【ライブレポート】Bimiの人生がさまざまな形で交わり、そして新たな未来へ「やべーこと今から起こすぜ!」

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俳優・廣野凌大によるアーティストプロジェクト、Bimi。2021年に始動して以降、精力的な活動を続けるなか、2023年9月に“Last EP”として『関係』をリリースした。3rd EP『Cynicism』時のインタビューで彼の音楽への思いを聞いた限り、アーティスト活動を終わらせることは想像しにくい。Bimi以外の名義での音楽活動の可能性は、Instagramのライブ配信にて本人が否定していたという情報も散見した。おまけにリリースから約半月後には、これまでフィーチャリングしたシンガーやアーティストを一挙にゲストへ招いた<Bimi Fes turn 1>という、大きな自主企画イベントが決定している。これは一体どういうことなのか?

◆ライブ写真

その答えは同イベントの会場で明らかになった。“Last”の正体は“インディーズラスト”。Bimiはこの日、キングレコード内のレーベル・EVIL LINE RECORDSよりメジャーデビューする旨を発表した。終わりは何かの始まりとはよく言ったものであるが、より多くの人々とタッグを組んでBimiというプロジェクトのスケールを大きくするという意味でのLastだと考えると腑に落ちる。<Bimi Fes turn 1>はそんな彼の野心が美しく露わになった1日だった。


オープニングアクトのunknown kidsが開演前からフロアを大いに沸かすと、開演時刻にBimiの盟友・DJ dipが単身ステージに現れ、DJセットの前につく。ターンテーブルの音を合図に背景一面に映像が流れると、BimiとLilniinaが揃ってステージに登場。昨年リリースしたアルバム『Chess』の1曲目を飾る「NEVERLAND」で幕を開けた後は、Lilniinaの最新EP『onyx』収録の「kikilala feat.Bimi」をパフォーマンス。浮遊感とエッジの交錯で会場を魅了した。

Lilniinaが幻想的かつ寂寥感に富んだソロパフォーマンスを見せた後は、BimiとOHTORAのコラボレーションステージへ。ソウルフルなラップとオクターブのユニゾンがフックになった「error」、チルナンバー「Weak」と畳みかけると、OHTORAのソロパフォーマンスに入る。DJのmaeshima soshiと共に、心地よいビートと軽やかなボーカルでフロアを横や縦に揺らした。

OHTORAとmaeshimaがステージ袖に下がると、Bimiの俳優としてのキャリアで出会った盟友たちが立て続けに登場する。Bimiと高野洸のステージでは、高野の2ndアルバム『2LDK』に収録されている「slow game life feat.Bimi」をスマートに届けると、「Mayday」では鬼気迫るラップラリーを繰り広げる。シャウトやハスキーボイスを織り交ぜるBimiと、澄んだボーカルを響かせる高野のコントラストも小気味よい。


高野と入れ替わりで登場した福澤侑とは「Hangover」でスリリングな空間を作り上げると、Bimiの「まだ(福澤と一緒にやる曲が)あるよ。俺ら今現場(※舞台『ナナシ-第七特別死因処理課-』)一緒だもんな。作ったもんな!」という言葉に、福澤が「新曲な?」と返し、ハイテンションな未発表曲「Hurry」をお披露目する。そして3日後に誕生日を控える福澤にBimiがバースデーソングを、高野がバースデーケーキをサプライズで進呈し、共演歴のある3人の親交の深さをうかがわせた。

続いてバンド+DJセットが組まれ、バックバンドのドラマーとして特撮のARIMATSUが登場する。さらにBimiと共に阿部顕嵐が現れ、ふたり揃ってギターを肩にかけて「衝動」で熱く硬派な、ほのかに憂いを感じさせる歌声を響かせた。BimiのSNSによると、この日彼が使用していたギターは、Bimiが主演を務めたa new musical「ヴァグラント」のトータルプロデューサーであるポルノグラフィティの新藤晴一から借り受けたものとのことだ。ARIMATSU、阿部、新藤のギターと、Bimiの歩んできた人生が様々なかたちで交わる、コラボレーションステージの象徴的一幕だった。


阿部が去ると、Bimiは友人に話しかけるようなフランクな語り口で「こっから結構ここ(ステージ)にいるぞ。ラストライブ楽しんでってー」と呼び掛け、DJ dip、ARIMATSU、サポートギタリスト、サポートベーシストの5人編成でのバンドセットステージを展開する。華やかな立ち回りでシティポップナンバー「Question」をダイナミックに歌い上げ、「声聞かせてくれ!」など観客に積極的に語り掛けると、その後彼はさらに自身の持ち味と培ってきたスキルを解放していった。

様々な感情が入り乱れた「LOVE」では、歌声や一挙手一投足を巧みに操って感情をキャッチーかつ生々しく描き、観客を楽曲の世界の奥深くまで引きずり込む。ダークでスリリングなのに、ユーモラスでいて痛快。俳優としてステージに立ち続けてきた経験は、自身の感情や人となりだけでなく、理想の姿をダイナミックに表現することにも活かされている。気魄に溢れるその姿に目が離せない。


「Die young」でフロアとシンガロングを通してより密にコミュニケーションを取る。途中観客の歌声をより間近に聴こうとしてかイヤモニを外すものの、再度入れるのに手こずるBimiは「イヤモニが入らない、イヤモニが入らないからみんなで歌ってもらっていいですか、助けてくださいよ皆さん!」と歌い出した。ハプニングが起ころうとも、慌てるどころか飄々と切り替えて楽しんでしまう、そんな様子も爽快だ。

90’sテイストのミクスチャーナンバー「weapons」を豪快に届けると、バンドセットのラストに選んだのは「inner child」。バンドメンバーも彼の迫真の歌声に追随するように緊迫感のある演奏を展開する。膝から崩れ落ちるようにシャウトをする様子は、壮大なグラフィックを用いた映画の1シーンのようなアート性だった。


ステージが再びDJセットのみになると、一ノ瀬みかと衣装チェンジをしたBimiが登場しメロウなナンバー「Phantom」を披露する。煌びやかな音色のなかで向き合って歌う様子は瑞々しいほどにロマンチックで、会場一帯を満たしていった。一ノ瀬を送り出した後、BimiとDJ dipのみがステージに残り、Last EPの『関係』から「beast」と「selfy」を披露し最新型のBimiを強烈に印象付けると、彼は観客へ感謝の言葉を伝える。そして伝えたいことを言葉でまとめるのが難しいという彼は「動画を観てくれたほうが早い」と言い、ステージから去る。その映像で告知されたのが、EVIL LINE RECORDSからのメジャーデビューだった。

エナメルのジャケットを羽織り、新アーティスト写真の衣装で再度ステージに登場した彼は、メジャー1stデジタルシングルとなる新曲「babel」を初披露した。一言一言を噛み締めながら、時に喉を嗄らしながら声にするラップは、こちらの心臓に直接言葉が刻まれていくような感覚に陥る。彼の人生が表れたリリックの中で、特に輝きを放っていたのは《生きるとは人とのsessionいざ往こう》というラインだった。音楽を追い求めてきた少年が、信頼する人からの提案で俳優の道を歩み始め、そこで様々な人と出会い、手を取り合うことで今日この日へとつながっていった。人とのセッションを楽しみ、自身の表現欲求を諦めなかった彼だからこそBimiという場所は生まれ、メジャーデビューという新たな扉に手を掛けるまでに至ったのだ。


“Last”という言葉を多用したことへの詫びを入れたBimiは「まだ終わんねえから、むしろこっからだから!」と告げ、メジャーデビューを決めた経緯を語る。レーベルのトップから一緒にやろうと打診があったものの、当初は自身が俳優として出演した『ヒプノシスマイク』の生みの親であるレーベルからのデビューにより、Bimiと廣野凌大の境界線が曖昧になるのではないか、関わる人々が増えることで表現に制限が生まれるのではないかという懸念もあったという。だがレーベルは彼のやりたいことを優先することを「Bimiらしいことをやるなら、もううちくらいしかないでしょう」と約束したそうだ。

再度深い感謝を告げた彼は、「かまします。やべーこと今から起こすぜ」と笑う。その目は火花が散るように爛々としていて、かつ隅々まで真剣だ。最後に披露した「輪」では曲中で「見せつけてやろうぜ、ついてこい!」と叫んだあと全身を奮わせて興奮や覚悟を表現し、観客もそれに触発されるように声を上げた。


「これからもよろしく!」とすがすがしい表情で威勢よく告げ、彼はステージから去っていった。代わるがわる多彩な空間で包まれた<Bimi Fes turn 1>を体感してあらためて痛感したのは、Bimiは仲間が多ければ多いほど水を得た魚のように活力が生まれてくる人物だということだ。共演者、スタッフ、観客、リスナー、一人ひとりそれぞれが持つ感受性をリスペクトし、それと自分の表現が反応し合うことでどんな現象が生まれるのか、それらが集まったときにどんな事象が起きるのか――彼の全身からは、そういった高揚感が漲っていた。ミクスチャーな音楽スタイルも、そのマインドに通ずるものだろう。

Bimiは10月17日の「babel」のリリースを皮切りに、4ヶ月連続でデジタルシングルをリリースする。彼がさらに多くの人やものを巻き込んで、どんな世界を描いていくのか注視したい。

取材・文◎沖さやこ
写真◎Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

セットリスト

Opening Act「unknown kids」
M1:NEVERLAND
M2:kikilala

Guest Act「Lilniina」
M3:angel+
M4:vampire
M5:akumachan†
M6:I'm tryin'
M7:SWEET SADTASTE
M8:cigirl
M9:Pinky Light

M10:error
M11:Weak

Guest Act「OHTORA」
M12:BYAKUYA
M13:クソみたいな人生(未発売曲)
M14:SEASIDE MAGIC
M15:Digital Tattoo
M16:Akashic World
M17:Coconuts(未発売曲)

M18:slow game life
M19:Mayday
M20:Hangover
M21:Hurry(未発売曲)
M22:衝動
M23:Question
M24:LOVE
M25:Die young
M26:weapons
M27:inner child
M28:Phantom
M29:beast
M30:selfy
M31:babel
M32:輪

リリース情報

■「babel」
2023年10月17日(火)配信
配信リンク一覧:https://elr.lnk.to/babel

ジャケットデザイン:花房真也(TI_ALT)

■タイトル未定」
2023年11月配信

■「タイトル未定」
2023年12月配信

■「タイトル未定」
2024年1月配信

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