【コラム】Mrs. GREEN APPLEが手中にした“自由”とは? ストリーミング市場を席巻するミセスサウンドの本質

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Mrs. GREEN APPLEの活動再開後初となる5thフルアルバム『ANTENNA』が7月5日にリリースされた。以降、Apple MusicやSpotify、LINE MUSICなどのアルバムランキングですぐさま1位を獲得。発売から1ヵ月が経った今もなおチャートを賑わし続け、「Magic」「ケセラセラ」といった新曲や「青と夏」「ダンスホール」などのロングヒット曲と併せて、計11曲がBillboard JAPAN Hot 100にチャートイン。2023年度Hot 100におけるチャートイン楽曲数最多記録を樹立したほか、同Artist 100の総合1位も獲得。まさに今夏のストリーミングチャートをMrs. GREEN APPLEが席巻している。

◆Mrs. GREEN APPLE 動画 / 画像

なぜ彼らが生み出す音楽が多くのリスナーを魅了し続けているのか。そして『ANTENNA』とは、一体どういった作品なのだろうか。このタイミングで改めて、Mrs. GREEN APPLEが結成10周年にして生み出した作品を、プレイ面/サウンド面を中心に見つめ直してみよう。


   ◆   ◆   ◆

2023年4月、Mr. GREEN APPLEのフロントマンである大森元貴(Vo, G)に話を聞いた際、彼は制作真っ只中であった新しいアルバムについて次のようにBARKSに語っていた。

「カウンターを喰らうアルバムになるんじゃないかなって思う。『Attitude』でフェーズ1のオリジナルアルバムを作り終えて、『Unity』っていう重みのあるミニアルバムがあって、そして『ANTENNA』。僕らは2ndアルバムをセルフタイトルにしたけど、気持ち的に、もしそれがなかったら、このアルバムを『Mrs. GREEN APPLE』にしていたかもしれないっていう、そういう作品かもしれない」──大森元貴

筆者が『ANTENNA』を初めて聴いた時、真っ先に感じたのは、大森、若井滉斗(G)、藤澤涼架(Key)というメンバー3人の、音楽(あるいはMrs. GREEN APPLEというバンド)に対する確固とした“自信”だった。それはもしかしたら、約1年前に発表したミニアルバム『Unity』に込めた“覚悟”や“決意”の派生なのかもしれないし、マインド面において両者はとても近しいものかもしれない。だがその自信は、音楽的にとても大きな違いを生み出していた。


▲大森元貴(Vo, G) / <Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”>


▲若井滉斗(G) / <Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”>


▲藤澤涼架(Key) / <Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”>

Mrs. GREEN APPLEをあまり詳しく知らない方のために説明しておくと、彼らの楽曲は、作家として大森が作詞・作曲・編曲といったプロダクションをほぼすべて一人で行い(加えてアートワークやビジュアルイメージなど、作品にまつわるすべてのクリエイティブを彼が手がけている)、それをメンバーと共に具現化していくという共同作業を行っている。その工程自体は結成当時からずっと変わらず、最新作でも同様だ。ところが『ANTENNA』を繰り返し聴くにつれ、これまでのどの作品とも違う、新鮮な空気感が強く印象に残った。それは何か。“自由さ”だ。

誤解を恐れずに言えば、これまでの彼らは、自身が理想とする音楽を生み出すために全力を投じ、持ち得る技術をすべて捧げてきた。平たく言えば、“いい音楽”を作るために没頭し、世の中にまだ存在しない新しいポップスを追い求めていたように感じられる。ところが『ANTENNA』に関しては、高い理想を掲げる点は変わらずとも、“クレバーに頭で作り出す音楽”から、“自分たちが歌いたい音楽” “3人で奏でたい音楽”へとマインドがシフトしているような印象を受けた。“いい音楽”から“歌いたい音楽”への変化。新しいアルバムをそのように導けた最大の要因は、何よりも“アンテナ”というキーワードに大森自身がたどり着けたからこそだろう。

「今の僕のアンテナで感じ取った曲たちだから、それを冠に付ければ、自分が書いてきたものが正解にできるなって。だから、このアルバムにどんな曲が入っていてもいいし、まとまりがなくて支離滅裂でもいい。だって「私は最強」という曲があるのに、「Soranji」も入っていて、スウェーデン語で歌う「norn」や過激な歌詞の「Loneliness」がある。普通はこれを一つのパッケージにまとめられないですよ。それを可能にする言葉は、『ANTENNA』しかなかったんです」──大森元貴




このように、コンセプチュアルに音楽的な縛りを設けなかったことで、大森は作家としての自身の音楽性を飛躍的に広げ、より大きな自由さを手に入れたのではないだろうか。そうでなければ、「私は最強」「Soranji」「ケセラセラ」という今の彼らを代表する、それでいて曲ごとに音楽的個性が大きく異なる3曲をひとつのアルバムにまとめることは到底叶わなかっただろう。その自由な音楽性に呼応するかのように、各楽曲から聴こえてくる大森のボーカルや若井のギター、藤澤のキーボードの響きには、彼らが演奏を純粋に楽しみ、音楽を作ることを喜ぶ感情が溢れ出ている。それくらい『ANTENNA』は、3人のプレイヤーとしての側面が、今まで以上に際立ったアルバムだ。

「かなりハイレベルな技術を求められる曲が多くて。でも今までなら「弾けるか?」っていうところで闘っていたのが、今回は弾けた上で「どう表現したいか?」というところで闘えました。それが音楽的な旨味につなげられたんじゃないかと思っています。」──若井滉斗

「しかも本格的にアルバムのレコーディングに入る前に、<Studio Session Live>のリハーサルがあったんです。それがとても刺激的で。これまで僕らは、自分たちバンド内の共通言語でやり取りをしたり、じっくりと時間をかけて曲を作り込んできたんです。でもこのセッションに参加してくださったサポートメンバーの皆さんは、本当にいろんな現場で演奏されている方々ばかりなので、やり取りのスピードや楽曲の詰め方がとても勉強になって。そこで自分が得たものをアルバムのレコーディングにも生かせたように感じています」──藤澤涼架(●)

「だからね、非常にプレイヤーライクなアルバムなんですよ、『ANTENNA』は」──大森元貴

音楽を生み出す時、“音楽的にはこういくのが正解だけど、バンドなら、こっちにいった方が楽しい(カッコいい)よね” “普通はこういうフレーズを弾かないけど、メロディがこうだから、自分はこう弾こう”といった“バンドだから”というマジックは多々存在している。そこがソロアーティストの作品とバンド作品の大きな違いでもあるし、コンピューターで作り上げた音楽と、異なる個性をもった人(メンバー)が共に演奏した際に生み出される音楽との大きな違いだ。そうした“バンドだから”という要素を『ANTENNA』にはたくさん見つけることができる。


その片鱗が感じられる曲を挙げるならば、例えば「BFF」だ。

「きっとこの曲は、JAM'S (Mrs. GREEN APPLEファンの通称)がビックリする歌ですよね。最後にレコーディングした曲で、完全に3人で完結した曲。3人だけで演奏しました。でもこれが“地味ムズ”で(笑)。特に若井なんか、今回のレコーディングではタッピング奏法だとかテクニック的に高度な難題を散々突き付けられたかと思いきや、レコーディングの最後の最後、一番シンプルで何の装飾もなく、ただただリズムをキープしたり、どれだけ繊細なタッチ感で音を響かせられるかっていうことを求められる“ラスボス”と、彼は闘ったんです(笑)」──大森元貴(●)

「闘ったね(笑)。何だかんだ言って、これが一番ムズかった。手を速く動かすとかっていう技術面とは違う部分で、3人の呼吸を合わせる感じだったり、初めての種類の難しさを感じた曲でした」──若井滉斗(●)

「音の隙間がたくさんある演奏を、このテンポ感で最後までずっと続けるのは、精神的にもとても大変でした。でも、これまでの10年間に作ってきた曲の中にも、元貴と2人で呼吸を合わせながらピアノを弾いた曲もあったし、『青と夏』でも、歌とギター、ピアノだけになる瞬間があって。そうやって3人だけで演奏してきたことを信じて演奏すれば大丈夫だっていうマインドで、この曲のピアノを弾きました。今まで3人でやってきたことを信じようって。そうやって、すごくいい集中の仕方とムードの中、この曲でレコーディングを終えられたことはすごくよかったなって感じています」──藤澤涼架(●)

他にも、「アンラブレス」の要所をキメる若井のメカニカルかつエモーショナルなギターしかり、「Doodle」で軽やかに心を躍らせる藤澤のピアノしかり。バンドサウンドの楽曲だけではない。大森のプログラミングによって構築された「Blizzard」も、ボーカリスト大森は、その曲作りにセッション感覚を取り入れていたという。




「活動休止期間中に作っていたトラックがあって、歌詞を新たに考えて作り直して。でも、その歌詞は書き直したという次元じゃなくて、夢の中で書いたんじゃないかというくらいに(笑)、5分くらいでワーッと書き上げて、それをただ譜割りに当てはめて歌っただけ。だからすごく実験的だったし、(自分が作ったトラックと)セッションするような感覚でしたね。それもあって、とっても“ライブ曲”だと思うし、センシティヴになれる曲なんだけれども、ライブでみんながジャンプしている景色が見えてくるような、とても不思議な曲に仕上がりましたね」──大森元貴(●)

一方、スウェーデン語で歌われた「norn」のサウンドには、こんな繊細な仕掛けもこっそりと取り入れられていた。

「スウェーデン語で歌うとか、なかなか普通は実現できないというか、ある意味、思い付きノリだけで作っていった曲。なので、自分でも“すごいゾーンに入っちゃったな”と思う曲ですけど、これが入ることでアルバムとしてすごく自由が効いているし、とても好きな楽曲ですね。演奏の方も(基準ピッチを一般的なオーケストラやバンドよりも高い)444Hzでチューニングしていて、アルバムの中でもサウンドが浮き出て聴こえてくる曲だと思います」──大森元貴(●)

こうして緻密にプレイ面/サウンド面を作り上げつつ、大森は“どこまでも行ける/そんな気がしている (「ANTENNA」)” “いいよ もっと自由で良いよ (「Magic」)” “歩みを辞めず生きてゆこう (「橙」)”と歌い、洋楽テイストのドープな「Loneliness」では、人の心の奥底にある憂いや闇を「僕が持っているひとつの側面でもあるので、包み隠すことなく表現してもいいかなと思った」と、臆すことなく大森自身の感受性を歌詞に綴った。そしてゴスペルチックな香りを漂わせつつ、ナチュラルな歌声と柔らかなファルセットをシームレスに行き来する歌声で大森は、最後に“愛されている (「Feeling」)”と歌って、このアルバムを締め括った。



“フォトアルバム”──今風に言えばカメラロールだろうか、その写真は、あるテーマに沿った写真を集めて作ったアルバムよりも、ある意味で何の脈略も統一感もなく、日記のように、ただただ気が向くままに撮っていった日々の写真を眺めるほうが、後から振り返った時に、その時期に自分が考えていたことや抱いていた感情、熱中していた物事がリアルに蘇ってきやすい。同じように『ANTENNA』も、あえて統一したテーマを持たせずに作られた13曲だからこそ、フェーズ2始動以降に大森の自由な感受性がキャッチした感情と、Mrs. GREEN APPLEの3人が発信しようとした自由な表現が、とてもリアルに聴き手に伝わってくる。まさしく名実共に、今のMrs. GREEN APPLEの“アルバム”なのだ。

その自由な感受性や表現は、Mrs. GREEN APPLEが“音楽的な正解”を追い続けてきた10年間があったからこそ、手に入れられたものだ。正解を知り得たからこそ、正解という枠を打ち破り、それを超えていく自由を手に入れたのだ。つまり『ANTENNA』から放たれる自由は、“Freedom(与えられた自由)”ではなく、“Liberty(自ら掴み取った自由)”なのだ。そしてその自由は、リスナーそれぞれの“アンテナ”にも、きっと届いているに違いない。

結成10周年を迎えたMrs. GREEN APPLEはアリーナツアー<Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”>を完遂し、8月12日および13日に自身初のドーム公演<Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 “Atlantis”>を埼玉・ベルーナドーム(西武ドーム)で2DAYS開催する。“NOAH no HAKOBUNE”の航海は、いよいよ“Atlantis”へ。期待は高まるばかりだ。

(●)『ぴあMUSIC COMPLEX(PMC)SPECIAL EDITION 3 Mrs. GREEN APPLE』より

取材・文◎布施雄一郎

■<Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 “Atlantis”>

8月12日(土) 埼玉・ベルーナドーム (西武ドーム)
open16:00 / start18:00
8月13日(日) 埼玉・ベルーナドーム (西武ドーム)
open16:00 / start18:00
(問)SOGO TOKYO 03-3405-9999



■WOWOWプラス番組『Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”』

2023年9月放送
収録日:2023年7月9日
収録場所:埼玉・さいたまスーパーアリーナ
※詳細は順次公式WEBサイトで公開いたします
https://www.wowowplus.jp/info/mrsgreenapple/

▼スカパー!番組配信
配信番組:『Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”』
配信日時:2023年9月予定
視聴条件:スカパー!放送サービスで、WOWOWプラスをご契約の方
※スマホ・タブレット・PCなどお好きなデバイスで番組をお楽しみいただけます
https://streaming.skyperfectv.co.jp/channel-770561

■5thオリジナルフルアルバム『ANTENNA』

2023年7月5日(水)発売
予約:https://lnk.to/MGA_ANTENNAec


▲ジャケットビジュアル

01. ANTENNA
02. Magic
 コカ・コーラCoke STUDIOキャンペーンソング(2023.6.13 Release Digital Single)
03. 私は最強
 映画『ONE PIECE FILM RED』提供曲セルフカバー(2022.11.09 Release 10th Singleカップリング曲)
04. Blizzard
05. ケセラセラ
 ABCテレビ・テレビ朝日系ドラマ『日曜の夜ぐらいは...』主題歌(2023.4.25 Release Digital Single)
06. Soranji
 映画『ラーゲリより愛を込めて』主題歌(2022.11.09 Release 10th Singleタイトル曲)
07. アンラブレス
08. Loneliness
09. norn
10. 橙
11. Doodl
 花王『メリットシャンプー』CMソング
12. BFF
13. Feeling

【FC会員受注生産限定 “JAM'S BOX”(CD + Blu-ray + GOODS 8種)】
PRON-1061 ¥20,000+税  
▼GOODS
・オリジナルワイドTシャツ(フリーサイズ)
・フィルム風クリアステッカー
 大森元貴監修:フロントポケットミニショルダーバッグ
 若井滉斗監修:シューレース(2ペア) & ソックス セット
 藤澤涼架監修:チェンジングマグカップ
・万年カレンダー
・スライドミラーキーホルダー
・スマホショルダーストラップ

【完全生産限定BOX(CD + Blu-ray + GOODS 2種)】
UPCH-29458 ¥8,000+税
▼GOODS
・オリジナルワイドTシャツ(フリーサイズ)
・フィルム風クリアステッカー

【初回限定盤(CD + DVD)】
UPCH-29459¥3,990+税

【通常盤(CD)】
UPCH-20655¥3,000+税

※GOODSのうち、オリジナルワイドTシャツ(フリーサイズ)とフィルム風クリアステッカーは同一の製品となります。
※特典映像のBlu-rayとDVDの収録内容は同一となります。

■チェーン別オリジナル特典■
・UNIVERSAL MUSIC STORE:アクリルカラビナ
・Amazon.co.jp:エコバッグ
・HMV全店(オンライン含む/一部店舗除く) :大判ポストカード
・セブンネットショッピング:コットントートバッグ
・TOWER RECORDS全店(オンライン含む/一部店舗除く) :B4クリアポスター
・TSUTAYA RECORDS(一部店舗除く)/TSUTAYAオンラインショッピング:B2ポスター
・楽天ブックス:ドリンクホルダー
・応援店:ポストカード
※応援店特典は、オリジナル特典が付く店舗、オンラインショップは対象外となります。
※特典は先着となり数に限りがございます。
※特典は一部取り扱いのない店舗がございます。ご予約の際ご確認ください。


▲アルバム『ANTENNA』チェーン別オリジナル特典

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