【インタビュー】浜野はるき、“本命になりたい”女性におくる新曲「ギジコイ」──「厳しさこそ思いやりだと思うんです」

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福岡県出身のシンガーソングライター・浜野はるきが、6ヶ月連続リリース第1弾として「ギジコイ」をデジタルリリースした。

◆「ギジコイ」MV

プロデューサーや作家としても活躍するシンガーソングライターのCHIHIROとタッグを組んだ今作では、恋に悩む女子たちの言葉を元に、“好きな人の本命になりたい”と願う女子を救いたいという思いから制作に入ったという。これまでの彼女の曲の持ち味であった生々しい歌詞に加え、恋する女性の繊細さや健気さがよりフォーカスされた同曲は、約1週間でTikTokを中心に1000万再生を突破するなどリリース前から注目を集めた。

とはいえこれまで、自身の恋愛観を素直に曲へと投影してきたしてきた彼女は、一体どのような思いから「ギジコイ」の制作に至ったのだろうか。赤裸々なトークの端々から、その理由を感じ取れた。

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◾️“好きな人から好かれたい”って気持ちを否定しない

──浜野さんは活動当初より“すべての女性の味方でいる”というテーマを掲げていますよね。そこに行き着いたのにはどういう経緯があるのでしょう?

浜野はるき:小さい頃から母親がよく車で椎名林檎さんと安室奈美恵さんのCDを流していて、その影響でおふたりに憧れたんです。安室奈美恵さんは存在としてかっこいいし、椎名林檎さんは女の子の欲望を包み隠さず音楽にしてくれていて、それを隠さないでいいと言ってくれている感じがしたんです。そういうアーティストさんが最近はあんまりいない気がしたので、“ならわたしがこういう人になる!”と思ったんですよね。

──浜野さんが安室さんや林檎さんに憧れたように、女性の救いになれるアーティストになりたいと思われたということですね。

浜野はるき:でも最初は趣味くらいの感じでした。9歳で地元のアイドルグループに入って、15歳ぐらいから教科書の端っこに、パラパラ漫画みたいな感じで日記みたいなポエムを書くようになって。それを曲にしたのが、1stシングルの「私の慷慨とMONOSASHI」です。真剣にアーティストを志したのは、18歳の時の失恋がきっかけですね。初失恋をしたときに書いた曲をいろんな友達に聴いてもらったらすごい共感してもらえて、「絶対リリースしたほうがいいよ!」と言ってもらえて。それが19歳の時にリリースした2ndシングルの「I miss you」なんです。



──「I miss you」は“何度も浮気されても離れられなかった、共依存的恋愛ソング”。初失恋の実体験が赤裸々に綴られていると。

浜野はるき:18歳でアイドルを辞めて、初めての恋愛だったんです。大親友だった子と付き合ったんですけど、わたしと付き合い始めた頃からその子がモテだして浮気されて。それまでは“浮気ってほかの女の子と遊んだだけでしょ?”と思ってたけど、実際に自分が経験したら“何これ!? 世の中の女子たちはこんなきついことを普通に中学生の頃から経験してるんだ!”と愕然として。その気持ちを全部曲にぶつけたんですよね。曲を聴いた友達のリアクションを見て、女の子たちを救っているのは女性アーティストなんだなとあらためて思いました。

──それで2021年に上京を決意するということでしょうか。

浜野はるき:「I miss you」を出したときには上京したいと思ってましたね。ちょうどリリースした直後に、福岡のTV番組でインフルエンサーの子がこの曲を紹介してくれたんです。こういうチャンスが巡ってくるなら東京で勝負したい、と思ってお母さんに相談するんですけど、「福岡で有名になっても東京で通用するわけないやろ。現実を見て就職してください」とずっと言われ続けて。最後はもう強行突破で上京しました(笑)。



──アイドル活動を許可したお母様も、アーティストを目指して上京となると話は変わってくるぞ、と。

浜野はるき:アイドル活動は、お母さんの“地元でちょっと有名になってくれたらいいな”という親バカで始めたものだったんです。上京もさせてもらえないし、福岡で一人暮らしをしながらそろそろ就職とか考えないといけないな、でもまだ21だしな……と思ってるときに書いたのが「中洲ロンリーナイト」ですね。いろんな思いをそのまま曲にしたら、それをSNSでいろんな人が聴いてくれるようになって。ここで“東京に行くしかない”という熱が再燃するんです。

──その2年間で浜野さんがタフになったのも、上京への追い風になったのかもしれませんね。

浜野はるき:ほんと23年の人生でいちばん勉強になった期間でしたね。女社会の厳しさを知って、それを経たから東京でも生き抜けてる。どんなにつらいことがあっても、あの時の経験があるから全然耐えられるんです。

──女社会の厳しさを痛感しても、“すべての女性の味方でいたい”という信念は揺るぎませんでしたか?

浜野はるき:ぶれなかったですね。確かに「中洲ロンリーナイト」では《男に好かれた方が楽だし》と言い切ってるし、それは本音なんです。でも女の子が(恋敵ポジションの)女の子にあれだけ嫉妬心をむき出しにするのって、突き詰めていくと“好きな人から好かれたい”って気持ちじゃないですか。それはすごく普通のことだし、その気持ちを否定しないことがわたしの考える“すべての女の子の味方になる方法”なんです。今回リリースした「ギジコイ」もそういう曲ですね。



──「ギジコイ」は本命になれない女の子のリアルな気持ちを描いた曲。恋に悩む女の子たちの言葉を元にお書きになっているそうですが、どんな背景から生まれたのでしょうか。

浜野はるき:わたし自身は好きになった男の人がクズだとわかった瞬間にスパッと縁も思いも断ち切っちゃうんです。そういう“自分を大事にしてくれない男の人は早く捨てて、自分の価値をもっと上げよう”という気持ちを曲にしたのが「ずるいね」(※2022年11月リリースEP『過去の私へ、笑えるように。』収録曲)で、その曲のコメント欄に「今のわたしの状況そのままですごく響くんだけど、はるきちゃんみたいにみんなが強いわけじゃない」というコメントがあったんですよね。

──そのコメントをした人も、もう次の恋に進むべきだとは頭ではわかっているけれど、なかなかそう簡単にいかないから葛藤していたのかもしれません。

浜野はるき:そのコメントを見て、確かに好きなものを嫌いになるのは無理だなと思ったんですよね。別に強くならなくていいと思うし、本気で好きならわたしみたいに切り捨てなくていいと思う。今後本命になれる可能性も絶対にゼロだとは言い切れないし、「本命になりたい女の子の曲も聴きたい」というメッセージもよくもらうので、それに応えたのが「ギジコイ」です。そういう女の子の気持ちの光にちょっとでもなれればいいなという、今までとは違う方向性の前向きソングですね。

──ご自身と真逆の要素を曲にしながらも、リアリティが追求されているところは浜野さんのカラーが出ていると感じました。

浜野はるき:ほんと物語を作っているような感覚でした。まず友達に聞き込みをしたんですけど、わたしの周りの人がわたしと同じような気質の人ばっかりで全然取材にならなくて(笑)。それで『来世ではちゃんとします』というTVドラマを全部観て、そのうちにどんどん歌詞が浮かんできて。本命になれないってわかってるけど沼っていくって内容だったので、かなりインスパイアされましたね。でもリアルな要素は大事にしたかったから、歌詞に《デパコスのメイク落とし》とか入れたり。



──この一節だけで、本命の女の子の人物像がいろいろと浮かびますよね。メイク落としにデパコス使えちゃうくらい恵まれている子なんだなって。

浜野はるき:もうすごい! いいとこ聞いてくれました!(笑) 本命の子が自分よりいいデパコス使ってると悔しくないですか? 自分の家では絶対に彼氏の家に置いてあるものよりもっといいデパコスを使ってるんですよ。“デパコス”は女性のプライドをすごく揺さぶるモチーフだと思うんですよね。本命の女の子って、同性に好かれる女の子ではないことが多いじゃないですか。だから自分ではその本命の子にちょっと勝てそうな気がするんだけど、実際は勝てないんですよね。そんな女の子がデパコス使ってたら、めっちゃプライド傷つくっていう。

──なんて強烈なとどめ。ジェンダーレスという言葉が浸透してきた時代ですが、やはり女性ならではの社会や感覚、価値観は存在するなと思います。

浜野はるき:本当にそうですよね。あと、「ギジコイ」の主人公の女の子はわたしと真逆だけど、浜野はるきとして“自分の価値をしっかりと持っていてほしい”というメッセージは込めたかったから、最後の歌詞では“都合のいい女になってたまるか”的な気持ちを書いてます。

──そうですね。《悲しくなる夜なんていらない》や《負けないから》など。

浜野はるき:都合のいいポジションに落ち着いて、健気に君を思い続けるんじゃなくて、「こっちにも合わせてよ!」くらいの気持ちを持ってほしいんです。下手(したて)に出ないでほしい。しっかり芯を持って「合わせてくれないならもう会わないよ」ぐらい言えないと、多分本命にはなれないと思うんです。

──浜野さんの恋愛観もしっかり反映されたうえで作られた物語なんですね。

浜野はるき:振り向いてくれない相手を思い続けられるあなたはとっても素敵なんだから、歌詞に書いてある“本命?か遊び?かどうかのチェックリスト”に当てはまるような男の本命になんかならなくていいよ、と思ってます。自分から願い下げしてほしい。でも主導権を握れるようになったら本命になれる可能性もゼロじゃないとも思っています。そういういろいろを「ギジコイ」に込めていますね。最近は選んだ道を肯定してくれる、優しい曲が多いと思うんです。でもわたしは、汚い部分をしっかり汚く書いて、道を修正できる人になりたいんですよね。そういう厳しさこそ思いやりだと思うんです。

──そういうシビアな描写をソフトなボーカルとサウンドに落とし込むのは、浜野さんならではのバランス感覚だと思います。

浜野はるき:メロディは聴きやすいキャッチーな感じで、歌詞は泥くさいというバランスはいつも重視してますね。闇を光に変えていくことがテーマなので、コードにもこだわっています。同じメロディでもコードが違うだけで全然印象が変わるんですよね。それは浜野はるきらしさなのかなって思ってます。

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