【インタビュー】FIVE NEW OLD、アルバム『WARDROBE』に「服を選ぶような感覚」と「新たなサウンド構築法」

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FIVE NEW OLDが4月7日、アルバム『MUSIC WARDROBE』をリリースした。“WARDROBE”とは“衣装部屋”や“衣装ダンス”を意味する言葉であり、HIROSHI (Vo,G)曰く「聴く人が今日はどんな自分になろうかと、クローゼットから服を選ぶように、FIVE NEW OLDの音楽を選び、身にまとい、自分らしくいる時の相棒みたいになれたら嬉しい」とのことだ。メンバー自身の新たな発想と挑戦に溢れたサウンドメイクは、新しい服を着て、新しい自分に生まれ変わるような感覚もあったという。

◆FIVE NEW OLD 画像 / 動画

約1年という月日をかけてじっくりと制作された『MUSIC WARDROBE』には、ワーナーミュージック移籍後に配信リリースされた自身初の日本語詞曲「Vent」、coldrainのMasato(Vo)をゲストボーカルに迎えた「Chemical Heart (feat.Masato from coldrain)」、『ECCジュニア』CMソング「Light Of Hope」、KOSE『SUNCUTRプロディフェンス』CMソング「Summertime」、アサヒ「MINTIA」CMソング「Breathin’」、HIROSHIも出演したドラマ『3Bの恋人』主題歌「Hallelujah」など全16曲を収録。“2021年上半期最多タイアップアーティスト”による最高作との呼び声も高い。

前述したように、コロナ禍ゆえ制作に没頭できたという『MUSIC WARDROBE』が、彼らにとっていかに新しく、自身にいかなる変化をもたらしたのか。冒険心に満ちた制作過程を語ってもらった10000字越えのロングインタビューをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■結成10年ということが無意識に
■オルタナティヴなムードにした

──『MUSIC WARDROBE』は、いつ頃からどんな構想のもとに制作を始めたのでしょう?

HIROSHI:前作『Emulsification』(2019年9月発表)のツアーを終えて、“次はどんな作品を作ろうかな”と考え始めたんです。その時点でぼんやりと“MUSIC WARDROBE”というキーワードは浮かんでいたけど、それをアルバムタイトルにしようというほどではなかったんです。

──“WARDROBE”とは“衣装ダンス”の意味を持つ言葉ですね。

HIROSHI:はい。服はある種、自分のスタイルを提示するものだと思っていて。それと同じように、どんな音楽を聴くかということも自分のライフスタイルを表現するもののひとつ。服を選ぶような感覚でFIVE NEW OLDの音楽を聴いてもらえるといいなと思ったんです。僕らの中には“日常に寄り添う音楽を届けたい”という想いがあって、“ONE MORE DRIP”ということをずっと言ってきている。なので、MUSIC WARDROBEという言葉が大きな意味を持つものとして生まれていました。

SHUN:それが一昨年(2019年)の終わり頃だよね?

HIROSHI:そう。年が明けてワーナーミュージックに移籍して。FIVE NEW OLD が10周年を迎えたこともあったので、「新しいFIVE NEW OLDを新しいチームと一緒に腰を据えて作りあげていきたい」という話をしていたんです。早速デモ作りを始めたんですが、その後、コロナ禍でライブができなくなったことで、一層制作に没頭できたという。これをいい機会と捉えて、集中して音楽を作っていこうというスタンスになりました。


──コロナ禍で気持ちが落ちてしまったりすることなく、意欲的に音楽を作られたんですね。では、アルバムを作っていく中で、キーになった曲はありましたか?

HIROSHI:今回最初に生み出したのが「Vent」だったんです。僕らが初めて日本語の歌詞を乗せた曲で、そこが新しい指針のひとつになりました。ただ、いろんな曲が並行して進んでいたんですよ。そのなかでも特に、自分達のムード的として“オルタナティヴなもの”というのがあった。バンド結成10年ということが無意識にそうさせたのかもしれないけど、僕達が10代の頃に聴いていた2000年代から2010年代にあったポップパンクとしてのパンクムーブメントを、自分達がもう一度REBOOTさせたいという気持ちがあった。だから、曲作り序盤は「Summertime」「Breathin’」「Sleep in Till The Afternoon」といったオルタナティヴだったり、ポストパンクの匂いがある曲が出きました。ただ、新しいFIVE NEW OLDの楽曲として、まず提示したかったのは“日常に寄り添えるような日本語の曲”だったので「Vent」をチョイスして、2020年7月にリリースしたんです。

──「Vent」はFIVE NEW OLDならではのブラックミュージックに通じる洗練感と日本語の取り合わせが新鮮です。それに、英詞と変わらない心地いい歌になっていることも印象的でした。

HIROSHI:元々は「Vent」もいつもどおりのオノマトペ(擬音語 / 擬態語)の英語っぽい響きで歌を乗せていたんです。だけど、メロディーラインがレガートしていたので、“これだったら日本詞がはまるんじゃないかな”と。新しいFIVE NEW OLDとして、今までになかったフルの日本語詞を提示したかったので、「やってみよう」ということになりました。僕の中には音として美しくて、なおかつメッセージとしても言葉としても美しいものを届けたいという思いが強くあったので、最初は結構苦戦したんですよ。英語が持っているパーカッシヴな語感を、どう日本語に落とし込むかということ。それはすごくがんばりましたね。もちろん歌い方も考えましたから、英詞と変わらず「心地いい」と言ってもらえると嬉しいです。


SHUN:初の日本語詞曲だったことで、作り方も今までとは変わったんですよ。この曲は、レコーディングが全部終わった後に、アレンジを再構築したんですが、再構築することでようやく整合性が取れて、納得のいく形で長尺の日本語詞の曲を作ることができた。今までそういうことをしたことがなかったので、印象が強いですね。「Breathin’」も僕の中で強く印象に残っています。タイアップ曲(アサヒグループ食品『MINTIA』CMソング)ということもあって、まずサビから作って、クライアントさんとやり取りをしながら楽曲を詰めていったんですけど、“クライアントが望んでいるもの”と“タイアップ曲でFIVE NEW OLDの音楽をどう表現するか”というところで、せめぎ合いがあったんです。タイアップはたくさんの人に聴いてもらえる機会になるけど、自分達のオルタナティヴな部分を外すことなく凝縮したかった。その方法をいろいろと模索しながら、本当にレコーディング中に、ようやくクライアントさんから返事をいただいて、その場でアレンジを変えたんです。

一同:そんなことあったね(笑)!

SHUN:その場でブラスのメンバーと「こういうアレンジにしよう」とか「それに合わせてコード進行をこう変えよう」とか、頭をフル回転させながらアレンジして、レコーディングしました、久しぶりに朝まで(笑)。エンジニアさんはそのままスタジオに残ってミックスしてくれて、僕は家に戻ってシンセベースを打ち込みし直して、朝8時くらいにデータを送ったんです。で、深夜12時にみんなで集まって、ミックスをチェックしたという(笑)。

HAYATO:結構シビれました(笑)。

WATARU:今どき珍しいですよね(笑)。

HIROSHI:でも、なんかミュージシャンらしいなと思った(笑)。「Breathin’」は去年末にタイアップのお話をいただいて曲を作り始めて。


──クライアントからの要望はありましたか?

HIROSHI:「FIVE NEW OLDが持っているブラックミュージックっぽさとロックバンドのダイナミズムを融合させてほしい」ということでしたね。僕らの系譜でいうと「By Your Side」「Keep On Marching」みたいな感じ。「そういう曲をアップデートしたもので、ご一緒したいです」と。それは僕らにとっても大きな命題で、ロックバンドとしてのサウンド感、ゴスペル、ブラックミュージックが持っている横ノリ、それらを1つの曲の中で共存させていくということに、これまで何回も挑戦してきているんです。都度都度ベストを尽くしてきたけど、自分達の体感として“まだ、もっと、できる”という感触があったんですよ。そして完成した曲が「Breathin’」です。ようやく自分達にしかできない落としどころを見つけられた気がしています。

──無機質さと生々しさを絶妙にバランスさせていますね。

HIROSHI:そうなんです。さっきSHUN君から話があったように、最初にできていたサビは、R&Bっぽいコード進行とメロディーだったんですね。そのうえで、しっかりしたビートでギターもしっかり鳴っているところに持っていくことができた。ただ、サビの雰囲気を引き継いでAメロやBメロを作るのか、それとも違うテイストにするのかが全く決まっていなくて、レコーディング直前にみんなで「どうしよう? 」とか言っていたんです(笑)。

WATARU:しかも、そのときはSHUN君がいなかったんだよね。

HIROSHI:そうそう。3人で「困った困った」と言いながらアコギを弾いていたら、BECKっぽいギターの感じができたんです。それから「おおっ!?」てなったんだよな(笑)?

WATARU:「それだよ!」って(笑)。

──わかります。アコギのスライドを活かしたリフが、すごくカッコいいですよね。

HIROSHI:リフができて、それを土台にAメロとBメロを作っていったんです。洋楽ミュージシャンのシーンでオルタナティヴが再び注目されている中で、その流れを自分達がキャッチして「Breathin’」という曲に落とし込めたと感じています。あと、「カッコいい」と言っていただけたイントロのギターリフは、実はiPhoneで録った音をそのまま音源に生かしているんです(笑)。

──えっ、そうなんですか?

HIROSHI:いいマイクを立ててレコーディングもしたんですけど、「なんか違うな」ということになったんですよ。僕らは去年夏にガレージを制作場にして、機材を全部入れて、リアルなGARAGE BANDを作ったんです。そこで録ったiPhoneの音なので、空調の“ボォーッ”っていう音とか喋り声とかも入っていて、逆にそれが良かったんです。

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