【インタビュー】saji、短編小説を読むように明るくせつなく出会いと別れが交錯する『ハロー、エイプリル』

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ハロー、saji、そしてハロー、エイプリル。バンド名を「saji」に改名して心機一転、希望にあふれたバンドの勢いをぎゅっと詰め込んだミニアルバム、それが『ハロー、エイプリル』。前身バンド時代から定評のあった、きらめくポップセンスとロックな躍動感、ストーリー性の高い歌詞の世界に磨きをかけた、今作のコンセプトは「本」。短編小説を読むように、時に明るく時にせつなく、出会いと別れが交錯する4月の風の中でピュアな感情が揺れる全6曲。再出発の自信作について、3人が語ってくれる。

■4月は出会いや別れのある季節だから
■その人たちの人生に寄り添っていけるアルバムです


──お久しぶりです。半年前にお会いした時には「まだsajiと名乗り慣れてない」と言ってましたけども。

ユタニシンヤ(G):最初の頃は「ファ」って言いかけてたんですけど(笑)。今はもう大丈夫です。毎週ラジオの生番組で「sajiです」って言っているので、自然と慣れました。

──個人的な、気持ちの変化とかは。

ヨシダタクミ(Vo&G):12月に初めてライブをやったんですけど、それを経てから実感が伴いましたね。お客さんも僕らの新しいバンドTシャツを着ているし、sajiに付いていこうという姿勢というか気持ちをすごくいただいたので、2020年は本格的にsajiとして動くんだなという自覚を持ちました。

ヤマザキヨシミツ(B):大きい変化は、自分の中ではないですけど。周りの意見を取り入れる余裕は出たかなと思います。そういうメンタルの状態になってから、今回のアルバムを作ったので。

ヨシダ:(改名前の)phatmans after schoolって、同じスタジオで同じエンジニアで同じアレンジャーでという同じチームだったんですよ。でもレーベルがキングレコードになってから、毎回違うんです。今回のアルバムに関しては同じエンジニアさんだけど、アレンジャーさんは曲によって違うし、録る環境が違えば音も変わるし、「どうですか?」と聞いた時の意見のフィードバックが全然違う。「どうですか?」「〇〇のところが」という、言われるポイントが今までと違う。そこが刺激になりますね。

──その、sajiになって初のミニアルバム『ハロー、エイプリル』。曲を書き始める時点で、新生sajiの作品という意識はありましたか?

ヨシダ:これはまだどこにも言ってないですけど、前回の「ツバサ」(TVアニメ『あひるの空』第1期エンディングテーマ)というシングルは、ある意味プレリリースというか、「phatmans after schoolがsajiという新しいアーティストになりますよ」というご挨拶盤だった。だからsajiの第一弾として、僕は今回がファーストだと思っています。

──なるほど。

ヨシダ:phatmans after schoolは10代でデビューしてるんで、学生だった若い子たちに何ができるか?というところから始まっている。でもsajiは大人になってからできたグループなので、ポップセンスはそのままに、今の僕らが大人として、昔の自分がどういう曲を出したら好きになってくれるか?を、大人目線でちゃんと考えようと思ってやってみたんです。それが届くかどうかは今後次第ですけど。そういう意味で言うと、ある種、phatmans after schoolの最初のコンセプトに戻したんですよ。写真もそうですけど、あえて顔出しをしないで、クマをもう一回ジャケットに戻して。

──ふむふむ。

ヨシダ:それと、今回のミニアルバムには「本」というコンセプトがあって、1曲1曲を短編小説のようなものにしたかったんです。6編(曲)の作品が入った『ハロー、エイプリル』という作品を読むという、それって実はphatmans after schoolの初期構想に近いんです。みんな、僕らがどんな人か知らないわけじゃないですか。顔も出してないし、年齢も公開してない。与えられた情報は、音とアートワークだけ。このクマってどういう意味なんだろう?とか、そこに戻したいと思ったんです。

──そういうことだったんですね。

ヨシダ:ただあの頃と違って、僕らはもう大人なので、もうちょっと頭を使って(笑)。遊び心を演出したいと思ってやっているんです。だから、新しいお客さんにも届いてくれると思います。僕が高校生だったら、「何か気になるな」と思う作品になった気がしますね。

──何周か回っての原点回帰。

ヨシダ:今の僕らが考えた、昔やろうとしてたことをやり直すという感じ。当時は何も考えていなかったので。僕らは北海道にいるのに、東京で話が進んで、「顔出さないで、MVにはこの監督を使って」とか、決定稿を聞かされる。今考えると、そのセンスは良かったと思うんですけどね。でもあれを今やらせてもらえるなら、僕らが参加型でやり直したい。

──なるほど。わかりやすい。

ヨシダ:一回顔出ししたことによって、完全に隠す必要はないから。僕らはpasくん──クマの名前ですけど──の「中の人」という体で、音楽を演出しています。役者だと思えばいいんです。初見の入り口として「クマがかわいい」とか「なんで顔を隠してるんだろう」とか、どういう曲なんだろう?という興味を覚えてもらう遊び心です。その上で、すごいコアファンになったら調べてもらえばいいし、そこまで来た人は離れないと思うので。


▲『ハロー、エイプリル』<初回限定盤>


▲『ハロー、エイプリル』<通常盤>

──ユタニさん。『ハロー、エイプリル』は、どんな作品ですか。

ユタニ:『ハロー、エイプリル』というだけあって、4月は出会いや別れのある季節だから、その人たちの人生に寄り添っていけるアルバムだと僕は思っています。

――お気に入りチューンは?

ユタニ:やっぱりリード曲「シュガーオレンジ」ですね。Aメロから超エモくて、大好きです。僕もけっこう女々しいほうなんで、“大丈夫だよ”っていうAメロが超響きます。「孤独の歌」も好きで、これはレコーディングの時に初めて歌詞を見たんですが、最後の一行になるまで「この曲は俺をどこまで落としていくんだろう」と。そして「タクミどうした?」と思っていました。

ヨシダ:(笑)。

ユタニ:出会い、別れ、希望、そういうことを歌った曲なので。

──ユタニ氏はエモいのがお好き。

ユタニ:昔からそうなんです。悲しい曲を聴くと、落ちるタイプなんで。

──ヤマザキさん。どうでしょう。

ヤマザキ:みんなとのディスカッションを増やして作ったアルバムですね。自分の感性だけで作ったものじゃないんで、良い意味でわかんないというか、どう響くんだろうな?というワクワクはありますね。

──お気に入りチューンは。

ヤマザキ:「ミラーリンク」です。

ヨシダ:この曲、ライブでどれぐらいの体感速度になるだろうね。歌ってる時はそこまで速く感じなかったんだけど、曲を聴いているとビートはすごく速く感じる。これは絶対ライブで盛り上がるだろうなと思って作ったけど、どんなノリで付いてきてくれるかがわからない。これって「バンドあるある」なんですけど、一つのイメージで作ったものが、ライブでやってみたら、お客さんの乗り方が違う時があるんですよ。「え。そっち?」みたいな。

ユタニ:あるある。

ヨシダ:「意外と上がらないのね」と、「この曲でそんなに上がる?」という時があって、どっちに転ぶかがわからない。みんなが手を叩いてくれると思って作った曲を、意外と普通に聴いてる時もあるし、逆もある。(ユタニに向かって)どうしたらいいかは、任せるよ。一番最初に煽れるのは君だから。

ユタニ:「ミラーリンク」はね、どうしようか。でも、「オイ!オイ!」ではない気がするな。

──上がる曲だけど、けっこうエモいから。ぐっと噛みしめて聴く曲じゃないかなと。

ヨシダ:歌詞は、そういうイメージがありますね。たぶん歌は切々と歌うんですけど、ライブだからこそ手を上げたい人もいるし、その匙加減は君がどれだけ空気を読むかだよ。

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