【インタビュー】河村隆一、ゼンハイザーで『BEAUTIFUL LIE』を聴く

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自らの表現力を磨き上げ、研ぎ澄まされた音の陰影で自らの思いを描き続ける河村隆一の歌には、聴くものの耳を捉えて離さない外柔内剛な力が宿っている。その音像が放つ強い吸引力こそ、サウンドクオリティーにも一切の妥協を見せない純真なる心魂が放った熱量だ。

音という空気振動を芸術の域まで高めるべく、自らの肉体はもちろん周辺環境・機材に至るまで、徹頭徹尾のこだわりを見せる河村隆一だからこそ、彼の発言には高品質サウンドにまつわる様々なキーワードが隠されている。最新作『BEAUTIFUL LIE』を余すところなく楽しむには、どのようなヘッドホンが最適解になるだろうか。

ここでは音の入口:マイクロフォンから音の出口:ヘッドホンまで一貫したハイクオリティサウンドで、世界中のミュージシャン/エンジニアからの絶対的信頼を受けるゼンハイザーをターゲット、河村隆一に話を聞いた。


──「音に対するこだわりが尋常ではない」と評される河村隆一ですが、音へこだわりだしたのはいつ頃なのでしょう。

河村隆一:「いい音」という定義は人によって違うと思うんですけれど、基本的に太く大きな流れのようなものがあるとしたら、絶対そのど真ん中があるんだろうと思います。エンジニアさんはよく「太い音」という言い方をするんですけど、どういうのを太い音と言っているのか、いい音っていうのはどういう音を言っているのか…そこに疑問が湧いて、そこに対する探究心みたいなものが出てきましたよね。

──活動を初めて早々に?

河村隆一:はい。いい声…太い声っていうのは単純に痩せている・太っているだけじゃなくて、抜けてくるような力強さも加味されているんです。その太い音/声っていうのは、ボーカリストとしてどういう方向に成長していけばいいのかとずっと考えていたので、いろんな話や雑談のなかで「ギターでいう太い音ってどんな音?」みたいな話をエンジニアさんともよくしましたよね。

──ボーカリスト間で情報交換はあったりしますか?

河村隆一:ボーカリストはあんまりなかったですね。どちらかというとエンジニアさんと「俺の声って鳴ってるのかな?鳴ってないのかな?」っていうことをずっとやってました。

──マイクとの相性もありますから、果てしない試行錯誤と思いますが。

河村隆一:例えばソロ活動の場合は、プレイヤーを依頼するところから始まるんですけど、「いい音」っていうのはあまりにもたくさんありすぎて人によっても違うので、結局共通言語を持たないと伝わらないんですよね。そこが「自分のスタジオを持とう」と思ったきっかけでもあるんです。ドラムセットもベースもギターもアンプも全部僕の機材で、一番いいと思っている音をそこに用意したわけです。その軸がぶれちゃうと、伝えるときに「もうちょっと(ドラムを)こう叩いて欲しい」と言っても、「え、どっち?」ってミュージシャンも迷っちゃう。だから「こうなんだ」「こういう音なんだ」「僕が求めてるのはこういう音でこういう演奏だ」っていうことを明確に言えないとだめなんですね。

──「いい音」と「好きな音」が混在すると話が混乱しますし。

河村隆一:そうなんです。大きな太い道が何車線かあるときに、「ど真ん中どこ?」っていったとき「自分の真ん中はここです」と言えなきゃいけない。「こっちの音のほうがこうだね」「こっちはキンキンしてる」「この音を好んでるのね、じゃあ歌でもこういうこと?」「そうそう」ってエンジニアさんと何度も何度もキャッチボールをしてると、だんだん分かってくる。ボーカルに対して、ハイハット、バスドラ、アコースティックギター、エレキギター…と、各バンド帯域を録るマイクは全部違いますし、歌に関しても自分に合っているマイクかどうかで、まったく違う歌になることも分かりました。

──録音した歌を聞くと、求めていたものと違う事がわかる?

河村隆一:歌った瞬間にわかりますよ。まったく合わないものに関しては「これは歌えないね」ってなっちゃう。昔は分からなかったかもしれないですけど、今は明確にわかる。

──その時の自分の声/歌とマイクとのマッチングですか?


河村隆一:ボーカリストによって、出している音域も違うし入力されるゲインの値も違うんです。ギターアンプでも、小さく鳴らしているアルペジオの時とフルテンで弾いているときでは、入ってくる音量の入力が違うように。ボーカリストも十人十色の音色と音量があるので、それに合うアンプやマイクって非常に重要になってくるんですよ。

──難しい話ですね。なかなか気付かなそう。

河村隆一:そう、気付かないんです。でもね、わかりやすく言っちゃうと「歌いやすいか、歌いにくいか」ってことです。ピッチやリズムが合うか合わないかも、マイクとアンプ次第ですよ。

──え?そんなところにも影響が?

河村隆一:全部変わっちゃう。合うものだと自分の倍音が綺麗にマイクで録れて、いいところが全部出てくれますから、そうすると音程も合うしピッチも合ってくる。逆に合わないと、例えば、明るい音で歌ってるのがすごく暗い音で録れるようなマイクだと、エンジニアは一生懸命明るくしようとしてEQするんです。戻そうとEQが入ってくるのは、一回伝言ゲームが入って来るようなもので、非常に無駄な努力ですよね。マイクが1本しかなければそうするしかないし、ライブになるとさらに会場という響きが加わってくるので、どんなにとっていいマイクとアンプでも、切らなきゃいけない周波数とかも出てきますから、そこは本当に難しいところ。だけどドンピシャで合えば自由に歌える状態になるんです。アマチュアの人たちでも、カラオケですら自分に合うマイクと環境ならば、いつもよりも15~20%くらいうまく歌えると思いますよ。

──マイクで損していることもあるんですね。

河村隆一:みんなも「歌いづらい環境」って多分経験していると思いますよ。カラオケでもあそこは歌いやすい、歌いづらいとかね。それは部屋鳴りとマイクや機材のEQだったり。ハウリングしないように3キロぐらいをグッと絞ってたりしていると逆に歌いづらくなったりもします。

──隆一さんも同じような経験が?


河村隆一:僕は、カラオケマイクだと膝ぐらいまで高さを下ろしていないと歪んじゃう(笑)。声量があるから。

──自分のパフォーマンスを最も引き出す環境というのはワクワクする世界ですね。

河村隆一:そう、そして一度決まるともう動かない。エースが決まるとずっと全部エースです。マイクからヘッドアンプ、コンプに至るまで。ときどき、例えば鼻づまりや風邪ひいたときの声で録りたいって時に、このマイクにしましょうかっていうのが第2選択として2本あるくらい。

──そしてそれはあくまで河村隆一にとってのエースたちなんですよね。

河村隆一:そうなんです。僕も新人アーティストのレコーディング現場にいてEQを触ったりするんですけど、「49(NEUMANN TLM49)じゃない、67(NEUMANN TLM67)だね」「いやチューブじゃなくて87(NEUMANN U87)にしよう」「87の初期のやつがいいな」…とか、そうやってマイクを選んで試していくと、この人にはこのマイクが合うという第1選択が決まって。その人が2度3度来てそのたびにいろいろ試しても、結局はそこに戻されていきます。※NEUMANN(ノイマン):レコーディング現場において、コンデンサーマイクのトップブランドとして他を寄せ付けないドイツの音響機器ブランド。ゼンハイザーグループ企業のひとつ。

──何回やってもそこに落ち着くという事実の裏には、正しい判断できる耳があるってことですね。

河村隆一:僕だけじゃなくてエンジニアさんも。エンジニアさんが4人いても同意見になりますよ。もっと言うとね、イコライザー自体にも特性があって、「このマイクを通すと200Hzが減るよね」「5KHzが多くなるね」とか、そういう特性が各マイクにもあり、ヴィンテージだとさらにその特性の個体差が出てくるんです。その特性のEQ帯域と鳴っている楽器がドンピシャということです。これがズレていると変な音で録れてきちゃうというか、バスドラなのにローが物足りなくなったり、逆にキンキンしちゃったりとか。

──ノウハウであり経験であり、その人の音につながる話ですね。

河村隆一:これも面白くて、エンジニアさんたちの中でよほどじゃない限りほぼ同じ答えにたどり着いちゃいますね。違う時間、違う時代に生きてるのに「やっぱりこれしかないと思うよ」っていう判断になっていくんです。

──レコーディングではボーカルはノイマンを使いことが多いと思いますが、ライブでのマイクは?

河村隆一:ゼンハイザーの古いボーカルダイナミックマイクを使ったこともあるんですけど、すごくハイが綺麗なマイクでした。煌びやかな印象でしたね。

──さて、そんなこだわり抜かれた河村隆一のニューアルバム『BEAUTIFUL LIE』を聴くのであれば、音質への妥協を見せないゼンハイザーのBTヘッドホン最新機種 MOMENTUM Wirelessがいいと思ったのですが、実際に聴いてみてもらえますか?

河村隆一:いいですよ、聴いてみましょう(…と、MOMENTUM Wirelessで『BEAUTIFUL LIE』マスタリング音源を様々な音量でしばし試聴)。わかりました。えっとね、まず、単刀直入にいうと音すごくいいです。特性としては、ベースの帯域がすごく聞きやすい。ベースの音量が少し上がりますから、今の人たちにも聴きごたえとしてさみしくなくていいんじゃないですかね。本当にフラットになるとスタジオのテンモニ(NS-10M)みたいになっちゃって、地味すぎちゃってまったく楽しめないんですよ。だけどこれはすごく楽しめるし、音量を下げてもバランスよく聞こえてくる。


──河村隆一が言うと説得力ある(笑)。

河村隆一:分離感があってローがあるものって、なかなかないんです。ローを増やすと分離しなくなってくるんですよ。でもこれは、しっかりと聞こえるローが出てて分離感があるから、そこがいいですね。

──音量を下げたときに、きちんと楽しく聴かせてくれることも重要ですよね。音量上げれば、大概よく聞こえますから。

河村隆一:音楽ってね、ライブでもレコーディングでも、ライブの中音(ステージ上の音)でも全部そうだと思うんですけど、低音を支配したものがすべてを支配する…じゃないけど。いかに低域がきちんと聞けるかですよ。iPhoneのような小さな世界でもバスドラやベースがしっかりしていると「おっ、ミックスいいかも」って思います。「聞きたいなら音量あげればいいじゃないか」って話になりますけど、そうするとボーカルやアコギ、細かな音が全部埋もれていく…引きずり込まれ、それでちょっと暗い音楽に聞こえてくるんですね。

──なるほど。

河村隆一:でもこのヘッドホンは、低音が聞こえながらも上が明るい。多分、本当にすごく細かなポイントで調整しながら、低音を出しながら全部が聞こえるようにバランスさせていると思います。マニアックな話ですけど(笑)。

──興味深いです。


河村隆一:僕はベースやバスドラはでかいほうが好きだけど、そうすると音像が濁ってきて、上のきれいな煌びやかな世界がどんどんマスクされていく。ミックスでもライブでも「もっとボーカルを上げてほしい」と思うときって、ローが回っているときなんですね。でも低域を整理しながら音量を出すことができると、ミックスもライブも成功する。ヘッドホンの世界もそれがすごく重要で、特にライブのエンジニアも言うんですけど、スーパーローがすごく出てくる環境の中で、ベースもバスドラもしっかり聞こえるという三角形の下部分をしっかり支えてる状態で、上をきれいに出すのはすごく難しい。調和とバランスですよ。

──そうなんですね。

河村隆一:今の「いい音の新基準」っていうか、僕がスピーカーやヘッドホン選ぶときは、低音が締まってるものを選びます。ドン、タン、ドン、タンではなく、ディッ、タ、ディッ、タと聞こえるようなタイトなほうが結果的に周りが全部聞こえてくる。このMOMENTUM Wirelessだとドーンと言ってくれるけど、余分なのりしろをちゃんと切ってくれていて、下はちゃんと豊かに鳴りながら上も煌びやかです。素晴らしいですよ。

──『BEAUTIFUL LIE』をこれで聴けば、いろんな気付きもありそう。

河村隆一:BEAUTIFUL LIE=美しい嘘ですけど、世の中が潔癖になりすぎるとエンターテイメントがつまんなくなっちゃうなって思ったんです。本当に犯してはいけない嘘はあるし嘘は少ないほどいいけど、「洒落が効いてるな」とか「センスがいいな」という嘘はありますよね。

──そう思います。

河村隆一:しちゃいけないことはある。犯罪はダメ。そんなのは当たり前でわかってる。だけど、音楽をやっている人間として「正しいっていうのはなんなのか」と言ったときに、もう少し余白みたいなものがないと、人生自体がみんなつまんなくなっちゃうんじゃないかな。人が人を攻撃しすぎてね、「あいつマスクしてない」っていうけど、もしかしたらマスクがなくなって買いに出かけただけかもしれないでしょ?いつもクリスマスになれば心の中にはサンタさんがいるしさ、素敵な嘘も必要だし、言わなくていいことを言わないことが嘘なのであれば、嘘なんてたくさんあるわけだし。

──ミッキーは世界にひとりしかいないのもそうですね。

河村隆一:それを嘘とはいわないし、信じたほうが幸せなんです。今の時代、悪いことをしちゃった人を復活させない空気をみんなが作っているんで、自分が楽しいこと考える時間をもって、「センスのある嘘やジョークをつけたら可愛らしいな」と思ってもらえたらいんじゃないかな。

──『BEAUTIFUL LIE』、素敵な世界ですね。

河村隆一:スピーカーだって、真実しか聞こえないかもしれないけど、製作者は色々ひねってひねって考えてる可能性だってあるわけですから、それを「嘘じゃん」って言ったら終わりです。クラシックな生のマイクを使うだけがいいのかっていうとそうじゃない。マイクを通して変化すること自体が音楽を豊かにしていくのもあって、それは嘘ではない。『BEAUTIFUL LIE』はそういうアルバムなんで、ぜひいい音で楽しんで聞いていただけたらと思います。

撮影◎小松陽祐 (ODD JOB LTD.)
取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)


MOMENTUM 3 Wireless
【色】black
【周波数帯域】6Hz - 22kHz
【Bluetooth バージョン】Bluetooth 5.0
【NFC】対応
【対応プロファイル】A2DP, AVRCP, HSP, HFP
【コーデック】SBC, aptX, aptX低遅延, AAC
【オーディオ入力】Bluetooth, Analog(ミニジャック), USB-C
【電源】5.0 V DC, 330mA
【充電池仕様】ビルトインリチウムバッテリー
【USB規格】USB-C
【動作時間】17時間
【ノイズキャンセレーション】3 Active Noise Cancelling Modes
【アプリサポート】ゼンハイザー Smart Control
【パッケージ寸法】231 x 193 x 104 mm
【製品保証】2年



◆MOMENTUM 3 Wirelessオフィシャルサイト
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