【コラム】リンゴ・スター『チェンジ・ザ・ワールド』、ぎゅっと詰め込まれた元気と情熱とラブ&ピース

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新型コロナウィルスによる様々な困難にあえて目をつぶるとすれば、2020年と2021年は、ザ・ビートルズのファンにとって素晴らしい時期であると言っていいだろう。ポール・マッカートニーは『マッカートニーIII』と『マッカートニーIII IMAGINED』で健在を示し、ジョン・レノンは『ジョンの魂 アルティメイト・コレクション』を、ジョージ・ハリスンは『オール・シングス・マスト・パス 50周年記念エディション』をリリースし、ロックの世界遺産と言える名盤に新たな命を吹き込んだ。そして10月15日にはザ・ビートルズ『レット・イット・ビー スペシャル・エディション』が、11月には新ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』も公開される。まさに豊かな実りの季節を迎えている。

そして7月7日に81歳になったリンゴ・スターは、3月に『Zoom In』という素晴らしいEPを出し、矍鑠たる演奏ぶりと若々しい歌声で、世界中にラブ&ピースのメッセージを伝え続けている。チャーリー・ワッツは本物の伝説になってしまったが、リンゴを伝説と呼ぶにはまだまだ早すぎると、未だロックキッズのような輝きを保つ『Zoom In』を聴き返して強く思う。

そんなリンゴが「どうやら現在、もう1枚のEPを制作中らしい」というニュースを聞いたのは、『Zoom In』がリリースされる直前のこと。まさかそんなに早く?と当初は半信半疑だったが、半年後の今、本当に『チェンジ・ザ・ワールド』というタイトルのEPが届けられて、嬉しさと感動が抑えられない。前作同様、新型コロナによるロックダウン中に自宅スタジオにミュージシャンを招き、制作された新曲が4曲。世界的パンデミックも彼の創作意欲に水をさせなかった、どころか、むしろ火をつけてしまったのではないかと思わされる、情熱あふれる作品だ。


1曲目は、リード・シングルになった「レッツ・チェンジ・ザ・ワールド」。いきなりのザ・ビートルズ「レイン」を思わせるスネアの連打、「思い出のフォトグラフ」を彷彿させるメロディラインに、往年のファンは悶絶必至のキラーチューンだ。意図的にやっているとすれば「参りました」としか言えない必殺技で、リンゴの叩くがっちりタイトなドラムのビートも最高に気持ちいい。曲を書いたのはジョセフ・ウィリアムズとスティーブ・ルカサーというTOTOのコンビで、景気のいいブラス、ふくよかなエレクトリックピアノ、そしてルカサーのギターソロも気合入りまくり。終盤はソウルフルな女性コーラス隊で盛り上げる、実にエネルギッシュで元気の出るロックチューンだ。

続いて登場する「ジャスト・ザ・ウェイ」は、前作『Zoom In』でもやっていたクラシック・レゲエ調の曲で、のどかな明るさの中に切ない翳りを加えたメロディが秀逸。音数が少ないおかげでシンバル類の音がよく聴こえるので、リンゴのドラマーとしての独特なクセやスキルの高さを追求したいマニアックなファンは、ヘッドホンで何度も聴くべし。3曲目「カミング・アンダン」は、P!NK、アデル、クリスティーナ・アギレラなどの楽曲を出がけた、ヒットメイカーのリンダ・ペリーとの初共作。レイドバックしたカントリー・ポップで、シャッフル超の軽快なドラムも、肩の力の抜けた歌いぶりも、これぞリンゴ・スター!な癒しチューン。ジャズとロックを股にかけて活躍しているトロンボーン・ショーティーの、素晴らしいトロンボーンのソロが聴けるのもポイントが高い。カントリー好きのリンゴにも、今までありそうでなかったタイプの愛すべき曲だ。

そしてEPを締めくくる4曲目は、なんとビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツ「ロック・アラウンド・ザ・クロック」のカバー。1954年発表、ロックンロール最初期の大ヒットとして知られる曲を、ギターにジョー・ウォルシュ、アップライト・ベースにネイザン・イーストなどを配して、ライブ感たっぷりに演奏しているが、初期ザ・ビートルズ・サウンドを思い起こさせる「シンバル叩きっぱなし」で「ギターやベースを置いていくほど前のめり」なドラミングが堪能できるのが最大の魅力。マッシュルームカットを振り乱して笑顔で叩きまくる、あの頃の映像が思わず脳内でフラッシュバックする。リンゴ・スターといえば「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン」や「ボーイズ」のようなロックンロールだろう、というファンにはたまらない1曲だろう。


収録4曲は決して多くはないが、ぎゅっと詰め込まれた元気と情熱とラブ&ピースのおかげで十分に満足させてくれる。『Zoom In』と『チェンジ・ザ・ワールド』を合わせて1枚のアルバムのように聴けば、満足感は倍増するはずだ。歌詞においても、「レッツ・チェンジ・ザ・ワールド」というストレートなメッセージや、誰もが経験する挫折からの立ち直りをテーマにした「カミング・アンダン」など、時代に即した言葉が散りばめられている。リンゴの歌は優しい、そして強い。『Zoom In』を紹介する時にも同じことを書いたが、今回もまたその文章を繰り返して締めくくろう。

リンゴのことを思うだけで、コロナなどで落ち込んでいる暇はないと、ふつふつと勇気が湧いてくる。今の世界に必要なのは、愛と平和とリンゴ・スターである。

Photo by Scott Robert Ritchie
文◎宮本英夫

リンゴ・スター『チェンジ・ザ・ワールド』

2021年9月24日発売
4曲入りCD UICY-16018 価格:2,310円税込
歌詞付
日本盤のみ:解説付/対訳付 SHM-CD仕様
1.レッツ・チェンジ・ザ・ワールド
2.ジャスト・ザット・ウェイ
3.カミング・アンダン
4.ロック・アラウンド・ザ・クロック


◆リンゴ・スター・レーベルサイト
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