【教えてYAASUU】宮古島の音楽・料理 Vol.2「宮古島口カバー曲と「夢空」」

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宮古島には「宮古口(みゃーくふつ)」と呼ばれる言葉がある。一般的には宮古方言とされているけれど、地元の人々はこう呼んでいるそうだ。沖縄の琉球方言のうち宮古列島の方言は大きく分けて3つあり、さらに宮古島内には集落ごとに方言があるという。

その宮古島特有の言葉について「島の若者が学べる機会が少ない」と語るのは、宮古島出身のシンガーソングライターYAASUUだ。宮古島の音楽・料理を通して彼と島の魅力を同時に紐解くべく開始した【教えてYAASUU】の第二弾となる今回は、瑛人の「香水」やOfficial髭男dismの「Pretender」などを「宮古口」でカバーすることや、そこにかけるYAASUUの思い、そして9月にリリースしたばかりの配信シングル「夢空」について紐解いてみよう。


──宮古島の方言で歌うカバーを始めたきっかけは何ですか?

YAASUU:緊急事態宣言中、家にいることが多くなって「何か面白いことできないかな」って考えた時に宮古の方言を見直してみようと思ったんです。

──宮古島には独特の方言があるそうですね。

YAASUU:同じ沖縄でも全般的にみれば本島と石垣島はわりと似ているんですけど、宮古はずば抜けて違うので「フランス語みたい」って言われています。ただ、宮古島の言葉は絶滅寸前で、いずれ失くなるとも言われているんです。

──皆が話せるわけではない、と。

YAASUU:どちらかと言えば、おじい・おばあが話す言葉という感じですね。聞き取れるけど話せなかったり、地域ごとに方言があるので同じ島の人であってもお互いの言葉が話せるわけではなくて。僕が子どもの頃は方言に触れる機会もあまりなかったし、方言教室にわざわざ通ったりして古典を覚えないと学べないような狭い入口だったから入ろうともしなかった。宮古の文化にも方言にもまったく興味がなかったんです。

──でも今では、自身の作品も宮古口で書いてみたり。


YAASUU:僕は、宮古の方言は失くしてはいけないものだと思っているんです。方言は若者の言葉で変換されていくので、僕が使っている言葉も昔の人からしたら若い人の方言なのかもしれないけれど、僕は僕なりに文化を残していけたらな、と。入口は何でもいいと思うんですよ。英語の歌を聴いているのと同じように「今なんて歌ったの?」でいいんじゃないかなって。大前提として「言葉、文化を残す」というテーマと、あとは「遊び」かな。

──遊び?

YAASUU:難しいやり方じゃなくて、扉をむちゃくちゃ広くして、若者にも分かりやすくて興味を持ってもらえるものってなんだろうって考えていた時に、「香水」が流行っていたんですね。サブスクでも上位だったし、芸人さんがカバーしてるのを見て「これを宮古の言葉でやったら面白いだろうな」と思ったのがカバーを始めたきっかけです。熊本弁とか他の方言でのカバーはあったけど、沖縄方言でやってる人は誰もいなかったんですよ。

──もはや遊びではなく作詞の域だと思いますが。

YAASUU:確かに(笑)。すぐ母ちゃんにLINEして「ここ何?」って聞いて、それでも分からない言葉はおじいに電話して聞いて「そうなんだ」って教えてもらいながら歌詞をまとめていきました。

──知らなかった言葉の割合はどのくらいでした?

YAASUU:6~7割くらい。だから最初は「なんじゃこりゃ」でしたよ(笑)。それでも自分が歌いやすいように言葉を当てているので、わりとスムーズでした。歌えるようになるまで3日くらいかな。

──歌に乗ると「うわ」は「君」、「ドルチェ&ガッパーナ」はそのまま…と、知っている言葉と分からないフレーズとがあるのは、まるで洋楽的な聞き方だと思いました。

YAASUU:島の高校生たちが急にFacebookでシェアしだしたり、県外の人からも「方言だとこうなるんだ」って感じでいい反応でした。宮古島の城辺方言を使っているんですけど、本島の人たちは「さすが宮古だな。何言ってるか分からん」ってシェアしてくれたりもして(笑)。こういうので「宮古の言葉って面白いな」って興味を持ってくれれば嬉しいですね。


──この映像は、どこで撮影したんですか?

YAASUU:「香水」のMVで瑛人くんがぼーっとカメラ目線で歌ってるのを見て、僕も沖縄居酒屋でぼーっとカメラ目線で歌ってみました。昔バイトしてた沖縄料理屋に行ってiPhoneでポンと撮ったんです。外見もカラフルだから目にもとまりやすいし、コロナで地元には帰れないので。

──すべてにおいて宮古島への思いがある。ただ単にカバーするのとは違いますね。

YAASUU:本当にそうだと思います。もっと宮古の言葉を覚えたいし、とにかく入口を幅広くしたいという目的があった上での遊びなので、カバーするのは苦じゃない。

──一方で、「上を向いて歩こう」を選んだのはどうしてですか?

YAASUU:これは家でテレビを見てたら、ジブリ映画の挿入歌としてたまたま流れていたんです。もともと好きだったのもあってチャレンジっていうか、やってみたいなあと思って。

──もともと知っていたんですね。

YAASUU:なんか知ってる曲ですよね。気がついたら知ってるというか、もしかしたらカバーを聞いたのか、学校の授業で先生がみんなに歌わせたのか。それぐらい歌いやすい曲だし。

──誰もが知る曲を宮古口で歌うのもいいですよね。「これなら歌えるかも」と思えました。

YAASUU:ゆっくりだし言葉が詰まってないから、歌いやすいかもしれませんね。でも、みんなが知っている曲であればあるほど、宮古の言葉が分かる人からの突っ込みも入りやすくなる(笑)。


──そして、最新のカバー曲は「海の声」でしたね。

YAASUU:お盆は毎年島に帰ってたんですけど、今年はコロナで帰れなくて、その時に思った曲がなぜか「海の声」だったんです。帰れないけど「遠くに居る人に届けたい」「それを方言でやってみたい」っていう思いが高まって、自宅で録ってその日にそのまま「届け!」ってアップしました。


──宮古島のお盆は旧暦だそうですが、どう過ごすのでしょうか。

YAASUU:紙銭(カビジン※紙幣を模した冥銭)、打ち紙(ウチカビ)と呼ばれるお金を燃やして先祖に捧げる文化があるんです。まずタライにお金を入れて燃やして、そこにお米と泡盛を入れてシューって火が消えた時に拝む。お盆は大事な日なので、おじい・おばあの所に親戚が集まってみんなで食卓を囲んでご飯を食べます。奥さんが料理を作って、子どもたちがそれを運んで、おじさんたちはひたすら酒を飲んでる。

──沖縄ではお墓でお酒を飲んだりすると聞いたことがあります。

YAASUU:ひとつひとつのお墓がでっかくて、そこでみんなで過ごして、暗くなってきたらおじい・おばあの家に戻ります。あと、海には行っちゃいけないんですよ。

──海?

YAASUU:昔から「迎えている時に海に行くと霊に足を引っ張られるから海には行くな」と言われてるんです。もともと島の人には「お盆休みだから旅行に行く」という感覚はなくて「お盆だから島にいる」ですね。僕も東京に出てきてからお盆休みにみんなが旅行するって知ったし。あとびっくりしたのが泡盛です。僕たちは「泡盛の透明の瓶」=「先祖に捧げるもの」だとずっと思っていたんだけれど、東京ではそれが居酒屋で普通に出てくるから「え?」って(笑)。

──カルチャーショック満載ですね。これからもカバー活動は続きますか?

YAASUU:これからもずっとやっていきます。実はもう1曲、一部分が用意できればすぐ撮れる状態です。あくまで遊びなので自分のタイミングで楽しくやりたいですよね(笑)。「面白い人がいる」みたいな感じで思ってもらえればいいかな。先日行われた<はいさいFESTA2020>という音楽イベントでは、「YouTubeのカバーを見て来た」っていう人がいまして、実際にそういうきっかけになっているから面白いです。

──<はいさいFESTA2020>は、久しぶりの有観客ライブでしたね。

YAASUU:7ヶ月振りだったんですけど、独特の雰囲気でした。最初はイケイケのセトリを持っていこうと思ってたんですけど、着席のまま立っちゃいけないらしいので、それに合わせて準備していったんです。



──(ライブ映像を見て)でも、すごく盛り上がってますね。

YAASUU:ギリギリラインですね(笑)。盛り上がったといってもマスクはしたまま。後ろの人たちは我慢できなくて立とうとしているから、「立たないでね」って手で抑えるジェスチャーをしてね(笑)。

──このときに、新曲「夢空」を初披露したんですよね。


YAASUU:「夢空」は、自粛中に当たり前だったことが急に何もできなくなったときに「これって夢だったのかな。あれって幻だったのかな」って深く考えるようになって、そこで生まれた曲です。夢の中ではみんなと会えて仲間とワイワイやってたりするんですけど、現実に戻ると嫌なニュースが流れていたりする。だけど絆は繋がっているから今夜もまた素敵な夢を見よう、と。

──コロナ禍がなければ生まれていない曲なんですね。

YAASUU:まさにそうです。

──ジャケットには空の写真が使われていますが、「同じ空の下で繋がっている」ということでしょうか。

YAASUU:その通りです。この作品に関しては完全にイメージがあったので、自分で写真を加工して、文字を薄い紫にしてちょっと切ない感じを出してみました。


──優しい歌を歌いたいと思ったきっかけがあったんですか?

YAASUU:今まで会っていた友達と会えなくなったり、店をやってる友達が1店舗を潰さなきゃいけないと相談されたりと、暗い話を聞いたり暗いニュースばかりSNSで流れてるのを見て、無性に優しい歌を歌いたくなった。みんなでワイワイという曲よりも優しい曲を作りたいって。

──ラブソングのようでもありますが、これは応援歌なのかな。

YAASUU:どっちかっていうと応援歌ですね。でもそれは自由ですよ。

──過去の音源の中で、YAASUU自身の内面がこれほど出た曲は初なのではないですか?

YAASUU:そうだと思います。「寄り添う」ことがテーマにあったかもしれない。これを作るときに大切にしていたのは「優しい歌をどうしても届けたい」ということ。今回は歌い方も優しく優しく。

──制作自体はスムーズでしたか?

YAASUU:わりとスムーズでした。家でアコギ持って、アルペジオをゆっくり弾いて。イメージを完全に作って作るので、わりとはやいし、歌いたいことがすぐ降りてくるのかもしれないです。

──<はいさいFESTA2020>での初披露は、どうでしたか?


YAASUU:イベントのトリで、しかも沖縄の祭りで最後にバラードをガツンとやるのは勇気がいったんですけど、みんなが着席だったこともあって、この曲を聞いてもらうのにはいい環境だったんじゃないかな。僕たちも演ってて感動しましたし。

──弾き語りが似合う曲ですし、YouTubeでの公開も期待しています。

YAASUU:そうですね。アコースティック風にアレンジして優しく歌っていこうかなと思っています。

──「夢空」はYAASUU作品の中でどのようなポジションになるのでしょうか。

YAASUU:今までとは違う環境・新時代に突入してから作ったものなので、今までの楽曲とは全然違うものだと思います。新しいYAASUUとしての一歩かなって思いますし、前から僕のことを知っている人には新しいYAASUUの形も聞いてみて欲しいです。初めての人には、宮古島出身である僕が作った曲ということで、ぜひ聞いて欲しいです。

取材・文◎早乙女‘dorami'ゆうこ
編集:BARKS編集部

ニューシングル「夢空」

2020年9月19日(土)配信リリース
https://www.tunecore.co.jp/artist/YAASUU.KN4

◆YAASUUオフィシャルサイト
◆はいさいFESTA2020オフィシャルサイト
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