【ライヴレポート】清春、Zepp Shinjuku公演<下劣>に“終わらない”ことを軸とした音楽

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清春が4月26日、Zepp Shinjuku公演<下劣>を開催した。同公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。

◆清春 画像

本当に素晴らしいライヴだった。長時間の高音熱唱を経て冴え続ける歌声、ジャムバンド的な展開とゴシックロック的な美しさを両立する音楽性、それを可能にするフロントマンとしての圧倒的な華。完全燃焼するというより燃え続ける感じの佇まいもあわせ、無二の妙味に満ちたパフォーマンスだった。自分は清春ソロを観るのは初めてだったのだが、スタジオ作品からは想像もできない自由な展開に圧倒されたし、その上で理屈抜きに惹き込まれる説得力、突き抜けた親しみやすさのようなものにも感銘を受けた。黒夢やサッズに連なる日本のロックが好きな人はもちろん、ジャズや即興音楽全般が好きな人にも強く訴求するだろう音楽性。様々なジャンルの音楽ファンに体験してほしい極上のステージだった。


まず何より凄いのが清春のヴォーカルだ。デイヴィッド・カヴァデール (ホワイトスネイク)あたりにも通じる強烈な熱唱型なのに全く暑苦しくない、少し冷たい水のように静かに染み込んでくる歌い回しは、発声の良さも力加減の調節も超一流。しかもそれが3時間半の長丁場を通して尻上がりに良くなり続ける。このコントロール力とスタミナはほとんど超人的だと思う。

そして、ベースレスのバンド編成はそうした声の特性に非常によく合っている。高音で少しうわずるところでも低域の鳴りは常に豊か、刹那的な危うさと安定感が絶妙に両立されるこの声は、音響面での隙間を多くとるこの楽器編成だからこそよく映える。また、低音を厚くせず楽曲全体の印象を感動的にしすぎない作りは、上記の声の特性にそのまま通じるものでもあるだろう。


清春の節回しには一筆書きのように闊達な冴えがあって、逡巡や葛藤は少なからずあるはずなのに、出力される音としては不思議と迷いがないように感じられる。独特の粘りを伴いつつ不思議とべたつかない質感も同様で、ベースレスのバンド編成はそうした肌触りの面でも相通じるものがある。楽器編成はライヴごとに変わり続けているようだが、ベースギターがいないという点では一貫している…というのは、こうした音楽的必然性から導き出されたことなのだろうし、実際その相性は抜群だった。

以上を踏まえて凄かったのが、それこそグレイトフル・デッドやフィッシュ、ポストロック方面のジャムバンドをも想起させるフリーな展開も積極的に組み込み、素晴らしい成果をあげていたことだった。バンド時代の代表曲を連発し、キャッチーなメロディでストレートに盛り上げる 場面も用意しつつ、その延長線上で未踏の境地に踏み込む展開も少なくない。清春ソロの音楽性は、アサイラムやYBO2といったトランスレコード周辺の国産ゴシックロック 、オーペスのような欧州暗黒メタル〜フォーク、サン・ラックスのような現代ジャズなど、様々な方面に通じる 仄暗い進行感が映える魅力的なものだが、それをそのままフリーな展開に持っていってしまうのが凄まじい。


これは清春のヴォーカルがあるからこそ成り立つ音楽でもあるのだろう。どんなフレーズを歌っても表現上の必然性が生まれる響きの良さと、先述のような仄暗い音楽性にそのまま通じる存在感や力加減。こういう即興、というかフリー・ミュージックの在り方が可能なんだということを初めて知らしめられる思いだった。フリージャズ的なものでもデレク・ベイリー的なフリー・インプロヴィゼーションでもないし、灰野敬二をはじめとする日本ならではの即興とも異なる 。歌謡曲やポップスの延長線上にあり、そうしたもののパーツを用いているのに、全体としてはまったく別の自由な音楽になっている。

その上で何より凄いのが、アングラ一直線とも取られかねないこうした音楽性にロックスター的な華が完璧に同居していることだった。この即興展開の後はスイッチを切り替えるように名曲の数々で超一流の煽りをしていくのだが、そういう名人芸が上記のフリーな展開でもそのまま活きている。こうした場面での清春のパフォーマンスは、卓越した一筆書きの線で美しいライヴペインティングをこなしていくようでもあるし、そこに肉付けして曲想を豊かにしていく他メンバーも本当に素晴らしかった。


今回のバンドメンバーは、辻コースケ(Per)、加藤エレナ(Key)、Yotsu(G)、栗原健(Sax)の4名で、加藤が低域のフレーズを担当する場面もあるものの、基本的にはベースラインというものがあまりない。従って、ダンスミュージック的なノリの良さを演出する低音のリフもほとんどないわけだが、それでいて強烈に踊れる独特の駆動力が生まれていた。これは、辻の卓越したパーカッション(「スケジュールは辻くん次第」というほど頼りにされている模様)がリズムの骨格を強固に整え、他メンバーと清春のボーカルがその枠組みを滑らかに活かすことができているからだろう。輪郭が美しく整いつつ足元だけが浮いているような不思議なグルーヴ表現。こうした点においても、代替不可能な個性に満ちた音楽になっていたと思う。

先述の即興展開の最後を飾った「妖艶」は上記のグルーヴ表現が最大限に活かされた名演だった。BPMを微細に揺らしながら生き物のように伸び縮みするリズムの流れと、1960年代のマイルス・デイヴィスにも通じる神秘的なハーモニー(栗原のサックスが特に素晴らしかった)が描く複雑な色彩を、清春のロングトーンが引き受け艶やかに統合していく。このまま何時間でも続いてほしいと思えるような忘我のジャムセッションだったが、直後のMCでは「15秒くらいは満足できた」とのこと。これは謙遜でもあるのだろうし、のめり込みすぎず冷静に舵取りする俯瞰的視点の顕れでもあるのだろう。

こうした音楽性は、清春自身のMCによれば「ここ1年くらい」の「勉強中」なもので、ファンにも最初はうまく通用しないことを前提に「味見」させつつ築き上げてきたとのこと。将来的にはやらなくなる可能性もあるようで、個人的には今のタイミングで観ることができて本当に良かったと思う。



それで、こうしたことも含め全ての面で感じたのが、この人の(今の)音楽は「終わらない」ことが軸になっているのだなということだった。完全燃焼するというよりも燃え続ける、その上で圧倒的な力を維持しつつ変化し続ける。アンコール後最初の弾き語りはその好例だろう。シンプルなコードを反復し続けるギターとそこに乗る歌だけで延々聴かせることができてしまうのは、圧倒的な鳴りの良さとロングスパンを保たせる気の長い時間感覚があるから。こうした時間感覚は先述の即興展開を支えるものでもあって、簡単には終わらない引き伸ばし方が固有のブルース感覚として活きている。

計1時間は喋っているのではというくらい長いMCも、終わりどころを見つけあぐねているというよりは「終わらせたくない」感じだし(ライヴでこんなに名残り惜しそうに喋り続ける人は初めて観たかもしれない)、演奏することや交流することを本当に愛している、だから双方とも上手くなるという在り方がよく伝わってくる。ぐだぐだな場面も含めてこれほど美しく芯が通っている音楽は稀だよな、ということが実によく示されていたステージだった。


個々の音楽パーツは目新しくはないが、その並びや扱い方は完全に唯一無二。余人には成し得ない個性が確立されていて、結果として新しい印象が生まれている。圧倒的なポップさを備えつつ独自の境地を切り拓き続けている音楽で、これは清春が大きな影響を受けたMORRIEに連なるものでもあるだろう。言葉の通じない海外でも通用するだろうし、様々な方面の音楽ファンに体験してほしい。今年の秋にはニューアルバムがリリース予定で、単独ツアーや対バンの予定も続々発表されている。ご興味を持たれた方はこの機会にぜひ。

取材・文◎和田信一郎 (s.h.i.)
撮影◎森 好弘

■<清春LIVE「下劣」>2023.4.26(水)@東京・Zepp Shinjuku セットリスト

01. 少年
02. 赤裸々
03. アモーレ
04. 眠れる天使
05. ガイア
06. 夢追い
07. 洗礼
08. 妖艶
09. バラ色の夢
10. JUDIE
11. アウトサイダー
12. SURVIVER OF VISION
13. 下劣
-弾き語り-
・AWAKE〜空白ノ世界〜Beside You〜楽園
・Masquerade
・NITE & DAY
・忘却の空
14. 新曲
15. MARIA
16. EMILY
17. あの詩を歌って


■<清春LIVE「alive」>

05月07日(日) 千葉・柏PALOOZA
07月22日(土) 沖縄・沖縄Output
07月23日(日) 沖縄・沖縄Output
09月10日(日) 京都・京都劇場
10月29日(日) 東京・恵比寿ガーデンホール

■<SHIBUYA CLUB QUATTRO 35TH ANNIV. “NEW VIEW” “Quattro Mirage” 清春 × 大森靖子>

06月12日(月) 東京・渋谷CLUB QUATTRO

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