【インタビュー】奥 智裕、1stミニアルバム『Homely』は「日本人が好きだと思うポップスの心にも寄り添えてる」

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シンガーソングライターの奥 智裕が、2023年6月14日に1stミニアルバム『Homely』をリリースした。今作は、3 ピースバンド街人の活動を経て今年4月にデジタルシングル1st 「ハッとして」でソロとして始動した彼にとって初めての作品集だ。

◆奥 智裕 動画 / 画像

そこで歌われているのは、極めて個人的な感情のうつろいで、歌声の距離もとても近い。だからこそ自分のことのように感じられる。ソロと並行して活動するロックバンド「kao」のことも含めて、その素顔に迫った。

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■家庭的な素朴なイメージで作ったアルバム
■日本人が好きなポップスの心にも寄り添えてる


──今作を聴いてからkaoの曲も聴いてみたら全然違うので驚きました。もともと音楽を始めたのはバンドからだったんですか。

奥:もともとELLEGARDENがきっかけで音楽に目覚めたんですけど、文化祭でバンドをやったときに観にきていた人に誘われて、ライブハウスに出たのが本格的な活動の始まりです。その初ライブの次の日に、偶然ELLEGARDENの高橋宏貴さん(Dr)がやっているバンドScars Boroughがライブハウスに来て、観に行ったんですよ。そのときに高橋さんが「いつか対バンしよう」って言ってくれた言葉をずっと反芻して生きてきた感じです。

──じゃあ、最初はELLEGARDENのコピーから?

奥:そうです。もうELLEGARDENが大好きでコピーして、細美武士(Vo, G)さん信者でした(笑)。実は小学1年から4年ぐらいまでアメリカに住んでいたことがあって、元々英語の曲がずっと好きだったんですけど、ELLEGARDENと出会って、「日本人でこんなに英語でカッコよく音楽をやっている人がいるんだ!?」っていうところから好きになったんです。なので、高校生のときは全部英詞で曲を作ってました。

──ELLEGARDENを聴く前はどんな音楽に触れていたか覚えてます?

奥:もともと歌はすごく好きだったんですけど、ジャニーズとかしか聴いていなかったんです。でも、高校で当時付き合っていた彼女に振られて、失恋のショックで学校に行けなくなっちゃったときに、学校の中で唯一の不良っぽくてギターをやってる子が一緒に音楽をやらないかって誘ってくれたんです。それが僕のそのときのやさぐれた心と合っていて(笑)。そこからELLEGARDENとかUVERworldとかを聴くようになって、音楽をやることで自分の気持ちを発散できたんです。

──なるほど、まさに音楽に救われたという。

奥:もう、間違いなくそうですね。

──その後、ロックバンド「街人」で活動を続けた後に、解散して今年からソロ活動がスタートしたわけですが、並行してバンド活動もしているのは何故ですか?

奥:今、kaoのベースを担当しているのが、街人でもベースを弾いていたメンバー(岩佐貴明)なんですけど、ソロのサポートをお願いしたら「おまえと一緒にバンドをやれるならなんでもいいよ」って言われて。それを聞いて、「俺は間違ってたな、こいつとバンドやらないと駄目だ」と思って、一緒にkaoをやることにしたんです。ソロ活動はもともと、自分の声質とかから、「J-POPやった方がいいんじゃない」ってまわりからよく言われていて、自分も前からやりたい気持ちはあったんです。ただ、反対の負の感情、気持ちとして衝動的な自分がずっとどこかにいて、それを発散しないと長く音楽ができないかなと思っているんです。なのでkaoでは好きに実験的な音楽をたくさん作る目的でやってる感じです。

──kaoの作品はデジタルビートが印象的なロックで、ソロEP『Homely』とはまったく違う音楽をやってますよね。

奥:どちらも作詞作曲は僕なので、完全に性格を分けている感じですね。やっぱりバンドは僕にとって憧れだったので、結構そういうアーティストの引き出しがあるんです。ポーター・ロビンソンとかDJにも影響を受けていて、これを日本語ロックと混ぜたら面白いんじゃないかということで、“EDMと邦ロック”を掲げて始めたのが、kaoです。一方で、星野源さんとか、もともとずっと好きだったポップスを昇華しようと思って、奥 智裕名義で始めたのがソロ活動なんです。

──『Homely』ですが、それまでバンドで奥 智裕さんの歌を聴いていたリスナーからの反響はいかがですか?

奥:4月に1stデジタルシングル 「ハッとして」を出したときは、「おかえり!」みたいな感じでした。街人はロックバンドだったけど、日本語でポップス歌うっていうところと似てるので、多分それがみんなにはハマりやすかったのか、歓迎された感じはありましたね。あとやっぱりこの時代なので、なかなかみんなパッと6曲聴こうという感じがないので、徐々に聴いてくれている人はいるかなっていう感じです。


──アーティスト側からしても、アルバム1枚として制作をしているものの、サブスクだと丸々1枚というよりも1曲ずつ聴かれているっていう印象がありますか。

奥:僕はアルバムとして聴くんですけど、すごく近しいバンドマンだったり、2000年代に生まれた子たちっていうのは、やっぱりシングルでしか聴かない子が多くて、ミニアルバムですら埋もれるなっていう印象は今回強烈に受けました。

──ご自身としては、1枚のミニアルバムとしてテーマがあったのでは?

奥:そうですね。今回の『Homely』というタイトルは、「家庭的」という意味ではあるんですけど、それ以外のスラングの意味として、「不細工」とか「不器用」という意味があるんです。自分が今までずっと音楽をやってきて、自分の生き方を振り返るとき、「本当に不器用だな、社会的にもうまく生きられないな」っていう思いがすごいあるんです。そういった自分と同じような人たちを救いたいみたいな気持ちがあって、それを自分の中で、まずこの気持ちを昇華したいなと思いました。それと、バンドと比べると家庭的な素朴なイメージで作ったアルバムでもあるので、家庭とかホームという意味を入れたいなと思ったときに、ちょうどダブルミーニングに取れるような単語が1個あるなと思って、『Homely』というタイトルをつけました。

──なるほど。曲からは生活とか日常に寄り添った感じを受けました。ストリングスやホーンが入っていてふくよかなサウンドもそうした印象に繋がっていると思うのですが、どんな音作りを考えていましたか。

奥:今回アレンジャーに、友だちのSean Oshimaを迎えて一緒に制作しました。まず僕が弾き語りを送って、彼に肉付けをしてもらって、もうちょっとピアノのコードをこうしたい、ホーンをこうしたいとか、やり取りしていったんです。僕は2000年代のポップスがすごく好きで、もともと小学校のときに嵐とかジャニーズが好きだったので、ホーンの入れ方とかはジャニーズを結構意識してやったりしつつ、サックスがワーッて伸びやかに吹くところ(「Rainy Dancer」)は、大人になってなかなか社会に溶け込めないなっていう人たちを、ちゃんと音でもそばに感じて欲しかったっていうのがあって。そういう大人の要素もちゃんと入れたり、ピアノもあえてコードをちょっと崩して弾いてもらったりしました。

──実際にショーンさんとスタジオで試行錯誤したり?

奥:まずデモを一緒に作って、その後スタジオに入って、2人でディレクションしながら制作しました。「ハッとして」に入っているピアノやストリングスとか、全部生楽器で録ってます。

──そうなると相当贅沢な作品ですね。

奥:めちゃくちゃ贅沢です(笑)。ソロ1枚目ということで気合を入れようと思って。制作中にアルバムタイトルも自分の中に、なんとなくあったので、そこは生楽器の方がちゃんと空気感が伝わるだろうなって。それと、自分がおじいちゃんになったときに、「生で録って良かったな」と思えるような音で録りたかったので。今作は自分の中で1つ誇れるとしたら、絶対に日本人が失わない、日本人が好きだと思うポップスの心にも寄り添えてるなっていうミニアルバムだと思うんです。今、Spotifyに「Gacha Pop」っていうプレイリストがあるように、結構いろんな音を織り交ぜて、聴覚的にも刺激物が多いと思うんですけど、たぶんまた時代が回ってフォークとかにまた戻ってくると思っているんですよ。そのときにどっちにも対応できるようなアルバムだなと思うんです。なので、本当におじいちゃんになったとか、先のことも見越して、このアルバムを一枚目に据えておこうって思えました。

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