森園勝敏、「レィディ・ヴィオレッタ」だけを収録したアルバムをリリース

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森園勝敏が四人囃子在籍時に発表した「レィディ・ヴィオレッタ」は、その美しいメロディによって多くの音楽ファンに愛されている。その「レィディ・ヴィオレッタ」のあらゆるバリエーションを収録したアルバムが3月11日に発売となる。

元々「レィディ・ヴィオレッタ」は、四人囃子の2ndアルバム『ゴールデン・ピクニックス』に収録されシングルカットもされた。その後も、ライヴアルバムや本人のソロアルバムなどに収録され、多くのテイクが公式なレコード作品として残されている。このアルバムでは様々な表情を見せる「レィディ・ヴィオレッタ」だけを収録している。

そもそも、「レィディ・ヴィオレッタ」が生まれたのは、森園勝敏自身がある絵を観たことがきっかけ。それがアメリカのコマーシャル・アートの世界で有名なイラストレーター、マックスフィールド・パリッシュによる“Lady Violetta”だ。今回はアルバム・ジャケットを、その“Lady Violetta”が飾っている。


ここまで読んでいて、「レィディ・ヴィオレッタ」という表記に違和感を感じる人が多いかもしれない。発表当時は、「レディ・バイオレッタ」もしくは「レディ・ヴァイオレッタ」と表記されていて、それを記憶している人が多いはずだから。しかし、近年森園勝敏本人、四人囃子メンバーも「レィディ・ヴィオレッタ」と発音していることを受け、このアルバムではカナ表記も『レィディ・ヴィオレッタ』で統一をしているとのことだ。

■〈森園勝敏 最新インタビュー〉
──この曲を作曲されたのはいつ頃なのでしょうか? また、それは森園さんにとって、どのような時期だったのでしょうか?

森園勝敏(以下、森園):アルバム『ゴールデン・ピクニックス』のレコーディングに入る数ヶ月前かな。シングルで出した「ブエンディア」のちょっと後だったね。四人囃子から中村くんが抜けて、新しく佐久間くんが加入したあたりから、バンドでやる曲も少しずつ変わってきたんだ。もちろんメンバーが交代したからというだけではなくて、世の中がブリティッシュ・ハードロックからアメリカン・ロックやクロスオーバーに移行する時期だったということもある。73年あたりでブリティッシュの一連のロックはピークを迎えたと思うんだよ。もう、そのあたりからプログレを聴くよりもチック・コリアを聴く方が面白くなってきたし、ロックに関してもアメリカのを多く聴くようになってきた。タワー・オブ・パワーのライヴとかを聴くと、これはもうプログレ風のサウンドをやってる場合じゃないぞと思ったしね。そんな時代だったんだよ。

──『ゴールデン・ピクニックス』は前作である『一触即発』とは全く違うサウンドになっていましたし、その中でも「レィディ・ヴィオレッタ」は異色のインスト曲でした。発売当時の音楽雑誌ではこの曲を酷評していた記事もありました。

森園:批判したくなるくらい、その評論家には印象に残ったわけだから、むしろ良いことだと思うよ。何事もなく通り過ぎて、適当な褒め言葉でお茶を濁されるよりはね。この半年くらい前に東宝から最後に出したシングル「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」のB面曲「ブエンディア」がもう既にCTI風のインスト曲だったし、「レィディ・ヴィオレッタ」みたいな曲はバンドとしても違和感はなかったんだよ。この曲を書いて四人囃子のリハーサルに持って行った時も、結構音ヌケのいいサウンドになったのでアルバムに収録することにしたんだ。この辺りの時期になると、ライヴ・ハウスではボズ・スキャッグスのカバーとかもやってたしね。四人囃子の初期にマウンテンやピンク・フロイドのカバーやってたのとはえらい違いだね。

──「レィディ・ヴィオレッタ」を作曲された時の、ご自分での感想は?

森園:『ゴールデン・ピクニックス』のライナーにも書いたけど、パリッシュの絵を観てインスパイアされたのが曲を思いついたきっかけ。僕にとっては、モナリザよりもモナリザっぽい絵で、女性がとても不思議な表情をしているわけ。その感じを音楽で表現したかったんだ。イントロのモチーフはドビュッシーの曲から。「アラベスク第1番」とか「月の光」に綺麗に上下するアルペジオがあるでしょ? あのイメージ。あの頃はギターも歪ませた音よりもクリーンでパキッとしたサウンドが好きで、ロギンス&メッシーナとかにリフの作り方とかサウンド面で影響を受けていた。後から気がついたんだけど、ボズ・スキャッグスの「ヒア・トゥ・ステイ」という曲にコード進行が似ているかもね。イントロのアンニュイな感じとか、Aメロの2コードで進行するとことか、サビのコードが下降するところとか‥。そんな細かいところはパッと聴いてもわからないだろうし、メロディは全く違うんだけどね。

──それでは、各バージョンについてお伺いしますが、四人囃子にはシングル・バージョンとアルバム・バージョンが存在するのですよね。

森園:アルバム・バージョンは、中間部がフルートの息切れしそうなくらい長いソロになってる。あの頃、バンドと仲の良かった浜口くんに吹いてもらったんだ。ちょっと長すぎたかな、と思ったけど。フルート・ソロにしたのは、パリッシュの絵の中に窓があってね、そこから空が見えてるんだよ。それを表現するにはギターじゃなくてフルートの方が適任だろう、ってことになった。だから、ギター・ソロじゃない、このフルート・ソロのバージョンが四人囃子がバンドとして納得した完成形なんだよ。実際、このアルバム・バージョンがこの絵の雰囲気を一番よく表現できていると思う。

あのシングルは、アルバム・バージョンの後で作ったんだよ。アルバム・バージョンのオケを切り貼りして短く編集したオケに合わせてエレキ・ギターを弾いたんだ。だから、エレキ・ギターだけが別テイクということになる。テーマが1コーラスしかなくて、メロディもサビの途中から急にエレキ・ギターになる。そこから弾き始めるというのがどうしても馴染めなくてね、何テイクも録音して苦労したのを覚えている。アルバム・バージョンと違ってギター・ソロが入っているのは、プロデューサーの意向だね。自分としては納得していないバージョンだけど、違和感を覚えながら苦労して弾いていたので、演奏に力が入っている。だから、ある意味、生々しいギター・サウンドが録れたのかもしれないね。

その後、82年にキングレコードでリメイクしたスタジオ・バージョンもとても気に入っている。キングのエレクトリック・バードから出した4枚のアルバムから選んだ曲と新たにカバー曲を数曲新録音する、そんな企画だった。「レィディ・ヴィオレッタ」のリメイクをやることにしたのは、レコード会社の意向ではなく自分の意思。ここではアレンジをちょっと変えたのと、ギターはアンプを通さずにラインで録音している。このバージョンに関しては、とても満足していて、やり残し感は全くないね。

──その他のライヴ・バージョンについてはいかがですか?

森園:ギター・ワークショップのライヴでもやったねえ。まだ自分の持ち歌にインストが少なかったからやったのかな。ベン・シドランとかのあまり知られていない曲をボーカル・バージョンでやってた頃だよ。それにしても、すごいメンバーだよね。でも、当時発売されたLPレコードにはこの曲は未収録だった。四人囃子でやったMZA有明は、出演したことは覚えているんだけど、「レィディ・ヴィオレッタ」を演奏したことは覚えていないんだよ。このバージョンは佐藤ミツルくんとツイン・ギターなんだね。ビデオには入っていなくて、CDだけの収録だったのか‥。

2002年の四人囃子では、この曲はテレキャスターを使っている。メロディやソロではかなりアウトしたノートを弾いているね。ロック・ギタリストはどうしてもコードに縛られてしまうんだけど、ジャズの秋山くんみたいにアウトしたくてしょうがなかった時期の録音だね。

プリズムのライヴに「レィディ・ヴィオレッタ」があったっけ? そうか、DVDから抜き出したオーディオ・トラックなんだね。ここではアキラがソロを弾いてるんだ。この時はいい音だったし演奏も出来がいいね。アレンジはキングで録音した『JUST NOW & THEN』のバージョンに近いと思うよ。

さて、これはボーナス・トラックとしてフォーライフ・レコードから発売されたレコードからのバージョンだね。よくこんなの持ってたね。当時ハルヲフォンのギタリストだった小林克己くんが企画して、誘ってくれたんだ。ビッグボックスという高田馬場にあったスタジオで録ることになっていて、家から近かったので気軽に参加したんだけど、ちゃんとした話がないままレコーディングが始まってね、最後の方になって教則レコードだって言われたわけ。だから、レコーディングのメンバーも全く覚えていない。

こんなに音源として残っていたのかと、我ながら驚いている。自分でも4つくらいしか覚えていなかったからね。この曲を作ってから半世紀近くになるけど、まさかこんな金太郎飴みたいなアルバムが発売されるとは、考えもしなかった。でも、こうやって聴き続けてもらえるのは嬉しい。アルバム・ジャケットにパリッシュの絵を使ってくれたことも感激しちゃうね。自分で言うのもなんだけど、よくできた曲だと思うよ。

取材・文/近藤正義

リリース情報

『レィディ・ヴィオレッタ』
2020.3.11 Release
森園勝敏
品番:STPR016
価格:アルバム/¥2,400プラス税
UHQCD(アルティメイト・ハイ・クオリティCD)
発売:ステップス・レコーズ
《収録内容》
楽曲はすべて“レィディ・ヴィオレッタ”

1.レィディ・ヴィオレッタ (シングル・ヴァージョン)
A Song for Lady Violetta(Single Version)

2.レィディ・ヴィオレッタ  ギター・ワークショップ Vol.2 ライヴ ファースト・ナイトより
Lady Violetta from GUITAR WORKSHOP Vol.2 LIVE First Night

3.レィディ・ヴィオレッタ  ギター・ワークショップ Vol.2 ライヴ セカンド・ナイトより
Lady Violetta from GUITAR WORKSHOP Vol.2 LIVE First Night

4.レィディ・ヴィオレッタ  ジャスト・ナウ&ゼンより
Lady Violetta from Just Now & Then

5.レィディ・ヴィオレッタ  フルハウス・マチネより
Lady Violetta from FULL-HOIUSE MATINEE

6.レィディ・ヴィオレッタ  2002  LIVEより
Lady Violetta from 2002  LIVE

7.レィディ・ヴィオレッタ  プリズム・ライブ !より
Lady Violetta from PRISM LIVE !

8.レィディ・ヴィオレッタ  ゴールデン・ピクニックスより
A Song for Lady Violetta(Album Version) from GOLDEN PICNICS

BONUS TRACKS
9.レィディ・ヴィオレッタ  ロック・ギター・オルタナティブより
10.レィディ・ヴィオレッタ(マイナスワン)  ロック・ギター・オルタナティブより
Lady Violetta from ROCK GUITAR ALTERNATIVE
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