【連載】中島卓偉の勝手に城マニア 第99回「古宮城(愛知県)卓偉が行ったことある回数 1回」

ツイート

土塁の城で、保存状態が極めて高い城、1500年代にタイムスリップしたかのような感覚にさせてくれる城もそうは多くない。城の周りが湿地帯で、現在も田んぼや畑、山に囲まれた場所にあることで、現代的な景色が少ないおかげもあり、まさにプチタイムスリップを味わえる最高な城だ。


築城は1571年、武田信玄公が馬場信春に命じて築城させたとのこと。歴史にほとんど出て来ず詳しく書かれていない城だけに謎も多い城だ。三河の徳川を威嚇&攻略する意味で建てられた城であるらしいが、残念ながら長篠の戦いの後に急激に衰退していった武田氏、1573年には徳川連合軍に攻め落とされ廃城となってしまう。支城とはいえこの地を治めた期間がたったの3年もなかった城である。その後これほどの城を誰も使わなかったことも感慨深い。平地に築城する平城が主流になり、結構な標高の高さに建てられた城だけに、石垣を運ぶにも大変だったことが考えられる。土塁から石垣の城の時代へ、山城から平城の時代へ移り変わっていく中で、武田氏の城は流行には乗らず、土塁、空堀を貫いた。オートマじゃなくマニュアルだぞ!と。スマホじゃなくガラケーだぞ!と。令和、平成じゃなくむしろ昭和だぞ!と貫いた。だがそれで城を守り抜けなかったことは歴史が証明している。今日までひっそりとその佇まいが残され、見学する人も少なかったのか、とにかく保存状態が良い。保存状態が良過ぎて、新築のような城の若さすら感じてしまう。それが城マニアにとって嬉しくも悲しくもある。唯一変わった場所があるとしたら城のサイドに建てられた白鳥神社だ。これは後付けである。


決して大きな面積を持つ城ではない、そして城山もさほど高さはない。よって見学もしやすい。夏であっても生い茂った木のおかげで城内は涼しくもある。現在は綺麗に整備もされており、完全な廃墟感は薄くイマジンも広がる。まずこれに感謝である。白鳥神社の入り口の鳥居の向きが城の大手かと一瞬思うがそれは違う。かと言ってどこが大手かはわかっていない。城の西側の角に民家が建っているが、ここが大手だったと推測する城マニアは多いようだ。最初に書いた通り、当時は城の周り一帯が湿地帯であり、城のどの部分にもしっかりとした土塁と空堀が存在するので搦手を推測するのも難しい。城の西側の空堀が何重にもなっていることを考えるとこっちが大手かと思うが、搦手だからこそ守りが固いのだという考え方もある。そのイマジンがまた楽しい。大手が何処であれ、城のど真ん中に大堀切があり、真っ二つに、おしり探偵のように城がセパレートされている。当時はもっと深い堀だったことを考えると、どっち側から攻められても最後の足掻きを見せつける為に作られたようで身震いする。右ケツから攻められたら左ケツで対応。左ケツを攻められたら右ケツで対応。うわ~ケツが半分に割られてしまった!いやいやケツはもともと生まれた時から半分に割られているではないか。たまに本当に意味のないことを書きたがる私である。



曲輪から曲輪の移動は必ずと言っていいほど虎口になっており、喰い違い虎口も垣間見れる。升形になった土塁は高さもありその先の曲輪は常に見えない。本丸と西の丸に到達するまでは縦長の曲輪が多く、それらはすべて素早く戦闘態勢に入れるように作られた戦いの為の曲輪であることがわかる。白鳥神社の横には長い竪堀が1本伸びており、城内に攻めて来てもここで蹴落とすことも可能だ。城を覆うように空堀が張り巡らされているが大堀切の下には溜池もあり、その先は水堀も残っている。もしくはここが地形的に水が溜まりやすく水堀にするには一石二鳥だったのかもしれない。


古宮城の魅力はやはり、西の丸の下に作られた何重にもなる横堀&空堀だろう。数えると5重くらいになるだろうか?この徹底した感じがまさに武田氏の城と言った感じだ。下から見上げるとまさかそこまでの空堀が掘られているだなんて思いもしない。ベビーフェイスで脱ぐとめちゃマッチョ的である。戦意を無くす為に作られてもいる気がする。コンテストで勝つ為にはテカリと日焼けも必要かもしれない。その空堀は城内で曲がりくねり、導線としても機能。途中空堀から水堀になったりもしてお洒落だ。それも雨の量により役目を変えるのかもしれない。その筋肉のテカリに霧吹きで水かけても良いぜ、きっと歯も真っ白にした方がらしくなるぜ、おっと!脇毛はどうする?じゃあライティング明るめで飛ばして撮影を続けてみようぜ的な感じである。本当に意味がわからない。

その何重にもなった空堀を歩いて散策してみたが、どこまでも横に伸びており、また深さもあり、見上げた土塁も高さと急斜が素晴らしい。これが今日までこの保存状態であることに痛く感動する。FOREVER YOUNGにも程がある。ボブ・ディランもびっくりだ。

西の丸が最初に来る大きめの曲輪になるが、ここの真ん中に仕切り土塁があり、同じ曲輪であってもどちらの方向にも奥を見えなくする仕組みだ。これも諏訪原城や新府城しかり、まさに武田仕様である。そこから本丸と二の丸に渡るのに太い土橋があるが、ここは当時は広沢タダシ氏の身体くらい細かったと推測。本丸を正面に見て、右側は崖とも言える縦堀が1本、左側も大堀切だ。ここを太い土橋にしていたらどんどん侵入されて攻められてしまう。



本丸の升形を超えると土塁の角に櫓台がある。ここがこの城で一番高い場所になるので、天守とは言わないものの、天守扱いの物見櫓が建てられていたとイマジン。さっきの土橋を渡るのに目の前の高い土塁の上には櫓が建っていたのかと考えると威嚇はバッチリだと言える。この上からSATURDAY NIGHT FEVERのジョン・トラボルタのポーズでお出迎えしたい。本丸と東二の丸の真ん中にも仕切り土塁があるが、この土塁は幅があるので単なる仕切りではなく、何かしらの長細い建物、多聞櫓的な建造物がこの土塁の上に建てられていたのではないか?と推測したい。そう考えると本丸は縦長で面積が狭く、同じ高さにある東二の丸の方が広い。東二の丸からもよく見ると城の裏側に向かって竪堀がセイウチの牙のように二本落ちているのが確認出来た。まさにI AM THE WALRUS。こっちはもはや崖、崖に盛った土塁と言える。真っ赤なアメ車でこの崖を落ちればまさにテルマ&ルイーズではないか。あの映画に若かりし頃のブラッド・ピットが出演していることを知っている人は意外と少ない。

本丸を一度出てトラボルタを見上げ、大堀切を歩いて溜池に降り、そこから時計回りに歩いていくと、城の一番外に縁取られた空堀が延々と続いている。こちらは空堀&横堀がどこもかしこも張り巡らされたわけではなく東二の丸に向かって段々になっており、なだらかな部分と急斜面の部分がある。だが上に登るにつれ空堀が登場し、そしてまたその空堀は深い、そして何よりもその深さが下からは想像がつかない。唸る。意地悪過ぎる。武田氏に拍手である。城山の麓には馬場跡もあり、馬を休ませておくスペースも確保。そう考えるとやはりこっちが城の搦手だったのではないかと思う。

たったの3年しか存在出来なかった城。当然ながら増築の計画もあったはずだろう。未完成のまま攻め入られ滅びてしまった古宮城。暮らす城ではなく戦の為だけに建てられた武田の城の雰囲気が十二分に伝わって来る。武田の城は暮らす城という感じがほとんどしない。常に攻めの状態、男、筋肉、体脂肪、三日月堀こそないが丸子城と同じ空気を感じた。それくらい武田の城は底知れぬ魅力があるのだ。武田マニアなら是非訪れてほしい城である。武田マニアじゃなくても城マニアとしてこれほどに唸る城もそうはないと言える。信玄公が病死する三年前に築城し、亡くなった年の暮れには廃城になってしまった古宮城。家督を継いだ勝頼公も武田家をまとめることが出来ず、戦には負け続け、天下統一が出来るはずだった武田氏はとうとう滅亡してしまう。その武田氏滅亡の最後の何年かの歴史に登場する古宮城だ。武田グルーヴをビンビン感じてもらいたい。復元イラストによる古宮城絵図が素晴らしい「ワイド&パノラマ 鳥瞰 復元イラスト日本の城」香川元太郎さんのこの本も超お勧めである。


さて、余談だがこのコラムも約10年近く?書かせていただき、次回でおかげさまで100回目となる。50回目の時は城の話題ではなく織田信長公暗殺について熱く語らせていただいた。100回目もちょっと趣向を変えて、卓偉が思う中世の城ベスト、こういう感じで企画して書かせてもらおうかと思っている次第である。いや、本当はもうネタがないだけである。城マニアとはいえ、行けてない城、ガキの頃に行っただけで、今もう一度見てみないと書けない城もたくさんある。特に九州地方の城はガキの頃に親父に連れて行ってもらったきりになっており、さすがに30年前の記憶だけじゃコラムは書けない。それがネタがない言い訳である。まだまだ城マニアとして未熟な私であるが、このコラムを書くにあたり、どっちかと言えば石垣の城よりも土塁の城の方が好きだということがわかった。若い女性よりもいくらか経験があるナイスミドルな女性の方が好きということである。買ったばかりのキャッチャーミットより、使いこなしたミットの方がキャッチした時の感触と響きが違う、ということである。よって中世の山城のベスト10でも良いし、中島卓偉のお勧めの城を紹介する回にしたい。城マニアから見てやっぱりこの城すげえのよっていう城を改めて紹介してみたいと思っている。ってなわけで一度ここで城マニア目線のお勧めの城紹介、やりたいと思います。来月乞うご期待!いや誰も期待してねえわ。

あぁ 古宮城、また訪れたい…。

◆【連載】中島卓偉の勝手に城マニア・チャンネル
この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス