【インタビュー】植田真梨恵、3rdアルバム『ハートブレイカー』完成「自分が生きて死んでいくなかでいちばん意味のあること」

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植田真梨恵が8月26日、3年8ヵ月ぶりとなるメジャー3作目のフルアルバム『ハートブレイカー』をリリースする。CD最大収録時間ギリギリまで詰め込まれた全17曲は、ひらめきとアイデアに溢れて痛快この上ない。アグレッシヴな楽曲構成はもとより、スケールアウトも転調も上等、生楽器も打ち込みもなんでもござれな多種多様サウンドは、“心がワクワクする”というコンセプトのもとに集約されたものだ。しかし、それらは決して難解でノイジーなものではない。“新たな音楽の発明”という意思と植田真梨恵というアーティストのチャレンジとセンスが、楽曲にポピュラリティーを吹き込むことに成功している。

◆植田真梨恵 画像

アルバム『ハートブレイカー』全編に流れるリリックのテーマは“愛と血”。“生きていくこと”という壮大なモチーフを手の届く日常にまで昇華したメッセージが心を奮わせ、かき乱す。混沌とさせながら新たな地平を切り拓くサウンドは、“愛とは” “血とは”という命題をよりドラマティックに演出するが、無用な装飾を省き大上段に構えない言葉とスタイルに、30歳を目前とした植田真梨恵の等身大が浮かび上がる仕上がりだ。

全17曲のうち半分近くの楽曲に作曲家を迎えた自身初の試み、“胸が張り裂ける思いをさせる人”というテーマ、歌うということ。すべての情熱を懸けて真摯に制作された植田曰く「金字塔となるアルバム」について、じっくりと話を訊いた10000字オーバーのロングインタビューをお届けしたい。

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■小さい頃から夢見ていた歌手に
■やっと近づいた気がしました

──アルバム『ハートブレイカー』が完成しました。これまでのインタビューやライブでもいろいろとヒントが出ていましたが、想像以上にチャレンジが詰まったアルバムです。キーワードとして挙げられていた“ワクワクする”もそうですし、新しい部分への追求やこれまでと違う角度のアプローチが新鮮で。しかも植田さんの心境の深い部分に触れることのできるアルバムだと感じています。まず、今回のアルバムについて、いつ頃からどういうものにしようと考えはじめたんですか?

植田:昨年10月に配信シングル「Stranger」をリリースして、穏やかだったモードからちょっとずつテンションが上がってきたんですね。“ワクワクする方向”に向かっていくことへとシフトしたのは、メジャーデビュー5周年のライブ<PALPABLE! MARBLE! LIVE!>のなかで、みなさんに「アルバムを作ります」って話をしたときでした。そこでアルバムの方向性が固まったと思います。

──今回は初めて、いろいろな作家やアーティストの方々に作曲をお願いしていますね。結果、それはアルバム収録曲の約半数近くになりました。自分の作曲ナンバー以外の曲を演ってみてもいいんじゃないか?というのも、その頃に出てきたものですか?

植田:今はわざわざ“CD”を出さなくても、“配信”でリリースされる作品も多い状況で。“これからは当たり前のようにCDをリリースしていくことがなくなるかもしれない”と思ったところもちょっとあって。CDのプレイヤーを持っていない人も少なくないし、PCにもCDドライブが付いていないくらいですから。そう思ったときに、せっかくCDを作るのであれば大切に作りたいと思ったんです。時代感というか、私を育ててくれた1990年代の音楽たちをしっかり意識しながら、それでいて王道。かつ奇妙な(笑)。“そういう1枚になれば面白いんじゃないか”って思って、情報量の多いものを作りたいと思いました。

──作家陣にお願いした際、植田さんから作家へ宛てたお手紙を拝見しました。ものすごく熱量の高いお手紙で、今作への想いが伝わるものでした。それにしても、作曲家への要求ハードルがかなり高いなっていう内容でしたが(笑)。

植田:そう思います(笑)。

──“誰も聴いたことがないような音楽”であり、しかし単に自由にやってくださいということではなく、“ワクワクする”、“美しくあり”、“奇妙であり”など、これまでとこれからの植田真梨恵像を作り上げるようなオーダーですね。みなさん、その感覚をとらえて、考えてひねり出してくれたんだろうなということは、それぞれの曲を聴いて感じました。

植田:本当にそう思います。すごく悩んでほしかったし、逆にまったく悩まずクセ満載のものでもよかった。あまりこねくり回しすぎず、手垢をつけすぎず、その人の思い描く歌のままで、植田真梨恵として演れたらキレイだろうなと。作家陣には初対面の人がいたわけではなくて、むしろとてもよく知っている人たちにお願いをしたので、“こんなのどう?”というやりとりがシンプルにできる方と演りたいなと思いました。

──みなさん、植田さんを知っているがゆえの変化球を考えてくれたようですね。先ほど話に出た「1990年代の音楽を意識する」というのは、どういうことですか。

植田:実際に1990年代にどんなものを目指してみなさんが音楽を作られていたのかわからないですけど、でもある種、その当時作られたものは発明であったと思うんです。そういう、刺激的で、新たなセオリーを作るような気持ちで、みなさんに作ってもらいたいなって。1980年代以降、また新たにいろいろなサウンドが出てきた時代じゃないですか。もちろん生のサウンドもあれば、打ち込みも進化して、フォーマット化されてないというか、畑を耕すような感じがあったと思う。そういうところを今、あえて模索できたらいいなと思っていました。実際にその時代に曲を書いてこられた方も今回の作曲家のなかにはいらっしゃいますし。みなさんのひらめきとかアイデアを、しっかりとお借りしたかったんです。

──今までの自分の曲作りとは違うセオリーも多かったと思います。そこを歌い手として解釈していく作業はどうでしたか?

植田:とにかく嬉しくて。小さい頃から夢見ていた歌手にやっと近づいた気がしました。

──曲がなかったからこそ、自分で作り始めたのが植田さんのシンガーソングライターとしての原点ですからね。ようやく、誰かに曲を書いてもらうことが実現したアルバムなんですね。

植田:とてもありがたいことですね。やっぱり自分で作った曲は、ある種私の中にあるものだけが正解になってしまうけど。でもそうじゃなくて、他の人に違う視点で作ってもらったメロディで、私の歌声をうまく使ってもらうことができる。というか、単純に自分のものではないメロディを歌うことも難しくて、楽しかったです。

──作家さんにお願いしたなかで、最初に上がってきた曲は?

植田:最初が川島だりあさんの「my little bunny」で、次が徳永暁人さんの「まぜるなきけん」だったかな。

──「my little bunny」のパンキッシュで荒々しい感じって、これまでの植田さんにはありそうでなかったタイプですよね。

植田:自分の作るものはもう少し地味で、ついつい渋めにいっちゃうんですけど、だりあさんのメロディは、すごく華やかですよね。旋律がゴージャスというのが、最高。最初に1コーラス分のデモをいただいて。それはボッサっぽいピアノのバッキングとパンクなパターンのリズムトラックを鳴らして録っている感じのデモでした。その1コーラスのところから歌詞を書いて、フルコーラスに仕上げていきました。

──この曲のアレンジはライブでもおなじみのバンド“いっせーのせ”名義ですが、スタジオで完成させた感じですか?

植田:そうですね。でも、だりあさんのデモからそんなにガラッとは変えてなくて、最初からあったパンキッシュなビート感はなるべく崩さずに、プラス、ピアノのちょっとラテンぽいようなノリっていうんですかね? そういう大人っぽさもそのままで、ドラム、ベース、ピアノのスリーピースに落とし込むアレンジをしました。だりあさんは「エレキギターも入れたい」とおっしゃっていたんですけど、アルバム全体のバランスをみて、“あえてアコースティックギターのほうがライヴっぽさが出るかな”って。人力感が強いというか。

──確かにピアノとビートのテンションの高さが最高で、ボーカルとコーラスのアンサンブルも熱量も高くて。

植田:バンドメンバー3人の運動会みたいな、“えんやこりゃっ”ていう感じのアンサンブルですね(笑)。みんな挑戦するように、転げまわっているような。

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