【ライブレポート】北園涼、全国ツアーファイナル「自分のためにも、みなさんのためにも歌いたい」

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やっと、やっとこの日を迎えられた──。

11月27日、PLUSWIN HALL六本木はパンパンに膨れ上がり、今か今かと主役の登場を待ち侘びている。

◆ライブ写真(16枚)

主役の名は北園涼。ミュージカル『刀剣乱舞』やMANKAI STAGE『A3!』、舞台「NARUTO-ナルト-」など数多くの2.5次元作品に出演している俳優であり、2019年からはアーティストとしても活動している。今年6月には待望の3rdアルバム『Ignition』をリリースし、7月にはアルバムを引っ提げた全国ツア―<北園涼 LIVE TOUR 2022『Ignition』>を開催。コロナ禍という制限がありながらもツアーは順調に進んでいた。


しかし、そんなタイミングで新型コロナウイルス感染症の第7波が襲来。ツアーラストを飾る東京公演を目前に北園も罹患してしまい、延期を余儀なくされてしまった。

そう、この日は延期となった7月のライブの振替公演であり、いわばあの日のリベンジのようなものだった。会場はオールスタンディングのライブハウスに変更され、オーディエンスとの距離もこれまで以上に近い。シンプルながらバンドサウンドがダイレクトに伝わるセットに胸が高鳴る。そして「Burning Tinder」が流れる中、バンドメンバーを引き連れて北園が登場。タイトなパンツにレッドのチェック柄のシャツを羽織ったラフなスタイルで叫ぶ。


「最高の夜にしましょう!」

1曲目は『Ignition』より「Limited time」。ライブという限られた時間の中で、何を魅せ、何を聴かせてくれるのか。この瞬間を北園もオーディエンスも待ち焦がれていたのだろう。互いのエネルギーが一気に爆発し、いきなりトップスピードでツアーファイナルの幕が上がった。その熱気を保ったまま、続けざまに「Awake」と「ヒカリアレ」。この日はちょうどワールドカップ予選の日本対コスタリカ戦があり、六本木のスポーツバー周辺には多くの人だかりができるほどだった。そんな中で自分のライブを選んでくれてありがとうと曲間で告げる。「ヒカリアレ」では、まるでその先にある何かを掴み取るかのように手を伸ばし、力強く歌い上げていた。一気に3曲駆け抜け、ようやく一呼吸。


「みなさん、ありがとうございます。最終公演です。7月からのツアーでしたけれども、ここまでかかってしまいました。いろいろありましたけれど、ここに立てて嬉しく思います」と、飾らない言葉で率直な思いを伝える。そして、会場に来ることが叶わず、配信でライブを見ている人たちにも「(配信で見ることを)選んでくれてありがとう。遠くから見守っててください。どんな距離でも届けるんで」と語りかけ、始まったのは「Over the little night」。MCの言葉通り、全ての人に届けるように一語一句漏らさぬよう、丁寧に歌を紡ぐ。


ここまでテンポ良く進み、あっという間に次は5曲目。「雰囲気がいいもんで、ポンポン進みたくなってしまうな」と振り返りつつ「しゃべると“ボロ”がでて雰囲気壊しちゃうから」と笑う。冒頭の激しいパフォーマンスからは想像もつかないほどの柔らかい言葉。そのギャップもまた、彼のライブの魅力の一つなのだろう。

「今日このライブが終わってしまったら、扉を開けてまた別の人生を歩んでいきます。でも、必ず壁にぶち当たるわけですよ、僕自身も。その壁をぜひみなさんには乗り越えてもらいたい。そう思って書いた曲です」


そうして歌い出したのは自身が作詞した「sad day」。“泣いたっていい”“塞ぎ込んだっていい”と、全てを肯定し寄り添う言葉は、本人の中から溢れてきたものだ。力を帯びたその声は会場の後ろまで真っ直ぐに届いてくる。そして、彼の楽曲の中では比較的珍しいストレートなラブソングの「I’ll buy」が続く。オーディエンスはただひたすらに北園の声に耳を傾ける。

曲が終わり「ここらへんで長いMCでもしますか」と客席に話しかける。「テーマも何も考えてないんだよな〜」といいながら、取り止めのない話を始める。今年やり残したことから、習い事の話になり、ジムでの体の鍛えた方についてなど、まるで友人とのおしゃべりの思いつくままにしゃべる。オーディエンスもそれに答えるように拍手を返す。


「みんなの汗もひいたかな。体を冷えさせてもいけないので、ノリのいい曲たちをやります」

ハンドクラップで煽り、始まったのは「Just call me Beast」。そして「Believe」で会場はさらにヒートアップする。「Believe」はサビにファルセットもあり、ハイトーンが印象的な楽曲だ。歌い終えた後、「喉が飛ぶかと思った」と笑う。ここまで一気に駆け抜け、残す楽曲もあとわずか。


「いつも早いよな、始まっちゃうと。のんびりやるもんでもないし、曲たちがそういう感じでもないからな〜。でもやっぱり寂しくなっちゃいますね」とこぼす。そして、コロナ禍で制限された中でライブを行うことへのもどかしさも思わず口をついた。そう思うのも無理はない。北園がアーティスト活動を始めた時はコロナ禍前。ライブでは曲ごとに歓声が上がり、コールアンドレスポンスで、ステージとオーディエンスはコミュニケーションが取れていた。それが、声を出せなくなり、ダイレクトなコミュニケーションができなくなったのだから。それでも、アーティストもファンもこの大切な場所を守るために、決められたルールの中で、自分にできる最大限の表現で思いをぶつけ合っている。だからこそ北園は胸を張って言うのだ。

「声が出せなくても、僕はみなさんと最高の時間を作っていると思います。こうやってライブを楽しめているのを肌で感じているので」と。

「でもいつかは声出したいよね。マスクを外したみんなの顔も見たいしね。いつかまたそんな日が来ることを願っています。今僕たちにできることは……跳ぶことです! 跳ぶしか残っていないんで! 準備はいいですか!?」


北園の煽りに、オーディエンスは一斉にしゃがみ込み、力を溜める。「Ark」のイントロが流れ、北園がカウント。そして「3、2、1、GO!」の声に合わせ、会場中がジャンプ。ライブハウスならではの一体感に胸が熱くなる。「続けて跳んでもらえるかな!?」と、「fake」。煽りながらも「無理だけはしないで」と気遣ってしまうのも、彼の人柄ゆえだろう。そんな優しい言葉を投げかけながらも、シャツは肩まで落ち、どんどんワイルドになっていく。そしてシャツを脱ぎ捨て、黒のノースリーブ一枚になり、本編ラストとなる「True Loud」をプレイ。本人もオーディエンスもラウドロックさながらにヘッドバンキングをし、大きく体を揺らす。盛り上がりは最高潮に達し、本編は幕を閉じた。


でも、まだ、まだ物足りない。だってあの日からずっと待っていたのだから。割れんばかりのアンコールの拍手が会場に鳴り響く。

程なくして、ツアーTシャツに身を包んだ北園とバンドメンバーが登場した。さっきまでの熱が冷めてしまう前に、「Gold」で再びギアを上げる。コーラスの「Hey!」に合わせて飛び跳ねるオーディエンス。声を出してのコールアンドレスポンスの代わりに、全身を使って応えている。

「またいつかライブできることを願って、みなさんと会えることを願っています。ありがとうを伝えさせてください。初めて作詞した曲です」そう言って「Frontier」が始まった。前向きなメロディに、普段伝えられない思いを乗せてオーディエンスに届ける。その姿はとても真摯で、北園涼自身に触れたような、そんな気持ちにさえなってしまう。


前途の通り「喉が飛びそう」と笑っていた北園だが、2日にわたって行われたライブの4公演目なのに、そんなことを微塵も感じさせないくらい伸びやかなハイトーンやシャウトを聴かせてくれた。広い会場で行われるミュージカルのライブ公演でも、その歌声が聴こえるとどこにいるのか一発でわかるほど、彼の“声”は強さを持っている。そんな北園が新型コロナウイルスに感染してしまったからこそ、これまで以上に伝えたい、届けたい思いがあるのかもしれない。

3rdアルバム『Ignition』では、9曲中6曲の作詞に挑戦した北園。「自分で書いた詞は、みなさんに届けるつもりで書いていますけど、自分のケツを叩くためにも書いています。僕も書きながら、『こうありたい』と思っています。みなさんに聴いてもらっているからには、嘘つきになりたくないんで、そう生きるしかない。みなさんに信じてもらいたい。自分のためにも、みなさんのためにも歌いたいと思います」


オーラスは、アルバムの表題曲でもある「Ignition」。丁寧に、だけどとびきり熱く。その思いを届け、自分自身に言い聞かせるように歌う。

“ぼくはまだ走ることをやめないだろう”
その言葉に、きっと嘘はないのだろう。

取材・文◎加賀谷優子
写真◎三上信、小倉千佳

セットリスト

1.Limited time
2.Awake
3.ヒカリアレ
4.Over the little night
5.sad day
6.I'll buy
7.Just call me the Beast
8.Believe
9.Ark
10.fake
11.True Loud

en1.Gold
en2.Frontier
en3.Ignition

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