担当させてもらっているのでレース業界での認知度は上がったかもしれません。でも、土日になるとサーキットで毎回doaの曲が流れていたりして、それが僕にはすごく不思議な感じです(笑)。

──ところで、レーシングドライバーという職業は何歳くらいまで続けられるものなんですか?

吉本:第一線でバリバリという意味では、45歳くらいまで現役で走っている方はいらっしゃいますね。日本でいうとトヨタと日産とホンダが若手サポートをしているんですけど、若手が出てくると、ところてん式にベテランは押し出されるわけですよ(笑)。だから、若手ぶっておきます(笑)。


──なるほど。第一線以降で走る場所もあるんですか?

吉本:あります。今はシステムがすごく成熟しているんですね。過去の戦歴によってFIA(国際自動車連盟)が定める“プラチナ”“ゴールド”“シルバー”“ブロンズ”というドライバーカテゴライゼーションのクラス分けがあって、当時僕は『GP2』というカテゴリーで日本人過去最高位を獲った経緯もあるので“ゴールド”なんです。最近はアマチュアとプロがチームとして組んで行うレースが世界的に増えてきていて、そのレースは“ゴールド”と“ブロンズ”とか、“シルバー”と“ブロンズ”の組み合わせじゃないと出場できないというようなクラス分けがあるですよ。だから、“ブロンズ”と“シルバー”はすごく重宝される。僕は現在“ゴールド”だけど、“ゴールド”と“プラチナ”も年齢が上がると“ブロンズ”になるんです。そういう人は速いし、経験があった上での“ブロンズ”枠なので重宝される。歳をとっても走れる場所はあるから、続けられる間は走り続けたいと思っています。

──ぜひ続けてほしいです。20年にわたって第一線のレーシングドライバーとして活動されていますが、吉本さんが思うレースの魅力とは?

吉本:レースは精神コントロールがすごく重要なスポーツで、“イケイケどんどん”のドライバーは絶対に残らないんです。速度300キロで走りつつ、視界に入ってくるすべての情報や全体の動き、空気の流れ、タイヤの撓み、木の揺れ方といったことを感じ取り、瞬間的に判断して対処しながら走る。それくらい神経が研ぎ澄まされるレース中の感覚がすごく好きなんです。車中の温度は60度〜70度、ドライバーはその中でヘルメットを被って、ずっと車と格闘しているんです。そんな状況だから、レース終了後に車から降りると3キロくらい体重が減ってたりするんです。……なんで、こんなにしんどいことをしているんやろう?”と思う時もありますけど(笑)、レース中のこの感覚が好きだから、やっぱりやめられないんです。

──普通に一般道路を走ったところで、味わえるものではないんですね。

吉本:それに、感覚が研ぎ澄まされるレースの世界から離れると、僕は急にポンコツになってしまう気がするんですよ。アウトドアが好きなんですけど、それはレースとは全く逆の世界で、反動なんじゃないかなと思うんです。そのバランスが崩れてしまうと、自分がどうなるかわからない怖さみたいなものもあります。

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