【ライブレポート】Ken Yokoyamaが野音で演りたかった幾つもの理由「日本のド真ん中で」

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Ken Yokoyamaが5月20日、自身初の日比谷野外大音楽堂公演<DEAD AT MEGA CITY>を開催した。

◆Ken Yokoyama 画像

<DEAD AT 〜>というタイトルは、2008年および2016年の日本武道館公演<DEAD AT BUDOKAN>、2010年の東西アリーナ公演<DEAD AT BAY AREA>など、節目節目の特別なライブに冠されてきたものだ。同公演のレポートをお届けしたい。

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それはコンサートの中盤の出来事だった。もはやKen Yokoyamaのライブには欠かせない曲になっている「I Won't Turn Off My Radio」で観客のシンガロングを、日本武道館と並ぶ日本ロックの聖地“野音”に響き渡らせ、会場をひとつにした直後のことだ。

「最高だね!」と快哉を叫んだ横山健(Vo, G)は続けて、フロアがカオス状態になるスタンディングのライブにこだわってきた自分たちが今回、なぜイスがある日比谷野外大音楽堂で<DEAD AT MEGA CITY>を開催したのかその理由を、「コロナ禍の中でソーシャルディスタンスを守ったライブを続けるうちに、カオス状態になるライブでは得られないものがあることに気づいたから」だと観客に語った。

「それまでイスありの会場は自分たちの選択から100%外れてた。野音もお客さんとして来るにはいい会場だと思ったけど、俺がやる会場とは違うと思ってた。もしかしたら、みんなは“暴れたい”と思うかもしれないけど、こういう環境で観るのもなかなかよくねえかな? カオスのライブはカオスのライブでやっていく。ただ、イスありの会場もやっていきたい。ライブハウスやオールスタンディングの会場では、まず観られないような(ギターをプレイする)指の動きが近い距離で見られたりとか、もしかしたら、短パンの裾から健さんのチンコがポロリっていうのがあったりとか(笑)。それを考えたら、こういうライブもいいんじゃねえかな。よかねえよな(笑)。でも、本気でこういうイスありのライブもやっていきたい」──横山健

照れ隠し、あるいは彼一流のサービス精神の発露と思しきポロリ云々はさておき、この日、横山健には敢えて選んだ野音で、Ken Yokoyamaのメンバーたちと曲を演奏する以外にやりたいと考えていたことが幾つかあったと思う。そのひとつが(コロナ禍の期間中はできなかった)観客と一緒に歌うことだった。





「早速行こうか! 早速やろうか! <DEAD AT MEGA CITY>、1曲目はこれだ!」とメタリックなギターリフから雪崩れ込んだ「Dead At Budokan」から、「C’mon!」「More more!」「もっともっと!」「Louder! Louder!」と観客にシンガロングを求めた横山健はこの日、2時間ずっと「Singin’!」と声を上げ続けた。そして、観客もそれに応え、2時間シンガロングし続けた。セットリストも代表曲のオンパレードと言えるものだった。

「いやぁ、最高の気分だ。声が出せるっていいね、ホントに!」──横山健

ベースで刻むモータウンビートに胸が躍る「Woh Oh」を演奏する前に横山健が言った「俺はみんなに歌ってもらうのが大好きなんだわ。次やる曲はコロナ禍で生まれた。でも、歌うときっと気持ちいいぜ。一緒に歌ってくれ!」という言葉からも、彼がこの日を待ち焦がれていたことが窺える。もちろん観客もそうだろう。Hidenori Minami(G)、Jun Gray(B)、EKKUN (Dr)がサビで加えるコーラスに合わせ、「Woh Oh Oh」と観客も一緒に歌う。横山健が歪みを控えめにグレッチで奏でたギターソロのウォームな音色も心地いい。



夕暮れに合わせ、「体を揺らして聴いてくれ」と披露したレゲエナンバー「Whatcha Gonna Do」も「みんなで歌いたい曲」のひとつだったそうだ。同曲を演奏する前に横山健は「今日のライブはすごいプレミアムチケットになっちゃってさ。それを勝ち取る努力をして、時間や気持ちを割いて、足を使ってこの場に来てくれて本当にありがとう。感謝してます。(客席から飛んだ“ありがとう”という声に対して)こちらこそありがとうなんだよ」と神妙な面持ちで語ったのだが、「次の曲はその感謝の印」と言いながら、みんなで歌いたかったのは、英語の歌詞がいわゆる空耳で、公共の場所で口にするのが憚られる日本語の言葉に聞こえるからだろう。

「東京のド真ん中、言ってみれば日本のド真ん中でさ、こんな言葉を言っていいんだっていう(笑)。一緒に歌ってくれるのかな? 本当かよ、おい。もう一回訊くぞ。一緒に歌ってくれますか? 本当かな!? よし、試しに行ってみようか(笑)」──横山健

いたずらっ子のように笑った横山健は、その「Whatcha Gonna Do」を歌い終わると、「めっちゃ気持ちよかったよ!」と再び快哉を叫んだ。

「野音で(ライブを)やるのは初めてなんだけど、すごく声が飛んでいく感じがしてさ、歌えちゃうんだよね。気持ちよかったわ。これで逮捕されないって最高だぜ。逮捕されるわけないか。だって、英語なんだもん(笑)」──横山健



「Ken Bandのテーマソングとして君臨している曲。“続けていこう、続けていこう、自分ができなくなったら誰かに繋いでいこう”。そういう歌だ」と曲を紹介する横山健の言葉がこの後、観客の気持ちに波紋を起こしたに違いない「Let The Beat Carry On」では、「一緒に歌ってくれ!」と自分のマイクを客席に向けた。そこからさらにパワーポップなんて言葉も思い浮かぶ「How Many More Times」「Helpless Romantic」と繋げると、「新曲やります!」とレーベル直販、完全受注生産のシングルという形でリリースした「Better Left Unsaid」を披露。

「今日はこの曲をやりにきた。一緒に歌ってくれ!」──横山健

この<DEAD AT MEGA CITY>は、「Better Left Unsaid」(とカップリングの「Whatcha Gonna Do」)のレコ発という意味合いもあったそうだが、往年のマージービートも連想させるその「Better Left Unsaid」が印象付けたのは、切ない歌メロに滲む持ち前のポップセンス。パンクロックであると同時に極上のポップソングを作ることができるソングライターの面目躍如。横山健が奏でるギターソロを聴きながら、横山健のギターソロに歌メロをなぞるものが多いのは、歌メロに自信があるからこそかとちょっと思ったりも。倍音の響きが耳に残るギターソロは、メタルも聴いてきた横山健ならではか。



そして、冒頭に書いたとおり、「I Won't Turn Off My Radio」のシンガロングによって生まれた大きな一体感の中、「行くぜ、チバユウスケ!」と病気療養中の盟友にエールを送るように、かつてチバをゲストボーカルに迎えて音源にしたロックンロールクラシックス「Brand New Cadillac」を自らのリードボーカルで披露。続けて、今年2023年2月14日に逝去した恒岡章に捧げるという思いとともに、この3月、4月と全国各地のライブハウスを回りながら(<Feel The Vibes Tour>)演奏してきた「Without You」を、「こうやって人前で話したり、演奏したりしながら、少しずつ俺も恒がもうこの世にいないってことは、もう起こったこととして納得していく。時間の助けを借りてね、君らの力を借りてね。なんで、一緒に彼の笑顔を思い浮かべながら聴いてくれ」と演奏した。

イスありのライブをやる理由を語ったあと、この2曲を持ってきたということは、つまりそういうことなのだと少なくとも筆者は受け止めた。そして、この日、横山健にはもうひとつ、野音でやりたかったことがあった──と筆者は想像する。

「THE SOUND OF SECRET MINDS」「Believer」「Still I Got To Fight」「Punk Rock Dream」とたたみかけ、観客のシンガロングとともにさらに大きな熱狂を作り上げていった直後にある意味、炸裂させた「Ricky Punks III」がそれだ。

「ここは都心も都心じゃない? 国会がすぐそこにあって、省庁が周りにあって、裁判所もあって、このエリアがもしよ、日本を動かしているんだとしたら、次やる曲は何か俺たちなりの意味があるのかなって気がするんだよね。一緒に歌ってくれ、日本のド真ん中で。2011年に作った曲!」──横山健

ファンならもちろん、ご存じだと思うからくどくど書かないが、念のため、2011年に作った曲であることが重要だとだけ記しておく。横山健もリスペクトするシンガーソングライターSIONは2011年8月27日、同じこの場所で、「先生方よ、恥を知れ!」と叫んだ。両者の気持ちはきっと同じだったのだと思う。怒りを露わにせずに何がロックだ。抗議の声を上げずに何がパンクだ。その向こう意気に胸が熱くなった。ロックの聖地は伊達じゃない。もしかしたら、前述した「Whatcha Gonna Do」も横山健一流のパンク精神の発露だったのかもしれない。



「もうそろそろちゃんと感謝を伝えないと、いつ会えなくなるかわからないからさ。現実的な話だけど、いつまでやれるのか、いつまで生きてるのか、やっぱり明日のことはわからないから、そう思った時に口にするような年齢になっちゃったよ。本当にありがとうございます」──横山健

「現実的な」という一言が胸にズシリと響いた。「Let The Beat Carry On」に込めた思いも以前に増して切実になる。そんなふうに語った横山健がラストナンバーに選んだのは、「俺たちの音楽とか背中とかを追っかけくれる人に感謝の気持ちを伝えた曲」という「While I'm Still Around」だった。

終演を知らせるサブライムの「Santeria」が流れても観客の歓声と拍手は止まらない。アンコールを求める観客に応え、Ken Yokoyamaは「I Love」と「You Are My Sunshine」を演奏した。

「今日はもう思い残すことはない。いっぱい自分の気持ちも話せたし、いっぱいやりたい曲もできた。最後に誰もが知ってる曲をみんなで歌って帰れたらいいな。俺たち、また必ず会うんだぜ!」──横山健

「You Are My Sunshine」を演奏する前に、そう語りかけた横山健は、「You Are My Sunshine」を演奏し終えた後、1人ステージに残って、深々と頭を下げた。そんな横山健に誰もが惜しみない拍手と歓声を送ったのだった。



今年2023年、Ken Yokoyamaは「シングルっぽいもの」を何枚かリリースして、全国でライブをやるつもりだそうだ。そして、来年2024年にはアルバムをリリースすることも考えているという。

取材・文◎山口智男
撮影◎半田“H.and.A”安政

■Ken Yokoyama<DEAD AT MEGA CITY>2023年5月20日(土)@日比谷野外大音楽堂 セットリスト

01. Dead At Budokan
02. Maybe Maybe
03. I'm Going Now, I Love You
04. 4Wheels 9Lives
05. Woh Oh
06. Running On The Winding Road
07. Whatcha Gonna Do
08. Let The Beat Carry On
09. How Many More Times
10. Helpless Romantic
11. Better Left Unsaid
12. I Won't Turn Off My Radio
13. Brand New Cadillac
14. Without You
15. THE SOUND OF SECRET MINDS
16. Believer
17. Still I Got To Fight
18. Punk Rock Dream
19. Ricky Punks III
20. While I'm Still Around
encore
en1. I Love
en2. You Are My Sunshine


■4thシングル「Better Left Unsaid」

PODRS-14 ¥1,000(without tax)
レーベル直販/受注生産シングルCD
※受注受付終了
5月15日(月)24時 配信開始
配信URL:https://podr.lnk.to/BLU
▼収録曲
1. Better Left Unsaid
2. Whatcha Gonna Do



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