【インタビュー】Omoinotake「耳で聴いて身体が揺れて、でも涙をそそる。それですね」

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2020年2月にリリースした3rdミニ・アルバム『モラトリアム』が好調のギターレス・ピアノトリオOmoinotakeが、3ヶ月連続配信シングルを経て4thミニ・アルバム『Long for』をリリースする。

今作には、コロナ禍真っ只中の不安と願いをリアルに詰め込み、YouTubeのコンテンツ“THE FIRST TAKE”でのライブ映像も話題となった「One Day」や、ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』のオープニング曲としてドラマとともに盛り上がりを見せている「産声」など全6曲が収録された。メロウなグッドメロディと、記憶に埋れた1シーンをジワリと浮かび上がらせるドラマティックなサウンドで、リスナーの日常を彩る音楽を生み出してきた3人は、今作『Long for』でよりリスナーの心に踏み込んで、心掻き立て、ビビッドに色付けていく音楽を奏でる。ブラックミュージックをはじめ、様々な音楽を通過してきたそのサウンドは、自分たちの音、声を掴んだ高揚感に満ちている。

2020年を象徴する、Long for=待ち焦がれる、懐かしむという意味合いを込めたタイトルを冠した今作。緊急事態宣言下での制作環境など、ままならない状況や繊細な作業もあったようだが、だからこそのクリエイティヴィティや鋭さも生まれた、Omoinotakeにとって大きな作品だろう。


──4thミニ・アルバム『Long for』のリリースに先駆けて、4月から3ヶ月連続で「欠伸」「One Day」「夏の幻」の配信リリースされましたが、この3ヶ月連続でリリースするというのは、いつ頃決まったものだったんですか?

藤井レオ(Vo、Key):前作『モラトリアム』を出した後だったので、多分、2月くらいだったと思います。そこで3ヶ月連続で出すということは決まっていたんですけど、内容的なところや、どの曲にするかというのは決めていなかったですね。

──その第1弾「欠伸」をリリースする頃に、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出て、世の中が急速に変化していきました。そこからのリリースは、どんどんとその状況に沿ったリアルな曲になっていきましたね。結構なスピード感で曲や歌詞を書き上げていたことが伺えました。

藤井レオ:最初の「欠伸」っていつ作ったんだっけ?

福島智朗(B、Cho):「欠伸」は第1弾だったから、2月くらいだったかな。

藤井レオ:「欠伸」を録り終えたくらいから、段々とライブが延期や中止になりはじめて、次の5月の曲をどうしようかというところから、すごくリアルタイムになっていった感じはありました。

──「欠伸」の段階ではどういった思いがあったんですか?

福島智朗:「欠伸」の時点ではコロナとは関係なく純粋に今いいと思う歌を書こうと思って作っていたんです。ただそれでも偶然というか、聴いてくれた人に言われるのが、最後にある「幸せはそこら中に浮かんでいたんだと やっと気づいたんだ」というフレーズが、偶然その頃の世の中の感じやそれぞれの思いに刺さっていったというのもあったようでしたね。

──そうですね。歌詞に関してだと前作の『モラトリアム』からかなり、歌詞の内容が饒舌で、心に踏み込んだ内容になっていった感じがしたんですが、これはどういった変化からだったんでしょう。

福島智朗:最初に変わりはじめたのが『モラトリアム』に収録した「惑星」からなんですけど。それが去年の春頃だったかな。ずっと突き抜けた曲ができない感じがあって。いつもとは逆に、僕も曲を作ってみたりとかレオが歌詞を書いてみたりとか、いろいろ試した時期もあったんです。そのときに、ブレイクスルーするポイントはここなんじゃないかっていうので、自分の正直な気持ちを歌詞にして、その歌詞にレオがメロディをつけて歌った「惑星」ができた。それが思った以上にリアクションがよかったんです。最初はすごく怖かったんですけどね。個人的な手紙のような感じがあるので、どうなるんだろうというところがあったんですけど、反応がすごくよくて。これでいいんだなというか(笑)。それはきっかけになりましたね。


──自分の内側にあるものをそのまま言葉、歌詞に落とし込めばいいんだと。それまでは、Omoinotakeでは歌詞とサウンドの位置付けというのはどういうバランスだったんですか?

藤井レオ:昔は、あまり詞先の曲がなかったかもしれないですね。メロディが先にあって、音重視のところが大きかったので。歌詞として読み応えのあるものに目が向いていなかったというか。詞先で曲ができるようになってからは、歌詞単体で読んでもグッとくるところがあるかないかも、すごく見るようになりはじめました。

──歌詞を先に作ることで、サウンドのムードも変化が出そうですよね。どうその歌詞の世界を躍動させるかという。

藤井レオ:そうですね。言葉を大事にするし、メロディラインも言葉を大事にしようとなりましたし。楽器に関しても、一歩引いて言葉を立たせるというか、メロディを立たせるようにするという意識は強くなりました。

──『モラトリアム』ができたことで、いい手応えというのを感じていたんですか?

藤井レオ:そうですね。

──そこからどういうものを描いていくか、前作以降へのビジョンは?

藤井レオ:アルバムへのビジョンというのはとくになくて、最初は配信シングルを3ヶ月連続で出すというのが目前にあって。そこに、コロナが流行りはじめていたので、とにかく今、いい楽曲をひとつひとつ届けることが最大限の自分たちにできることだなってシフトして、1曲1曲を大事に作っていました。


──そして第2弾としてリリースされたのが「One Day」で、まさに5月当時の状況、世の中の緊張感や心境、思いがリアルに映し出された曲になりました。これは、YouTubeの人気コンテンツ“THE FIRST TAKE”でのライブ映像もすごく良くて話題になりました。この”THE FIRST TAKE“で披露した反響は大きかったのでは。

福島智朗:想像以上のものでしたね。ある意味、あの時点でああいう曲ができていなかったら、僕らのことを知ってくれている人ももっと少なかったと思うんです。「One Day」を作っていたのは、ちょうど前作『モラトリアム』のリリースツアーが全部できなかったタイミングだったんですけど。

藤井レオ:実は『モラトリアム』に収録されている「トニカ」とかを作っていた時期に、この曲のメロディはできていたんです。そのときにもみんな気に入っていたので、あの曲いいじゃないかというので引っ張り出してきて。そこから、今この曲に歌詞をつけるならどういうテーマだろうというところからはじまってます。

──そのときにアレンジのイメージもあったんですか?

藤井レオ:これは元々、今とはちがうアレンジでしたね。今作でもAlaska Jamの石井浩平さんにアレンジを手伝ってもらっていて、いつもだいたい自分たちで原型を作って、それをブラッシュアップしてもらう形で参加してもらっているんですけど、この曲に関しては先にこのメロディを投げて、ここからどういう曲/アレンジがいいか作ってもらっていたんです。そういうやり方は初めてだった。

──バンド感を生かした曲になりましたね。どういうところを汲み取ってくれたと感じてますか?

藤井レオ:こういう疾走感がある曲は全然なかったので、今までのOmoinotakeにない感じを多分探してくれたんだと思います。

冨田洋之進(Dr、Cho):かなりメッセージ性が強い歌になったので、この疾走感を大事にしたいというのはありましたね。ドラムに関しては、音色は硬めというか厚みのあるサウンドを意識しています。こういうテンポの速い曲はOmoinotakeにあまりないので、ドラマーが喜んでくれそうなフィルやおかずのフレーズを盛り込んでいます。

藤井レオ:この曲を作っていた頃は、三密厳禁でレコーディングもできないんじゃないかという状況で、もしかしたら打ち込みでいくかもしれないという話も出ていたんです。でもどうしてもバンドでやりたかった。それもあって、打ち込みではできない生だからこそのドラムがちゃんと出せたと思っていますね。

──どうしてもこの曲はバンド・サウンドでなくてはならなかった?

藤井レオ:ある意味、カラオケに僕が歌うだけならバンドで出す意味がないな、って思ったので。なんとしてもバンドでやりたかったんですよね。

──歌詞については、当時の感情がダダ漏れてしまったような、みんなが見たこと、経験したこと、願った思いが素直に描かれました。ここでこうして歌詞として書くことも、また自分の感情を昇華するような感覚はありましたか?

福島智朗:聴いてもらってやっと救われる感覚があるんだなというのは、最近になって思っています。

──この曲を書くときにいちばんに浮かんだのは、どういった言葉、気持ちだったんでしょう。

福島智朗:曲先の場合はいつも手こずるんですけど。この曲はAメロから順番にピタピタッと言葉が埋まっていったような感じがあって早かった。歌詞に「コロナだから」といったワードは出てこないのは、そういうことが説明なしでも言えるような状況だったからなんです。特殊な形状の歌詞になっているなとは思います。

──だからこそ、今にも当てはまりますし、普遍的な匂いもまとう曲なんだと思います。冒頭で鍵盤と歌だけで歌い出すのも印象的ですが、この構成やアレンジは、最初からイメージにもあったものですか?

藤井レオ:最初に作る段階では歌からはじまるというものばかりなので、入りとしてハッとするものであれば、イントロはつけずにいくことが多いですね。

──頭から掴んでいくキャッチーさですね。

藤井レオ:サブスクが台頭してからは、最初に聴いたときにいかに掴むかが大事になっているということもありますよね。あと、ずっと路上ライブをやっていたので、曲のどの部分を切り取ってもハッとするように曲を作るのは、根底にあるのかもしれないです。各セクションで弱いところがない、みたいな。

──「産声」なんてまさにそうですよね。頭からサビのようなクライマックス感で、そのまま上昇していく曲で。

藤井レオ:この曲はドラマ(テレビ東京ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』)のタイアップの話をいただいてから作った曲なんですけど、ドラマのオープニングとして1分間と聞いていたので、その尺のなかでいかにハッとさせられるか。とはいえAメロ、Bメロ、サビみたいな展開はわりと好きなので、それを1分間に凝縮しました。

──そうだったんですね。クラシックっぽいメロディや構成も感じました。

藤井レオ:ああ。好き好んでクラシックを聴いてきたわけではないんですけど、昔ずっとクラシックバレエをやっていたので、いわゆるチャイコフスキーとかが血肉に入っているのかなと思うことがあるんです(笑)。X-JAPANとかも好きなんですけど、子どもの頃からの経験がもしかしたら関係してるのかなって思うこともありますね。『モラトリアム』を作っていたときも、そう言われることが多くて、もしかしたらクラシックも身体に入ってるのかな。

──メロディはどのように作っているんですか?

藤井レオ:ピアノでコードを抑えながらデタラメ英語で作っていくんです。この「産声」も最初に作った形からは、随分変わっています。

──ストリングとホーンがかなり派手に入っていてあまりなかったタイプの曲なんですが、何よりバンド・サウンドが肝となった気持ちのいい曲でもありますね。

冨田洋之進:この曲は今までよりもストレートなイメージですね。Aメロ、Bメロではシェイクっていうリズムを使っているんですけど。そのあたりは普段まったくやらないので意外とそこで苦戦したというか(笑)。

──ドラマのオープニング曲ということで、歌詞についても作品とのすり合わせは多かったんですか?

福島智朗:今回は、作品に寄り添ったもので主人公の心情を歌う曲でしたから、いつもとはちがった感じで苦戦はしました。なかなかまとまらなかったですね。ドラマのオープニング曲ですけど、自分たちの曲としてずっと残っていきますから、ドラマのオープニングとして最高の曲と、自分たちの納得のいくものとの限界を探る感じだったかもしれない。ドラマの主人公が魔法が使えるようになって人の心がわかるようになり、そこで自分の本当の感情に気づいて、でも踏み出せないような思いもある、というものだったんです。その感情って、自分が初めて路上ライブをやった日と重なったんですよね。怖くて仕方なかったのに、なんでやりたいと思って行動に移したんだろう…って。心をさらけ出すのは怖いと思ったけど、でも書きたいと思う…そういう感情を重ねあわせて、形になっていった曲でしたね。

──高揚感のあるとてもいい曲になったと思います。

福島智朗:そうですね。こういう曲調でストレートな曲って今までなかったんですよね。

──この「産声」という曲で、Omoinotakeというバンドが広がった印象があります。この「産声」は挑戦的なひと声を上げる曲ですね。

藤井レオ:湿っぽいとか、ちょっと切なかったりするような曲は得意ですけど、「産声」だったり前作の「トニカ」などは生み出すまでに苦労が必要な曲で、苦労すればするほどどんどんエネルギーが溜まっていって、最終的にできる曲がすごく垢抜けていると思います。


──そして「夏の幻」。こちらは切なさ全開で、音的にもその湿っぽいというか青くキラキラとした雰囲気が出ていますね。

福島智朗:これも歌詞が先でできた曲でした。ちょうどコロナ禍で、夏祭りやフェスが全部なくなっちゃった時期。6月に配信をスタートしたんですけど、そういう夏が来るとわかっていたので、普段の夏の光景が目の前に浮かぶような情景描写だとか匂いとか、風景が伝わるような表現で作っていきたいなと思っていたんです。

──心理描写も情景描写もすごく豊かですよね。

福島智朗:自分でもめっちゃ好きな曲です(笑)。

──MVの世界観もバッチリで、情景も浮かぶし匂いも感じられる曲です。

福島智朗:すごくきれいな映像で作ってもらって。監督がDメロの「君がくれた感情は喉が乾く」のところをすごく気に入ってくれたようで。

──言い知れない思いを端的に表現した言葉ですよね。レオさんもメロディを描くとき、歌うときにその情景が広がっていた感じですか。

藤井レオ:そうですね、この曲は最初のAメロとかBメロが起伏のないメロディなので、その分、歌詞に沿って歌のニュアンスを変えながらやるのが大事な曲だなというのはありました。ピアノのループのフレーズがすごく気に入っていたので、そこを基軸に少しずつ世界が開いていくようなイメージで作りました。規則性のない歌詞を規則性のあるメロディの乗せたらかっこいいんじゃないかと、自分なりに攻めた曲だった。


──この数ヶ月は、そういうことにじっくり取り組めるような時間でもあった。

福島智朗:ライブもなかったしね。

藤井レオ:3カ月連続リリースという区切りもあったし、ライブがなかった分、ちゃんとこの日までに最高のものに仕上げるというマインドになれたんだと思います。

──結構な数の曲を作っていたんですか?

藤井レオ:そうですね、ボツとなったものもいろいろあったと思います。

──どんな曲がボツになるんですか?

冨田洋之進:最初にメロディを聴いたとき、直感的にいいって思えるものしか残ってないよね。

福島智朗:そうだね。

藤井レオ:でも最初に出した時点でOKになることはあまりない。何もいじってないのは「東京」くらいかな。「東京」も歌詞が全部できたところからのスタートだったんですけど、歌詞だけでも最高だと思いましたし「東京」というタイトルも決まっていたので、これはもう名曲を作るしかないっていうプレッシャーのもと…。

──「東京」と言う名の名曲は世の中にもたくさんありますからね。

藤井レオ:自分たちの“東京”ってなんだろうと思い、「10年前の君に伝えたいこと」というフレーズをとにかく立たせたくて、そこから作曲をスタートさせました。

福島智朗:今、東京に出てきてちょうど10年で、東京に出てきた頃の自分に向けて曲を作りたいと思っていたんです。

──冒頭部分から「ここには何もないし あるのは孤独だけだよ」と、ひやっとするフレーズから入りますね。

福島智朗:1番は本当に希望がないような状態で、2番から希望というか、なんで今ここで生きているんだろうというのが見えてくるような歌詞にしたいなと思ってました。上京してきている人にも、これから上京する人にも届くといいなと思って。

藤井レオ:エモアキ(福島)とは13~14歳から一緒なので、この歌詞を見て、ああエモアキの歌だなっていう感じ(笑)。エモアキの思いをいかにバンドとしてメッセージを伝えられるかですよね。18歳のイケイケだったエモアキを知ってるので(笑)。

冨田洋之進:はははは(笑)。

──イケイケだったけど、歌詞の中ではいろんな壁にぶつかっていますよね(笑)。

冨田洋之進:それを知ってると、頭のAメロの説得力があるよね(笑)。

──「東京」という曲こそ、この3人ならではの軸、バンドの縦軸という感覚でしょうか。

藤井レオ:そうですね。でも根本は変わってはいないと思います。ジャンルの変化はありますけど、グルーヴ感がありつつ切なさを含んだところは変わってないのかな。曲を聴いて、踊ってもほしいし、泣いてもほしいしというのが根幹にあるので。そこはずっとブレてないかな。

──これまではブラックミュージック的な香りも強かったように感じますが、近作ではもっと大きなサウンドの広がりを見せているのを感じました。

藤井レオ:ブラックミュージックもこのバンドから取り入れ始めたものなので、それがだいぶ血肉になってきた。『モラトリアム』以降では、以前から好きだった音楽のニュアンスをうまく表現できるようになってきたのかな。

──ブラックミュージックを取り入れたのはどういう理由からですか?

藤井レオ:最初はギターロックのバンドと対バンをすることが多くて、ピアノの編成だと音的に負けちゃうなって思っていたんです。その頃からいわゆるシティポップとかが流行りはじめていたこともあるし。縦ノリよりも横ノリの方がこの編成だといいんじゃないかなってところからはじめたんですよね。

──様々なトライを積み重ねてきたバンドなんですね。

藤井レオ:やっぱり踊って泣けるバンドというのが、判断基準かな。耳で聴いて身体が揺れて、でも涙をそそる。それですね。

福島智朗:さらにそういう思いを呼び起こす歌詞も書けたらそれに越したことはないですよね。

藤井レオ:曲と歌詞が分業だからこそ、歌詞だけ読んでもぐっとくるとか、メロディ単体で泣けるとか、それぞれが目指していますから。

取材・文◎吉羽さおり

Omoinotake4th Mini Album『Long for』

2020年11月18日発売
NECR-1029 1,980円(税込)
1.産声
2.One Day
3.欠伸
4.夏の幻
5.東京
6.One Day (remix)

◆Omoinotakeオフィシャルサイト
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