【インタビュー】SideChest、存在感のある曲が繰り出され一気にラストまでいざなわれる1stアルバム『BUFF』

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■『BUFF』は“この1枚を通して自分たちを強くする”という意味と
■“自分たちの聴いている音楽が自分たちを強くしてくれる”という意味です


――1曲目の「Slumber」はミディアムナンバーで、普通ならば、じょじょにテンションの上がる曲ですが、ピークから始まるところが画期的です。どんなきっかけから作ったのですか?

伊藤:“最初からいきなり100で始めたい”と思って作った曲です。「Slumber」はまどろむという意味があります。朝、目を覚ました時のふわふわした感じ、寝ている時に見ていた夢がまだ頭に残っている感じを曲にしました。

戸田:この曲を最初に聴いた時に、メロディの良さが印象に残って、ここから発展させて長くしてもいいんじゃないかと思ったんです。でもアルバム的にショートで行きたいとのことだったので、この形になりました。

松岡:伊藤がスタジオで、「ショートバラードを作りたい」と言っていて、翌日の朝にはデータを送ってきたので、その早さにも驚いた曲ですね。メロディもとても良いと思いました。ボーカルとしては、当初のキーでは声が出ず、半音下げてもらったので、そこだけは悔いが残ります。でも30秒の中に自分のすべてを詰め込めたんじゃないかと感じています。


――2曲目の「空似」も歌がダイレクトに入ってくる曲です。

松岡:「空似」もサビ始まりの曲で、目指したのは、聴いた瞬間に体の中に入るド直球の良い曲。<僕らまた心から笑えますように>という最初の一行は、時間をかけて言葉選びをしました。ライブハウスのあり方について、バンドとお客さんが口論していたSNSのやりとりを見たことがきっかけで書いた曲です。“ライブハウスを向上させたい”という気持ちを、互いが持っているのは素晴らしいことなんですが、意見のぶつかり合いが度を過ぎていくのを見て感じたこと、自分が心の底から思っていることを言葉にしたら、このフレーズになりました。

――「空似」というタイトルはどこから?

松岡:ラジオからASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ソラニン」という曲が流れていて、合わせてハミングした歌を録音して広げて作った曲でもあって。なので、仮タイトルを「ソラニン」のひとつ手前の「ソラニ」で止めて、「空似」にしました(笑)。



――演奏に関しては?

伊藤:キャッチーでポップな曲だったので、スーッと流れないように、フックがあるといいなと思い、Aメロのリズムを変えてみたり、アルペジオを入れてみたり、コードのふくらみを出してみたり、自分なりにいろいろ工夫しました。

戸田:“頭サビ”と決まったのがレコーディング1週間前で。そうなると、“頭サビのあとに何かフレーズがほしい”ということになるので、急いでサビの後のイントロを作ったんですが、それが意外と良かったんですよ(笑)。直感で作るやり方もあるんだなという発見がありました。

伊藤:イントロのフレーズ、2時間くらい弾いていたよね。


▲戸田与久(Gt)

――ドラムでポイントにしたことは?

小林:できるだけシンプルな構成にすることです。サビの後が2ビートになるのですが、サビの盛り上がりを間奏でも持続したかったので、勢いを意識しました。

――「Letter」はスケールの大きな曲です。ライブで盛り上がる曲なのではないかと思いますが、この曲はどんなところから?

伊藤:かなり前からある曲で、アルバムで満を持して発表できた曲です。ゆっくりのテンポから速くなるメロディックの王道の展開を一度しっかりやってみたいと思って作りました。歌詞はひとり暮らしをしていた時のことをモチーフにしています。テンポが遅い時は夜の設定で、早くなっていく時は夜が明けていく設定です。曲と歌詞をうまくリンクさせられました。

――気持ちの流れが伝わってくる歌声です。どんな意識で歌ったのですか?

松岡:1番のAメロBメロは夜の感じで、静けさを表現していますが、あまり声が小さすぎると、楽器の演奏に声が埋もれてしまいます。しかし、声を出しすぎると、曲の雰囲気とそぐわないので、どんなバランスが良いのかを考えながら、歌っていました。今でもライブでは、どんな歌い方が良いのか探っています。



――ドラムはどんな意識で演奏したのですか?

小林:伊藤がどういう曲にしたいのかをヒアリングしたうえで、自分のやりたいことをうまく落とし込めたと思っています。

戸田:ギターに関しては、フレーズはシンプルなんですが、音色はかなりこだわって、静かなところでのクリーンな音色と速くなったところでの歪んだ音色のギャップを大切にしました。

――「Growth」は、音楽への思いが伝わってくる曲です。これはどういうところから?

伊藤:作ったのはアルバム制作の後半です。リード曲を作ろうということがきっかけでした。すでに「空似」があったので、違うテイストで壮大なタイプの曲をイメージして作りました。歌詞のテーマは自分という人間のこれまでの音楽人生です。小さい頃から音楽が好きで、木の棒をマイクにして歌っていたところから、ライブを観に行くようになり、楽器をさわるようになり、バンドを組み、今も音楽をやっていられるのは幸せなことだな、でもまだまだ全然足りないという思いも含めて、歌詞を書きました。好きなバンドへのオマージュというか、好きな曲の歌詞から部分的に言葉も拝借しています。

――たとえば、どんなフレーズですか?

伊藤:サビの最後の<進まなくちゃ 急がなくちゃ>というフレーズは、ストレイテナーの「ROCKSTEADY」へのリスペクト、Cメロの<止まなくなった 耳鳴りだって>というフレーズは、ELLEGARDENの「高架線」へのリスペクトを込めています。

松岡:この曲は伊藤が提示した形から、試行錯誤して違うサビに変えたんですが、自分で作り直しておきながら、サビが高くて歌えなくて、そこからさらにレコーディング当日まで試行錯誤していました。

伊藤:ブース内はどえらい空気でした(笑)。

松岡:でも試行錯誤した甲斐のある曲になったと思います。


▲小林章人(Dr)

――この曲を作る過程でも、バンドがGrowth(成長)した曲だったんですね。

小林:この曲は“SideChestってこうだよね”ということを意識して演奏した曲でもありますね。疾走感や頭の入り方、サビの突き抜ける感じなど、バンドの持ち味が出ていると思います。

戸田:“ザ・SideChest”という曲になりました。

――「備忘録」は景色も空気感も伝わってくる素晴らしい曲です。これはどんなところから生まれたのですか?

松岡:ライブハウスを回って、ライブをする日常の日々を忘れたくないと思って曲にして「備忘録」というタイトルをつけました。歌詞がサビに行くにしたがって、時間を遡っていく構成になっています。Aメロは打ち上げが終わった後の機材車の中での帰りのイメージ。<スモークカラーの絵に描いたような月>は、機材車に貼ってあるスモーク越しに見えた月。Bメロはライブ終演後や打ち上げの描写、サビはライブの描写です。自分たちの放った音楽が、聴いている人たちそれぞれの人生の中で鳴り続けてほしいという願いを込めた曲でもあります。

伊藤:オチサビのアルペジオ、頑張りました(笑)。個人的に今回のアルバムで、もっともギターで頑張った曲かもしれません(笑)。

戸田:イントロとギターソロは、歌詞がない段階で直感的に作ったのですが、歌詞があがってみたら、マッチしていたので良かったですね。自分としても、とても好きな曲になりました。

小林:ドラムはもっと壮大にすることもできたのですが、“同じビート感でやりたい”という松岡の希望もあり、今までのSideChestにはあまりないビート感で演奏できたので、いい経験になりました。

――『BUFF』というアルバムタイトルはどんなところからつけたのですか?

伊藤:他の候補もいくつかありましたが、全部ボツになりました(笑)。いろいろ考えてこの言葉が出てきました。字面も良いし、“BUFF”はゲーム用語で“パワーアップ”という意味があるので、いろいろ重なるんですよ。“この1枚を通して、自分たちを強くする”という意味もあるし、“自分たちの聴いている音楽が自分たちを強くしてくれる”という意味もあります。“get a buff”というフレーズには、“裸”という意味があるので、この作品が“今の自分たちのありのままの姿”という意味でも通ります。後付けになりますが、“BUFF”は筋肉にも使う言葉らしいので、SideChestというバンド名にも合っているなと。

――アルバムが完成しての手ごたえ、どう感じていますか?

小林:以前から、「フルアルバムを作るならば、すべてリード曲でいける作品にしよう」という話をしていたんですが、「すべてがリード曲」といえる作品になったと思っています。

戸田:今までの作品は、“聴いてくれたらいいな”ぐらいの気持ちだったんですが、今回の作品を作ったことで自信が出てきたというか、“聴いてほしい”という気持ちがさらに強くなりました。ライブでやるのも楽しみです。

伊藤:短い曲がたくさんあって、聴きやすくて、なおかつまとまりもあって、1stフルアルバムとして、純度の高い作品ができたと思っています。ライブ映えする曲ばかりなので、これからこのアルバムの曲で、観客とコミュニケーションを取っていくのが楽しみです。

松岡:初期衝動を詰め込んだアルバムになった手ごたえがあります。この作品を聴いて、「好きだな」って思ってくれる人たちと同じ感覚を共有しながら、一緒にライブハウスで遊んでいきたいですね。「備忘録」という曲の歌詞に<戻れないなら終わらせないで>というフレーズがあります。自分がくじけそうになった時に、自分のケツを叩いてくれる曲、そしてアルバムになったと思っているので、この曲のとおり、終わらせずに突っ切っていきます。

取材・文:長谷川誠

リリース情報

1st Full Album『BUFF』
2022/11/02 (Wed)リリース
BURC-025 2,530円(税込)
1 Slumber
2 空似
3 反抗期
4 茜(Album ver)
5 Blank
6 Dry
7 Pool
8 自問自答
9 ほとぼり(Remix ver)
10 Prima(Album ver)
11 Letter
12 Growth
13 備忘録
14 Giant(Album ver)
15 Birthday(Album ver)

ライブ・イベント情報

SideChest 1st Full Album「BUFF」Release Tour
<BUFF ME TOUR>
2022.11.25(金) 心斎橋BRONZE
2022.11.27(日) 神戸 太陽と虎
2022.12.20(火) 京都MUSE
2022.12.24(土) 広島ALMIGHTY
2022.12.25(日) 福岡 Queblick
2023.01.08(日) 渋谷Spotify O-Crest
2023.01.15(土) 名古屋club QUATTRO

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