【インタビュー】Sound Horizon、「この世の中のものってすべてにロマンがある」

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Sound Horizonが最新作7.5th or 8.5th Story BD『絵馬に願ひを!』(Full Edition)を発売した。

物語の舞台は現代日本によく似た世界。とある町に突然出現した、とてつもないご利益があると噂の「狼欒神社」で絵馬に願いを託す人々の物語がサウンドとイラストで描かれていく。狼欒神社の「大神」であるリスナーは、作品全体を通して幾度も現れる2つの石碑に記された“解釈の選択”を迫られる。そのことによって物語、楽曲、登場人物が変化していくという挑戦的な作品でもある。また、選択肢があるがゆえに、その全貌は完全にわかることはない、永遠の作品であるとも言える。

本作についてSound Horizon 主宰・Revoが語った言葉をお伝えしよう。『絵馬に願ひを!』(Full Edition)を紐解く、ひとつの糸口になるかもしれない。

   ◆   ◆   ◆

■ 「選択肢のあるライブツアー」に託された“願い”

──まずはBlu-rayに先がけて開催されたコンサートツアーについてお聞かせください。およそ2カ月、全18日に及ぶ長いツアーであるだけでなく、各日のステージ上で同じ演目が2度、3度と別解釈で繰り返される、前代未聞の構成でした。

Revo:今回のBlu-rayの内容が、何度も繰り返し再生して、途中に登場する“解釈”を選ぶことで内容が変化するというものなんです。だからツアーにも基本構造としてループ感みたいなものを、ちょっとしたギミックとして仕込もうとは思っていました。

──それで、プレミアムシート購入者が“大神”として「大神解釈集計端末」を持ち、その場で“解釈”を選択し、次の曲や物語の筋書きが変化するステージ構成になったわけですね。しかし、もともとコンサートの場合は、ツアー日程を“繰り返している”という意味でも、作品そのものとは違ったループ感がありますよね。

Revo:そうですね。閉じられたひとつの完結した作品世界の時間軸と、皆さんが生きている現実世界の時間軸には、地続きにしようと意識すればするほど齟齬が生じる構造の溝があります。一般論、その辺は考えないお約束の部分ではありますが。元々、一本道的な従来の物語とは違って、解釈の多様性の中に存在するのが絵馬の地平なので、コンサートと絡めて「何周目だから、こうなった」みたいな感覚が入れられたら面白いかなと考えました。そこはBlu-ray作品とはまた違った部分もあると思います。ひとつのコンサートツアーではあるけど、毎回違う場所で、違うお客さんが来るものですし、あと、そもそもコンサート自体を全然やってこれなかった期間があったものですから、改めてライブツアーの臨場感も楽しめる形にした、と言えるかもしれません。

──前回のコンサート、<Sound Horizon Around15周年記念祭>の時も、『絵馬に願ひを! (Prologue Edition)』の発売と連動して、今回と同様「大神解釈集計端末」による分岐がありました。しかし今回は『絵馬に願ひを!(Full Edition)』発売に合わせたツアーですから、準備する曲数が非常に多かったはずですよね。

Revo:とにかく曲数は多かったですね。各曲が今回の作品の登場人物に関連すると考えると、曲数が増えるほど、取り上げる人物の数も増えるので、ステージに上がる人間の数も増えますし。

──一応、次の曲を準備はしているけれども、大神が解釈するまでどの曲が演奏されるのかわからない形式になっていましたね。昔ながらのギターの弾き語りミュージシャンなんかがリクエストに応えるのとはちょっと違う難しさがありそうでした。

Revo:裏方スタッフも含めて「次にどうすればいいのか」「どういうセッティングであればいいのか」を把握して、さらにそのパターン数というか「こういう流れになったら、次はこれになるだろう」みたいな予測も立てていました。そうですね、将棋とかをやってるのに近いものがあったかもしれません。最初は無限に選択肢があるんだけれど、ひとつ選ぶと次の可能性がちょっと絞られる。次を選ぶと、さらに絞られる。というのが繰り返されていって、最終的にはその回の固有の形に収束するんです。競技かるたとかの世界にも近いかもしれませんね。最初の文字「あ」を言った瞬間、次の文字は何通りになる、みたいな。競技クイズの人なんかも、そういうことを考えているらしいですね。小説を読んで知ったんですが。


──小川哲さんの『君のクイズ』ですかね。あの作品は競技クイズ解答者の心理が詳細に描かれていました。

Revo:「問題文がこの形で話し始めたということは、答えは必ずこれになるはずだ!」みたいな。そこまで難しくないかもしれないですけど、似たようなことを今回のツアーの裏でやっていました。一瞬で楽器の人たちがどの曲の譜面を用意し、役者や歌い手がどの衣装を着て、ステージ上のどこから出てくるべきかがすべて変わるんです。道具も、見失わないようにどこにあるべきか決めておく必要があるし。

──このやり方でのライブは、Sound Horizonのほかに誰もやっていない、唯一無二のものだと思うのですが、メリットや醍醐味などをどう感じていますか?

Revo:唯一無二かはさておき、もちろん「決まったことをやるだけなら簡単だ」という訳ではないです。その日その日で最高のものを表現する難しさはあります。ただ、それとは違った難しさを求める、M気質の人たちもいる訳ですよね(笑)。参加してくださる皆さんも、自身のキャリアを研ぎ澄ませた方ほど「もっと自分の力を試してみたい」と考え、いろんなことを成し遂げてきた人たちだと思います。それだけキャリアを積んでやってきた方が「油断したら簡単に足元をすくわれるかもしれない」というほどの緊張感をもって挑んでくださることが、今回のパフォーマンスにも影響を及ぼしていたんだろうなと思っています。裏方の人たちでも「本当に今回はスリリングで楽しい」って言ってくれる方もいるんですよ。そういう人たちがたくさんいる独特の緊張感と高揚感というか、現場を支配する空気感が、ステージが始まる前からチーム全体にあったので。客席の皆さんとの一体感という意味では、従来のコンサートとは別次元になったのだと思います。回を重ねるごとに慣れはありますが、誰にとっても予定調和の慢心は許さないコンサートでした。

──このライブ感ならではのことはありましたか? たとえば大神の“解釈”によって、Revoさんが予想だにしてなかった展開になってしまうこともあるんでしょうか。典型的なのは、コンサート冒頭の選択肢で大神が2つの「参詣す」と1つの「参詣せり」のいずれを選ぶかでコンサートの流れが決まる、というものですが。

Revo:予想してないことは、起こっていないですね。「確率的にこっちにいくことが多いだろう」とか「あっちにいくことはあんまりないだろう」と思っていても、その予想どおりにならなかった場合の準備もしてあるので。ぶっちゃけると「参詣せり」を選んで欲しくないタイミングは存在してました。物理的な様々な転換の問題で、スムーズにいかなくなる場合もあります。極論を言うなら、それを選んでほしくないんだったら、最初から選べないようにしちゃえば済む話なんです。そうすれば、演者もやりやすくはなる。だけど、それだと観る側もやる側も、自由に選べるようでありつつ、大人の事情である程度決まってるコンサートなんだねって気持ちになっちゃうし、少なからず緊張感も損なわれてしまう。そもそもBlu-rayではその選択肢が選べるのに、コンサートだと縛るんだっていうのは、僕としては違うかなと思いました。

──あくまでもBlu-rayと同じ条件、同じ選択が許されている。

Revo:ただ、一公演で二回以上の「参詣せり」だけは禁じ手としました。MCタイムの伸び縮みがあるのはライブ感として肯定しているのですが、その日の選択により楽曲自体の演奏時間があまりにも異なるのは、観に来てくれた皆さんへの公平性を担保できないと考えたんですよね。例えそれが皆さんの選択であったとしても。普通に1時間近く変わるので。大神がこのコンサートの仕組みをある程度把握してくれば、不規則な「参詣せり」が選ばれることは減ると予想しているけれども、そうならなかった場合の準備はしてあるんです。仕組みを作った人間としては、そのタイミングがいつかはわからないけれど、そういうことが起きてもいいようにしておいて、自由度を確保しておくんです。どのタイミングでそれがくるかまで考えちゃうと、それこそ将棋みたいに複雑なのでやめておきますけど、けど、仮にそうなったとしても受け入れられる器だけは用意してる、みたいな。

──いつもRevoさんは、作品の解釈は自由で、Sound Horizonの物語はいろんな読み解き方をしていいんだ、今回はこうなったけれど、そうならない可能性も常にあるんだとおっしゃいます。2015年に発売された9th Story CD『Nein』もそれをテーマにした作品でしたが、今回はツアーはもちろん、その元となった『絵馬に願ひを!(Full Edition)』そのものも、観客の側に“解釈”が委ねられている点で、また違った形で同様のメッセージを打ち出しているように思えました。

Revo:今までの作品の中で、それが一番出てるかなと思います。『Nein』は、これまでに発表した作品も改竄すれば違う物語が紡げますよ、という作品でした。しかし、元々皆さんが愛してくれた物語への先入観や愛着やがあるので、従来の解釈が「正しい歴史」、改竄されたのが「間違った歴史」というバイアスがかかりやすい構造でしたよね。今回の『絵馬に願ひを!(Full Edition)』の場合は、選択肢があっても、結局どっちが正解というわけでもなく、どちらも正式な歴史としてありうるよ、という意味で受け止めてもらえると思います。同時にお出ししているので。解釈とは、人によっては感情と切り離した理詰めの知的ゲームのように捉えるかもしれませんが、別の誰かにとっては世界がどうなっているか? ではなく、世界にどうあってほしいか? という願望を映す鏡なのかもしれません。まあ、本当は二択どころじゃない選択肢があるわけですが、作品自体はBlu-rayの容量の都合とかいろんな理由があって、基本的には二択で分岐していくんです。


──さすがに「あらゆる選択肢」はあらかじめ用意することは難しいでしょうね。

Revo:本当はもっと圧倒的な情報量でリスナーをぶん殴りたかったんですけどね。おそらく、これ以上の自由度は人類にはまだ早過ぎます(笑)。選択肢が多すぎるし範囲が広すぎるから、とりあえず今回の物語も、「姫子が狼欒神社までやってきた後の出来事です」という形になっていますしね。しかし、これがもし「すべて」を操るとなると、「そもそも姫子は生まれませんでした」なんて全然序の口で、「人類がこの星において誕生しませんでした」とか「そもそも地球っぽいもの自体ないよ」とか、いくらでもできるので。その段階から選べるのはやばいぞと。それはそれで面白いですけど、今でもBlu-rayの容量が足りないって言ってるのに、そんな段階から作ったら、どうなっちゃうかわからない。ただ、だからこそコンサートの場合は、その容量の呪縛から一瞬だけ離脱した解釈の広がりをもうちょっと感じてもらえるようにできるかもしれないと。そういう別解釈みたいなものも、どんどん採り入れた形になっていったような気がします。

──『Nein』だと、いわば正史だと強く思われてるものに対する改竄がテーマでした。それに対して『絵馬に願ひを!(Full Edition)』は、あらゆる運命は操作可能なのだという意味合いがあるわけですよね。それが「運命を操作する」という内容だとすると、個人的には2008年に発表された6th Story CD『Moira』とも比較できる作品のようにも思えました。今回のツアーでも、すべての選択肢を見ようとして登場人物たちの運命を翻弄した観客に対して「そこで見ているんだろう」等々、恨めしそうに叫ぶくだりがありました。

Revo:そうですね。神殿や神社、神様という人智を超えた力を持ち、人間のいろんな運命を左右できる存在を登場させている点では、似た部分もあるかもしれません。言われて思いましたが、「神様に問いかける」というのは『Moira』のときからやっていました。黒エレフ的な人物が「ミラよ、これが貴方の望んだ世界なのか!」というシーンがあったりして。ただ『Moira』の場合だと、神様は得体のしれないものですし、当然リスナーも人間だから、エレフ側、人間の側に立って見ていたんですよね。しかし今回、それと大きく違って面白い点は、リスナーが神様側に立っているというか、神そのものとして振る舞えることですね。

──それも、どちら側に立つかによって、物語の見方が変わるということで、先ほどの『Nein』以降の話に通ずるものがありますね。

Revo:しかし今回、何となく神様の立場に立たされたけど、それでもたぶん皆さんは人の心を持っているので、純粋に神のようには解釈できないだろうとは思います。人の方に感情移入する気持ちもある。だけど人間である登場人物たちから、そういう台詞を投げかけられることもある。あのコンサートの場でそういう風に言われると、そこはもういくら「味方だよ」って言っても越えられない壁というか溝がある。そのことを認識するのもエンタメだし、興味深いと思います。

──大神の皆さんも選択肢を、人間らしい、優しい選択をしてしまいたくなると思うんですよ。でも、よかれと思ったことが、裏目に出てしまうこともありますよね。

Revo:裏目に出ることは非常に多いと思いますよ。裏目にしか出てないんじゃないかっていう作品ですよね(笑)。

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