【ライブレポート】加藤和樹、ここから再び

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加藤和樹が2月17日、東京・日本橋三井ホールで<Kazuki Kato NAKED 2023>を開催した。

◆ライブ写真

大人のムードを醸し出す赤と青のライトが交差するステージに、まずは今夜のバンドメンバーである吹野クワガタ(Pf)、田口慎二(G)、川渕文雄(B)、髭白 健(Dr)の4人からなるTHE Sonicsが登場。ジャズバーのセッションのような雰囲気の中、加藤和樹が登場すると大きな拍手が湧いた。そのまま曲は「impure love」へ。原曲はゴージャスなハードロックといった趣だったが、ピアノやアップライトベースで印象がガラリと変わっている。大胆なアレンジの変化を楽しめるのが、この<NAKED>の醍醐味だ。


この日はマスク着用での声出しが一部解禁ということで、最初のMCで客席からの声援を聞いた加藤は思わず「ワオ!」と歓喜。「今ので、この2〜3年の苦労が全部報われた気がします。ちょっと泣きそうだね(笑)」と喜びを噛み締めながら、「この数年で大事なものを失った気もするけど、それでも前を向いて走り続けてきた。ようやく形になってきたんじゃないかなと思います。今日は最高の時間にしましょう」と呼びかけた。

次のパートでは、2022年10月にリリースされたミニアルバム『Nostalgia BOX』から3曲。ピアノ1本をバックに歌い出した「vintage」は、このステージで、そしてそれぞれの人生という名の舞台で輝いていくという思いを歌った楽曲だけに、歌詞の一つひとつが胸に響いてくる。加藤自身が作詞した「Still alive」では、押しつぶされそうな喪失感から愛を胸に立ち上がる姿を力強い歌声で表現。原曲ではストリングスが壮大に響いていた「ノスタルジックオレンジ」は、ボサノバ調のアレンジで軽やかな印象に仕上がっていた。


のちのMCで加藤は「形を変えることで見えてくる景色がある。自分自身にとっても新しい発見があり、昔の曲ほど懐かしさと新しさが混ざり合った新たなグルーブが生まれるから不思議」とアレンジについて語っていたが、その楽曲がもともと持っている素の輝きを今の呼吸感でスッと掬い上げたような、柔軟性のあるアレンジはまさに絶品。また聴きたい、もっと聴きたいと思わせてくれる魅力がどの曲にも溢れていた。

MCでは、現在公演真っ最中のミュージカル「キングアーサー」の話題から、次回作であり、待望の再演となる舞台「BACKBEAT」についてもトークを展開。「BACKBEAT」はビートルズの創世記を描いた舞台ということでゆかりの楽曲が多数演奏されるのだが、今回はそれにちなんで、加藤自身もエレキギターを弾きながら「Jonny B.Goode」と「ROCK AND ROLL MUSIC」の2曲を披露した。ロックンロールの名曲で盛り上がった後は、降り積もる雪のような真っ白いライトが冬気分を演出した「Brilliant snow」を堪能。その後はカバー曲として、山崎まさよしの「One more time,One more chance」、ジョー・リノイエの「それだけしか言えない」、そしてラテンテイストでアレンジされた西城秀樹の「ギャランドゥ」でオーディエンスを魅了した。


ライブもいよいよ後半戦。記念すべき1stシングルの楽曲でもある「ユメヒコウキ」では、加藤が客席に降りて一周するという嬉しいサプライズが用意されていた。一瞬の出来事ではあったが、ファンとのスマートなコミュニケーションの後で「My Girl」を歌うという流れも見事。ライブ本編は今回も「また明日」で締めくくられたのだが、最後のひと言が「おやすみ」ではなく「またね」になっていたのも印象的だった。音源としてはもちろん、コロナ禍のライブでも聴き手を安心感で包み込むような「おやすみ」だったのが、こうして少しずついろんなことが緩和されてきたライブで、また会おう、また会えるからね、そう呼びかけてくれているように感じたからだ。

アンコールでは、立ち上がったオーディエンスを見渡しながら思わず「これ、これ!」と笑顔を見せた加藤。会場がひとつになっての盛大な手拍子と共に「Ultra Worker」、「Fight」をパワフルかつポジティブなエネルギー全開で歌い上げ、アツ過ぎる余韻のなかステージを後にした。


2022年の<NAKED>は着席かつ無発声という中での開催だったこともあり、アレンジもどちらかといえばじっくり聴かせるようなテイストの楽曲が多かったように思うが、今回はあくまでもナチュラルに、思わず体が動いてしまうようなアップテンポなものも多く取り入れられていた。動き始めた日常のテンポ感に無理矢理合わせるのではなく、自分たちらしく、お互いありのままの心でまた音楽を楽しんでいこう──そんな前向きな思いが伝わってくるような<NAKED>だった。

取材・文◎山田邦子

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