【インタビュー】植田真梨恵、3rdアルバム『ハートブレイカー』完成「自分が生きて死んでいくなかでいちばん意味のあること」

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■愛って具体的になにをするんですか?って
■そういうことをずっと考えていました

──その後に到着したデモが、徳永暁人さんの「まぜるなきけん」だったということですが、生のバンドサウンドとは真逆のデジタルな仕上がりで。しかも、ここまで突き抜けた曲とは(笑)。

植田:徳永さんがいちばん、どんな曲がくるのか読めなかったですね。ものすごく美しい旋律のバラードかもとも思っていたんです。そういうなかで、場面展開が多くて、クラシカルであり、プログレッシヴでもあり、ものすごいロックな曲がきて(笑)。

──はい。インダストリアルな感じもあれば、急にパンクなパートが挿入されたりと目まぐるしい曲ですよね。ミニマルなブレイクビーツから音色マックスなサウンドもある。その振り幅を繊細に組み上げていく曲は徳永さんならではですが、まさかこういう曲を植田さんに!?というのが意外で面白かったです。

植田:そうですね、やり切りましたね。やっぱりいろいろな音楽を聴いて面白がっておられる徳永さんだからこそのカッコよさは他にないなって。“私、これ歌えるかな?”って思いながら、歌詞を書かせてもらいました(笑)。この曲はデモ段階で99パーセント完成していて、サビのところで徳永さんが、“C&P”って歌っていたんです。私が歌詞を乗せたことで、そのノリを変えてしまいたくなかったので、元の語感を活かしつつ、歌録りのときもガイドで徳永さんの声を聴きながら、声の切り際のタイミングまでそのままコピーするつもりで歌いました。

──自分自身でここまで詰め込まれたアレンジへ持っていくというのはなかなか難しいですか?

植田:思いもしないですよ。ひとりでここまで完結させられる知恵と経験はないです。徳永さんはアカデミックな裏付けがちゃんとあって、それゆえこれだけの自由さが作れるんだろうなと思うんです。すごいです。

──1曲目のタイトル曲「heartbreaker」から、ライブでも披露している配信シングル「WHAT’s」ときて、「まぜるなきけん」が3曲目に位置していることで、アルバムの展開が一気に予想のつかないものになりました(笑)。そして大野愛果さん作曲の「眠れぬ夜に」はファンタジック。植田さん自身もファンタジックなものがお好きでしょうし、ふたりの嗜好性は共通項が多そうですね。

植田:とても美しいメロディーを作られる方ですし、そんなに共通点があるとは思っていなかったんですよね。でも少しお話しさせてもらった時に、大野さんもディズニーランドがお好きだとか、あと、カラオケで広瀬香美さんの曲をよく歌っているという共通点がありました。

──そんな共通点が(笑)。「眠れぬ夜に」はファンタジックな濃度をとことん上げた楽曲でしょうか?

植田:全17曲のなかでいちばんポジティヴな曲ですね。悪魔っぽい要素の強いアルバムの中で、天使のような立ち位置の曲にしたかったんです。例えば自分がかわいらしい雰囲気のものを作ろうとしても、そこにこんなに大変なメロディは書けないというか、もうちょっと優しいメロディにすると思うんですね。このかわいらしい感じと優しくない感じが絶妙で、芯の強いメロディがしっかりと合わさってカッコよく歌えるファンタジー曲だと思います。

──歌詞の世界がサウンドとマッチしてすごくいいですね、特に優しく包み込むようでもある。

植田:はい。このアルバムにおける、唯一の飴みたいな部分ですね(笑)。

──確かに他の曲は、感情のいろんな部分を抓られるようですから。アルバムのテーマは“愛”ですが、いわゆる愛の大きさではなくて、愛が持つ怖さや不思議さだったり、だからこその強さとか。愛というワードから、いろいろなことを考えさせられるアルバムで。“愛=包み込む大きなもの”っていう方向にはいかないんですね?

植田:自分のなかで今、そういうものを持ち合わせていないからかもしれないです。“愛とは”というなかでは、この「眠れぬ夜に」が今はいちばん自分が思っている温かで優しい愛のイメージかもしれないですね。

──他の曲で書いている愛は、まだ愛とはなにかを見つけていく過程みたいな感覚ですか?

植田:そうです。そもそも自分が、まさか愛というテーマでアルバムを作るとは思ってもみなかったんです。でも楽曲「heartbreaker」ができてからは、考えざるを得ないと思いました。人と人だったり、ひとりで立つということだったり。そういうことから愛が浮かび上がってきて……それは、過去や未来という時間にも、誰かとの関係性にも、縦軸にも横軸にも繋がっているもので、その真ん中にいるというイメージで書いていった曲を集めたアルバムが『ハートブレイカー』なんです。

──「heartbreaker」の “誰かと誰かの血を分け合っても まだ愛と呼べないの?”というフレーズが印象的です。

植田:そういう思いを抱えているからこそ、こういう曲を書いたのかもしれないですね。相手と血を分け合って子どもを持った二人が、例えばいろいろあって別れてしまったとして、その子どもが大きくなったときに、“まだ相手を愛していますか?”と聞いて、“いや、愛してない”という答えだったら、悲しいなって。きっと言いようのない思いが二人にはあるんじゃないかなって。私は今、30歳を目前にしているわけですけど、両親や上の世代の方々の子どもが成人して、実際にどういう気持ちで生きてるのかはわからない。でも、好きとか嫌いでは語れない思いこそ、愛と呼ぶしかないんじゃないかなと思ったことから書いた曲だったんです。

──「heartbreaker」では傷つくことと愛すること、これが表裏一体になってる?

植田:今はそういう結論ではあるんです。これはきっと変わっていくことだと思うんですけどね。

──こういった曲が生まれていった背景に、なにか愛について考えさせられることがあったのでしょうか?

植田:自分の周りでも友人が結婚したり、両親のことを考えたり。自分の未来を見つめたときに、どうしても結婚とか、子供が生まれるとかを考えるんですね。子供がいないとか結婚をしないとか、いろいろな共存の仕方があるなかで、あえて結婚を選ぶことだったり、自分が生きて死んでいくなかでいちばん意味のあることって何だろう?って。私にとってそれは、歌を書くことであり、歌うこと。人によってはお金を稼ぐことかもしれないし、動物的な話で言えば、子孫を残すことかもしれない。いろいろな大事なことを投げかけられた状況で、私としての答えはこれだったんです。

──女性が子どもを産むとなった場合、年齢的なリミットも考えざるを得ませんしね。

植田:そうですね。なにをして生きてどう死ぬのかというなかでの、ひとつの疑問。“愛って具体的になにをするんですか?”って。ひとつも答えは見つけてないかもしれないけど、そういうことをずっと考えていました。

──そのきっかけとなる「heartbreaker」はいつ頃できた曲だったんですか?

植田:今年3月半ば頃、ちょうどアルバムの曲をひたすら書こうと、日々、メラメラと取り組んでいたところで書いた曲ですね。その頃は、「Black Cherry In The Dirty Forest」ができていたかな……まだアルバムの全体像が見えてなくて、こういう遊び心のある曲もいいなと思いつつ、全然確信に迫ってないと思いながらアルバムの曲を書き続けていました。次にできたのが、最後に収録した「ERROR」で。でも“今回はバラードは入れたくない”と思っていたから、もっと良い曲こないかなと思ってたら、その次に書けたのが「heartbreaker」でした。

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