【インタビュー】新世代ギター・ヒーロー、トム・ミッシュ、新作は同郷の天才ジャズ・ドラマーとのコラボ

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ここ日本においてもデビュー・アルバム『Geography』がヒットとなったサウスロンドン出身の新世代ギター・ヒーロー、トム・ミッシュだが、早くも新作『What Kinda Music』が4月24日に発売となった。

ジャズ、ソウル、ヒップホップ、ディスコなど様々な音楽が融合し、デ・ラ・ソウル、FKJ、マイケル・キワヌーカ、そして日本からは星野源といった数々のアーティストとのコラボも注目されている中で、『What Kinda Music』は同郷の天才ジャズ・ドラマーであるユセフ・デイズとのコラボ作となっている。異なる音楽的背景を持つふたりの化学反応から生まれたこのアルバムは、どのような経緯で生まれてきたのか、制作の過程秘話に迫ってみた。


──そもそもユセフ・デイズとはどのように知り合ったのですか?

トム・ミッシュ:もともと地元が同じで、子供の頃にユセフがドラムを叩いているのを学校のタレントショー(学校や地区で行われる素人演芸会のようなもの)なんかで見たことがあった。10歳くらいの時で、彼は12歳くらいだったと思う。それが彼の存在を知るきっかけだった。僕のデビュー作『Geography』のアルバム・ローンチの時に初めて会ったんだけど、前から彼の音楽とドラムのことは知ったから「一緒にスタジオ入って音楽を作ろう」って話になった。すぐに音楽的な繋がりをお互い感じて、そこからスタジオでいろんなことを試しているうちに、気付いたらアルバムができていたって感じ。

──スタジオに入った時点で、アルバムまで想定していたんですか?

トム・ミッシュ:最初はビートテープ(インストのトラック)EPを一緒に作るつもりでスタジオに入ったんだ。彼のドラムを録音して、そこに僕がギターとかを加えたりしてプロデュースするという。でもやってるうちに色々なアイディアが出てきて、そのどれもが凄く良くて、しっくりくるものばかりだった。結果的に17曲くらいできて、そこから曲を絞り込んで、アルバムが完成した。最初は歌うつもりじゃなかったんだけど、結局歌うことにもなったんだ。

──『What Kinda Music』に仕上げる上で、何かコンセプトは?


トム・ミッシュ:ただ思いつくまま音楽を作っていったから、コンセプトがあったわけでも特定のテーマがあったわけでもない。一貫してるのは、ふたりともミュージシャンで、それぞれの楽器の可能性を押し広げることに興味があるってこと。だからテーマがあるとしたら「元々はビートテープのはずだったものがより大ごとになった」かな。完成した作品を改めて聴き返してみると、かなり繊細でドリーミーになったよね。もちろん最初から意図していたわけじゃないし、ある意味大きな実験のようなものなんだ。

──前作『Geography』から2年経ちましたが、その間の経験が活きていますか?

トム・ミッシュ:たくさんの新しい音楽を聴いてきた。『Geography』を作っていた時はケイトラナダやブラジル音楽の影響が強かったけど、あれ以降はソウル・ミュージックをたくさん聴いて、マーヴィン・ゲイの作品なんかも研究していたから、それが今回のサウンドにも繋がっているんじゃないかな。ディスコも含めてアナログ機材で録音された1970年代や1980年代の作品をたくさん聞くようになった。どうやったらああいう音が作れるか研究したんだ。今ではほとんどビートは作らないから、ビートメイカーというよりプロデューサーやエンジニアという役割のほうが自分にしっくりくるね。

──多くの曲でクレジットがWritten by Tom Misch、Music by Yussef Dayes、Produced by Tom Mischとなっていますが、このような役割分担で?

トム・ミッシュ:基本的に僕がアルバムをプロデュースしているけど、現場にはユセフもいる。スタジオでの作業の60~70%は僕とユセフで進めて、残りの30%は僕がひとりで行なった。プロデューサーはずっとスタジオにいて、全ての制作行程に携わり仕上げて行かなきゃいけないからね。あと歌も歌っているから歌詞も書いた。他のソングライターとのセッションで共作した曲もあるけど、大半の時間はユセフといろんなことを試していたよ。ユセフもプロデューサーだからアドバイスも出してくれた。アルバムのサウンドに貢献しているよ。

──ビートメイカーでもあるあなたですが、ドラマーのユセフとどのようにリズムを作っていったのでしょう。

トム・ミッシュ:共同作業だよ。彼はリズムを作る天才だしリズムの感性が凄いから、まず彼に好きにやってもらうんだ。「こんな感じでやりたい」「じゃあ、試しにこんな感じでやってみてくれる?」「さっきやったの、もう一回やってくれる?」ってね。彼が何を叩くか全然予測できないから、実験的でもあった。ふたりの方向性が違うときは折衷案を見出すか、どっちかの方向でいくのか、ふたりで押したり引いたりしながら作っていったよ。

──まさに共同作業ですね。

トム・ミッシュ:彼が叩いたビートを持ち帰ってループを作り、そこにサンプリングを加えて曲にしていったりするんだ。あれだけ卓越したドラマーと一緒にやれたってのが嬉しいよ。正直、彼以上に一緒にやりたい人が思い浮かばないくらいさ。僕はスタジオで面白いビートが生まれる瞬間の興奮が好きなんだ。ユセフは常に何か新しいことをやろうとしていて、可能性を広げようとしている。同じビートを刻んだり同じ組み合わせに固執することはないから、何が起こるかわからない。何が面白いって、スタジオに入ると毎回全く新しいことが起きるんだよ。

──ベースのロッコ・パラディーノも、このアルバムでは重要な役割を果たしていますね。

トム・ミッシュ:彼も凄くクリエイティヴで新たなアイディアを色々出してくれる。音楽がわかっているし、グルーヴの感性も引き出しの多さも凄い。彼はいわゆる「後ノリ」で、父親のピノ・パラディーノよりさらに後ノリなくらいだ。本当に素晴らしいベーシストだよ。しかもユセフとよく一緒に演奏しているから息があう。ふたりはリズム隊として最高だ。ふたりと仕事ができたのは大きかった。


──ハッピーなフィーリングがあった前作『Geography』に比べると、今作はメランコリックで時にダーク、時にグルーミーに感じるところもありますが、このサウンドにはどういう意図があるのでしょうか?

トム・ミッシュ:少しダーク目なものを作ろうという意識は常にあったと思う。自分の中にあって追求したいけど、これまでトム・ミッシュ名義ではできなかったサウンドを色々試すことができたから、次のアルバムで違うサウンドを採り入れる足がかりになった。ユセフの存在がそれをうまく引き出してくれるんだと思う。コラボレーションならではだよね。

──ギタリストとしてチャレンジしたことはありますか?

トム・ミッシュ:純粋にふたりでいろんなことを試しながら曲を作っていたから、意識してやったことはない。今、ユセフはシンセにハマっていて、ふたりでそれをいろいろ試すことが多かったから、そこではギターが核になるようなアイディアはないね。ギター、ベース、ドラムというトリオでのジャム・セッションが構成になったものもあるけど。

──歌詞を手掛けたJessica Carmody Nathan、Francis Anthony White、Syed Adam Jaffreyという人物は?

トム・ミッシュ:Jessは昔近所に住んでいて、彼女の妹と友達だったんだ。で、ギターを弾くようになってから、地元で彼女が歌って僕はギターで伴奏をするというちょっとしたライヴをやるようになった。音楽制作を始めてからも、共作で『Out To Sea』というEPを出した。彼女は言葉や歌詞の才能が凄くあるんだ。今回もその延長でたくさん共作したよ。Eg Whiteは、マネージャーからの紹介なんだけど、彼は非常に尊敬されているソングライターで、経験も豊富で一緒にやってみて凄く楽しかった。Adamは今回レコーディングで使ったUnwound Studiosのオーナーで、スタジオを運営しているだけじゃなくて、レコーディングの現場にも多く立ち会ってくれていた。マイクのセッティングを手伝ってくれたり、スタジオにある機材をあれこれ使わせてくれたり。それに加えて、いくつかの曲の歌詞でも力を貸してくれたってわけ。

──歌詞は曲ができてから書かれたものですか?

トム・ミッシュ:歌詞を書く上で曲の雰囲気を知る必要があるから、いつも曲の後に書いているよ。僕は何よりプロデューサーであって作詞家ではないから、まず楽器の編成と曲の世界感を生み出すことが大事なんだ。特に今回はユセフとの共作だから、僕も彼もワクワクするものを作ることが大事でね、特にこれまでにない違うことをやろうという意識が強かったから、それができてから歌詞に取り掛かった。

──「Nightrider」ではフレディ・ギブスがフィーチャリングされていますね。

トム・ミッシュ:誰を起用しようかって話をしていたとき、まだインストだったんだけどちょっとLAの爽やかな雰囲気があった。で、フレディに連絡したんだよ。興味あってやってくれるって返信が来た時に「やった!彼しかいない」って思ったな。いい味を加えてくれたよ。


──エディットやミックスは順調でしたか?

トム・ミッシュ:ドラムはふたつのスタジオで録ったんだ。アルバムの大半はロンドン(UnwoundStudios)で録音して、残りはEastbourneのスタジオでマイクをたくさん立てて、古い機材を使って録った。「Festival」と「Nightrider」はEastbourneで贅沢な機材を使って録ったんだ。エンジニアやミックスの部分で本当に勉強になった。スタジオを運営しているAdam Jaffreyにはたくさん助けられたよ。ドラム・キットに2本のマイクを立てて録ったんだけど、本来ならもっとたくさんのマイクを使うところを、キックに1本とオーバーヘッドに1本という構成なんだ。ミックスでは粗削りな音になっているけど、ドラムの音に思い切りオーバードライブ(歪み)をかけてパンチを持たせるんだ。ユセフもミックスにはいろいろ意見を出して「これを試してみろ。あれも試してみろ」って、普段の僕ならやらないようなことをやるよう背中を押してくれたな。

──ミックス・エンジニアのRussell Elevadoはどういう方ですか?

トム・ミッシュ:D'Angeloの『Voo Doo』のミックスをやっていて、他にも個人的に好きなジャズ、ソウル、ヒップホップの作品のミックスに携わっている人物なんだ。彼が関わった作品が好きで依頼したんだけど、彼は全てアナログ機材を使っていて、プラグインといったコンピュータ・ソフトは一切使わなかったよ。

──前作『Geography』以降、二度の来日がありましたが、今作でも来日を楽しみにしています。

トム・ミッシュ:前回は、アルバムを出してツアーするという流れが自分にとって初めてだったから、ツアーを通して世間知らずだった部分が減ったんじゃないかな。ミュージシャンとしてツアーをすることが何なのか、少しわかったよ。自分が作った『Geography』の曲を繰り返し演奏して人々の反応を見て、次に自分が何をすべきかの指針を得る。次に何を作るべきかを示してくれたと思う。日本は大好きだから、また行ってライヴをやったり日本で時間を過ごすのをいつも楽しみにしている。日本という場所も人も大好きなんだ。だからたくさん行こうと思っているよ。僕の音楽を応援してくれてありがとう。

取材協力:柳樂光隆
編集:BARKS編集部

トム・ミッシュ & ユセフ・デイズ コラボ・アルバム『What Kinda Music』


2020年4月24日発売
UICB-1008/\2,500+税
1.What Kinda Music
2.Festival
3.Nightrider(feat Freddie Gibbs)
4.Tidal Wave 5.Sensational
6.The Real
7.Lift Off(feat Rocco Palladino)
8.I Did It For You
9.Last 100
10.Kyiv
11.Julie Mangos
12.Storm Before the Calm(feat Kaidi Akinnibi)
13.Saddle ※
14.Tidal Wave Outro ※
15.Seagulls※
16.What Kinda Music(Jordan Rakei Remix)★
国内盤ボーナス・トラック 4曲収録
※海外デラックス LP 盤収録
★デジタル・ボーナス・トラック

◆『What Kinda Music』視聴
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