【連載 番外編対談】櫻澤の本気 II、MUCCミヤと語る「ミュージシャン目線と制作現場目線」

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■ミヤ君はマスタリングで
■オッサン達を若返らせてくれた(笑)

──SakuraさんとDENさんの指向性の違いも『across the horizon』の聴きどころになっていますよね。そして、このアルバムはミヤさんがマスタリングを手がけられました。

櫻澤:ミヤ君が立候補してくれたんです。

ミヤ:MUCCのサポートキーボードの吉田トオルさんは、ZIGZOにも参加しているんですよ。トオルさんの中で、俺がマスタリングしたMUCCの音源とか、いろんなバンドの作品の印象が良かったらしくて。それで、「ZIGZOのマスタリングをやってみない?」と言ってくれたんです。

櫻澤:トオルがきっかけだったんだ?

ミヤ:そう。「やります」と即答しましたけどね。ZIGZOは、世界観という意味で既に音が出来上がっているから、マスタリングでどうこうというよりも、バランス調整作業がほとんどで。そもそも俺はZIGZOサウンドをよく知っますからね。ZIGZOの世界観って、オールドスクールの“これこれ!”という音色をしっかり出したうえに、(髙野)哲さんの歌詞とメロディが乗ることで生まれているんですよ。だから今回は、普段のマスタリングのような音作りの作業よりも、スムーズに聴かせるために各曲のバランスを調整する作業が多かった。SakuraさんやDENさんのミックスとの兼ね合いで言えば、ミックス段階で結構細かくマニアックな手法をいっぱい使っているんですよ(笑)。そのマニアックなことはよりマニアックに、やっていることがわかりにくいところはわかりやすく、ということは意識しました。

櫻澤:ミヤ君はマスタリングで、オッサン達をめちゃくちゃ若返らせてくれた(笑)。


ミヤ:いやいや。ZIGZOを変えようとは思っていなかったけど、“俺が求められているのはなんだろう?”と考えたときに、自分もMUCCのミックスやマスタリングをしているからわかることがあって。自分の音楽だからこそ、その解釈って第三者と違う場合もあるんです。今回はいい意味で、第三者的な視点でZIGZOを見てみようと。そうしたときに、きれいにまとめたり、日本的なマスタリングをしても、俺がやる意味はない。だったら、洋楽的なマスタリングをしようと思ったんです。それも最近の洋楽じゃなくて、13~14年前の海外マスタリングのイメージが、今回のアルバムにすごく合うことを感じて、そういうアプローチをしました。

──自分の色を出すことを優先するのではなくて、客観的な視線でベストなアプローチをチョイスする辺りはミヤさんらしいです。

櫻澤:そうだね。さっき話したようにミヤ君とは長いけど、プレイヤーではないところで共同作業をしたのは初めてだったんだ。そういう関わり合い方も楽しかったし、やっぱりミヤ君に対する信頼感が一層深まった。すごくいい機会になったと思うよ。

ミヤ:Sakuraさんも俺も、今まではお互いが音を放つ側にいて、その先にいるエンジニアが受け取るという形だったと思うんです。だけど、今回はSakuraさんが放つ側で、俺が受け取る側だった。そのやり取りは新しいし、やり甲斐を感じながら取り組みました。

──リレーションの形がまたひとつ増えましたね。今後のお二人のコラボレーションも楽しみです。

櫻澤:ミヤ君にはもう話しているけど、gibkiy gibkiy ginkiyのマスタリングとミックスを1曲くらいミヤ君にやってもらいたいと思っているんだ。ZIGZOはすごくキャッチーだけど、そうではないものを。MUCCが今はそういう状況ではないと思うから、ひと段落してから、タイミングが合うときにミヤ君とは他でも一緒にやりたいなと思っていてね。……っていう話をしていて思い出したけど、俺は2006年くらいにMUCCの制作から一旦離れて、その後『葬ラ謳』の再録(2017年発表)のときに再び呼ばれたんだよ。当時のスタッフや佇まいで録り直したいということだったから。そうしたら、スタジオにKenちゃんがいて、Kenちゃんが終わったら、入れ替わりで俺がスタジオに入るという(笑)。

ミヤ:『葬ラ謳』の再録と同時進行でレコーディングしていたオリジナルアルバム『脈拍』(2017年発表)のプロデューサーがKenさんだったんです。


▲密着番組『21/07/26 Miya 42 BD ザ・ノンファクション』7月26日(月) 12:00~ 開始予定

櫻澤:それからまたしばらくして、ドラムチューナーとして突然ミヤ君に呼ばれたんだよね。行ってみると、「最初、SATOちにチューニングをやらせてやってください」ってミヤ君が言うから、ちょっと様子がおかしいなと思ったんだよ。だけど、「全然いいよ。足りないところがあったらフォローする」ってSATOちがチューニングするのを見ていたんだ。あいつは1人でちゃんとチューニングができてたから、なぜ自分が呼ばれたのか?ちょっと釈然としなかったんだけどね。その後、SATOちがMUCCを脱退することを知って、そういうことだったのかとわかった。

──なるほど。いい話です。

ミヤ:MUCC脱退はSATOち自身が伝えたいタイミングでSakuraさんに話すだろうから、その時は黙っていたんです。でも、成長したSATOちの姿をSakuraさんに見てもらいたいというのがあって。SATOちもSakuraさんのチューニングをずっと見ているからチューニングはヘタではなくて、PAさんによっては「プロのチューナーよりもSATOちのチューニングのほうがいい」と言う人もいるんです。勘でやるから、波があるんですけどね(笑)。だからその時は、Sakuraさんに来てもらって、SATOちのベーシックなチューニングを調整してもらうのがベストかなと思ったんです。

櫻澤:なにも言わずに俺を呼んだことに、ミヤ君の男気を感じたね。最初にMUCCに呼ばれたときから、ミヤ君は俺がやっているドラムイベント<Busker Noir>に「SATOちを出してやってください」と言ってたし、実際、2017年にSATOちをイベントに呼んだりしたんだ。SATOちが脱退するのはすごく残念だけど、MUCCが嫌でやめるわけじゃなくて円満に去るわけだから、前向きな別離だよね。もちろんちょっと寂しいというのはある。

──MUCCはメンバーチェンジがないバンドという印象を持っていましたので、SATOちさんの脱退発表は青天の霹靂でした。

ミヤ:俺ら自身もずっと4人で続けていくと思っていたんですよ。だから、SATOちがやめたいと言ったときは驚いたんです。でも、これだけ長い間続けてきて、それでもやめるという決断は、相当覚悟が必要だったと思うんです。それだけしっかりした考えがあるなら、引き止めるほうが失礼なので。お互いがよりよい未来を考えて出した答えだから、SATOちに対するしこりやわだかまりは全くないし。寂しいというのはもちろん俺らの中にあって、ファンの皆さんにもあると思うけど、今回の件がSATOちにとっても、MUCCにとってもプラスの方向に作用すると信じています。

──きっとそうなると思います。8月20日および21日に茨城のザ・ヒロサワ・シティ会館 大ホールで行なわれるSATOちさんの最後のステージはMUCCを知っている全ての人に観てほしいです。

ミヤ:そうですね。SATOちのラストツアーがコロナと被ってしまって残念というのはあるんですよ。コロナじゃなかったら、もっと本数をやれていただろうから。もうちょっと待てばコロナは収束するかもしれないけど、すでに予定よりも1年近く伸びていて、SATOち自身も辛い部分があるだろうから、これ以上ライヴは増やさないことにしたんです。SATOちのラストライヴは配信も実施する予定で進めてます。


▲櫻澤泰徳

──会場に来られない人も観ることができるというのは嬉しいですね。話をSakuraさんとミヤさんのコラボレートに戻しますが、今後ドラマーとギタリストとして、なにかご一緒することもありそうですか?

ミヤ:Merry Go Round Respectsのときに、SakuraさんのドラムはSakuraさんにしかない個性であることを改めて実感したんです。俺はセッションバンドをいっぱいやってるから、いろんなドラマーと演奏しているほうだと思うんだけど、自分が好きにギターを弾いて、リズムを委ねられるドラマーは今のところ2人だけ。UZMKのDUTTCHさんとSakuraさんしかいない。ということは、俺はその2人じゃないと自分のポテンシャルを発揮できない部分もあるんじゃないかと思ってて。Sakuraさんと一緒に演奏することで、自分の中の音楽人としての畑を耕したいというイメージもあるんですよ。Sakuraさんのドラムでギターを弾けば、今までアンテナを張れていなかったところの感度も上がるだろうなって。だから、Sakuraさんとは、もっといろいろやってみたいですね。

櫻澤:ずいぶん昔の話になっちゃうけど、<PARTY ZOO ~Ken Entwines Naughty stars~>にgibkiy gibkiy ginkiyが出演(2016年)したとき、ミヤ君仕切りのセッションでL'Arc-en-Cielの「Vivid Colors」をカバーしたんだ。ギターはKenちゃん、ミヤ君はアコギを弾いて、ベースはYUKKEというメンバー。そのときのミヤ君とYUKKEの2人は、もう本当に頼りがいがあって、すごく乗っかりやすかったんだよね。嬉しかったのが、ミヤ君はアコギだからストロークパートでしょ? 俺のドラムは「ストロークが合わせやすい」と言ってくれたんだ。

ミヤ:俺は普段、スネアとキックの打点の合間を縫うようにドラムに合わせにいってる感じなんだけど、Sakuraさんは俺のタイム感で弾けば合ってしまう。そういうグルーヴ感も含めて、自分と近いものがあるんです。

──人としても、プレイヤーとしても、エンジニアとしても相性がいいんですね。

櫻澤:パーマネントに一緒になにかをやっているわけではないのに、こんなに接点があって、仕事をする機会も多いということが、それを証明しているよね。最近は、プレイヤーとしてミヤ君と一緒に音を出してないから、そういうことも久々にやりたいと思っている。MUCCがひと段落したら、ぜひ。

ミヤ:はい。一緒になにかやりたいですね。

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