【インタビュー】ヒグチアイ、さみしさの答え

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ヒグチアイの“働く女性”をテーマにした3部作が、11月24日にリリースの「やめるなら今」で完結する。

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社会へ出て、また思い描く夢に向かって踏み出した世界で生まれる理想と現実との葛藤や、徐々に薄れゆく情熱や自信……そうした誰しもが直面する出来事、シーンを描いた「やめるなら今」は、今回の3部作で最も晴れやかに、高揚感をもって響きわたる。



ここで歌われるのは、自分の人生がより濃く深くなっていく、その瞬間だ。ドラム、ベース、そして強いアタックでプレイされるピアノで風を巻き起こすようなサウンドで、しかしその歌にはヒグチアイの深い眼差しや、孤独や痛みを知るゆえの温かさがにじむ。3部作にふさわしい締めくくりで、人生賛歌や応援歌になっている。ぜひ、「悲しい歌がある理由」「距離」と合わせて、折に触れ、自身のテーマやサウンドトラックとしてほしい曲が揃った。

この3部作のインタビューでは、“さみしさはどこから来るのか”や、“働く女性”やそのテーマへと至った経緯、結婚観等について話してもらったが、今回は話はパパ活まで広がりながら、“必要とされる自分”について話してもらった。

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■誰かのことを嫌いにならないように生きてきた

──前回、「反抗期というものがなかったので。多分、誰かに言いたいことや、親に言いたいことを歌で昇華しているのかもしれない」という話をしていましたが、これもヒグチさんの歌にある“さみしさとは?”“自分の幸せとは?”という問いにつながっているんですかね。

ヒグチアイ:ずっとそんなこと考えていますもんね(笑)。考えすぎなのかな……うん、考えすぎではあるんですよ。でもそのさみしさが最初の生まれたところは、小さい頃に親から無条件で「あなたは生きているだけで素晴らしい」って言われたことがない気がしていて。言ってくれていたのかもしれないですけど、多分それを言われる前に“私はいい子でちゃんと過ごしているし、お母さんの役に立っているから愛されてる”っていう自分が演じていた部分がすごく多かったんです。それに対して、そんなことしなくてもいいんだよとは言われたことはなかったというか。「アイちゃんはいい子でいいね」って言われ続けてきちゃったので。自分で勝手に配慮してしまった分が、いま足りなくなってしまっているのはあると思いますね。

──その、自分が存在する理由がいろんな形で歌として表れているんですね。

ヒグチアイ:自分が歌を歌っていてそれを好きだと言ってもらっていることは、決して「生きているだけで素敵だよ」と言われているわけではないですけど。でも自分の人生を書いて、それがいいと言ってもらえることは、自分の人生を肯定してもらっている感覚もある。生きているだけでいいんだと言われていることなのかなって思えているのはあるかもしれないですね。

──今回の3カ月連続リリースの第1弾シングル「悲しい歌がある理由」のなかで“誰でもないわたしを必要と言ってよ”と歌われますね。この“誰かに必要とされる自分”というのは、自分を肯定するためにもすごく大事ですよね。

ヒグチアイ:そうですね。以前にお話ししましたが、仕事というものが自分の盾になっている人たちも、仕事で相手から必要とされることが生きる意味になっている人も絶対にいると思うんです。その盾が人によって恋愛であったり、家族であったり、仕事であって、それがあればさみしくないって思えるのかなというのが、現時点での私のさみしさの答えではありますね。


──ヒグチさんは、いわゆる会社員などの経験というのはありますか。

ヒグチアイ:ないですね。

──想像になりますが、自分はそういった場所、職場でうまくやれるようなタイプだと思いますか。

ヒグチアイ:絶対に無理です(笑)。まず同じところに毎日通うことが無理なので、学校もすごくしんどかったんですよね。どこに行くにも、同じ道を帰ってくるのすら嫌なんですよ。道をまちがえても、ちがう道から帰りたいくらいに、同じことをするのが苦手で。なので、まず会社勤めは難しいと思います。あとは舞台をやって思ったのは、集団でいるのがとても苦手。みんなで一緒にやろうというときに、やりたくないっていうような性格というか。ちょっと性格に難ありというのがありましたので(笑)。

──大人になって、ひとつのチームのなかでわたしはやりたくないとはなかなか言えないですしね(笑)。

ヒグチアイ:言えないですよね、会社でそんなこと言っていたらクビになると思う(笑)。


──学校でも会社でも、何かの集団でも、うまくやっていくには人間関係でのさじ加減やスキルのようなものが必要な感じがありますしね。結構、そこでつまずいてしまう人も多いかもしれません。

ヒグチアイ:スキルは必要ですよね。あまり人に関わり過ぎないというのが、絶対に大事だと思うんです。会社でも、飲み会は絶対になしにしましょうみたいにすれば、会社だけで会う人だし、うまくやっていけると思うんですけど。どこかで仲良くなっちゃったりとか、強く繋がったりするから、いろんな感情が生まれてしまうんですよね。差が生まれてくるというか。

──そういうところはヒグチさん自身、避けて通ってきたところなんですね。

ヒグチアイ:はい(笑)。私はずっと、誰かのことを嫌いにならないように生きてきたんですよね。だから例えば、誰かが誰かのことを嫌いだっていう話をすると、その自分のバランスが崩れちゃうんです。“あ、そういうところを嫌いになっちゃうんだ”っていう。それ私もわかるなって思っちゃうと、そこで一個苦手になっちゃったりもして。でも普通は“この人にはこういうところがある”って、別にそれが“嫌い”とイコールではないじゃないですか。

──そうですね。

ヒグチアイ:でも誰かがそれを“嫌い”になっちゃうと、自分もそれが嫌いになってしまうんですよ。そうなってしまうのがとても苦手というか、いやなんです。

──誰かに影響のようなものを受けてしまう。

ヒグチアイ:なので、誰かのことを“嫌い”って言えちゃう人には、あまり近づかないようにしています。でも会社勤めの場合は簡単に離れるとかはできないから大変ですよね。どうしたらいいんだろうって本当に思いますね。逃げられるのであれば、逃げたほうがいいと思うし。私自身体験していますけど、相手から少し離れたことで、そのあとその人と会っても楽しくいられる自分がいたんです。その人に、近づき過ぎてしまっただけなんですよね。距離感をまちがってしまっただけで、少し距離を置いたら別にいい人だということも全然あるので。とにかく、誰かに対して“嫌い”って言う人には近づかないというのが、最近のルールです。

──ネガティヴさを抱かないためにも。

ヒグチアイ:そうです。私はあまり嫌いな人ができないので。何かされたのであれば嫌いにもなりますけど。そうじゃない、“なんとなくこの人嫌いだな”っていうことを言っちゃう人は、近くに置かないことで心の安定を保ってます。

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