【インタビュー】清春、“化粧とロックンロール”を掲げたアルバムに破壊と創造「究極、オケはいらない」

■世の中が以前の状態に戻って
■普通にツアーを続けたい、一刻も早く

──先ほど“化粧とロックンロール”という言葉も出てきましたが、僕は、「下劣」「アウトサイダー」「グレージュ」というアルバムの流れが素晴らしいと思いました。

清春：なるほど。それは今回の取材で初めて言ってもらいましたね。

──特に「グレージュ」の大人のエロス。この色、この味は、そんじょそこらの若者には出せないタイプのものですよ。

清春：「グレージュ」は僕も必死だったから、余裕でやっていたわけじゃない。Aメロとかサビは苦労しなかったけど、Bメロの細かい符割りが、まぁ難しかった。

──『ザ・ベストテン』なんかに出てきそうな曲だと思ったんですが。

清春：あ、そうかもね。寺尾聰さんの「ルビーの指環」みたいな。ファンキーでアーバン。この曲は自分の歌も頑張りましたけど、ギターが凄いんですよ。老若男女問わず、どのジャンルのギタリストも一回聴いたほうがいい。たいして弾けない僕でも“すっげー！ こんなギター、他に誰が弾ける!?”って思います。想像を絶するカッコいいギターです。速いとかテクニカルとか曲芸的なギターじゃなくて、是永さんは普通に弾いてるだけ。なんだけど素晴らしい。基本的に通して弾いて、「あとは任せるね」って帰っていく。


──ここ数作は、どちらかといえば、優しく包み込むような曲が前面に出ていた気がするんですが、今回のアルバムは、グッと迫ってくるような、強めの曲が多いのかなと思いました。

清春：そうだね。ラウドだったりテンポが速いとかではないけど、いわゆるロック。パンクロックとかハードロックとか、ナントカロックみたいな音像じゃなくて、“ロックですよね！”っていうところでしょうか。

──アルバムのラストを飾る「ロマンティック」は、今作、唯一といっていいぐらい優しく静かな曲。これが素敵な着地点になっています。

清春：そうだね。『夜、カルメンの詩集』とか『SOLOIST』に収録されててもおかしくないですよね。こういう曲って目を瞑ってても出来ちゃうんです。「こういうの1曲作るごとに100万円あげます」とか言われたら、永遠に出せる（笑）。コードに対するこういうメロディーの感じは、もうスーパー得意。このほかに、メロウな原曲のやつもあったんですけど、2曲ぐらい、三代さんがロックンロールっぽくオケをアレンジしてくれたんですよ。でも、“まあ、いいんじゃない”と（笑）。

──ははは。

清春：そういう意味では、今回、思いのほかロックンロールっぽく聴こえてるのは、三代さんの解釈のおかげかもしれない。でも僕は歌さえ良ければいいと思ってるのであんま気にしてない。メロディと歌詞と歌の表情、それが僕のソロなんだと思ってる。これがバンドだったら、また違うんだけど。

──ソロだからこそ？

清春：ロック的なリフは素材のひとつでしかないのよね。それをサンプリングして表現する人たちもいっぱいいるけど、リフを中心にシンプルに鳴らすんだったらこうなるでしょうねって感じ。サウンドとしてはベースがいないから、ちょっと他と違う。だけど要するに聴くべきは歌です。


──アルバム本編に加えて、限定盤には「忘却の空　25th Anniversary Ver.」がボーナストラックとして収録されています。

清春：原曲よりもキーを半音上げてますね。去年この曲のビデオを撮ったんだけど、その時の歌のテイクが少し気に入らなかったので、途中で詰めることもなくCD収録はやめて、ミュージックビデオでの発表だけにしたんです。以前のBARKSインタビューでも、そのことは話しましたよね。どうやらキーが低かったので、原曲から半音上げて歌ってるんです。

──年齢を重ねてからキーが上がっていくのも不思議です。

清春：よくそう言われるけど、たぶん僕の音域……上も下も限界自体は変わってないんですよ。昔は曲の流れのなかで、サビの一瞬だったら出るような高音があって。声自体は変わってないんだけど、今の僕は、その高いところで歌えるようになったんだと思う。

──では最後に、夏まで続くツアー＜清春 TOUR 2020『JAPANESE MENU』＞も2月に幕を開けました。リリース後のライヴでは、『JAPANESE MENU / DISTORTION 10』収録曲もセットリストに入ってくると思います。昨今の情勢もあって、いろいろと大変だとは思うのですが。
※この取材は3月上旬に行われたものです。

清春：ライヴは基本的には予定通りやりたいし、飛ばしたくない。それが僕の役割なので。早くアルバムをリリースして新曲をやりたい。毎回毎回、その繰り返しだけど、何度も何度も僕のライヴを観に来てる熟練のファンの人たちがカッコいいと思ってくれるんだったら嬉しいよね。それが一番の手ごわさなんだけど。

──手ごわさ？

清春：僕のことをずっと好きでいてくれるからこそ、なんでもカッコいいと思ってくれてるわけではない。これまで好きだったものを、前よりさらに好きだと思わせることってハードル高いんです。ツアーは基本的にファンしか来ないので、世の中に対して歌わなくても全然いい空間。それを観た人たちが、“清春が何をどう歌ってるか”っていうことを感じてくれればいい。僕は一刻も早く、世の中が1ヵ月とか2ヵ月前の状態に戻って、普通にツアーを続けたいですね。“アルバムがリリースされるから、新曲も聴けるかな？”みたいな楽しみ方が、早く世の中に戻ってほしい。

取材・文◎志村つくね





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