UNKNOWN season、レーベル10周年

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Yoshi Horinoが主宰するレーベル“UNKNOWN season”が10周年を迎える。

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この、レーベル設立10周年を記念し、6種のコンピレーション・アルバムの発売、YouTubeチャンネル「UNKNOWNseasonTokyo」でのミュージック・ビデオ公開、DJミックス/未発表曲のフリーダウンロードなどさまざまなリリースが予定されている。まずはUNKNOWN seasonの全貌を知ることができるTaichi Tsuiji(HOUSE VIOLENCE)による「UNKNOWN season label history」をご覧いただこう。

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■真にインターナショナルなレーベルであること

ハウスという音楽は西欧に最大級のマーケットを持ち、世界各国のレーベルがロンドンやベルリンの動向を意識しながら独自のカラーや戦法をもって活動している。諸説あるだろうが、筆者の見解はこうだ。他方、ここ日本のシーンを眺めてみると、DJこそ成熟したファンベースを有するものの、プロデューサー(いわゆるトラック・メイカー)の比率は諸外国よりも低い印象で、レーベルの絶対数もまた同様。

そうした中で10年もの間、世界へ向けて着実にプレゼンテーションを行い、力を蓄えてきたレーベルが存在する。Yoshi Horino主宰のUNKNOWN seasonだ。詳しく知らなかったという人も、まずはJad Cooper feat. Jesse O『DREAMZ』やFLAVVIO『TRIP TO JUNO』などの近作を聴いてみよう。ユーフォリックかつ色気のある響き、輪郭のはっきりとしたビッグな音像にワールド・クラスのクオリティ、そして視座を感じるはず。また昨夏のコンピレーション『HOUSE TREE 2』の陣容を見るだけでも、Phaze DeeにSid Vaga、Rick Wade、Guriといった欧米の練達、Hideo Kobayashi、Takashi Kurosawa、Satoshi Fumiら世界的な知名度の日本人プロデューサーが名を連ねる。真にインターナショナルなレーベルである何よりの証だ。

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2010年にローンチしたUNKNOWN seasonは当初、日本国内のプロデューサーを輩出する“純国産”のレーベルとして活動。Masashi IkedaやRyoma Takemasa、Beatblocksらの楽曲をリリースし、ディープ〜プログレッシブ〜テックといったフロア志向の音楽性が持ち味だった。もちろん近年も現場を強く意識した作風に変わりはないが、初期はよりアブストラクトな色彩が強い。また、Beatblocks「Waterfall」のDazzle Drums Remixをシングル・リリースするなどリミックスの単体タイトル化も盛んに行い、“楽曲を多角的な視点で見せること”への熱意がうかがえる。

こうした音楽への知見がレーベルの求心力につながったのだろうが、それを語る上で欠かせないのが主宰であるYoshi Horinoの存在だ。Horinoは1991年にDJとして活動を開始。やがて自身の楽曲を作り始めるが、彼がユニークなのはDMR渋谷店のハウス担当バイヤーやFlower Records(高宮永徹が率いる有力ハウス・レーベル)のA&R/プロモーション・ヘッドなどを務めていたこと。さらにDavid Mancuso主宰“The Loft”のWebサイトで毎月、良質な音楽作品を紹介するなど(かの“ear candy”チャートである!)ジャーナリスティックな一面も併せ持つ。2003年に独立してからは領域を広げ、国内外のレーベルやアーティストのプロモーション、音源のライセンス・コーディネーションにイベント・ブッキングと、ダンス・ミュージックにかかわる仕事のことごとくを手掛けるようになった。Timmy RegisfordやFrank Rogerらに携わったのも功績だが、特にパリのレーベルKITSUNÉの日本国内における認知度アップに果たした役割は大きい。

プロモーションやマーケティングの立場から音楽にかかわることは、芸術的な表現の見地とは違った、独特の批評眼を必要とする。UNKNOWN seasonの活動の仕方には、Horinoがレーベル創設以前に培ったクリティカルな視点も生かされているような気がする。

■どんな媒体も音楽を伝えるものとして等しい

UNKNOWN seasonは、WAVなどのオーディオ・ファイルで作品リリースを行うレーベルとしてスタートした。ハウスのシーンでは、DJもオーディエンスもバイナル(レコード)で音楽に親しむカルチャーが根付いていたが、2010年には既にCDJ-2000やCDJ-900といったDJ用のマルチメディア・プレーヤーが発売されていたし、一般的な聴取環境もiTunesやiPodなどのファイル・プレーヤーにシフトしつつあった。Horinoとしても、それまで以上に音楽の楽しみ方というものが多様化していると感じていたそうで、同時にデジタル・ベースでのプレイやリスニングが加速度的に進化していくことも見据えていたという。また彼が一人のDJとして音楽に向き合ったとき、その本質をどう見極めたか。尋ねてみると「特定の記録媒体への執着や偏見は全く無くて、バイナルもオーディオ・ファイルもCDもカセット・テープも、自分の中では等しく音楽を伝えるためのものです。それに、おのおの特性が違うので面白いんですよ」との答え。彼のフォーカスは媒体ではなく、常に“音楽そのもの”にあると言えるだろう。

こうした視点を体現するがごとく、 UNKNOWN seasonは2012年にコンピレーション『DESTINATION MAGAZINE meets UNKNOWN season “A Day Of Rain – UNKNOWN perspective-”』をCDでリリース。より多くの人に聴いてほしいという思いから、この形態を採ったという。DJたちからの評価も高く、例えばHiroshi Watanabe「A Day Of Rain」はMr. Gなどから、Beatblocks「Waterfall(Dazzle Drums Remix)」はDirt CrewやJimpsterらから賛辞を浴び、Alton Millerはkokoz「Ohm」を、Laurent GarnierはRyoma Takemasa「Mini House Groove #4」を推した。


■“作品の力”が国境も媒体も越えて共感を呼んだ

コンピレーションCDを皮切りに、UNKNOWN seasonのマルチメディア戦法は続く。初のバイナル・リリースとなったのは、2013年のRyoma Takemasa『Deepn'(Gonno & The Backwoods Remixes)』である。本作も各方面から高く評価され、とりわけGonnoが手掛けたSide AについてはDJ NOBUやJames Holden、Laurent Garnier、Osunladeらが絶賛。密度感あふれる低域とカラフルなシンセのレイヤーで、聴き手をトリップさせていく展開作りはさすがの手腕だ。

そして2013年にはもうひとつ、Rick Wade『Hustler's Lullaby』をバイナル/デジタル(オーディオ・ファイル)の両形式でドロップ。今でこそUNKNOWN seasonの主要アーティストに数えられるRick Wadeだが、ファースト・コンタクトは本作だった。契機は彼がUNKNOWN seasonのファンで、本人サイドからラブ・コールを送ってきたこと。膨大な候補曲の中からHorinoが選出し、実現に至った。中でも1970年代のジャパニーズ・メロウをネタ使いした楽曲「Shinjuku Strut」が話題を呼び、世界中の店頭で完売。瞬く間にプレミアが付いて、マーケット・プレースのDiscogsでは現在も8,000円ほどで取り引きされている。

ワールド・ワイドな動きとして、同年にデジタル・リリースされたSatoshi Fumi「The Messenger(Ian O'Donovan Remix)」も見逃せない。 Laurent GarnierやHernan Cattaneo、John Digweedなどにヘビー・プレイされ、ついにはJohn DigweedのミックスCD『LIVE IN ARGENTINA』および同作の収録曲を厳選したコンピレーション・バイナル『LIVE IN ARGENTINA PT4』(Bedrock Records)にも入った一曲だ。作品の力が国境を越えて共感を呼び、媒体についてもデジタル→CD→バイナルとフォーマットを越境する動きを見せたことから、まさにUNKNOWN seasonのコンセプトが理想的な形に結実した出来事と言える。ハウスはハウスでも、デジタルとバイナルではマーケット=消費者が必ずしも一致しないと言われる中、両者を“音楽”でつなぐことができたのは何よりの功績だろう。また、併せてリリースされた「4MM(Iori Wakasa Remix)」も多方面でサポートを受け、「このころのレーベル・カラーを決定付けた曲の一つ」とHorinoも太鼓判を押す。


■過去の優れた楽曲にも再びフォーカスする

さて、先のRick Wade「Shinjuku Strut」でサンプリング元のジャパニーズ・メロウに触れたが、2010年代の中盤より“日本で独自の進化を遂げた音楽”が世界的に再評価され始めたのはご存じの通り。 Soichi Teradaらのアーリー・ワークスがオランダのRush Hour Musicからコンピレーション『Sounds From The Far East』としてリリースされたのも2015年だ。時を同じくしてUNKNOWN seasonはManabu Nagayama & Soichi Teradaの『Low Tension』をドロップ。“日本産ハウス”が盛り上がりを見せる前夜であった。オリジナルは1991年にbpmからリリースされたものだが、そのリマスター・バージョンやリコンストラクション版に加えFoogやYoshiFumi(Yoshi Horino+Satoshi Fumi)によるリミックスを収録し、6曲入りの作品として世に出た。

UNKNOWN seasonのデジタル・リリース50作目で、アニバーサリー的な意味合いも感じさせつつ、過去の優れた楽曲を再発掘&再リリースしていこうというレーベルの気概が見て取れる。実際に翌年には、Manabu Nagayama & Soichi Teradaが1991年に発表した「Walker」などもリマスタリングの上でリリースしている。  ちなみに、UNKNOWN seasonは他レーベルへのライセンス・アウト(楽曲の使用許諾業務)を数多く手掛けており、「Low Tension」はBALEARICのコンピレーションやsea of green RECORDSのミックスCDに収録された。先出のSatoshi Fumi「The Messenger(Ian O'Donovan Remix)」もライセンス・アウトされた一曲で、ほかにSatoshi Fumi「Tortion」(2016年)や「Pleiades」(2018年)、Lars Behrenroth「Thunderstorm」(2016年)などの事例もある。

■ネットの成熟で加速した音楽のボーダレス

純国産のデジタル・リリース・レーベルとして2010年に歩み始め、所属アーティストやリリース形態を拡大してきたUNKNOWN season。記録媒体に関するフラットな視点は先述の通りだが、“純国産”を標榜することへの変化もあったそうで、Horinoの感覚としては「インターネットの成熟により、作り手が世界のどこで暮らしていようが活動していようが、生まれ出る音楽に大差を感じなくなってきたことが面白い」。もちろん、個々の生活環境や経験が作品に与える影響を認めつつも、ブロードバンド以降は地域性やトレンドのボーダレス化が進んだと見ている。だからこそアーティストの出身地に拘泥せず、純粋に良いと感じたものをリリースしていくスタイルへ移行したのだろうし、筆者もその考えには納得させられる。

さらに私見を述べると、UNKNOWN seasonはSatoshi Fumi『The Messenger / 4MM』(2013年)辺りから音楽性の幅を広げ、よりカラフルになったイメージだ。フロア・ユースながらリスニングにも向く楽曲が増え、直近のものではローファイ志向のMika Blaster「Get Down」、そして黄金期のNYハウスをモダナイズしたようなJad Cooper feat. Jesse O「Dreamz(Luzio & Takashi Kurosawa Soulful Remix)」辺りが特に素晴らしいと思う。また、UNKNOWN seasonとHorino自身の視点から“ハウスの今”を切り取るコンピレーション・シリーズ『HOUSE TREE』も洗練された内容なので、UNKNOWN seasonへの入門として聴いてみるのもよいだろう。

最後に、レーベルの未来像について。昨今はアーティストとリスナーがダイレクトにコミュニケーションを交わすことができ、音楽全般のリスニング方法はストリーミング・サービスが主流である。近い将来、アーティストの自主制作音源をストリーミングでDJプレイするようなことが当たり前になるかもしれない。そんな世の中が来たときに、UNKNOWN seasonはどう活動するのだろう? 「ストリーミングDJは良いと思います。そこからの可能性もいろいろあると感じるので」とは、いかにもHorinoらしいコメントだ。

「レーベルとしては、時代に合わせて変化と進化を繰り返したいと思いつつ“存続価値”を見直すことも考えています。アーティストとリスナーの両者から見て“実績を持ったレーベルだからこその信頼性”というのは、やっぱりあると思いますし、ひとつのコミュニティのような機能も果たしていくのかなと。今はいろいろな意味で分岐点にあるような気がしていますが、できることやすべきことは、これからもたくさん出てくると思っています」。

変化の10年をサバイブしてきたUNKNOWN season。これからの10年にも期待が寄せられることだろうし、筆者も音楽の世界の隅っこから、その動向を楽しみに拝見できたらと強く思う。

◆UNKNOWN season オフィシャルサイト
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