【インタビュー】TSUKEMEN、原点に立ち返って挑む時短クラシック

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クラシック、ジャズ、ポップスなどにボーダーレスに親しみやすく取り組んでいる2ヴァイオリン+ピアノの3人組TSUKEMEN。彼らの原点であるクラシック音楽を大胆にも“時短”、つまり、長いクラシック楽曲を5分前後でより深く濃く楽しもうという発想で、新しいクラシックのスタイルを打ち立てたのが、5月20日にリリースされた『JITAN CLASSIC』だ。「運命」「新世界」「ツィゴイネルワイゼン」というクラシックの名曲を大胆にアレンジしたもの、また2つの名曲を斬新にアレンジしたもの、そしてオリジナル曲などをときには重厚に、そしてときには軽快に演奏し、ハードルが高いと感じがちなクラシックを身近なものとして提示してくれている。なかでもベートーヴェンが遺した9曲の交響曲を4分に時短メドレー化した「DANCE!ベートーヴェン・シンフォニー」は特筆ものだ。彼らが挑む“時短”クラシックの数々、ここに至るまでの紆余曲折やそれぞれに込めた想いを3人に聞いた。

■「運命」や「ツィゴイネルワイゼン」は難しくて
■コンサートで弾くことを考えたらゾッとします


──結成12周年で12枚目のアルバムですね。12という数字について何か今回こだわったところはありますか?

KENTA:今回のコンセプトを考えるときに、12にまつわる言葉をいろいろと書き出しましたね。星座をはじめとしてギリシャ神話もそうですし、そして日本プロ野球球団の数も12とか。あと干支もそうですよね。12というのが一周するという意味合いがあるのが大きかったかな。だからクラックを原点としていた僕らが、原点に立ち返ってクラシックに取り組むということになりました。

──そもそも、この「時間短縮」の略である“時短”を発想したキッカケを教えてください。

KENTA:自分たちのキャッチコピーとして何か明確なものが欲しいというところから始まりました。いままではクラシックでもないしポップスでもなく、それらの橋渡しみたいな立場だったんですけど、テレビなんかに出させてもらったときに、“音楽界の異端児”と紹介されるときがあって、それがとても心地よかったんです。異端児って100%きれいな印象ではないんだけど、異端なこと、ちょっと飛びぬけたことをやりたいという意識がメンバー内でもあったんですね。そこで時短という言葉が出てきて、僕たちだからこそできる、クラシックを思い切り短くしてやってみようという発想になったんです。クラシック側から見ればいろいろと意見があるかもしれないけど、そういう思い切ったことをやってみようと。キャッチコピーにもつながるんですが、“時短クラシック”と言っちゃうことで、TSUKEMENのことがイメージしやすいんじゃないかと思って。

TAIRIK:アルバムを聴いてもらって、それからライブツアーを回ってみて、どういう手応えがあるかはわからないんですけど、自分たちにしかできないっていうところでは面白い取り組みだと思っています。


──簡単に言うと、長いクラシックの曲のおいしいところだけを抜き出してコンパクトに聴いてもらうということなんですか?

KENTA:それは根本にあります。印象的な部分だけを取り出して、クラシックに詳しくない人にも広く聴いてもらいたいということですね。それと、2つの曲をくっつけちゃって、なおかつ短く圧縮してみようという取り組みもしています。

──SUGURUさんは、この“時短”ということに対しての思いはいかがですか?

SUGURU:クラシックがいま流行らないことの大きな原因として、やはり長いということは大きいですね。聴いてみると知っているのに長すぎて1曲を通して聴いたことがない。40分の曲ってハードルが高いですよ。これは僕自身も感じていることなんです。フィギュアスケートなんかで、曲の象徴的なところが流れると興味がわきますよね。クラシック初心者の人にはそういう風に興味を持ってもらって、そして全曲を通して聴いてもらいたい。クラシックファンの人には、思い切り縮めた形も面白いと思ってもらえたらうれしいですし。まあ、これは今までもTSUKEMENでやっていたんですよ。前作の「月光」もそうですし、「ラ・カンパネラ」も「死の舞踏」もそう。プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」なんかは2時間くらいのを7分に縮めてやっていましたからね。でも、今回はそれを全面に出して、自分たちはこうやっていくんだということを大きな声で言いたい、ということなんです。


▲TAIRIK

──それで今回のアルバムになるわけですが、時短曲、2つを1曲にしたハイブリッドな曲、EDM、オリジナル曲という構成が面白いですね。この構成はすんなりと決まったんですか?

TAIRIK:そうですね、今までがオリジナル曲とクラシック曲などがごちゃ混ぜになっていて曲調や流れ、落差などで並び順をどうするかとかに頭を悩ませていたんですが、今回はクラシック、ハイブリッド、オリジナルとハッキリとわかれていて作りやすかったですね。聴く方もわかりやすいですしね。

──ではまずは「運命」から。音圧が凄くて迫力満点の出来になっていますね。

TAIRIK:これは楽曲の持っているパワーだと思いますね。これまで交響曲というジャンルにはなかなかチャレンジできていなかったんです。その中でも肉厚なベートーヴェンの「運命」ということで、あまりにも有名だし、楽曲の持っているパワーが凄いんですね。そういうことの印象だと思います。

KENTA:これは演奏していても、楽しいというよりも大変でした。演奏面でも大変だし、精神的にも緊張感が高い。一人でも気を抜くとリズムがヨレちゃったりとか。個人個人でしっかり音を紡いでいく緊張感や体力が必要だったですね。

TAIRIK:ニッコリとしながら弾く曲でもないんで、全員が波動砲を同時に撃つみたいな凝縮感がありました。最初の“ダダダダーン”から波動砲なので、それがズレたりして、合わせるにも体力がいりましたね。

KENTA:コンサートでの演奏を思うと、なんか緊張感でゾワゾワしてきますね。いま全然リハーサルとかができないんで、どうやって合わせてたんだっけ? って忘れちゃって(笑)。

──期待していますね。次に「新世界」の“家路”のところのピアノの和音感が美しすぎてシビレました。

SUGURU:これを編曲してくれた長生淳さんは天才です! 曲ごとに発案者が編曲者といろいろと話し合うんですが、どの楽章も素晴らしくて、でも“時短”だから良いところをピックアップしなければならない。とても悩みましたね。KENTAは「運命」の発案者だったんですが、かなり密にクラシカルに楽曲を解読して編曲者の長生さんと詰めてたみたいなんですが、僕は「新世界」はかなりポップな曲だと思っているので、あまり細かく分析はしないで、重くならずに直感的にアプローチしようと思ったんですね。第四楽章だけでいいかなとも思ったんですが、やはり有名な第二楽章の“家路”も使いたくて、長尾さんにお願いしました。素晴らしいアレンジですよね。


▲KENTA

──「ツィゴイネルワイゼン」もビビリますね。どこをどうやってつないでいるんだろうって。

TAIRIK:僕は原曲も弾いたことがあって、ジプシーの雰囲気があって、ピアノと一緒に演るときはリズムもピッチリしているなかでも自由度があって、まあ弾くことはそんなに難しくないんです。でも今回は高速で、相手がヨレたこととか、お互いの演奏を聴きすぎてしまうと、変なところに行ってしまって合わないんです。だから今回は原曲の5倍くらいは難しかった。このレコーディングは大変でしたね。

KENTA:これは難しかったね。

TAIRIK:「運命」もそうなんですが、この「ツィゴイネルワイゼン」もコンサートで弾くことを考えたらゾッとしますね(笑)。それくらい、内容の充実度としてはTSUKEMEN史上類を見ないくらいのものになっています。

KENTA:クラシックの比重を増やすとこうなりますね(笑)。

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