【取扱説明書】Mrs. GREEN APPLE ベストアルバム『5』、発売直前にその魅力と軌跡を徹底解説

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【chapter 3】お茶の間への躍進とターニングポイント

■広がり続ける可能性と
■注目すべき2つのポイント

その名を少しずつ広めていったMrs. GREEN APPLEが、一躍お茶の間へと躍り出たきっかけは、間違いなく「サママ・フェスティバル!」だろう。自身と同世代、あるいはさらに下の世代を意識し、歌いやすく、分かりやすいポップさへと振り切って制作された楽曲だ。そこには、注目すべき2つのポイントがあった。

ひとつは、大森がMrs. GREEN APPLEというバンドのイメージやメンバーの技量を意識せず、あくまでも“曲ありき”で「サママ・フェスティバル!」を作曲したこと。通常、バンドマンが作曲をする際、自分たちのイメージやメンバー技量を意識することで、“この曲調は合わない”とか“このフレーズは苦手かも”といった制限を知らず知らずに作ってしまいがちだ。大森はその枠を意識的に取り払い、何の制限も設けずに納得いくベストな曲を完成させ、出来上がった楽曲をバンド対してに寄せていくという手法を採用したのだ。これによって、メンバー自身も気づいていないMrs. GREEN APPLEの可能性が、少しずつ拡張されていくこととなった。


■レコーディング方法の変化と
■新たな“ミセス”カラー

もうひとつ注目すべき点は、この時期に彼らの口から、海外ティーンポップの影響が明確に語られ始めたことだ。ジャスティン・ビーバーをはじめ、ワン・ダイレクション、フィフス・ハーモニーなど、世界で活躍する同世代アーティストたちに共鳴しつつ、その音楽性を意欲的に自分たちの表現と融合させていく。「サママ・フェスティバル!」で試みたその方向性は、続く「In the Morning」でさらに推し進められ、新たなMrs. GREEN APPLEカラーを作り上げた。

「In the Morning」では、レコーディング手法にも大きな変化がみられた。それまで行なっていた、メンバーがスタジオで顔を揃えて“せーの!”で演奏する、いわゆる“一発録り”から、各パートを個別に録音して重ねていくオーバーダビングによるレコーディングへの移行だ。これにより、セッションによる快感やテンションの高さといったプレイヤーが陥りがちな感覚的なジャッジを排除し、より高いレベルの演奏を追求していくようになったのだ。

加えて同曲では、AメロとBメロでは小さなブースでドラムをタイトに録り、サビでは広いブースでワイドな響きを録るなど、音像感にもこだわっていった。こうしたスタジオワークは、ストリングスを取り入れた「鯨の唄」の壮大なサウンド感へと発展していく。そうした試行錯誤の末に完成させたのが、2枚目にしてバンド名を冠したフルアルバム『Mrs. GREEN APPLE』だった。



   ◆   ◆   ◆

【chapter 4】ライブバンドとしての素顔とメンバー個々の高い技量

■東京国際フォーラムでみせた真の実力
■そして新たなステップへ

『Mrs. GREEN APPLE』をリリースした5人は、自己最多の公演数となった全国ツアー<Mrs. GREEN APPLE MGA MEET YOU TOUR>を敢行。その後半には、初の挑戦となるホール公演が組み込まれ、ファイナルは、キャパシティ5,000人の東京国際フォーラム ホールAで開催された。

良くも悪くも、バンドのテンション感で会場の空気感を左右させられるライブハウス公演と異なり、ホール公演は、しっかりとした演奏力と演出、構成力があって、初めて観客を満足させられる。いわば、バンドの真の実力が問われる場所であり、次のステップへ進むパスポートが得られるかどうかという関門だ。Mrs. GREEN APPLEは、東京国際フォーラムという大きな空間を見事にソールドアウトさせただけでなく、2階席最後列の観客までが立ち上って手を挙げる光景を生み出し、ツアーを大成功に終わらせた。まさに5人がパスポートを手にし、新しいステップへと足を踏み入れた瞬間だった。


▲若井滉斗 (G)


■世界最先端トレンドとJ-POP
■その融合という大胆な展開

このツアー期間中には、感情を高ぶらせるギターにフルートの音色が哀愁を帯びるシングル「どこかで日は昇る」をリリース。さらにツアーを終えると、大阪と東京でメジャーデビュー2周年を記念する初の野外ワンマン<ゼンジン未到とロワジール>を開催。ここで彼らは、「サママ・フェスティバル!」から取り組んでいた洋楽サウンド路線に120%振り切り、大胆すぎるほどにEDMマナーを取り入れた「WanteD! WanteD!」を初披露した。

ハッピーなサウンドに紛れて、初期曲を彷彿とさせるシニカルで攻撃性の強い言葉を歌うと同時に、単にEDMという音楽の表層を拝借するのではなく、ダンスミュージックに欠かせない超重低音域をカバーするために、ライブでは高野がベース・シンセをプレイしたり、打ち込みによるリズムを再現すべく、ドラムの山中は同期と共にエレクトロニックパッドを叩くなど、バンドという概念そのものを破壊し、再構築していく試みが行われたのだった(なお、音源に関しては、ミックス&マスタリングにおいても、本場のEDMを熟知する外国人エンジニアを採用するなど、細部に渡ってこだわりの制作が行われた)。

こうして、2017年当時の世界最先端トレンドとJ-POPの融合を図ったかと思うと、今度は一転、音楽そのものの原点を探求する旅路へと歩みを進める。そこで出会ったのは、ディキシーランドやビックバンドといったジャズの世界だ。



■バンドという概念をあらゆる手段で解体
■上昇しながら辿り着いた原点への回帰

EDMからジャズへの道筋は、一見すると突拍子もない、ただの気まぐれに感じるかもしれない。しかし、ロックよりも遥か昔に誕生した20世紀初頭のダンスミュージックこそが、実はジャズなのだ。

ロックからバンドを始め、EDMへ行き着いた5人は、そもそも音楽とは何なのか、そしてバンドとは何なのかを改めて自問自答する。結果、「WanteD! WanteD!」とは真逆のアプローチによって再びバンドの概念を再構築し直す。そして、パート編成や使用楽器の枠にとらわれない自由な発想で「Love me, Love you」を作り上げると、テーマパークを彷彿とさせる多種多様な音楽が楽しめるエンタテインメントアルバム『ENSEMBLE』を完成させた。



このアルバムの制作作業と、これまで以上にショーアップさせた演出を取り入れたホール&アリーナでのリリースツアー<Mrs. GREEN APPLE ENSEMBLE TOUR>により、5人はバンドアンサンブル力を飛躍的に向上させる。各パートがスリリングな緊張感を持ってプレイする「アウフヘーベン」も、このアルバム制作があったからこそ形にし得たアンサンブルだったかもしれない。これでやっと目標達成……といって休む間もなく、次に大森が目指したのは、原点回帰。

バンドという概念をあらゆる手段で解体し、プレイヤーとして十分すぎるほどのスキルと経験を手に入れた5人が次に挑戦した「青と夏」では、デビュー前の『Progressive』や『Variety』、『TWELVE』時代のバンドサウンドを展開。Mrs. GREEN APPLEは、再び大きく舵を切ったのだった。

ただしそれは、ぐるりと円を一周して元の位置に戻ったのではない。らせん階段状にステージを上昇しながら辿り着いた原点への回帰だ。大森がボーカリストとしての実力を如何なく発揮した「僕のこと」、そしてCM曲として採用された「ロマンチシズム」では、CMでオンエアされた“イマドキドキドキが高ぶって”というサビと、楽曲をフル視聴することで初めて聴ける“愛を愛し恋に恋する”という、哲学的なもうひとつのサビを用意するという“2サビ構成”を発明するに至った。こうして、誰もが認める傑作『Attitude』の高みへと、遂に辿り着いたのだ。



■目を見張るメンバー個々の成長
■わずか5年でトップアーティストへ

そして2019年12月から、3ヵ月にわたる初のアリーナツアー<Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR エデンの園>を実施。そのステージにいたのは、デビュー当時と見違えるほど音楽的に“大人”になったMrs. GREEN APPLEの姿だった。

ドラムの山中は、ドラムセットをオーケストラの打楽器群のようにメロディアスにプレイし、人間的なリズムと機械的なダンスビートの狭間を絶妙なバランスで往来する。ベースの高野は、エレクトリックベースとシンセベースに加え、コントラバスやチェロまでをもプレイするようになり、曲によってバンドアンサンブルの重心をコントロールする存在となっていた。


▲山中綾華 (Dr)


▲藤澤涼架 (Key)

キーボードの藤澤は、プレイの勢いや熱量に加えて、和音やタッチの表現によって曲の疾走感や躍動感、あるいは壮大さ、荘厳さを彩っている。さらにライブアレンジをはじめ、「インフェルノ」に取り入れられたホーンセクションのアレンジも、彼の手によるものだ。そしてギターの若井は、歌い、語るような独自のギタープレイに7thや9thといったコードワークを散りばめる。さらには、ギターのサウンドメイクや機材のセレクトによる細かな音色ニュアンスまでをも追求。このアリーナツアーで見せたギターヒーロー感みなぎるパフォーマンスには、大いに目を見張るものがあった。

そして、ソングライターでありボーカリストの大森は、楽曲制作時にはプロデューサー目線でバンドの舵を取り、ステージでは息遣いひとつで観客の感情を大きく揺さぶり、聴き手の魂を解放させる歌声を響かせた。

わずか5年。されど5年。Mrs. GREEN APPLEは、きっと誰よりも濃密に、そして実りある時間を駆け抜けたのだ。

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