【インタビュー】GLIM SPANKY、5thアルバム完成「進化し続けていることが伝わるような作品に」

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■孤独というテーマをいろいろな人の
■気持ちになって書いていきました

──なるほど。ところで今回、mabanuaさんと作った「Up To Me」は、GLIM SPANKYとしてはかなり斬新な曲なんじゃないですか?

松尾:ありがとうございます。これ、自粛中に弾き語りで作ったんですよ。

──え、弾き語りから作ったんですか。それはかなり意外です。

松尾:そうですよね。リズムから作ったと思われがちな楽曲ですよね。強い意思が感じられる楽曲を作りたいと思った時に、それこそアリシア・キーズの「Underdog」みたいなリズムで歌いたいと思って、それっぽい雰囲気でアコギを弾きながら作ったんですけど、そういうリズムならドラマーであるmabanuaさんにプロデュースしてほしいと思ってお願いしました。

▲『Walking On Fire』通常盤

──ヒップホップのトラックメイキングに通じるところもありますが、クラップがゴスペルぽくって、曲調はメランコリックなのに全体の印象としては高揚感がある不思議な曲になりましたね。

亀本:こういう感じのデモをフル尺で作ってあったんですけど、音色も含め、mabanuaさんにブラッシュアップしていただいて、最終的な仕上がりとしては、よりブラックミュージック色が強くなりましたね。ゴスペルぽいっていうのは、そういうところだと思います。

──「強い意思が感じられる曲」とおっしゃったように歌詞にははっきりとしたメッセージが込められていますね。

松尾:昨年、GLIM SPANKYがアルバムを出さずに、いろいろなフェスやイベントに出ていた時、女性ボーカルはGLIM SPANKYだけとか、他のバンドもメンバーの中に女性がひとりだけとか、そういうことが多くて。でも、海外のフェスを見ると。

亀本:男女比は半々ぐらいだよね。

松尾:で、「こういう現象って日本特有なんじゃないか」と亀本と話しているうちに、これまで「女でロックを歌っているのって珍しいね」とか、「凄いね。女なのにロックやっているんだ」とか言われて、言われるたび、男性と女性で何か違うことがあるんだろうかって考えたことを思い出したんです。私は私のやり方でやっていこうと思っているんですけど、こういう現象って社会の中では、もっと起こってますよね。もちろん、性別に関係なく、一人一人の人間の問題だと思うんですけど、そういう男尊女卑という状況に対して、女性が悲観的になっているんじゃないかとも思ったんですよ。あくまでも私の予想なんですけど、女性の側も、何かを変えてくれる誰かを待っているんじゃないかって。でも、自分たちで行動していかなきゃ変わらない。そう思って、白馬の王子様を待っているんじゃなくて、自分から変えていかなきゃと考えたことがきっかけで、「Up To Me」を作り始めたんです。自粛にならなければ、悔しい思いをした記憶を思い出してまで考えなかったと思うので、ある意味、自粛期間だったからこそできた曲ですね。

──“白馬の王子様なんて何も与えてくれないよ”と歌っている、その「Up To Me」もそうなのですが、今回の歌詞からは孤独を受け入れた上で、周りに惑わされずに自分の生き方を貫こうという覚悟が窺えました。

松尾:やっぱり、自粛期間中は孤独で辛かったので(笑)、もう本当にダイレクトに。さっきも言ったように、いろいろな角度から時代を切り取りたいというところから、孤独というテーマをいろいろな人の気持ちになって書いていきました。その中でも、「Up To Me」は女性目線と言うか、塔の上に籠っているラプンツェルや海の底で陸に上がるのを怖がっているアリエルの視点で書いたんです。


──「東京は燃えてる」は何回も書き直したとおっしゃっていましたね。それはどんな部分で?

松尾:まず、私が書きたいと思っていた東京──東京と言っているんですけど、それは聴いてくれる人が住んでいるところだったり、戦っている場所だったり、戦っているものに置き換えて聴いて欲しいんです。そういう東京は歓びもあり、悲しみもあり、幸せもあり、絶望もあり、それが入り混じって、燃えているようだっていう表現を、ある意味、フラットな目線で書きたいと思ったんですね。その中で幸せと絶望、どちらを選ぶのか決めるのも自分だし、どっちを選んだとしても、結局は、どこで自分が何をしていくかがすべてだ、というメッセージを最後に入れたいと思って、“何度も灰になって 何度だって命燃やしてるんだ”って歌詞を書いたんです。だけど、幸せも絶望もあるというところで、悪くも書けないし、良くも書けないしっていうその中間地点を探るのが歌詞の表現として難しかったです。それと、東京ってこういう街だというふうに表現する上で、説明だらけになってしまうのが悩んだところで、自分の感情も含め、上手に説明しながら、ちゃんと詩になっているか。書きたいメッセージがあるからこそ、どうやって説明したらいいんだろうってところで悩みました。

──その他、歌詞を書く上で新たな表現を試した曲はありますか?

松尾:「こんな夜更けは」は敢えて、どストレートな言葉で書きました。“君に会いたい”って直接的な言葉じゃないですか。ロックミュージックってカッコいいか、カッコ悪いか、どっちに転ぶか紙一重だと思うんですけど、それと同じで、どストレートな言葉を使って、ちゃんと響く曲にできるミュージシャンなのか、薄っぺらい音楽しかできないのか。歌の表現力とメロディメイクの力も試されるという意味では新たな挑戦でしたね。あと、「若葉の時」はピアノで作ったんですけど、私、ピアノが全然弾けないんですよ。

──え、そうなんですか。

松尾:弾けない楽器で曲を作ったらどうなるか、実験をしてみたんです(笑)。レコーディングでは、いつもサポートしてもらっているゴメスさん(中込陽大)に弾いてもらったんですけど、作る時はコードがわからないまま、自分の頭の中で鳴っているメロディに合わせて鍵盤の上を探しながら組み立てていったんですよ。

──曲の作り方も新たな挑戦だったわけですね。

松尾:そういう作り方をしたので、メロディが先行して、逆にそれがプレッシャーになったんです。本当にいいメロディができたと思っていたので、そこにどんな言葉を乗せたらいいんだろうっていうところで悩みました。だからこの曲は、キャッチーな言葉やリフレインする言葉ではなく、頭の中に浮かんだ経験や風景を素直に書こうと思って、「東京は燃えてる」とは全然違う脳で書いたんです。そういう振り幅を持たせて、歌詞は書きました。

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